【ゴーレム部隊】熱砂の海に眠る 追憶の石

■ショートシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月25日〜12月01日

リプレイ公開日:2008年12月03日

●オープニング

●破壊された町で
 月精霊の光は、天空でまるで藍色の布に縫い止められた貴石のような輝きを放っている。その下には砂漠の中に頼りなく在る、石の壁に囲まれた小さな町がある――否、町そのものは残っていたが、そこは町として機能はしていない。
 長い歴史を終えたオアシスの町は、今はただ、静かに風化していくのを待つばかりである。
 何故そのような事になったのか。オアシスを内包する町は、今民人の姿はない。その理由は少し以前に起きたカオスニアンの恐獣部隊による襲撃事件に起因する。
 彼らは蛮行の限りを尽くし、金目の物を持ち去り早急に立ち去って行った。だが残された恐獣や、砂漠に増えつつあるモンスターらの存在もあり、事態を重く見たゴーレム工房の上層部が動き、ギルド所属の鎧騎士の尽力もあり――。敵の排除は速やかになされ、町の者達の説得もまた成功し、事件はひとまず収束を見せた。
 厳しい環境で生き抜こうとした砂漠の民の命を護る為に、精霊か、それとも竜が恵みをもたらしたと言われる美しいオアシスだけが、残るのだろうか。
 町が起き、人々の営みを、そして破壊を、そのあとに来た静寂を――全てを見、把握しているのはその地に息づく精霊達だけと思われた。
 だが―――。
 舞い戻ってきた者達がいた。破壊の後を冷めた眼で見つめる、漆黒の髪が波打つ大柄で豊満な体つきの女。月精霊の齎す薄明かりの中、露出の多いその肌の細部に至るまで、黒の刺青が施されている――人物が。彼女の後ろには数人の仲間が控え、傍には一人の妖精が。そして砂漠には彼らが連れてきた恐獣達がいる。
 破壊の限りを尽くしたオアシスの町に、彼等は戻ってきたのだ。何らかの意思を持って。


●カオスニアン恐獣部隊を殲滅せよ
 以前オアシスの町を襲ったカオスニアン恐獣部隊と思しき者達は、その後複数の町を襲った。リーダーらしき、その幹部と思われる妖術を使う残虐な女、あと数人の戦士達。彼等は恐獣を操り、徒党を組んで各地で蛮行を繰り返していった。工房が行方を追いながらも、迎え撃つところまではいかなかった。規則性があるようで無いそのルート。
 だが、最近捜索に関わる者達の頭を悩ませていたその一連の事件は、転機を迎えた。徒党で移動している恐獣の目撃例が、幾つか舞い込んできたのである。情報を得て、シフール偵察兵が確認の為赴いたところ確かにあのリト付近には恐獣が住み着いているという確認がとれた。他に数人、何者かの姿を確認したと。
 そしてその職員のシフールに接触した、その場に現れたもう一人のシフール。彼女は近隣の領主に仕える者で、偵察の為赴いていると告げた。
 奴らは、オアシスの町にあった秘宝を捜しているようだと、職員に教えた。前回の襲撃の際に見つける事が叶わず、再び舞ってきたようだ、という事も。
『もし万が一それがまだ町にあるのなら、在処を確認して運び出したほうがいい。‥‥そして一刻も早く、あの者達を退治すべきですわね』
 と――。

 シフール偵察兵の報告を受けたゴーレム工房は、カオスニアン恐獣部隊壊滅の為に行動を開始した。町周辺にいる恐獣の壊滅と、町にいると目されているカオスニアンらの討伐を行う。フロートシップを使用し現地へ向かい各自任務に当たる事になっている。また前回尽力してくれた冒険者ギルドの鎧騎士達の功績もあり、再びギルドにて協力を願う依頼も出された。

『でもね、芽衣。私が逢ったシフール、何だか上手く言えないけど・・・・怖い感じがしたのよ・・・・。事情を説明した後、早くギルドに戻った方がいいって私にそういったけど。私目が凄くいいから、あの子の髪の色、はっきり視えたの』
 出逢った人物は銀髪のシフール。それは極めて稀と言わざる得ない色彩。上司の命により冒険者ギルドに依頼を出し終えた後、富永芽衣の頭にあるのは、同僚のシフールの警告ともいえる言葉だ。
 彼女は気をつけろといった。とても嫌な予感がするからと。事情を知った同僚の、親しいゴーレムニストの青年もまた皮肉な口ぶりで、こう言った。俺には奴らが俺らをおびき出そうとして企んだ、罠みたいに思えるけどね、と。
 破壊された町、残された宝、それを捜している者達、町に戻りたいと願う老人―――。
「罠だとして、これを見逃したら奴らはまた逃げる筈。ようは奴らの姦計を潰し、情報を洗いざらい吐き出させればいいことです」
 不安には目を瞑り、芽衣は自分に言い聞かせるようそう呟いた。

●今回の参加者

 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 カオスニアン率いる恐獣部隊を退治する為に依頼を引き受けた鎧騎士、そして冒険者の彼等は今回の闘いの舞台となる、オアシスの町リトへ――フロートシップに乗り向かっていた。
 船はあらかじめ地図上で検討されていた、接近可能地点とされる場所に停泊した。船にはモナルコスだけでなく、ゴーレムグライダーも積まれている。これに搭乗するのは伊藤登志樹(eb4077)だ。熟練のゴーレム乗りである登志樹にはグライダーの機動は容易い。フロートシップより偵察へと向かった機体は真っ直ぐに町へ向かって飛んでいく。その間工房の鎧騎士達はゴーレムに乗って比較的町に近い場所にある岩山の影へと機体の移動を開始した。後で登志樹がそこから乗り換え、戦闘にすぐ参加できるようにする為だ。今後の戦闘に備える為にという事で、打ち合わせ済みである。


 上空から見下ろすと恐獣は事前の情報通り、町の周囲を荒々しく歩きまわっている。アンキロサウルス――鎧竜とも呼ばれる通り防御力に秀でた恐獣。元は草食だがカオスニアンの投与する麻薬の力で凶暴化していていると見て間違いないだろう。
 登志樹はグライダーの偵察をする上でぎりぎり安全と思われる高度を維持したまま、インフラビジョンで熱源を辿る。熱を持つものは赤く、温度が低いものは青くその目に映るようになる魔法だ。恐獣は元より、町の中には十個以上の赤い点が散らばっているのが確認できる。恐獣は7体。ほぼ目撃情報と合っている。恐らくカオスニアンの戦士達であろう存在の確認はできたが、他に別の敵勢力が混ざっているかの判断はつかない。
「!!」
 町の周辺に集まってきているのは黒色の翼のある生物、グライダーの立てる音は確実に相手に気付かれるだろう。普通の蝙蝠ではないだろうに、奴らは遠巻きにグライダーを伺うばかりで攻撃を仕掛けてこない。彼らを観察した登志樹は、監視されているような居心地の悪さを感じている風で――、顔を顰めた。
「これは皆の読みは外れてねぇな。罠か」
 例え罠だろうが何だろうが、やるべき事は決まっている。偵察を終えた登志樹は仲間達へ、そして船に乗る工房の職員達へ――風信器使用区域に入った後敵勢力の様子を伝えた。奇妙な飛行生物が多々いることも。
 

 砂漠の寒暖を考え比較的活動しやすい時刻を選び、今回の計画は決行されたがそれでも水分補給は必須とされる。今回のメンバーのうち一人、シファ・ジェンマ(ec4322)が作った蜂蜜と岩塩を湯で溶かしたドリンクは脱水症状を起こさないようにする為、皆に配られていた。別行動をするもう一人の女性の鎧騎士も同様の物を皆に配っている。これで炎天下の元機体の中に入るということで予想される悲惨な状態は、回避されるだろう。
 砂漠の土地勘もあり鎧騎士として経験豊富なシファを先頭に、村雨紫狼(ec5159)もまたモナルコスに搭乗し後を追う。岩影に先程移動してきたモナルコスの機体はある。ゴーレムグライダーから機体を乗り換えて合流した後それから恐獣退治に向かう予定だったが、そうは上手く事は運ばぬらしい。
「シファ、紫狼、恐獣がお前達の居る方に向かってる―――」
 風信器から聴こえる警告。
「これ以上彼らの好き勝手にさせたりしません。頑張りましょう、紫狼さん。皆さんも」
「お、おうっ」
 複数同意の声が上がる。そう、登志樹の案で工房の鎧騎士達も彼らの指示に従い、同行しているのだ。地響きがする。予想される敵勢力は鎧竜アンキロサウルス。その敵もモナルコスも高い防御に恵まれているのは同じ。長期戦になれば不利だ。けれどそれは経験の浅い鎧騎士であれば、の話。
「こちらはただ防御に秀でているだけではありませんから」
 シファは盾と巨大な鎖を手にし、砂漠を駆ける。紫狼が剣と盾を手に、その後へと続く。後は四体の工房の鎧騎士操るモナルコスが。一匹に二人の鎧騎士が連携してあたり、攻守分担して確実に仕留めていく提案が登志樹よりなされている。味方の被害を押え確実に倒していく、的確な案といえただろう。
 ゴーレムと敵勢力が激突した。
 装甲越しに、恐獣の鳴き声が聞こえた。


「! ・・・・重っ」
 尾にある棍棒状の突起が凄まじい勢いでしなり、それをガードした紫狼だが、再び繰り出されさすがによろめいた。転倒すると態勢を整えるまでの時間が命取りになる。恐獣の動作は予想以上に早く紫狼が望んだように囲んで集団で一度に攻撃を仕掛けるという訳にはいかなかった。突っ込んできた恐獣の集団に、皆一度は散り散りにさせられてしまう。
「ち。仕方ねえ」
「紫狼さん!」
 鎧騎士富永芽衣の声に応えを返す余裕はない。それでも行動で示して見せると決意したのか。少しずつ尾の攻撃にも慣れてきたのか、重い一撃を受け、だが辛うじて踏ん張り接近してきた恐獣へ反撃を試みる。
「うおぉぉおりゃあ!」
 彼の予想以上にその攻撃は決まったのかもしれない。鎧竜といえモナルコスの渾身の力で叩きつけられた一撃を前に無傷でなどいられない。轟音をたて恐獣は砂上に横倒しになる。すかさず首から血を溢れさせる恐獣に、剣を深く付き立てた。
「やったぜ・・・・」
 紫狼が制御砲内でほっと頬を緩める。彼は感慨深そうに束の間倒れ伏している恐獣を見ていた。
「気をつけて! まだ終わってません!」
 攻撃をなるべく自分にさせるよう仕向ける為、シファが前で派手に立ち回りを演じている。彼女の策が功を奏したのか、引きつけられた恐獣は二体。恐獣達は躍起になって彼女に攻撃を仕掛けるが、デッドorライブで食い止めた後大鎖で動きを絡め捕り、暴れるそれを締め上げ押さえつける。自由を奪われた事に抵抗し、シファを鎖ごと凄まじい力で引き摺って行こうとする恐獣――工房の職員達はそれぞれの敵と対峙している。急ぎ合流した登志樹が助太刀し、固い鎧じみた体を攻撃力に秀でた斧で確実に弱らせ、その斧でトドメを刺した。
「ありがとうございます、登志樹さん」
「なんの」
 斧を引き抜く。堅い皮膚を肉ごと打ち砕く荒々しい音、溢れた鮮血が砂に吸い込まれていった。攻撃を仕掛けてくる恐獣の動きも本能的な行動故かがむしゃらと言っていいもので、シファが鎖を上手く使いそれ程難なく絡め捕り、紫狼が、そして登志樹が――芽衣、そして工房の鎧騎士の奮闘もあって頭数を確実に減らしていった。
「これで恐獣は、全て倒せたでしょうか」
「カオスニアンの奴らはどうやら、町の中で向こうの奴らを待ち構えているようだな」
 前町長の求める宝玉回収班――彼等は皆が恐獣と戦いを繰り広げている間に町に侵入を試みている。向こうの仲間達の中には思念で会話を可能とする天界人の女性がいる為に、何かあったら知らせてくれるよう既に打ち合わせ時に頼んであるのだが。恐獣の死体に惹かれてきているのかはしらないが、サンドウォームが集まり出した。蠢く砂漠の怪物のことは改めて芽衣より警告はされていたが、恐獣との立ち回りを演じた後に連続で戦い続けるのは厳しい。数が多いなら尚のこと。
 皆は迅速に、連携で巨大な大砂虫を武器で退けながら、オアシスの町の入口へと移動をした。
「はぁ・・・・やっぱり、熱ぃな。この中は」
 シファのくれたドリンクで喉を潤したあと、紫狼は顔をしかめた。
「確か宝玉を回収するなり何かあった時は、連絡もらえるんだったっけな。今のところ特に何もないようだが」
「伊藤先輩かシファさんのどちらかに連絡くれるようにって、頼んだんだけど」
「私の方にも特に何も聞こえてはきませんね――」
 彼らがゴーレムを機動させ始めてから一時間は過ぎようとしている。

 そんな会話をしていた時だった。町のある場所で爆発が起き、黒煙が上がった。
 噴き上がる炎に皆が気付く。

『ハタ迷惑な奴らだわ。・・・・ッ聴こえる!? 宝玉は回収したわ、御祖父さんも無事。でも』
 彼女は手早く状況を説明した。町には確かに魔力のある宝玉が存在したが彼らが探し求めていた物ではなかった事。やはり今回の一件は罠で、厳しい戦いだったがそれを切り抜けた事、敵勢力の半分以上を減らし、けれど魔物達を率いていた――蝙蝠の翼をもつ鬼の邪気を振りまく者、それよりも一回り大きな黒い翼ある生き者が仲間を連れ、逃亡を図ったのだという事を告げた。目眩ましの為、魔法攻撃を仕掛けて。
 彼らにとって恐獣は鎧騎士達――敵勢力である鎧騎士達の力を削ぐ為の駒にされたのだろう。恐獣を餌に罠を張った以上ゴーレム部隊が来るのは必至。その対策故にあっさりと捨てられた。戦い命を奪ったとはいえ、それを聞いて愉快な思いなど抱ける筈もない。

「ふん、奴らの目的が何で何を捜してるかは知らんが・・・・、気に入らんな」
「くそっ」
 先程戦った恐獣は獰猛だったが本来の姿は、肉食などではない草食の恐獣だと聞いている。
 登志樹はインフラビジョンの詠唱を行い素早く周囲、上空を見渡し逃亡を図る敵の熱源を辿った。一匹二匹などではなく、青く映る天空をバックに沢山のあの翼ある魔物達の群れが『ある方角』へ、消えていく。
 不利を察して逃げた魔物らが辿り着く先はどこなのか。
 恐獣や戦士を見捨て自分達は逃げおおせるとは魔物らしい卑怯な振る舞いだ。芽衣は登志樹が指し示した方角を見た後。思考を切り替えた様子で、凛と告げた。
「あのご老人と、彼が守り通したかった宝が無事なのは幸いでした。‥・・皆さんに合流して、何か得られた情報がないか確認したいと思います。皆さんも参りましょう。機体はフロートシップに連絡し回収してもらいます」
 これは一つの区切りか、それとも何かの物語の序章なのか。現時点で確かな事は言えないが、自分達の預かり知らないところで闇の勢力が何事か目論んでいるという得体の知れない嫌な予感を、この一件に関わる全ての者は――抱くことになったのだ。