熱砂の海に眠る 追憶の石【宝玉回収編】
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月25日〜12月01日
リプレイ公開日:2008年12月03日
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●オープニング
●密談
風の音ばかりが耳につく。その、人の気配が皆無の、町としての機能を終えた廃墟に――、戻ってきた者達がいた。
ジャリ!! その町の石階段を踏みしめ、我が者顔で闊歩している。
漆黒の髪が波打つ豊満な体つきの女。月精霊の齎す薄明かりの中、露出の多いその肌の細部に至るまで、黒の刺青が施されている。女はくるりと振り向き、芝居がかった動作で同行者の一人に問いかけた。
「あーもうっ、ほんとにここに手がかりがあったっての〜〜?? ったく。締め上げて吐かせてやろうと思ってたのさ、誰も居なくなってるんだもんね‥‥」
掠れた声で喚き立てる女に対し、建物の影で嘲笑を上げる者がいる。
明らかに小馬鹿にした笑いに、むっと顔を顰めたが。相手は意に介さない。
「貴女達が普通に働いてくだされば、私が出てくる必要はなかったんですのよ。ろくな考えもなく人を殺し回って金品を強奪して、一番重要な物をよく探しもせず『なかった』と決め付けたなどと、呆れて物も言えませんわ」
「‥‥それだけ言えればじゅーぶんよ」
「人から重要な事を吐かせたければ、助かる可能性をチラつかせなければ。絶対に殺されると解っていて真を喋るバカ者はおりませんわ。守り通したい秘密なら尚のこと」
「で、喋らせた後で笑いながら殺すのね。アンタそういうの好きそうだもんね」
「用が済んだ後ですか、それは勿論。害虫を生かして置くだけの慈悲は、持ち合わせておりませんもの」
「オッソロシイ子‥‥ラディウスの奴め、なんでアタシとこの娘を組ませんのよ」
「話を進めましょう。貴方達は町長など、そういった重要な役職の人間は殺しました?」
「町長? 殺したわよ〜? だってなにも知らないっていうんだもん。指一本っぽんねじり切っていって腕をぶち落としてやったりしたんだけど、何も吐かないでやんの。自分はいいから他の町人達は‥‥! とかっていうその根性がウザかったからさ、とどめ刺しちゃった」
怒気をこめ。鋭く舌打ちした、若い女。
「‥‥先程私が言った事を、後でよく考えてくださいね。この町を一人で治めて居たわけではないでしょう。他には? 役職についていた者は? それらもそんな風に殺したんですか?」
「結構殺しまわったけど、詳しい事はわかんないわ。命を取りあう場で、悠長に話してるわけにはいかないでしょ〜? って、ちょっと今アタシに攻撃しようとしたわね、アンタ‥‥!! ええと、‥‥あぁ、前町長は殺さなかったわよ。軽くドツイタら死にそうなよぼよぼの爺さん。一人で泣きわめいて、興奮してひっくり返ってたからさ。メンドくさくて、ほっといたけどぉ‥‥。死んだ訳ではなかったみたいよ、たぶん」
「前町長‥‥」
「にしたってそいつもどこにいったか、わかんないし。どうすりゃいいってのよ、これから」
豊かな黒髪をかきむしり、喚いている女。
「―――では‥‥如何です? こういった策は」
しばしの沈黙の後。そうもう一人の女が提案した。
●ゴーレム工房にて
「ちょ、ちょっと御祖父さん、落ち着いてください。ここは一般の方は許可を得ないと、入ることはできないんですよ」
工房の受付で働く女の職員の一人は、今一人の困った客の対応に悪戦苦闘していた。
「わしの命はそう長くはない‥‥、死ぬ前に、もう一度あの町へ、連れて行ってくれ!」
掴みかかられて女職員は、止めてください、を繰り返している。他の職員らもなんとかやめさせようとするが、その場にいるのは女ばかりだ。老人に無体なことをできないという考えのせいか、強引に引き離せずにいる。
「どうしました、一体何の騒ぎですか?」
「あ、芽衣。あの御祖父さん、ホラ、あのカオスニアンの恐獣部隊に襲われた町の人みたいよ。何とか死ぬ前に一度戻りたいって‥‥でも、最近あの近隣で恐獣の姿がまた見られるようになったから、危ないって受付のあの子が口を滑らしちゃったの」
「‥‥!」
「そうしたら、尚のこと行かなくちゃって。なんでも大事な物をあそこに残して来ちゃったんですって、あ、芽衣っ」
「わっ、何する。あ、あんたは‥‥あの時の!! 鎧騎士の」
「お爺さん、彼女を放してあげてください。お話は私が代わりに、お伺いします」
芽衣の姿を見て驚いた様子で力を抜いた老人から、受付の娘をそっと引き離し。お久しぶりです、と。彼女は一礼した。
*
オアシスの町の前町長。最後まであの町を離れることに反対の意思を見せていた、老人――天界人の鎧騎士、富永芽衣は彼のことをよく覚えていた。
別室に案内された老人は段々と落ち着きを取り戻し、水を飲んで、さめざめと泣き始めた。
「わしが死ぬ前に、どうしてももう一度あの町に戻りたい。あの町にわしの大切な宝が置いてあるのじゃ」
「どうしてそのように大切なものなら、脱出時に持ち出してはこなかったのですか?」
芽衣が怒ったり迷惑がったりしている様子ではないと、判ったのだろう。老人は彼女の手を握った。
「わしの宝は、あの町の宝なんじゃ。あの町のオアシスはその宝玉があるからこそ、枯れぬものだと言い伝えられておる。町のある場所に判らぬように、隠してある。わしが持ち出したら、オアシスが枯れるんじゃないかと思ったらな、どうしても取ってこれなかったんじゃ‥‥」
老人達がどれほどあの町を、オアシスを大切に思っていたか見聞きした芽衣は良く分かっている。厳しい環境の中で、あの町があったから彼等は暮らしてこれたのだ。壁を築き力を合わせて生きていた。その、誇りの象徴でもあったもの。
「だが、奴等は戻ってきたのだろう? あの恥知らずどもが」
「(惨いこと‥‥)」
細かく震えている老人の手を見。芽衣は、そう思う。
彼らの為に必ずカオスニアンを殲滅しよう。心に誓う芽衣は、老人の背を優しく撫でた。
「宝玉‥‥。場所を教えてください。私が必ず持ってまいります。どうぞ待っていてください」
「ありがとう。でも、わしは本当に、もう長くない。自分のことだ、よぉく、判る。だんだん眠る時間が増えておる。眠るたびに、もう目が覚めないと不安になるのだ。あの宝玉も、あの町も。わしはもう一度見たいのじゃ。どうしても‥‥」
「お爺さん。‥‥あの地に行くのは、今は。あまりに、危険です」
恐らく上層部から許可は下りないでしょう――そう言い掛けて芽衣は老人に一層の力で手を握られた。
「わしは前町長なのに、あの町を守れんかった! 息子も命をかけてあの町の者達の為に戦ったというのに」
「お爺さん‥‥」
「後生じゃ、鎧騎士の姉さん。あれは魔力が宿る石と言われておる。わしが死ぬ前に、ともう一目見たいと思っておった。だがあそこに蛮族どもが戻ったなら奪われるかもしれない。後生じゃ、どうかわしを連れて行ってくれ!!」
●リプレイ本文
●
町のオアシスの守護石――魔力の宿る石は祭事の時等に使用され普段は大切に保管されているのだという。前町長の老人を守りつつその宝玉を回収せねばならない。
フロートシップである程度まで接近を試み、ゴーレム部隊のうち一人がグライダーで上空より敵勢力の大まかな配置を魔法を使用し、確認。グライダーより風信器を通し情報を得た工房職員が宝玉回収班にその事を連絡。町の正門前で荒々しく動き回っている恐獣達をゴーレム部隊に引きつけて殲滅してもらっている間に速やかにチャリオットで町を囲む壁、一部の崩れ落ちた場所付近に接近する事になった。
到着後月下部有里(eb4494)がブレスセンサーでカオスニアンらの場所を探り。付近の壁の影にはいないことを確認の上で皆ひとまずここで待機する。皆、先程ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が作った蜂蜜と岩塩、お湯で溶いたドリンクをシップより借り受けた魔法瓶に入れ、それぞれに所持している。以前よりましとはいえ、暑いには違いない。ありがたくそれを頂戴しながら仲間たちが水分補給しつつ待っていると、ミミクリーで大型の鷲に変身した白銀麗(ea8147)が町の偵察を終え、戻ってきた。
ばさりと飛来した鷲は、やがて人の姿――元の白へと戻る。
「二つの門付近、そして身を潜める様にしていた、二十人程の賊の姿が確認できました。恐獣達の様子を窺っているカオスニアンもいるようですね。建物の中に隠れている者もいるかもしれません」
老人は悲しげに町の方を見ていた。
「――得られた情報から推測するに、おそらく一連の騒動はカオスニアンの罠ですね。カオスニアン部隊が町を襲う情報を流して宝玉を取りに来させ、私達が宝玉に近づいた所を横取りしようという魂胆でしょう」
白は推測したことを老人に伝える。
「我輩らが宝玉に接近した時が最も危険と考え、カオスニアン共の襲撃に備える必要があるな」
激戦を潜りぬけてきた騎士シャルグ・ザーン(ea0827)は、不安そうに見てきた老人に頷きかける。シップの中で彼は前町長と話をしていたのだ。老人の切なる願いを叶える為に、自分達は全力を尽くすと。そして来たるべき戦いに備え集中力を高めるべく、シャルグがオーラエリベイション使用した。
「御仏の加護の一つに、触れた相手が今考えている事を読み取る、読心の魔法があります。 今こうしているかわしている言葉も、盗聴されている可能性があります。宝玉の場所を心の中で御教えいただけますか? 口に出さなければ、カオスニアンやカオスの魔物に聞かれる心配もありませんから」
リードシンキング。相手が今考えている表層思考を読み取る術だ。
老人は戸惑いつつも頷き。白の手を取り、ぎゅっと目を瞑った。白は幾度か頷く。
「あの建物ですか・・・・では私が先導しますね。明確な場所を言葉にしないよう、気をつけてください」
「わ、わかりましたぞ」
老人の決意は固い。安全な場所にいることをよしとしなかった老人に、ルエラが手を差し伸べる。彼女は以前の依頼でこの頑固な老人と対面している。
「行きましょう。お爺さん、私と共にこのペガサスにお乗りください」
現在恐獣部隊に加わっている鎧騎士の芽衣と共に、最後まで町を離れるのに抵抗した彼に、誠心誠意説得にあたったのもルエラだ。彼女にはこちらに同行できない、前回の依頼時に面識のある鎧騎士の娘より、老人の事を頼まれていた。
「貴方のことは私達が必ず守ります。しっかり捕まっていてくださいね」
●
ペガサスは白が変じた鷲を追って、目的の場所へまっすぐに飛んでいく。町の石壁に複数存在する見張り台の役目を果たす塔――。一部倒壊しかけた古びた塔に、宝玉はしまわれているのだという。オアシスの傍にある立派な祠や町長達の暮らす家に保管されていた訳ではないらしい。以前の襲撃時、町長――老人の長男達がそれを蛮族達の手に渡らぬよう隠し、塔へと後に移したのだという。数多くある家屋の中それを見つける事は出来なかったのだろうか。辿り着いた場所はオアシスからは比較的離れたそんな場所だったのだから。
老人だけでは危険ということで、ルエラが彼に同行し、今にも倒壊しそうな塔へと入っていった。人の姿に戻った白が護りを固める。有里もまたテレパシーで皆と意思の疎通を図りながら、そちらの方向へシャルグと共に向かう。工房からも職員達がもう一台のチャリオットで数人が派遣されて、先程の場所で待機している。
予想に反してカオスニアン達は不気味なまでに沈黙を保っている。そしてルエラが支え、老人を連れて外に出てきた。布にくるまれている一抱えもあるそれを、老人が大切そうに抱きしめている。
上空より唐突に大きな黒炎の塊が生まれ、それは白目掛けて解き放たれた。彼女はホーリーフィールドを周囲一帯に張っていた。攻撃を阻む結界。空中にぽつぽつと浮かび始めた複数の小さな影。妖精だ。
「ブラックフレイム!!!」
同じ動作で相手は次々黒炎を生み出しぶつけてくる。高レベルのホーリーフィールドも効果時間は有限で、魔法の乱打は次の結界を張る一瞬に白とルエラ、そして老人は吹き飛ばした。老人を庇い受身を取ったルエラが彼の安否に気をそらした一瞬の隙をついて二匹の妖精が包みを奪い去る。にこり、と微笑む銀髪の妖精。
白が高速詠唱で術を解き放つ。
「ディストロイ!」
死近距離でまともに受け、笑みを浮かべたまま片方の妖精は粉々になった。
否――残されたのは灰。白は大きく眼を見開いた。
*
ペガサスにホーリーフィールドを張らせ、老人と共にルエラは上空へ舞い上がる。宝玉ごと逃亡を図った残った一匹もすぐさま白に魔法攻撃を受け消えたが、包が押し寄せてきた戦士達の中へと落ちていく。迫りくる戦闘馬に乗ったカオスニアンの戦士達の一人がそれを器用にも受け止めた。
ぎりぎりで駆けつけたシャルグと有里が双者の間に立つ。妖精をルエラに任せ、彼らを護る結界を白は再び張り巡らせた。
「ライトニングサンダーボルト!」
有里が機動させたレミエラの効力で、扇状に術の範囲が拡大している。解き放たれる雷撃。波のように迫り来たカオスニアン達の中ではその雷撃に落馬する者、苦悶の声を上げる者が続いた。それに耐えうる者達だけが術を潜りぬけたが、待ち構えたシャルグの剣にかかって馬から引きずり落とされた。それぞれの攻撃、だが致命傷には至らない。向かってくる戦士達に有里が再び雷撃を仕掛け、高速詠唱で次なる術を解き放とうとするが、妖精の一体が向けたブラックフレイムが迫りくる。が白が張っていたホーリーフィールドの力で炎はぶつかり四散する。焼失した結界を張り直した白、有里は術の名前を口にした。
「イリュージョン!」
それはくしくも奥から馬を駆り、一人の女が現れた時だった。黒い円形の膜に覆われた、漆黒の髪の女だ。
「妖術師――あいつかしら? 攻撃を仕掛けてもらいましょうか」
同士打ちをさせる為の幻影の魔法。戦士達の中では同士打ちが始まり、術の抗した者達は。
「ふん、甘いな」
イリュージョンに抵抗した者も中にはいたが、攻撃力だけでなく高速詠唱のオーラシールドを張り防御力を増したシャルグに致命傷を加える事は出来ず、数を減らしていく。恐獣と共にあるならまだしも、現在の彼等は敵ではない。圧倒的な力量差だ。攻撃は防がれ、歴戦のつわものであるシャルグとぶつかり無事で済むわけもなく、命を散らしていった。
*
「セクティオ!」
上空より勢いをつけ鎧の隙間に剣をめり込ませカオスニアン戦士を絶命させる。先程の包を持った戦士を捜すが皆同じ鎧をつけている為一見分からない。一撃離脱を繰り返しその相手を捜すルエラ。近づいてきた戦士を防御、カウンターアタックとスマッシュの合成技で退ける。背後の老人の押し殺した悲鳴が聞こえたが、この混戦の中。今最も安全なのはペガサスに乗る彼女の後ろである。しかし地上に下ろすのは危険だ。震える老人を力づける様に、ルエラは約束した。
「大丈夫、あなたは必ず守ります!」
*
奥から馬を駆り、一人の女が現れた。黒い円形の膜に覆われた、漆黒の髪の大柄な女だ。
「なぁにとち狂ってんだか。情けない」
妖艶に女は笑い、その手を伸ばすと。数体いた妖精がブラックフレイムを解き放ち彼らに容赦なく攻撃を仕掛ける。落馬してのたうちまわる戦士達を冷やかに眺めて。もう一体の妖精が拾い投げてきた包を受け止める。白がディストロイを仕掛けるが、女の周囲にある黒い炎の壁に阻まれ、攻撃は通じない。
「さぁて。ああ、お嬢ちゃん達の相手はあんたらがしてよね」
飛来してくる邪気を振りまく者達。その数、数十体以上。白が限界ぎりぎりまで大きなホーリーフィールドを張り巡らせる。飛来する生き者を有里がサンダーボルトを立て続けに放ち、白もまたその神聖魔法で減らしていく。再び辺りは騒然となった。包から取り出した台座に埋め込まれた美しい蒼色と琥珀に近いその色に、女はうっとりと笑み崩れるが。
「これであの方はもっと私に目をかけてくださるわね〜。褒美もたんまりね。くく」
「なんだよ、それは『あの方』探している石じゃないじゃん」
その言葉に女が凍りつく。
女の背後よりぬっと現れた邪気を振りまく者より一回り大きな、翼ある鬼は。砕けた物言いで女に告げた。
「それってサファイアとトパーズだろ。聞いてた形状も色とも違うぞ。まぁそれなりに魔力のかもしれないがね。あんたはともかくサラがその可能性に気付かないとは思えんがね。くく」
「何ですって。でもサラが。サラ、出て来なさいよ!」
「あの邪なる妖精なら分身を灰から生み出した後、ついさっき変化して国に戻ったぞ。宝玉が本物なら、よし。もし偽物でも敵勢力を削ぎ、あんたらがゴーレムや人間どもを倒せばそれでよし、あんたもまた倒れてくれれば気が済むってところかな。あんたらの無能ぶりに随分と怒ってたようだからねぇくく。嫌われてんね、あんた。あはははは!」
「何ですって・・・・!!」
「恐獣はゴーレムらに蹴散らされちまったみたいだよ、戦力を減らすどころじゃないねぇ、くく」
わなわなと身を震わせ。先程の余裕を失い、頬を紅潮させる女妖術師。カオスニアンの馬を奪い、咆哮と共に向かってくるシャルグの槍が迫る。武器を持ち変えたのだ。術の詠唱を行おうとするが遅い。
「きゃああああ!!!」
腹部に突き刺さる槍に女は叫び声をあげる。黒の結界は既に消えていた。槍を引き抜かれて、馬から転げ落ちる。シャルグに黒炎が直撃するが、魔法抵抗のある防具のおかげで至近距離とはいえ致命傷には至らない。
傷を押えながら血を吐く女は冒険者達を睨む。その顔に死相が浮かぶ。溜息をつく魔物。女は皆の前で忽然と姿を消した。現れたのは小さな鼠。それを翼ある魔物は掴みあげ、飛翔、凄まじい勢いでその場を離れていく。
「ライトニングサンダーボルト!」
「ディストロイ!」
翼ある魔物の黒色の結界で、魔法攻撃は防がれ。その間に先程までの数ではないにせよ、邪気を振りまく者は集まってくる。ペガサスがホーリーフィールドを再び発動した。一斉にその場にブラックフレイムを打ち込まれ、白が素早く張り直したホーリーフィ―ルドの周囲で一際巨大な黒炎が上がった。その間にあの妖術師と雄弁な翼ある鬼は完全に姿を消していた。ホーリーフィールドを張り直す僅かな間にくらった攻撃により、皆火傷を負いながらも――致命傷の者はいなかったのは不幸中の幸いだった。
前町長はルエラに庇われ軽い打身程度で済んだ様子だ。応急処置の為動き回りながら、有里は疲れ果てた様子で、毒づいた。
「ハタ迷惑な奴ら・・・・」
怒りながらも彼女は治療の手を緩めない。工房より預かってきた応急処置のアイテムを使い手早く行っていく。彼女はそのまま事前の打ち合わせ通り恐獣部隊を相手にしていたゴーレム部隊の鎧騎士達と連絡を取っている風であった。相手は一枚岩ではないらしい。後方に累々横たわるカオスニアンの兵士達の亡骸は、先程の炎で焼けて嫌な臭いを立てている。皆はゴーレム部隊の彼らと合流した。
●
敵戦力の八割は奪う事に成功。敵が探し求めていた物と異なるにせよ、力ある宝玉が埋め込まれた台座は無事町長の元へと戻ってきた。
「砂漠のモンスターも増え、あいつらに襲われ。わしらはリトを去ることになったが。なぁ、鎧騎士さん達。いつかこの地が平和になったら。わしらが再びここに住むことは可能だろうか。メイディアは住みよい都じゃ、それでもわしらは・・・・この砂漠の民じゃから」
項垂れた老人の前で膝を折り、鎧騎士の芽衣は答えを返した。
「鎧騎士も、冒険者の方達も皆戦っています。いつか貴方達がここへ戻ってこれるように、私も全力を尽くします」
冒険者達も彼女の言葉に頷く。老人は子供のように泣くのを堪える様に複雑な笑いを浮かべた。
「では、わしはその日までこの宝玉を大切に持っていることにしょう・・・・」
力ある言葉で水を生み出す魔石を、愛おしそうに彼は撫でる。
「――さぁ、夜はここは冷えます。フロートシップへ戻りましょう」
「芽衣さん、提案なのですが」
ルエラに耳打ちされて、鎧騎士の娘は快諾した。ペガサスに宝玉を大切そうに抱えた老人を前に乗せ、その後ろで支えるように騎乗する。彼女達は空に浮き上がった。仲間達はルエラが可能であればしたいと言っていた事を思い出した。
ゴーレム部隊と互いに労い合う彼ら。パイロットの一人が問いかける。
「あの女騎士さんと爺さん、どうしたんだ?」
「夕陽に照らされたこの町を、上空から見せてあげるのだそうですよ。きっととても素敵でしょうね」
芽衣は微笑み。その目は飛翔していく彼らを追う。熱砂の海に残された町、そこに静かに残されていた宝玉。恐獣もカオスニアンも居なくなり町は静寂を取り戻した。
明らかにされていない事もある。それでも今回の事件はひとまず無事幕を下ろせそうだ。7名の冒険者達と鎧騎士達の功績によって。
「――本当に綺麗ですね、貴方がたの町は」
沁みるように静かであたたかな鎧騎士の賛辞の言葉に。目の前に広がる光景に。老人は静かに涙を零し、町の者達の想いの詰まった大切な宝玉をその胸に抱きしめたのだった。