【猫達は見た!】家政婦さんと探偵大募集!
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月06日〜12月11日
リプレイ公開日:2008年12月16日
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●オープニング
●犯人は、どこに?
建てられてから随分時間が経っているのでしょう、村外れに少し古い屋敷があります。植物のアーチを潜り中に入ると、そこには小さな庭が。庭は手入れが行き届いているとは到底言い難い荒れ放題の一歩手前ではありましたが、かえってそれがなんともいえない調和を生み出しているのでした。
皮のバックを抱えた中年の男性がその屋敷に訪れました。ひげが豊かに生えた優しげな人物です。
みゃあ、みゃあ、みゃあ・・・・・・。聴こえてきた声にその人物がおや、という顔をしました。
「エマさんがぎっくり腰とはなぁ。あの方は無理して動きそうだから心配だし、猫達の面倒を見てやる人がやはり、必要なんじゃないかな。・・・・んぅっ!?」
そこには派手な身なりの男女が、転がっていました。視たところこの屋敷の女主人の二人の子供です。慌てて医師は駆け寄ると、息はしているようでしたか。診たところ後頭部に大きな瘤があるようでした。
「こ、これは・・‥」
くわっと目を見開いて医師が戦きました。傍に転がる石が『凶器』らしく、その石には血が付いていたのです。いつ誰が何の為に。医師は目まぐるしく様々な事を考え、彼らの応急処置をした後この屋敷の女主人の元へ走っていきました。
みゃあ、みゃあ、みゃあ―――。起きた出来事を把握してないからか、猫がなんとものんきにしています。
ある村外れの屋敷で起きた傷害事件の犯人は見つからず。結果その数二十以上の猫達だけが目撃者といえるのですが――。
●求む、家政婦さんと探偵!
それはある日の、昼下がりのことでした。最近巷では危険きわまりない魔物やら、モンスターやらの事件が相次いでいるのは皆さんもご存じのはず。なので冒険者ギルドの受付嬢・フローラは密かにこの先メイが、各国がどうなっていくのかなんともいえない不安を抱えてはいたのです。
なのでたまにバトルとは関係のない依頼が舞い込むと、彼女は密かに不謹慎ながらにほっとするのでした。
「猫屋敷、ですか」
ある村の外れにある古びた屋敷は、通称猫屋敷と呼ばれており。気難しいものの情の厚い女主人が捨て猫を拾い、それらが子供を産み、どんどん増殖したのだそうで。
「ええ。そのお屋敷の主人のエマさんが最近ぎっくり腰になってしまって猫の世話ができないでいたんです。猫の世話以前に身の回りのこともできないのでれば、それは難儀だろうということで、心配しておりました」
「それは、‥‥大変でしょうね」
医師は頷き。
「私は彼女の往診に向かいそこの庭で、なんと目を回している彼女のご子息とご息女を発見致したのです。お二人は近隣の町に住んでいるんですが。こう揃って二人とも地面に倒れていて、この寒い中放置されていたのですよ」
「それは‥‥誰かに殴られたということですか? エマさんのお宅から何か盗まれたとかは」
「いいえ、そんな形跡は全くありません。ただどちらも後頭部に大きなタンコブができていまして、誰かに思いっきり殴られたのは確実のようです。二人とも犯人探しに躍起になっているようなのですが、村から伸びた道は一つだけで、近くで働いていた農夫はその道を誰かが通ったら恐らく気付くというのです」
村一番の裕福な一家。怪我を負った彼等は犯人探しに躍起になっているのだそうですが、一向に見つからず、あろうことか彼等は農夫を疑い出したのだというのです。つまり嘘の証言をしているのではないか、彼ら自身が自分達を襲った当事者じゃないか、と言っているらしく。さらには第一発見者である医師すらも疑い出したというから始末に負えないようでした。
「なんて短絡的・・・・というか乱暴な」
「私はそんなことはしておりません。エマさんは多少気の強い方ではありますが、良い方です。薬草などにも詳しく、彼女が育てているそれを村の者達が分けてもらって私も大変助けられてきました。だから尚更見過ごせないのですが」
「えぇ」
「ただこう言ってはなんですが、彼女自身から子供達と絶縁状態にあったと聞いていまして。急にお子さん達が甲斐甲斐しく通うようになったのが、不自然に感じるんですよ。部外者の私が言う事ではありませんがね」
疑われているためか、医師はぶぜんとしています。
フローラは、息子に村人の医療を任せて依頼に訪れた、その中年の医師に。問いかけました。
「言いがかりだとは思うんですが、農夫の方は他に疑われる理由とかがあったりしませんよね」
「・・・・彼はエマさんと昔からの友人で、家族の縁に薄い彼女の精神的な支えになっている人物です。自分の亡きあとは財産の一部を譲るとまで宣言されている方で」
「? それは余程仲がおよろしいんですね」
「・・・・後で解ると疑われてしまいそうなので言いますが。私もそう申しだされているうちの一人なのです」
「・・・・それは以前から往診に行かれている縁で、ですか?」
「まぁ、そうなのです。そんなのはいいのだと言っても、彼女は聞いて下さらない」
受付嬢は聞いた内容から推理してみました。
「・・・・エマさんは、かなりお金持ちでいらっしゃるんですね?」
「・・・・、ええ。彼女のご主人は昔有名だった冒険者だそうで、その時代に得た財産であのお屋敷をたてたくらいですから」
そして友人や医師達に譲ると宣言している以上、子供達に渡すものはないとでも老婦人は言ったのでしょうか。鍵になるのは、彼女の亡き夫が残したという財産――?
「つまり、疑いを晴らすために真犯人を捕まえて欲しいと?」
「ええ、そうなのです。私は彼女の友人にお子さん達を害するような後ろ暗い気持ちは、ありませんから。あと犯人探しだけでなく。これはエマさんからなのですが。良くなるまでの間家のことをしてくださるお手伝いさんも募集しています」
確かにそんな猫屋敷なら、人の手が必要だろう。
家政婦の依頼はエマから、犯人探しの依頼は医師が。最終日に合算して報奨金を支払うとのことだ。
「判りました。そのように記載して、依頼書を貼り出しますね」
屋敷で沢山の猫達と暮らす、子供達に対しては気難しい老婆。彼女が弱った途端に現れるようになった子供達。疑われるエマの友人の農夫、そして一見優しげなこの医師。でもどこかに犯人がいるはずです。子供達を害するとすれば普通に考えて――。しかし、子供達が自分達の財産目当てで来るようになった事に心底怒りを覚えて、老婦人自らぎっくり腰の振りをして彼らを襲ったとか――いやさすがにそんなのはドロドロしすぎて嫌だな、などと妄想力を逞しくするフローラです。
フローラの脳裏に数人の関係者の顔が浮かんでは消え(勝手なイメージです)。黒のバックに稲妻が走り、その中では医師、農夫の顔がやたら邪悪になっていました。
「エマさんのご子息達は猫が嫌いみたいですからね、嫌そうな様子を見せながらもあの屋敷に通ってるんですよ。エマさんの子供とは思えない程の態度の悪さ・・・・なのでお手伝いに来てくださる方にはもしかしたら不快な思いをさせてしまうかもしれませんが」
ご子息とご息女、二人の子供は中々に癖者のようです。冒険者達には真犯人を突き止め、子供のふるまいにイライラさせてしまうかもしれないが頑張ってほしいな、とフローラは思うのでした。
●リプレイ本文
●エマおばあさんのお屋敷にて
エマさんは、ぎっくり腰になってなお気力だけは漲っているようでした。
「依頼で参りましたルエラと申します。よろしくお願いいたします」
「はじめまして。医者のゾーラクと申します。よろしくお願いいたします」
そしてそれぞれ名乗る冒険者達。
「おう、あんた達が。話はセンセからきいてますよ。よろしく頼むね」
体に障りのない程度にお話を伺いたい、と冒険者の一人に促された彼女。そして猫屋敷の家政婦と、謎の傷害事件の犯人を突き止めるべく雇われた5人の冒険者達が真っ先にしたこととは。
とまり、それは挨拶早々彼女を押し留める事だったのです。エマさんは話しているうちに一人でどんどん怒りがこみ上げてきたらしく。
「あの馬鹿息子達が誰かに殴られようがっ、・・・・いたた、そう、そんな事は知ったことじゃない。あっちやこっちで恨みを買ってそうな普段の行いを反省させたほうがいいんだよ。少しは胸に手を当てて反省しろと言ってやっておくれあたたたた!!!」
『エマさん落ち着いてください!! お話はもう大丈夫ですので』
体に障りがない程度にって言ってるのに。ぎっくり腰が悪化しちゃ大変と皆必死です。いだだだと寝台の上で体を震わせるおばあさん。ほんと言わんこっちゃないったらありません。
「エマさんに聞くのは最後の手段だね。他をあたった方がよさそうだね」
部屋を出てレフェツィア・セヴェナ(ea0356)さんが小声で。皆が深く同意したのは言うまでもありません。
*
「これは凄いは凄いですが、何とかならなくもないですね」
道中5人は、かれこれ暫くの間掃除もされていなかった様子の屋敷は、さぞ恐ろしい事になっているだろうと予想していたようでしたが。猫のフンは家の中にはそれほど、散乱していません。彼等は意外にもきちんと外で済ませているようでした。足元をうろつきまくる呑気そうな様々な毛並みの数匹の猫達――あとは外で元気に遊び回っている――足にすりつく様にして通り過ぎていく猫達をそれぞれ撫でたりしながら、5人は暫し癒しの時間を得ました。
「結構な数いるのに、お利口なんだね」
レフェツィアさんが感心したように言うほど。人慣れしていて、やんちゃな猫も多々いましたが、決して本気でひっかいてくるような猫はいません。
鎧騎士のルエラ・ファールヴァルト(eb4199)さんは持参した鉄人エプロンを身につけ、調理器具一式等を確認し。
「では私は持参した魚を下ごしらえして、猫達の食事を用意しようと思います」
と言いました。
今は温和この上ない猫達もまた、ひとたび目の前に出されたら魚争奪戦ともいえる熾烈な戦いが繰り広げられるのは必至なので。魚が入った袋ごとしっかりと抱え。
「子供達の怪我の具合、それと近くで鳴いていた猫達が怪我をしていないか確認してください。猫達にじかに聞くという手もありますが、 怪我の具合と現場に落ちていた物的証拠がそろえば、魔法が使用できなくとも『犯人』は分かると思います」
家事に専念することにする彼女は、仲間達にアドバイスをしました。
そう、残念ながら事件が起きてぎりぎり七日は過ぎてしまっていたらしいのです。お仲間のゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)さんが使用できる『過去視』の月魔法パーストが使用出来れば解決は早かったのですが、なかなかうまくはいかないものです。
「ええ、七日を過ぎているのは残念ですけど。そうですね。ルエラさんの仰る通り現場を見て、依頼人のあの医師に詳細を確認してまずはそこからですね」
「診察の仕事がひと段落したら向かうと仰っていましたから、もう少しかかるかもしれませんね」
とはアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)さんが。
では医師がくるまで、皆各自できることをしましょう、ということになりました。
「私は猫達にテレパシーで詳細を聞いてみようと思います。魚は持参したので。これも一緒にお願いできますか?」
「了解しました。合わせて暫くの間は持ちそうですね、私も持参してきて良かった」
エマさんの為に町の者達が餌をやりにはきてたとはいえ、少々猫達はやせ始めていると告げた医師の言葉は確かなようでしたから。特にルエラさん持参のパーチは天界ではスズキと呼ばれるとても大きな魚で、猫達がお腹を空かせていようと一瞬でなくなる事はないでしょうし、心強いです。皆は強く頷きました。
●猫達の証言
「こ、これは・・・・?」
土御門焔(ec4427)さんは困り果てているようでした。テレパシーで猫達を呼び。総勢二十匹弱集合してきていました。猫達に怪我がないかどうか皆さんと手分けして確かめ、彼らがどうやら彼らが無傷だということを確認しました。
それではあの石の血は――。
焔さんが意思の疎通を試みると、彼等は「遊んで」とか「撫でて」とか「お水ちょうだい」とかあれこれ欲求を伝えはするのだそうですが。先日の傷害事件に関して問うと、みな同じ返答をするのだそうです。
『みゃあああ〜あ』(あの人達が勝手に転んだんだよ)
「飛びかかったりした訳では、ないのですか?」
焔さんがいかに撫でてあげようがかまってあげようが猫達の口は堅く、勝手に転んだ、との一点張りでした。
自分達は何もしていない。相手が勝手に転んで頭を打ったのだ、と。
一人だけならともかく、二人一緒にそんな偶然が起きるというのはないでしょうに。
「ええと。どうなってるんでしょう」
猫に囲まれて、まさに八方塞がり。首を傾げる彼女。猫達だけが目撃者なのです。彼らに聞いても同様の答えしか得られないなら、他をひとまず当ってみるしかありません。焔さんは他のみなさんにそれを伝えました。
ただ。示し合わせたみたいに皆同じことを言う、と焔さんはそれも補足することも忘れませんでした。
●農夫の証言
「だからぁ、おいらはほんっとに何にもしてないんですってば」
「勿論疑ってるわけじゃないんですよ。強引に容疑者の一人にさせられて困ってるんでしょう? 無実を証明するためにも」
レフェツィアに頼まれ。人の良さそうな農夫は、ため息交じりに。布で汗を拭いつつ話し始めました。
「みての通り、ここら一体は皆が住んでる所からちょっと離れてて畑もおいらのだけだ。道もエマさん宅に用事がある人しか通らねえし、道のすぐ傍に広がる場所で農作物の手入れをしていたから、誰かが通ったら気付かねえ筈がないのよ。あの日あのバカ息子とバカ娘達が屋敷に向かったのは見たが、あとは」
「そのあとにお医者の先生が通ったっきり?」
「そのとおりだ。こういっては何だが、俺達はあのバカ息子達のことが好きじゃないのよ。エマさんはいい人だが、親に少しも似ていないんだからな。偉そうな口を聞いて、乱暴者だ。困ったもんさぁ。だからって殴ったり、怪我させたりは皆しねえよ。おいらも、医者先生も、他の皆もそんな事はしねえ。そんな道理が分からないものばかりじゃないからね」
●医者の証言
現場にはそれらしい痕跡は残っていませんでした。凶器に使われた石は、花壇の石の一つにすぎず。ある程度重さのある石ではあるが、女性も当然ながら持てないものではないとのことです。
「正確に言うと。彼らの後頭部には、それぞれ何かで殴られた後、さらに倒れた際に再び頭を打ってそのせいで大きな瘤ができていました」
冒険者達が猫達に怪我がない様子だ、と聞くと。医者は頷く。
「あの石の血痕はそれ程多いものではないのです。頭の皮膚を抉り、その時の血がついたものでしょうから。どちらかというと瘤の方がひどくて。色々なものが転がっている庭ですからね」
エマさん一人では整備するのも大変だということは、皆さんにも察しがついたのでしょう。その様子を見て、医師は渋面になりました。
「エマさんの子供達が治療をしろとうるさいので、彼等は私の診療所のほうに滞在しているのですよ。頭のけがですから過剰に心配する気持も分からないでもないですが。ただ、貴方達のことをお話したところ」
疑ってかかったり、治療をしろと迫ったり煩い人たちです。医師の困り顔に、ゾーラクさんがぴんときた様子でした。
「もしかして、そろそろこちらのお屋敷にいらっしゃるとか?」
「ええ、今晩にでも。犯人を貴方達が特定したなら、ぜひとも教えて頂きたいとのことで」
冒険者達は顔を見合わせました。エマさんのぎっくり腰も相当酷く彼女がウソを付いているわけではありませんし、猫達は彼女の事がとても大好きだからこの屋敷にすみついているのだと思います。お医者様も優しそうで誠実な感じの方で、猫達もお医者様に懐いていますし。農夫さんも魚を釣った時は猫達にご飯を運んであげたり、猫達には好意的に受け入れられている様子です。
ルエラさん、焔さん、アルトリアさん、ゾーラクさん、が犯人を特定できず困っていたころ。他のみなさんにも地道に聞き込みに向かっていたレフェツィアが、有益な情報を掴んだところでした。
「(これはもしかしたら、もしかするかも!?)」
彼女が得た情報とは?
●黒猫の行方
『エマさんは猫に本当に好かれているお人で。猫もちゃんとしてるんだよな。薬草を貰いに行ったとき、彼女の屋敷の庭で俺を出迎えた黒毛のネコがな、彼女を呼びに行ってくれたことがある。そしたらちゃあんと、エマさんがすぐ出てきてくれてな』
『私の旦那のお父さんがね、エマさんに薬草を貰いに行って、猫が二本足で歩いているのを見たって言ってたことがあるの。昼間から酒を飲んでるのかって呆れたら断固として飲んでいないんですって。ふふ、変な話でしょ』
20匹もいる猫達の中で皆の記憶にひときわ残っている様子の、黒毛の猫。
「でも、そんな猫いたっけ?」
屋敷に向け駆けている途中。
レフェツィアさんはそういえばその猫を見かけていない事に、気付いた様子でした。
*
「黒毛の猫・・・・混ざっているものはいましたが、完全な黒毛は餌を上げる時もいませんでしたね」
「宝石みたいに、綺麗な緑色の目なんだって。エマさんに一番なついていたって」
レフェツィアさんの説明に、冒険者達は首を傾げます。
「そういえば、エマさんが少し気にしていたようです。皆は、そして黒毛の猫は元気にしているかと」
アルトリアさんが告げれば、俄然重要な意味を持っているように思えてきます。
焔さんはひとつ頷いて。
「もう一度猫達に聞いてみますね。黒毛に碧の目の猫が今どこにいるのかを」
事件について知っている事はないかどうか、を。
そしてテレパシーでの呼びかけの後。
夕闇が忍び寄るその時刻、木々の間から黒猫が現れて。堂々と冒険者達の元へ歩み寄ってきたのでした。
●推理
「ああもう、ママ、早くこんな猫屋敷はうっぱらってよ。体に毛がつくんだよ、ああぞわぞわするったらないよ」
「そうよ、ママ。世間体ってものもあるんだから、いいかげん同居を納得してくれない? 体が弱ったなら尚のこと。お金だけあってもなにかあった時頼りになるのはそれじゃなくて、私達だってこといい加減認めてよ!」
飾り立てた子供達がきました。高いものばかり購入したようで、センスも何もあったものじゃありません。エマさんと同じ金茶の髪だけが遺伝を感じさせましたが、まったく雰囲気は似てない親子です。
キイキイ煩いです。そこにいる皆が渋面になってることにまったく気づいていない様子です。
「お黙り!!」
寝台の上で一括した老婆に、びくっと身を竦ませる彼ら。
「この方達のありがたい話を聞いて、二度とここに来るんじゃないよ。では、お願いするよ」
医師、農夫らも含め関係者らが全員エマさんの部屋に集まってきています。
ゾーラクが進み出て、犯人について語り出しました。
「得られた情報から推測したことをお話します。目撃者が猫だけ、つまり猫達は犯人を見ているのです。猫には到底抱えられない石で貴方達を殴った犯人を。でも猫達は皆口をつぐんでいます。貴方達が勝手に転んで頭をぶつけたのだと」
「違う、確かに殴られたのよ!?」
「そうだ、だからこの農夫や医者が怪しいっていってるのさ」
「猫達が犯人を庇っている。好意を持っている相手を庇うのは当然です」
「ゾーラクさん、それに、焔さん!?」
「しぃ、まだ続くから」
傍でレフェツィアさんが諫めます。
「つまり、屋敷の猫達が好意を持っている相手でさえあるならば、容疑者になる可能性は高かった」
「な」
エマさんが鋭く子供達を睨んでいます。
「あなた達は、猫に悪さをしましたね? 来ると猫を蹴ったりしていたそうで。だからあの日、猫嫌いのお二人が猫達を振り払っているうちにそれがエスカレートしそうになりました。だからあなた達はある存在を本気で怒らせたんです。つまり、この屋敷の猫達のリーダーを・・・・ということです」
ゾーラクさんの発言を聞き、子供達は茫然としています。
「綺麗な黒猫を見た事はありませんか? 群がる猫達を追い払おうとした、そのあなた達の行為は、その猫から見たら苛めているようにしか見えなかったんです。あなた方を懲らしめる為に、庭にあった石を投げつけたんですよ」
「な、猫にそんな事ができるわけ」
「あの猫は普通のネコではありません」
焔さんはきっぱりといいました。子供達の間の抜けた顔は、失礼ながら見物でした。
「その黒猫の姿の存在は、ケット・シーと呼ばれるエレメントですよ。ものを握る事も、攻撃することもできます」
「はあああ!!!?!?」
「猫達を傷つけるなんて。あんた達は、本当にバカだ。自分より弱い猫達に手を上げるなんて・・・・。百聞は一見にしかずだ。さ、出て来ておくれ、クロ」
寝台の下から現れた黒猫は、エマさんの傍に飛び乗りました。そして子供達は、一層驚愕する事になるのです。
「にゃ。にゃにゃにゃにゃにゃあああーーーあああ!!!!!!」
エマばあちゃんが財産をお前たちに渡す事は絶対ない。猫を苛めやがって。さっさと帰れバッキャロー!!!!!
不思議の国アトランティス、鳴き声にダブってケット・シーの言いたい事がはっきりと聞こえます。
子供達は大声で鳴きながら二本足で睨みつけて詰め寄ってくる黒猫に本気で青ざめ、卒倒したのでした。
●猫屋敷に平穏が
ゾーラクさんの治療も効果があったようで、エマさんのぎっくり腰はだいぶ調子が良くなったようでした。約束の日程を家の手伝いを中心に行いながら、迎えた最終日。
エマさんの周りには今日も沢山の猫達があふれています。子供達はあれでも、信頼できるお医者様もご友人もいる彼女は不幸ではないでしょう、おそらく。
ちなみに猫のフリをしているケット・シーはまだ当分、居心地の良いこの屋敷で暮らし続けるつもりとのことでした。