【新メニュー急募】メイディアの食を護れ!

■イベントシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月07日

リプレイ公開日:2008年12月13日

●オープニング

 人生苦もありゃ楽もあるもので。しんどい時も泣いたり眠ったり、人間らしい事が出来るうちは大丈夫。
 そして何より、食べ物を口に運ぶ元気があるうちはきっと平気で、そのうち立ち上がる事も出来る筈。
 さらにさらには、せっかく口にするものは美味しいものであればいい!!
 なんて思うのはおかしいことではないでしょう?

「だってどこに美味しい店があるかわからないしぃ」
 なんてお悩みの方はもしかして、まだあそこに足を運んだ事がない? 旅慣れた方ならお分かりになる筈。メイ、ウィル、ジ・アースどこにおいても、その各地には必ず冒険者酒場なる存在があり、そこの料理人達はその地域の特産品を使い、日夜料理の向上に余念がないのです。
 すべては冒険者達、戦いの場に赴く全ての人達へ、少しでも幸せになってほしいから。
 そう、あなたが知らない今この時。このメイディアのその店では最高の逸品が豊かな香りと湯気と共に生み出されているのです。天下のメイディア、つわもの達が利用するその酒場の厨房、その料理長が汗水たらして作る本気の料理が、美味しくないわけがないのですよね。
 
 ただ――。

 * 

 冒険者酒場の定位置に陣取る、四人。強面、大柄な鎧騎士の、ロッド。賑やかに喋りまくっているゴーレム工房職員のシフール、リュカ。長身で赤いバンダナから波打つ金髪が零れているゴーレムニストの、リカード。黙々と、でも美味しそうに食事を取っている天界人のゴーレムのパイロット、富永芽衣。
 天下の鎧騎士も働けば当然腹がすく。彼等は一仕事を終えるとこの酒場に来るのが常だった。すっかり顔なじみで当然メニューも制覇している。うまいしそれ程高くはないしで言う事はないのに、なぜか客が少なくなってる風である現状に、強面の鎧騎士ロッドが顔を顰めた。

「何なのかねぇ、いったい? どうしたんだ、不景気か?」
「さぁ、判んないんだけどまいっちゃうわよねー。その代り貴方達がいっぱいお金落としていってね☆」
『はいよー』
 男三人は愛想良く手を振っている。芽衣は小さく息をつき、看板娘をちらりと見た。普段は男勝りな彼女もダイナマイトボディな年下の少女を前に何か思うところがあるらしく、ちょっと遠い目をしている。
「最近仕事続きで身も心も荒んでたからな。ちょっとは自分に潤いを与えてやらんと、全く仕事をやる気が起きない」
「そんな不真面目なことを言ってると、工房長や、ユリディス先生、エリカ様に叱られますよ」
「平気平気、気にしない俺はやるところではやる男だから。しかもゴーレムニストのはしくれだから高給取り。ほんと疲れたらいつでも嫁においで。俺三男坊だから左程苦労はさせない。約束する。勿論仕事は続けて構わないしさ」
 頬杖をついてにーっこり。さしもの芽衣も怒りや呆れを通りこし、毒気が抜けるらしい。周りの悪友達は目を逸らし聞かぬふりをしている。
「何度も言うようですが、・・・・私は鎧騎士なので、いつ戦場で死ぬかもわからないんですよ」
「大丈夫。メイメイが行くところには俺がついてってやるし、俺がゴーレムの整備やらゴーレムニストとしてサポートするから。君は死なない」
「そんな台詞を平気で言える奴の気がしれん。俺はモルト 竜戦士を」
「いいよね、リカードは平和で。砂を吐きそ・・・・。お姉さんワイン追加ねー!」
「少年、悔しかったらさっさと話しかけてきたらどうだい。あの緑の髪の彼女に」
「・・・・だ、だぁから、あんなに可愛いんだぞ。彼氏いるかもしれないじゃん」
「確かに可愛いが、あの子は色気より食気っぽい感じがするけどな」
 リカードがあっさり言う。
「それに彼氏がいて一緒にこないのはおかしいだろーに」
「う。まぁ。あれっ、チュールちゃんもう帰ったのかな」
 さきほどまで友人か誰かと一緒に食事していたようなのだが。リュカがきょろきょろと意中の彼女の姿を捜す。
「・・・・ん。あれ」
 芽衣が口元を押えて目を瞬かせる。
「どうしたメイメイ」
「味が、いつもと違って、・・・・変な気が」
「ちょっと貰うよ」
 リカードが一口スプーンでそれをすくい、渋面になった。

 *

 そう、冒険者酒場では、臨時休業をもうけるか否かの議論が出さていた。何故だか知らないが、お客さんがここのところ、結構減ってしまっているので。こんなに料理も美味しくて看板娘もいて酒もあって大きな暖炉もある快適空間なのに不思議な事もあるもので。
 でも突然にしめると、少ないけど確かに存在するここの料理が好きな常連さんががっかりするので、皆一生懸命踏みとどまっているこの現状。そう、ぷんすか怒りつつも。
「あー!!! 客がいなきゃ商売がなりたたないんだっつーのにっ。冒険者達だからな、冒険に勤しむのは当然だろうさ。でも、頑張るだけ頑張ってぶっ倒れたらどうする。味気ない保存食ばっかり食いやがってッ。もっと自分の体を労わってだな、自分に美味いもの食わせてやれってんだ」
 黄昏ている料理長の代わりに、中堅の料理人がグチっている。
「なぁ、料理長」
「・・・・・・」
「ん。料理長? どうした。今日はうんともすんとも口を利かねえが」
 お玉を握ったまま彼の体が大きく揺らいで―――。

 
 *

「ほんとだ、塩味が洒落にならんくらい多いぞ。味付け間違えたのか‥‥珍しいな、というより初めてだ。何が」
 ロッドもまたひとくち貰い。強面をさらに険しいものにして、呟く。
 直後。厨房でバターン!!! と誰かが倒れる音がした。
「わー料理人さんしっかりっ!!」
 若い女の――この酒場の常連、チュール嬢の悲鳴がそちらから聴こえる。
 料理長が倒れたのだ。彼を安静にさせた後で皆溜息交じりに一つの結論を出した。

 心労からくる、過労に違いないと。

「このところ、色々悩んでたからそのせいだわ」
「でも、なんていうか。きっと料理長さんのせいじゃないのに。皆食べればきっとわかると思うんだけどなぁー」
 看板娘とチュール嬢が腕を組み、揃って困り果てている風だ。
「あの、あのさっ、じゃあ新しいメニューを作ったりとか。こう目新しい何かがあると、客って来たりするじゃん。それで他の今までの料理もアピールしてさ、何度も来てくれる客を作ればいいんじゃないっ?」
「新しいメニュー?」
 驚いた様子のチュール嬢に見つめられて、リュカは多少赤面しつつも、そうそう、と大きく頷いた。ロッドに小突かれ、リカードににやにや笑われ、芽衣までも軽く笑っている。リュカは必死に平静を装っている。料理長だけでなく最近チュール嬢も少し元気がない風に見えた原因を、彼なりに考えていたらしい。
「そっかぁ、それって名案かもしれないよー」
 提案を聞き。笑顔のチュール嬢に手を握られ、昇天しそうになりながらリュカは尋ねる。
「えーっと、店のほうは、どうかな?」
 看板娘は皆に、後で料理長にも話しておくね、と明るく請け負ってくれた。
「俺達冒険者ギルドに依頼を出してくるから」
『は?』
「いいじゃん、高給取りの仲間達。料理長さんと大好きな冒険者酒場の存続のために一肌脱ごうよ!!」
 親指立ててやたらいい笑顔で彼は言い放った。 

●今回の参加者

アマツ・オオトリ(ea1842)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ ルイス・マリスカル(ea3063)/ ミスリル・オリハルコン(ea5594)/ 布津 香哉(eb8378)/ 村雨 紫狼(ec5159

●リプレイ本文

●立ち上がれ、冒険者達!?
 冒険者酒場に新メニューを提案しようぜ計画☆もといメイディア冒険者酒場の危機に、立ちあがってくれた冒険者達。ナイトのアマツ・オオトリ(ea1842)、メイド忍者の美芳野ひなた(ea1856)、楽聖剣士のルイス・マリスカル(ea3063)、神聖騎士であり料理人のミスリル・オリハルコン(ea5594)、天界人ゴーレムニストの布津香哉(eb8378)、そして天界人ゴーレムパイロットの村雨紫狼(ec5159)の六名である。
 ちなみに料理長はまだぶっ倒れた・・・・もとい寝込んだままである。冒険者達は看板娘に案内され、奥の席へと通された。まずここで皆が持ち寄ったメニューを依頼主である人物、あと協力してくれる料理人に提案するのである。
 皆自己紹介を済ませ、早速本題へ。

「フ・・・・メイでも伝統あるこの冒険者酒場に追加するメニューに相応しいか、聞かせてもらうよ」
 などと言いつつも依頼人のリュカと共にこの日を心待ちにしていたらしい、その中年の料理人の目には期待があった。ギルドの受付嬢から、現状は伝え聞いている冒険者達である。力になろうと、皆しっかりそれぞれにメニューを考えてきているようで、内容にも期待が持てそうだ。
「えーとはじめまして、皆さん! 材料を揃えるのに難しいメニューじゃなければとりあえず作ってみてくれるらしいんだけど、ささっ、誰からでもいいですよ〜」
 満面の笑みの依頼人リュカに促され。時間も限られているという事で早速それぞれに提案を始めた。
「んでは、俺から! ハンバーガー、ほら、ここのメニューにないだろ? 丸く薄く切ったパンの間にハンバーグと野菜とチーズとかを挟んでさ。これって俺が住んでた天界でよく食べられてたものなんだよな〜。くぅ〜〜無性に食べたくなるんだけどよ、どうよ? メニューに加えてみねえ?」
「ふむ、はんばーがーの材料は大体判ったが。他には何か必要かな? 教えてもらえるか、えーと村雨さん」
「ソースが必要だな。デミグラスソース。あと、ピクルスって聞いたことあるかい? それとか」
 デミグラスソースはさておき、ピクルスはキュウリそれ自体が今の時期は手に入らないので、すぐ作るのは無理という事である。店で提供できるかどうかは、材料の仕入れに使う金額にもよるが。形状としては手軽に食べられる品として人気を博しそうだ。
「う、うまそう〜(じゅる)。オレンジジュースとかと合う? 合う?」
「あぁ、結構合うと思うぞ」
 さて。お次はひなたと、ルイスである。
 考えてきた料理――海の幸を使用のスープという共通事項がある二人。それを一言断った上で、提案を始めた。
「えーと、ひなたがまず考えてきたのはアサリ・小魚を使用したスープスパなんです☆ 海鮮スープを作った後、パスタを入れて、その上にはチャーシュー、豚肉を、さらに温野菜をのせるんですよ〜」
「私が考えてきた物は、魚介スープですね。鍋でオリーブオイルを温め、ニンニクの香りを移し。タマネギ、セロリ、ニンジンなどの微塵切りを入れて炒め。別の鍋でタラなどの白身の魚の切り身と、ホタテ、ムール貝など貝類を白ワインで蒸し煮に。最終的に塩、香草で味を整えるんです。魚介スープではあるのですが、ひなたさんと完全に同じではないので」
「どうでしょう?」
 にこりとひなたが。今現在、皆の頭の中には同じ想いが駆け巡っていることだろう。つまりどちらも、美味しそう。
「ちゃーしゅー、味の付いた豚肉だよな? えっとひなたさんの方はスープスパは基本の味は魚介あっさり、濃い目の肉をのせ、さらには温野菜をのせるんだよな? 結構ボリューム満点だね!」
「ルイスさんあんた実は料理人か?! 白ワインも結構あるしな。ただ材料を全部揃えるのが大変か・・・・?」
「あ、じゃ次は俺で。いいかい?」
 丁度良くウェイトレスがオレンジジュースを人数分運んできた。軽くつまめる軽食も一緒である。
「話ながらでも、どうぞ♪ お兄さんはよく食べに来てくれてるわよね。いつもありがとう☆」
「どういたしまして。ここの料理は美味いと俺は思ってるよ」
 香哉にそう返されて、にこりと看板娘は笑う。
「それ聞いたら寝込んでいる料理長も喜ぶわ。皆さんもこれも縁だし、どうぞ食べに来てくださいね〜っと、御免なさいどうぞ続けて!」
 どうぞどうぞと皆に促されて、香哉は続ける。
「あーごほん。ここにあったらいいなって思うのは、豚カツ定食なんだけど。ご飯とか味噌汁ってやっぱり提供するのは難しいかな」
「豚かつって豚肉をどうするの?」
「豚肉に衣をつけて揚げるんだが。後はソースをかけて、野菜を添えたりして」
「こう肉汁が沢山でるような感じっ?」
「それは勿論。こう噛むとじゅわ〜〜っとだな」
「やばい、俺超腹減ってきたー」
 リュカだけでなくお菓子や飲み物をそれぞれ口に運ぶ彼ら。いやほんと美味しいものの話してると、お腹すきますよね。
「くっそ美味そうだねェ〜。ただ、米が。ふぅぅうむ」
「こめ? あーあれっしょ。ジャパンとか天界で使われてる米とは、どうにも形が違うらしいんだよね。あと、味噌スープ? もこちらではちょっと無理かな。味噌がないもん」
「なければこっちの彼と一緒で、パンにカツを挟むような感じでもいいんだが」
「あ、成程。仕入代金や諸々の相談でどちらかにメニューが絞られるかもしれないが、了承してくれな。とはいえ、試作品として一通りは作ってみるつもりだから安心してくれ」
 と料理人は無骨な面に、仄かな笑みを浮かべた。
「さて。主食の方では私が最後になるか。私は糠漬けを提案する。少し手間がかかるが、上手くできれば酒に似合いの一品になるだろう」
 ぬかづけ? ときょとんとする皆に、アマツはきちんと説明していく。炒った麦ふすまを壷に入れ、粗塩を加えながら熱湯を注ぎ、昆布を加え、みみたぶ程度の固さで練り上げを行い、野菜屑を入れ、毎日、野菜屑を代え約一週間で糠床は完成――さらに熟成には最低二ヶ月は必要で。毎日、糠を底まで丁寧にかき混ぜ、適温をキープ、熟成した糠床に、塩もみした野菜を漬ける。魚や肉でも可、等など。
「ふむ。長くなったが以上の過程を経て、早ければ数日で漬けあがる。付着した糠を丁寧に洗い、糠漬けが完成。あと注意点は糠は減少する為、適宜、麦ふすまと粗塩は追加、糠のかき混ぜは、絶対に毎日行うことだな」
「ふむ、手間はかかるがそれはあんた的にはかなりイケてる料理なんだな」
「あぁ。糠床さえうまく作れれば自慢の品になると思うぞ」
「ほぉ、糠漬け。糠漬けね・・・・、じゃ料理長にしかと伝えておくよ」
 ぐいっと。んん、今涎拭いましたよね。
 読み書きが達者な冒険者達は率先して、そこにある羊皮紙に料理名、材料、作る手順を書くのを手伝っていった。どれもこれも美味しそうで皆和やかにそれぞれが提案した料理について語り合いつつ、話題は、主食から次なるお題へと。


●さて、お次はデザートと飲み物なのです
「私が提案させて頂くデザートは、フルーツの赤ワイン煮です。まずアンズ、プルーン、ブドウ、イチジクなどのドライフルーツを用意していただいて、それに蜂蜜、赤ワインを加えて煮るんですよ」
「それならその果物が取れない時期も対応できるしな。蜂蜜と赤ワインなら問題なく作れるぞ」
 ルイスの説明に、料理人の目が油断なく輝く。まさか彼を酒場の料理人としてスカウトしようなんて思ってるんじゃないですよね?
「ふ〜ごほん。えっと後は。村雨さんとひなたさんもなにか考えてきてくれたって言ってたっけな?」
「おうよ。俺は、てかこれもやっぱ天界で食ってたやつなんだけどさ。プリンなんかはどうかと思うんだ。材料は卵とか砂糖、牛乳とかだから用意するのはそんな大変じゃねえと思うんだけど。必要なカラメルソースは、煮詰めた砂糖水だしな」
「村雨さん、天界では砂糖はそんなに高いものじゃないんだっけか? こちらでは結構高価なんだ」
「・・・・え。マジ?」
「うん。手に入らなくはない事もないんだけどね。ごめんね、俺がギルドに依頼に行ったとき、砂糖はあまり使えないんだってこと言わなかったから。よくよく考えたら高すぎてもお客さんは頼まないよねー。だからそういう甘いお菓子は、並べられても限定何個とかになっちゃうかなって話はしてたんだ」
「天界は食材に恵まれてるみたいだな、羨ましい限りだぜ。あ、でもせっかく考えてきてくれたんだ、参考にさせてもらうよ。全部料理長には見せようと思ってるからさ!」
「じゃ、次はひなたさんだね」
「えっと、ひなたのもお砂糖を使うんですけど。大丈夫ですか? ええっとですね考えてきたのは『ハチミツ風味のシュークリーム』です♪ 使用するのは小麦粉、塩、卵黄、牛乳、バター、ハチミツ、あとお砂糖」
 生地は鍋にバター、塩、砂糖、水を加え火に。火から降ろして小麦粉を加え、再び火に。溶いた卵黄を加えて生地を練り、あとは一口大に絞ってオーブンへ。クリームは卵黄、砂糖、小麦粉を混ぜ、温めた牛乳を加える。裏ごしして中火でトロみがついたらバター、ハチミツを加えて欲しい、との事だ。
「最後は、シュー皮にクリームを詰めて出来上がりなんです☆ 女の人とかは甘いの好きな人も多いと思うし、あ。でもお砂糖が・・・・なんですよね。じゃあわざと砂糖を少なくして、甘さは蜂蜜に頼るとか。とにかく全体的に甘さを控えめにすれば男の人も食べれるかもしれないですもんね。えーと、それにっそれに砂糖の節約にもなるし。どうでしょう?」
『それイイ!』
 貴重な砂糖を使いまくれば値段が跳ね上がるが、甘さを蜂蜜に頼り、もしくは全体的に甘さ控えめとして出せばだいぶ違う筈である。一日限定何個とかして売り出すとか。お菓子の方のメニューに光明がさした感じだ。
「んじゃ主食とデザートは出揃ったって感じだな、皆さん感謝するぜ! お待たせしたな。ミスリルさん、あんたが考えてきてくれた飲み物ってのを教えてくれるかい?」
 そして。皆と談笑しつつにこにこと微笑みを絶やさなかった、ミスリル嬢。お待たせしました。
「はい。わたくしが考えてきた飲み物。その名前は、『ほっとドリンク・絆』です」
 そのこころは!
 皆の期待の籠ったまなざしを受け、彼女は指を立てる。
「冒険者酒場に訪れる冒険者の目的は色々、お酒を飲みに、食事をしたり、仲の良い方とお喋りをしたり、色々だと思います。でもそれ以外にも、定期的に訪れている方もいる。ペットと一緒に来る方も結構いらっしゃいますよね」
 つまりペットときず、専門用語は置いておき、とにかく親密さを上げる為に共に訪れる客の事のことだ。
「あぁペットとまったり過ごしてる客のことかい? いるねー、確かに」
 彼等は短い時間ペットと共に現れ、そして満足して帰ってゆくのだという。
「ふーむ、でもよ、前々から気になってたんだが、あれだけで親密度っていうのがあがるもんなのかい?」
 こらこら、それは言わないお約束ですってば。
「そんな方達にお勧めのメニューとして考えました。レシピは、季節の果実を蜜で煮込み、ジャム状にしたものをお湯で溶いて飲むという、いたって簡単なものです。柚子茶のメイ版といったところでしょうか」
「うんうん。ほっとドリンク・絆かぁ・・・・。何て言うかこれ以上ないネーミングだと思うぜ!」
「本当ですか? わたくしも思いついた時これ以外にない! と思いまして。コストも安そうですし」
 ちゃっかり隣を陣取っている紫狼が爽やかに笑い、そして周りの皆が相槌を打てば、ミスリルも嬉しそうな様子を見せる。遥々ウィルから駆け付けてくれた料理人が提案してくれた飲み物は、採用される可能性が高そうな感じだ。
 採用された暁には、気軽にほっと一息ついていただくための飲み物となるだろう。
 すぐ材料を全て揃えるのは難しい為、後日(糠漬けに限っては二ヶ月後に)試食会を開くことになった。他にも依頼を引き受けている冒険者達は忙しい。それぞれあいているスケジュールを縫って、約束の日程を取りつける。希望の品を食べる事の出来る日を、楽しみにしてもらいたい。


●最後に!
 メイディアの冒険者酒場には腕のいい料理人が、揃っている。皆から作り方を細かく聞いてメモをとったのが良かったのか、彼らが食べたい料理は殆どの料理は8割がた再現されるだろう。
 前に述べたように皆多忙な為、全員一緒の再来は望めなかったが。その日はルイスとひなたが考えていった魚介スープ&アサリと小魚のスープスパが作られた日だった。夜酒場に訪れ、多めに作られたそれを特別に無料で食べれる事になったシフールの彼女は嬉しそうだ。そう、冒険者酒場の常連さんであるチュール嬢は嬉しそうにそれを口にする。面識がある冒険者達が、今回の依頼に参加してくれていたと聞いてその話も弾む。
「うわぁ、これすごく美味しいよー!? ルイスやひなたが考えてくれたやつなんだね。魚がいい味出してるよー。これは他の皆が考えてくれたメニューも、ぜひとも食べさせてもらいたいな」
 次も無料だと悪いから、有料でも勿論いいからお願いしよっかな――と言って笑うチュールを、うっとりと見ていた依頼人のリュカは、はっとしたようにぶんぶん頭を縦に振る。
「うん、どれも力作っぽかったし、ぜひ」
 意中の彼女がご機嫌で、リュカも赤くなったり動揺したり忙しい。
「リュカも、どんどん食べよ?」 
「うん!!(はふはふ、ごくん) ・・・・あ、あのさ、チュールちゃん。君、か」
 彼氏とか好きな奴はいたりするの――とぶるぶる震えながら意を決して問いかけようとしたリュカは、
「こんばんは、今日は試作品を作ったんだったよね確か?」
「それ残ってるようなら、俺達にも貰えるか」
「・・・・・・美味しそうな香りですね」
 厨房から漂ってくるそれに、また復活した様子の料理長の姿に。娘が顔を綻ばせる。
 同僚達がなだれ込んできた為、問いをするタイミングを逸してしまったリュカは涙ぐむ。きょとんとするチュール嬢。リュカの切ない片思い(笑)に進展があるかどうなるかは、それはまた別の話である。

 *

 そう、数日後より。皆さんのおかげで料理長は、無事厨房に立つ事ができるようになったのだ。どれも力作、皆がしっかりと考えてきてくれたメニューは仕入れの値段等の関係で全て並ぶ事はなくても――冒険者酒場に活気を取り戻すのに一役買ってくれるに違いない。また吟味された後、実際に一部がメニュー表に追加されるので冒険者さん達には後日、改めて確認をお願いしたい。

「お気軽にどうぞ、お越しくださいね!」
 メイディア冒険者酒場スタッフ一同、皆さんのご来店心よりお待ちしています☆とのことだ。足を運ぶ際は美味しい料理とデザートと飲み物、どうぞ心行くまで堪能してほしい。