天界人ゴーレム乗り育成企画・受講生募集!

■ショートシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月06日〜01月11日

リプレイ公開日:2009年01月14日

●オープニング


 アトランティスではカオスの魔物が勢力を増し、ジ・アースではデビルと呼ばれる存在が人々の世を蝕んでいる。戦う目的は様々だろうが、結果的に――大多数が戦う力のない一般市民を護るのは、自国の兵士や先の見えない戦いであろうと勇気を持って立ちあがった、様々な職業の勇者達だ。彼らは各地で魔を迎撃をすべく共闘を試み、あるところでは勝利を収め、あるところでは苦闘の末にやっと魔を追い払う事を可能にした戦いの報告もまた冒険者ギルドには入ってきている。しかし戦いが終わったわけでは当然ない。
 今後可能な限り味方に被害を出さず、カオスの魔物を、地獄のデビルを滅する為には『力』が必要である。
 仲間と連携し、自らの秀でている能力に磨きをかけ、特殊能力を得る魔物相手と渡り合えるだけの強い武器や強力な魔法を手に入れる――。そういったことがこの先続くと予想される厳しい戦いを勝ち抜く上で必要なのは、明白だった。高位のドラゴンや高い能力を誇る精霊達と人間の関係も転機が訪れ、彼らと絆を結ぶ者達もまた現れ始めたという話も聞く。

 そしてアトランティスではジ・アースとは異なる大きな特徴がある。全長数メートルにも及ぶ、石等を材質とした人型の戦闘兵器『ゴーレム』というものが存在し、同じゴーレム相手、或いは人の手に余る巨大な恐獣などといった敵との戦いで使われている。
 このメイディアを都とするメイにおいても、本来ゴーレム製造の歴史こそウィルより遥かに遅れ始まったものの、優れた技術者達、ゴーレムニスト達の手で急ピッチでの製造が行われ、機体が増産されている。バという目の前の敵と次々湧き出してくるカオスの魔物の脅威を前に、国もゴーレム工房も来たるべき次の戦の為に、日夜が努力が続けられていた――。



 呼び出された後は、休み返上の任務が下ったのかと思ったのだ。即ち、再び魔物が湧いた戦場に向かえ――等という内容かと信じて疑わなかったのだが。
「・・・・失礼します」
 本気ですか、という言葉を飲み込んで溜息を堪えながら、敬礼をして部屋を辞した大柄な鎧騎士のロッドは、たった今工房長から下された命令を反芻した。
「天界人のゴーレム乗り育成企画か」
 今後の為にゴーレムに乗って戦える者は多ければ多いほどいい――。ということなのだろう。
 以前、あまりに弱っちくて飲み込みが悪くてどうすんだこれ、という鎧騎士の卵達の教官を務めたのは三人のベテランの鎧騎士だ。ロッドはその中の一人であり、最も面倒見良く相手をしたに関わらず、それでもどうにもならなかった事で彼らを切り捨てようとした。しかし同僚の取り成しもあって、鎧騎士の卵達は冒険者達に託されることになった。
 彼は潔く、見違えるほどに卵達を鍛え上げた冒険者達に敬意を表した。時間が限られている事はあるが、可能な限り一人一人のペースで伸ばしてやる根気強さが自分には欠けていたことを認めた。

『今後新兵の訓練の際には、今まで以上にその才能を見逃さず伸ばしてやる努力をします』

 男に二言はない。確かにそうは伝えたが、工房長のあの腹に一物ありそうな笑顔。例の言葉をよく覚えていたと見える。確かにああは言った、言ったが。
「(今後、卵達の教官役がかなりのところ回ってきそうな気がしないでもないんだが)」
 面倒みは悪くはないが、気が長いとは性格上言えない自分を本人が誰よりよく分かっている。
 食堂に行くと目ざとく悪友に見つけられて捕まった。金髪、赤色の作業着、男物の銀のペンダントをいくつかぶら下げている。悪趣味まで一歩手前な格好だが悔しい事に絶妙なところでしっくりいっている。

「よぉ、教官! その様子だと、例の件聞いてきたってところか」
「くそ。お前既に知っていたって顔だな」
「まぁなー。いいじゃん、鎧騎士の卵専属教官。こう卵を温めて孵す、親鳥の心境になって頑張ってみたら」
 胸に手を当てておどけられて、ロッドはぐらりと揺れた。即座に飲み物をよけてテーブルに突っ伏した彼に飲み物を倒されるのを回避したのが、憎らしい。
「危ないねお前、何やってんの」
「綿か? ・・・・時々貴様の頭の中には何が詰まってるのか見たくなるぞ」
「あらら過激だねぇ。俺はいい考えだと思うね。なぜかチキュウから来落してくる奴はゴーレム乗りの適性値が高いようだし。メイメイを見ててもそれは明らかだろ」
「それは判っている」
「本当かな」
「芽衣だけでなく、何度も顔を合わせた事のある冒険者ギルド所属の――天界人のパイロットの中にも骨のある奴がいる。逆に俺らが教えてもらう事もあるさ。この間の訓練の事みたいにな。それは判ってる」
「判ってるならさ――」
 だが、とリカードの言葉を遮り、彼は続けた。
「ゴーレムに乗るのも戦うのもそんなに簡単なものじゃない。俺達が歯を喰いしばってどれだけ訓練を続けて戦場に立つようになったか俺達が一番良く知ってる。物見遊山でゴーレムに触りたい、体験で乗ってみたい、でもそれは一回だけで構わない、冷やかしで、とか。そんなのは無意味だ。嫌だと思うのは間違ってるのか?」
 むうっと顔を顰める同僚をしげしげ見て。リカードは笑いだした。
「どう思う? メイメイ、この石頭っぷり」
 背後で昼食を抱えて困り顔で佇んでいた若い娘は、バツの悪そうな顔で振り仰いできた先輩鎧騎士にお辞儀して相席した。
 軽くリカードをねめつけ、立ち聞きを詫びた後に。
「先輩が嫌がるのを承知で言えば、最初から高い志を持ってゴーレム乗りを希望する天界人は、少ない、って思います。私の出身国は戦争をしていませんでしたし、身近な脅威に武力で対抗するという感覚が希薄ですし、そのせいもあるでしょう」
 と教えた。
「メイメイはそんな中では珍しい武道派だったんだ」
「え? あぁ、はい。子供の頃から憧れだった職種が、そういうのが必須だったので」
「芽衣の出身国は地球、日本って国だったか。戦争がないとは・・・・魔物もいなかったんだろう? 平和な国だったんだな」
 ロッドがそう評すれば、芽衣は苦笑いした。
「一概にはそうとも言えないんですが。ともかく、今回の申し込んでくる天界人の中には先輩が心配したようは方もいらっしゃるかも。でも私のように来た意味を知りたいと切望している人もいるかも、とは実は思います」
 メガネの奥で目が細められる――、懐かしむような様子で。
「どういう事だ?」
「きっと今こうしている間にも異世界に来て途方に暮れている人もいて。適性というものはあるでしょうが、中にはゴーレム乗りに優れた才能を発揮する方もいらっしゃるかもしれません」
「そうそう。それに、他にもゴーレムニストの原石も混ざってるかもしれない。やって良かったって思えるかもしれないぜ?」
「ふん。それは第一回目の試みの結果次第だな」
「石頭・・・・(呆れ)」
「煩い」
 だが、ひとまずやる気にはなったらしい。教官はロッドと芽衣、人数によってはもう一人追加されるとのことだ。
「芽衣、ここに来た意味が見つかって良かったか?」
 問いにキョトンとして。晴れやかに笑う。
「はい」
 普段表情をあまり動かさない彼女のその表情を見て、鎧騎士ロッドは今回の試みにようやく本腰を入れる決意をした。 

●今回の参加者

 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5306 田辺 翔(37歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec5881 日野 由衣(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●初日
 当日。訓練生二名と、教官役のベテランのゴーレム乗り三名が工房を訪れた。
「遅ればせながら、謹んで新年のお祝いを申し上げます」
 彼らの中、代表で丁寧に頭を下げた鎧騎士、シファ・ジェンマ(ec4322)。工房入口で出迎えた娘は顔見知りの鎧騎士に、笑顔で挨拶を返す。大柄な男――ロッドは苦笑して、
「ご丁寧にどうも。まぁこのご時世新年を迎えたって、めでたい気持ちばかりではいられねえがな」
「彼女達が今回の、訓練生です」
 とは龍堂光太(eb4257)が。ロッドは頷く。
「俺は鎧騎士のロッド・アルファーノ。こっちは富永芽衣。君達と同じ天界人だ」
「どうも。俺は、田辺翔(eb5306)。アトランティスに来てから2年半になるけど、ゴーレムと関わったことはなかったんだ。いい機会だから色々学んでいくつもりだ。よろしく」
 さばさばした口調で話すのは、男っぽいいでたちの女性だ。そして、
「日野由衣(ec5881)です。よろしくお願いします。ゴーレムの操縦は、初めてなので想像もできませんけど。でも、・・・・教えてもらえる事は全力で学びますので!」
 もう一人は天界にいたら女子高生といった人物だ。二人に共通しているのは未知なるものに関わっていこうという興味。ロッドは目を細めた。少し嬉しそうな様子にも。
「それじゃ部屋を用意している。ついてきてくれ。・・・・? あんた物凄い荷物だな」
 シファが抱える荷物、そして皆が抱える荷物は、なんだか多くないか。そう思ったらしい。
「日数分の食材を買ってきたんです。ゴーレムに乗るなら体を鍛えなくては」
 それには、栄養バランスを考えた食事も大切ですから。とシファが。そういった事情なら、仲間達も荷物持ちくらいお安い御用だろう。
「沢山買ってきたので、ロッドさんと芽衣さんも良かったらご一緒に」
 勿論二人は、快諾した。

 
●授業
「ゴーレム発祥の地は、知ってる者も多いだろうがウィルだ。一番最初のゴーレムは、ウィルのトルク家家臣のゴーレムニスト、オーブル・プロフィットという者が作り出した。そこからゴーレムの歴史は始まる」
 淀みなくロッドは続ける。一番前に訓練生の二人はメモを取りつつ熱心に聞いている。事前に翔が頼んだ通り始まりの物語から――。
「正確に言うと、それは精霊暦の1034年頃の事。ほぼ同年からウィルより他国にゴーレム機器や技術が輸出され、ウィルに莫大な富をもたらした後、現在は各国で独自開発が進められるようになった」
「このメイでも様々なゴーレムの開発が行われています。機体によって長所と短所がある。たとえば先程ご覧頂いた機体のモナルコスは現在のメイでの主力の機体ですが、動きが左程早い機体ではない、その反面高い防御力を誇り、対恐獣戦などにおいて引けを取らない能力を持ちます」
 由衣と翔は頷く。この部屋に来る前見せられた石を材質とした高さ四メートル程の巨人がそれだ。
 ゴーレムの材質は機体により異なり、木、石、金属が使用され。ウッドゴーレム・ストーンゴーレム・アイアンゴーレム・シルバーゴーレム等と呼び称される。素材により専門家達の手で作り出された機体を動かすようにするのが、いわゆる――。
「それがゴーレムニストと呼ばれる者達だ。そのうちの一人が後で顔を出すと言っていたので会う事になるだろうが。そいつを見ては判らんかもしれないが、ゴーレムニストは国の重要機密を扱う、専門家達だ。その身分を保障され保護される代わりに、他国へ渡る事に関して制限される」
「そして、鍛練を重ねた熟練の騎士であろうと、ゴーレム魔法をかけられていないゴーレムを動かす事はできません」
 ゴーレムニストは機体に命を吹き込む役目を持つ方達と言えるでしょう――そう、芽衣は続けた。話はゴーレムのより実践に役立つ話題へと――。
「さて。俺が天界から来落した芽衣と話していて驚いたのは。ゴーレムの作動に関しての認識のズレ、だ。なんでも、天界にある、なんだ、ろぼもの? はレバーだのボタンだの」
「先輩」
 渋面になったロッドを、芽衣が赤面して押し止める。そのやり取りでかつて二人がどんな話をしたのか推測できたのだろう、教官役の一人天界人の光太が苦笑して話の続きを引き取った。
「ここは俺が説明した方がいいかな。いわゆる地球にあったロボもの、そういった物に出てくるような装置はゴーレムの中に一切ないんです」
『一切?』
 メモを取る手を止め。訓練生二人は声をハモらせる。光太は頷く。
「そう。AI、人工知能によるサポートも」
「え? それで、一体どうやって動かせるんですか?」
 由衣が驚いて、呟く。きょとんと顔を見合わせる訓練生二人に、教官達はそれぞれの言葉でゴーレムの動かし方を説明していくが、やはり実際にやるのと話に聞くだけでは違う。
「訓練用の機体は明日用意できるって話だよな? 乗りゃぁわかるさ。天界人ならな」
 光太同様ベテランの天界人パイロット、伊藤登志樹(eb4077)が。そう約束した。


●翌日
 シファが予めサクラの蜂蜜と岩塩を湯に溶かした栄養飲料を人数分作った。長時間行動すると体力を消耗する、その対策の為である。訓練生の二人は、材料、作り方もしっかりメモした。入れる魔法瓶は、芽衣から渡された物を二人は使用した。
 都郊外には、鎧騎士達が使用する幾つかの訓練場がある。そのうちの一つへ向かった一行。今回の試みは事前に知らされ、彼らだけが使用できる事になっている。
 
「ゴーレムを動かす時は、まず制御砲の中に入る、だったっけな」
 とは翔が。使用できるのはモナルコス。他の機体の見学は後日行うことになっている。格納庫にしまわれている機体は、身を少し屈めるようにして止まっている。昇降用に組まれている台座を使用し、それぞれ言われた通り無理なく中に入り込み椅子に座る。由衣にはシファが、翔には光太がつき内部の説明を行っていく。その椅子の手すりにある丸い物に触れ動きをイメージすると機体が動く――そう、再度説明された。
 扉が閉まろうとした、その時。

「あのさ、悪い。聞いていいか」
「はい?」
「それ閉めたら、どこから外を見るんだ」
 窓はないし、と。少々動揺したように翔が。目を瞬く光太。ちらりとそちらへ首を巡らせるまでもなく、似たようなやり取りがシファ達の間でも交わされているようだ。
「そうでした。上手く機動させられると、ゴーレムが動くだけではなくその頭が向いている前方の景色が見えるようになります。心配しなくても大丈夫ですよ」
 と光太が。
 一応頷く二人。
 が。

「で、できるかな‥・・」
 制御砲内部、その暗闇の中で、由衣が、翔が。ぎゅうっと目を瞑り、念じる。
「教えられた通りに。自分の体の延長みたいな感じで―――か」
 機動には必ず時間がかかるといった。そして暫く時間を要して。制御砲の中の二人が気配を感じて目を開くと。目の前には格納庫の入口にひかりを背に佇む、一つの機体が――視えた。
 二人は息を呑む。

「おい、聞こえるか? 伊藤だ」
 背もたれに背を預けると、左肩のすぐ傍にあるラッパのような形状の道具、風信器から声が。風の精霊の力を借りて機体同士、1キロメートル程の距離であれば言葉を交わせる道具だ。閉鎖された空間の中、目の前に広がる映像、聴こえる声に二人は驚く。

「聞こえたら返事しろー」
 慌てて返事をする二人。
「おっし。上手く起動したな。じゃ、俺も見えてるな? じゃ、ついてこい」 
 歩く、走る、物を運ぶ、坂道を登る、などなど。基本的な動きに少しずつ慣れていく。
 そして軽い模擬戦。シファ達も加わり、彼女達の様子を慮ってかこちらはゆるく、続けられた。
「とにかく長時間の戦闘に耐えれねぇと、実戦・・・・とくに最近の魔物の中に特殊能力で防御を強固にする奴が出て来てる。それには、時間制限があるみてぇでな。それに対応するためにもスタミナ配分で戦闘時間を長く持たせれる様にせんとあかん」
 機体から降りた後。登志樹の特訓が始まった。厳しさは結果的に彼女達の為、ということのようだが。少々ハードな基礎体力作りだった。
 シファの心のこもった栄養満点の料理達のおかげか、たっぷりの睡眠が効いたのか。彼女達が体調を崩す事がなかったのは幸いだった。


●飛翔
 後日、訓練場にて。用意された機体は、ゴーレムグライダー。木を材質とする、少々音は煩いが飛行速度に秀でた機体だ。またこの機体はグライダーの名が示す通り、そして天界人の教官達より説明があった通り、天界にある飛行機やヘリコプターと呼ばれる物のように、人が中に入って操縦するというものではない。騎乗に関して心得があれば両手を放して飛行もできるというのは、余談である。動かす事自体は翔が出来そうだが、今回は勿論教官の後ろでどんなものか体験してもらう。

「では行きましょう。慣れるまで高度はそれ程あげませんので」
 安全ベルトなるものは一切ない。笑顔のまま少々固まりつつある様子の由衣。翔もじいっとグライダーを見ている。
「大丈夫、シファさんは上位機種も稼働させられるベテランの鎧騎士ですし、私も慎重に動かすよう心がけますから」
「由衣さん、どうぞ」
「は、はいっ」
 小柄な鎧騎士、シファがゴーレムグライダーに跨りつつ促す。その後ろに由衣が。もう一機は芽衣が操縦席に座り、彼女の後ろで訓練生の翔が。
「さて。しっかり捉まっていてくださいね。絶対に手を放さないで」
 眼鏡を外し、芽衣はゴーグルをつける。眼鏡外して大丈夫なのか、と翔が問うと。伊達なんですよ、と芽衣は笑った。そして動き始めたグライダー、見た目が重そうにも関わらず、ふわりと浮遊し、飛翔していった。
「きゃー!! すごい!! シファさん、私空飛んでるんですね」
 さっきまでも緊張はどこへやら。グライダーの立てる音に負けぬほどの大声で、由衣が。直接風が当たるがその多少の寒さを吹き飛ばすほどの興奮が、そこにはあった。
「凄いな! これも他の機体同様、動かせる時間に、限りがあるのか?!」
「ええ! でもせっかくですからもう暫く。お天気もいいですし」
 風の流れに乗り、メイディアの都が一望できる高度を保ち、安定した動きで飛空する。訓練生達の興奮は、暫く冷める事はなさそうだった。


●実験
 午前中は工房内にある機体、小型のフロートシップ、チャリオットなどを訓練生と共に見て回っていた皆ではあるが。グライダー体験に関しては、訓練生が女性ということで。シファと芽衣に一任された。
 同時刻、工房にて。

「悪いな、アトメリアやオルトロスとかまでなら、見学可の許可を工房長より得てるんだが。やはり、それ以上だと今回は。この企画では訓練生に普段使われるゴーレムを重点的に見学させるよう、言われているのもあってな」
「そうですか、残念ですが仕方ありませんね」
 と光太が。上位機種を動かし、色々な事を試したかったようなのだが諦めるしかなさそうだ。
「んじゃ、物は相談というか」
 と話しかけた登志樹は。近づいてきた人影に気づいた。それは、仕事の合間を縫って現れ、いつものように軽いノリで挨拶してきた顔見知りの男で。
「やぁ、おひさ」
 それを遮って登志樹が叫んだ。
「・・・・丁度良かった、ぁぁ、名前なんつったっけ? とにかく、そこのゴーレムニスト!?」
「相変わらず威勢がいいねぇ。お久しぶり、リカード・ヴァレッティだよ〜、登志子ちゃん」
「勝手に名前変えんな!」
「こりゃ失敬(にこやか)。で、何怒ってんの?」
「知らん。今から聞くところだった」
「ふぅん?」
「いい機会だから聴きたい。工房ではゴーレムにレミエラを使用する案っていうのは今まで出てるのか? カオスの連中にデフォルトで通常の武器が通じないのがいるからな、レミエラが使えりゃ、ゴーレムの兵装や装甲に魔力付与なり強化が出来る! しかも『低コスト』でだ! 当面の対カオスにはうってつけだ」
 彼なりに現状を憂えての発言らしい。それが解ったのか、神妙に聞き入る。
「これはまた、久しぶりに聴いた案だねぇ。ま、今まで案が出なかった訳じゃないんだが。他に皆やる事山積みでそういえば実験するって聴いてはいたが、後回しになってんのかな。ふむ」
 登志樹は準備していたレミエラをズイと差し出す。昨日のうちに武器から取り外し済みだ。
 リカードはニヤリと笑って、
「これは、準備のいいことで」
 
 実験に使用する機体は、登志樹が動かす事になった。
 結論から言おう。ゴーレムの武器にレミエラは装着可能で、起動が確認され、武器を握っても振っても異常は認められなかった。

「まさか、こんなに簡単に上手くいくとはな」
 と呆れたようにロッドが。光太が感心し、頷いている。
「使用するレミエラによっては。魔物相手の闘いが、有利になるかもしれませんね」
『よっしゃ! 今回の武器の運用データを上層部に送って、レミエラでのゴーレム強化プランを出せ!』
「あいよ、勿論。任せといて〜。にしても面白くなってきたね、これは」
 さらなる実験の結果、ゴーレム自体にレミエ装着することはできないという事が判明したというのは余談である。


●一歩 
 数日授業を受ける内、だんだんと内容は専門的なことに移っていった。翔は射撃の腕に秀でているが、機体の殆どが、その手の部分が弓に適した形状ではない。撃てない事はないが命中率は格段に落ちる。モナルコスに乗った時試したので、その点は翔は身を持って確認済みだ。
「その点『アルメリア』はその中では珍しく射撃に秀でた機体だが、まだあんたには、あの機体を動かす事は難しいだろう」
 機動が比較的簡単であるモナルコスやグライダーから訓練を重ねていけば、じきにアルメリアであっても動かすのは難しくないかもしれない、という言葉も添えられた。
「自分のゴーレムは持つ事はできませんが」
 冒険者ギルドに機体が預けられている現状もあり、天界人ゴーレム乗りの活躍の場は今後さらに増えるだろうと、芽衣は由衣に教えた。

 そして――。
「今回覚えた事を、可能なら今後に生かしてほしい。また会えるのを楽しみにしている」
 とはロッドが。教官役の参加者には礼金が。数日間にわたって美味しい料理を提供してくれたシファには、密かに芽衣から感謝をこめプレゼントが渡された。鎧騎士用の防寒対策の一種だそうだ。翔と由衣には訓練で使用した魔法瓶が、渡された。天界のアイテムの為、貴重品だ。今回のように、依頼で水等を持参する時に活用してほしいという言葉と共に。
「楽しかったです。実は、最初はちょっと軽い気持ちだったんですけど」
「本気でゴーレム乗りになること、考えようかな」
 その言葉に笑み交わす教官達。
 今回の試みは、大成功に終わった。
 そうして訓練生達は、最初の一歩を踏み出したのだ。