凧あげしましょう!

■イベントシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜01月25日

リプレイ公開日:2009年02月03日

●オープニング

 メイディアのある小さな教会―――。ここには温和な神父と、三つ子のシスターと、天界人の青年が暮らしている。近くにある小さな孤児院に住む子供達もちょくちょく遊びに来ていて、その教会はいつも賑やかだった。
 天界から突然この世界へ来落してしまったことで、最初は元の世界へ帰る事ばかり考えていた桜庭幸人(3●歳)だったが、ある事をきっかけにして少しずつ順応していって。今ではこの教会でなくてはならない存在になっていた。特殊技能を生かし、こちらでもあることを始めたのがうまくいっているのである。
 それは寺子屋を開き、そこで教職者としての経験を生かし――そう、子供達に天界で得た知識を教えることだった。
「さて。これでよしっと」
 幸人は机の上に白い布や、紐、絵の具などを並べた。子供達は興味深そうにそれを見て、目を輝かせている。他にも遊び道具と思われる様々なおもちゃがあったが‥・・。
 年長者の一人の少女が、幸人の腕にしがみつく。ぱっと顔を輝かせた。
「幸人、これがこの前いってた?」
「おう、リサ。そうだ、これが今度皆でやろうって言ってた天界の遊び道具だ」
「この布は、何に使うの?」
「それは凧っていうのを作るのに使うんだ。布と細い枝と、紐を使って風を受けて空に浮かばせるんだよ。船の帆船が風を受けて進むみたいな感じで、風の力を使うんだ」
 子供達の歓声が上がる。それを見て幸人は微笑んだ。子供達はひとしきり幸人と話し、孤児院へと帰っていった。黙々と作業をする、幸人。それを見つめる三人・・・・

「あああぁ幸人ちゃん、本当に順応したわね。メイに骨をうずめる気になってくれたのね。私嬉しいわあ」
「子供達に好かれる男って素敵よね。幸人って逞しいし、前みたいにあんにゅいな様子でいるのも素敵だったけどぉやっぱりあんな風に笑ってくれているのは私達も嬉しいわよね」
「幸人ちゃん、何かお手伝いすることない?」
 アグネス・ラファエラ・ローズマリーの三つ子のオカマ、人呼んで黒い三連星、もといシスター達がほほほ、と優雅に微笑みつつ近づいてきた。
「あ、いや特には今のところないかな。ありがとう」
 彼女らに動じず、さらりと笑顔で言う幸人。ある意味彼は大物だ。
「しかし、チキュウの遊びを‥‥と思ってたんだが。せっかくだから色々用意できるものはしておこうと思って。遊び道具が沢山あった方が、今後子供達にもいいだろうし。ただ全部自分で作るとなると。な」
「だから、私達手伝うってばぁ」
「バカね、ラファエラ。天界の玩具を私達がうまく作れる訳ないじゃない」
「いや、貴方達は仕事があるだろう。そうそう悪くて頼めないよ」
「「「遠慮することないのに〜」」」
 はもったそれに、幸人は苦笑。
「凧だけでなくて、独楽とか竹馬とか他にも何か作れるんじゃないか‥‥、そうも思うんだが」
 幸人は次々何かの単語を上げていったが、シスター達はきょとんとしている。
「う〜ん、一つ一つ説明していくと」
 シスターローズマリーが、手を左右に振った。
「あ、じゃあ幸人ちゃん。冒険者の中には天界の玩具に詳しい人がいるかもしれないじゃない? その人達にも手伝ってもらったらどう? でもって私達に手伝える事はするから。神父様も子供達の遊具を作るのは賛成していたし」
 ローズマリーの名案に、幸人は顔を綻ばせ、シスター達は手を叩いて賛成した。
 作りたいのは、地球の遊具。天界人は元より、似通った要素のあるジャパン出身の冒険者や、単純に異国の文化に親しんでみようという人でも参加できる。
 戦いに明け暮れる日々を送る冒険者の方々、たまにはこんな風に息を抜いて遊びに興じるのもいいと思うが、いかがだろうか?


●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ シャクティ・シッダールタ(ea5989)/ 布津 香哉(eb8378)/ アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)/ 水無月 茜(ec4666)/ 村雨 紫狼(ec5159

●リプレイ本文

●遊びの準備♪
 教会に繋がる建物のある広い一室――そこは今、凧作り教室と化していました。
 室内にあるのは子供達の賑やかな声。テーブルの上には天界人の教師、桜庭 幸人が用意した材料の数々。布、竹ひごの代わりになるような細い木材、しっかりとした紐、絵の具等。色々あります。子供達が冒険者のみなさんを見つけ、元気よく近寄ってきました。
「演歌歌手の水無月茜(ec4666)です。お久しぶりです〜!」
 面識のある子供達に笑顔を向けて、きちんと挨拶をしたのはチキュウ人の彼女です。彼女の本業は演歌歌手ですが、子供達からの好かれっぷりを見ると、『うたのお姉さん』でも十分やっていけそうな感じです。
「あんた達は、あの時の。茜さん、それにひなたさんも」
「こんにちは☆ お元気そうでなによりです」
 とはメイド忍者の美芳野ひなた(ea1856)さんが。笑顔を浮かべ、ぺこりっとお辞儀。
「よ、幸人さんよ! 暫くぶり・・・・遊びに来たぜ!」
 と気さくに挨拶したのは、チキュウ人ゴーレムパイロットの村雨紫狼(ec5159)さんです。それにしても、桜庭 幸人。昔天界に帰りたくて港で憂鬱そうに海を眺めていた人物とは、別人のようです。
「紫狼まで。よく来てくれたな」
 そう、この三人は、彼がチキュウからアトランティスへ来落した時に『幸人を励ます会』の手伝いをしてくれたメンバーの皆さんなのです。握手したり、肩を小突いたり。幸人さん、思わぬところで彼らと再会できて、とても嬉しそうです。
「で、あんたさっきから何きょろきょろしてるんだ?」
 構えの姿勢であたりを窺っている紫狼さんに、幸人さんは不思議そう。で、紫狼さんの様子にようやく合点がいったらしく、あごの不精ひげを撫でて、ちょっと笑いました。
「あぁ。彼女達ならお勤めの合間を縫って、顔を出すって言ってたな」
「彼女達って、何を平気そうに〜・・・・(ガクリ)。幸人さんあんた毒されてねーか!?」
「あら♪ 紫狼ちゃんいらっしゃぁいvv」
「●×△○○!!」
「私達が関わる依頼にちょくちょく来てくれるなんて。うふふここらでもう少し親密度を深めましょうか。そろそろ決定的な進展が必要よね」
「「なぁんてねっ。ウフフフフフフッ」」
 背後からきゅうっと抱きしめられて、きゅうっと魂が抜けかけている紫狼さんです。このシスター達、隠密レベルが物凄く高いのではあるまいか。見分けはつかないですが、この二人はアグネスとローズマリーでした。黒聖女の抱擁を受け、そして彼は静かになりました。内心合掌する幸人。
「カマシスターズ・・・・すげぇ威力だ」
 おぉうっと軽くひいた巴渓(ea0167)さんです。彼女は男性らしい振る舞いをする方ですが、シスター達にロックオンされるのは、あくまで男性に限るようですので、助かったといえなくもないかもしれません。巴さんと仲良しのシャクティ・シッダールタ(ea5989)さんは苦笑しつつそれを眺め、アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)さんは子供さん達の賑やかさに少々圧倒されていますが、子供達に囲まれて手を引っ張られ、作業場へと連れて行かれます。
「えと、お姉さん達っ。手伝って〜、僕達、絵がうまく描けないんだ」
「一緒に描いてっ」
「おぅよ、任せときなっ」
「まぁ。うまく描けるとよいのですが」
「ねぇねぇ、お姉さんは、凧以外にも何か作れる?」
「はい、皆さんと一緒に作れそうなものを考えてきました」
 とアルトリアさんが。わぁい、とまわりで子供達が歓声を。
 凧の準備に必要な材料は先程述べたとおり、幸人が用意済みです。冒険者の皆さんにまずしてもらいたいのは、幸人の説明通りに組立てる事でした。アトランティスでは紙は貴重で、チキュウにあるという、ビニールを使用した凧も当然できません。なので布を細く切った木に頑丈な糸などで縫い合わせ、固定していきました。手先が器用なひなたさんを中心に、大いに皆さん頑張ってくれました。
「うん、やっぱりせっかく地球のオモチャなんですし、故郷の日本で凧っていったらコレですね!」
 ヤッコ凧を作り、満足そうに茜さんが。ヤッコ凧の説明を茜さんに頼まれて幸人はしていましたが、チキュウを知らない子供達はちょっとよく分からなかったようです。

「まぁ、茜ちゃんの書いたの、可愛いわ。あなた達も見てごらんなさいな」
「「ほんとだ、可愛いっ」」
 様子を見にきたシスターと、子供達がにこにこしています。
「どれどれ〜〜っとと、演歌ちゃん、上手だなぁ」
 ひょこっと顔を出して、紫狼さんが。あ、復活できたようでなによりです。
「あれれ、もっと格好よくなる筈だったんですけどね、何だか可愛くなっちゃいましたね」
 でもこういうのもありですね、と照れたように笑いました。そして紫狼さんの凧を見て、萌系にひた走る可愛い絵柄にびっくりしてます。よーこたん(陽精霊)とふーかたん(風精霊)の萌イラストさ♪と彼は自慢げです。目がパッチリ、可愛い女の子のイラストに触発された子供達が、凧に似たような絵柄を描いていきました。――アトランティスに萌という言葉が定着するのも、そう遠い日のことではないかもしれません。

 形状は■と◆の二タイプの凧がメイン。時間を経て、次々仕上がっていきます。絵の具も絵筆を持って、子供達は夢中で、真剣に絵を描いていきます。それを冒険者のみなさんがアドバイスしたり。小さな子達には結構なところ手を貸してあげたりして。
 普段戦いに明け暮れる冒険者の皆さんも、こうやって子供達に交じって何かをする事はいい気分転換になりそうです。子供達の輪の中に入り、皆さん助言したり手を貸したりしている様子は、とても楽しそうでした。

 *

「あー、凧に独楽に竹馬ねぇ・・・・一時代前のおもちゃだよな」
「案外、馬鹿にしたもんでもないと思うが。この子たちは遊びをあまり知らないしな」
 幸人は手を休めず作業しながら、同じ天界人のゴーレムニストの布津香哉(eb8378)さんの発言に苦笑。香哉さんは、早合点した様子の幸人にいや、と手を振りました。
「あ、バカにした訳じゃない。興味があるから来たんだ」
「なら良かった。というかあんたは昔懐かしの遊びとかって、小学生の頃やらされなかったか? まぁ透明のビニール袋と竹ひごを使ったりっていう簡易なものだけどな」
 十歳は年下の同郷の彼に、幸人は尋ねます。
「いや、じいさんとかに話は聞いてたけど、それだけかな」
「そうか。しかし、アルトリアさんすまないな」
「いえ、これで代用がききそうですから。大丈夫ですよ」
 アルトリアさんが手にしているのは、竹トンボの代わりになるような細い板と、串でした。糊で固定したりして。この世界に竹は存在しない事を、幸人は知らなかったようなのです。小さく彼が息をはきます。
「昔のヨーロッパに近いんだろうな、色んな事が」
 との呟きは傍にいた子供達には当然理解できなくて。きょとんとしています。
「俺も前は・・・・なんていうか色々思うところはあったけど。今はこの世界に来れてよかったぜ。ま、たまに向うの便利さが懐かしいなと思ったりするけどな」
 子供達を慮ってか、 言い方を変えて。香哉さんは明るく言います。
「同感だ。そう言えるようになったのは、幸せな事なんだろうな、お互い」
「まったくだ。あ、俺子供達ができそうな遊びを考えてきたんだよ。こんなのはどうかな・・・・」
 物を作ったりそういう作業が好きらしく、凧作りも早々に。香哉さんは考えてきてくれた、遊び道具の提案を始めました。
「カルタとかどうだろう? 木片にアプト語刻んで、言葉と対になるほうに分かりやすく木片に絵を描けば、雨の日とか運動が苦手な子も屋内で遊べるだろ」
「へぇ〜・・・・! それは、面白そうだな。・・・・中々文字を覚えられない子がいてな。ぜひその案、使わせてもらう」
 全部を作るのは時間的に難しいという事もあり。少しであれば手伝える、との香哉さんの申し出を幸人はありがたく受けていました。
 

●楽しい時間を、過ごしましょう♪
 午後。良く晴れた空、そして風もそれ程強くはなく、吹いています。彼等は作った凧を手に、メイディアの外れの開けた場所に揃って向かいました。

「二人で組になってやれ。片方は凧を支える。そしてもう一人は糸を引っ張って。一緒に走りだすんだ。そして風にうまく乗るように手を放せ」
「うまくいくかな?」
 年長の少女――リサの髪をくしゃくしゃと撫でて。やってみればコツはすぐつかめる、と幸人は教えていました。
 冒険者達も凧持ちを手伝ってあげます。駆けだす子供達。うまく飛ばせず、くるくる回って落下してしまったりする凧もあれば、風に乗ってふわりと浮きあがる凧もあります。蒼い空を背に、白い様々な絵柄が描かれた凧が空を泳ぎます。皆すごく楽しそうです。
「おーいい感じに飛んでるな!」
 感心したように巴さんがいい。遠くから自分を呼ぶ声に手を振ってこたえます。準備していた事を彼女は実行に移しました。暫し後。空に舞い上がるひときわ大きな凧が――ひとが、乗ってることに、皆度肝を抜かれます。

「じゃーーん! 忍道具大凧でーす!!!」
「「「「「「おおおおおおぉっ」」」」」」」
 子供達が大興奮でそれを見守っています。すごいすごいの大合唱。メイド忍者、ひなた。そう彼女は忍者なのです。しかしお約束でそういうときに上空に強風が。いくら地上で操縦していても(?)不測の事態、強風には対処するのは難しいです。
「ひゃああああ〜〜!!」
「うわっ、ひなたァァアーーー!!!」
 くるくる回っている妹分に声を上げる巴さん。動揺しまくる一同。
 ―――暫しお待ちください☆

「心配させるなよ〜」
 覗き込んでいるのは巴さん。
「ほんと、可愛い顔に怪我がなくて良かったわね」
 ほっぺたを撫で撫でしながら、シスター・アグネスが。
「あうう、すみません〜〜。」
「動けるか? ほらよ」
 引っ張りあげられて、ぴょこんと立つひなたに。
「お料理作るの手伝ってもらえる? というか、ひなたちゃんの料理また食べたいわあ」
「はいっ。もう復活したので大丈夫です♪ お手伝いしますよ〜★」
 そう、笑顔で快諾していました。
 
 *

 凧遊びが、いったん終了し。食事が出来るまでの間。
「穏やかな日々、それこそ無上の宝。御仏の慈愛の賜物ですわ」
 持参した縄で、縄とびを提案したシャクティさんがそう呟きます。まぁ、この世界には仏教がないとは判っているけどついついそう思ってしまうのは、致し方ないこと。彼女は、僧侶なので。
 子供達のジャンプのタイミングはなかなかいい感じになってきていて、続くこと続くこと。
「お前ら結構凄いな」
 縄の持ち手を務めるもう一人――、巴さんが感心したように言っています。
「皆さん、休憩したくはなってきました?」
「「「「「まだまだ!」」」」」
 ここでとまったら勿体ないと、頑張る子供達。シャクティさんはくすくすと笑って『皆さん、元気ですねえ』とのほほんと、言っていました。

 お昼というにはズレこみましたが、皆で体の温まるスープなどをいただいた後。
「こうやってくるくるっと回して、放してくださいね」
 ふわりと空を飛ぶトンボに、子供達は次々手を伸ばしました。個数が限られているから、順番で遊びなさいと、年長者の少女リサがちゃんと口にしています。
 そう、アルトリアさん達が一生懸命作ってくれた竹トンボのような玩具を使い、遊ぶ子もいれば。おしくらまんじゅうや、追いかけっこをして遊ぶ光景も見られて。紫狼さんの相棒の精霊さん達も、彼同様子供達の中で遊んでいます。

「あんた達に手伝ってもらって作った玩具は、これからも大事に使わせてもらうよ。今日は本当にありがとうな」
 幸人の笑顔と感謝の言葉。こういう大変なご時世だからこそ、皆何か思うところがあったようです。子供達の喜ぶ姿を見て、冒険者達もまた穏やかで心地よい時間を過ごしたのでした。