【黎明の騎士】〜新天地を目指す民〜
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月04日〜02月11日
リプレイ公開日:2009年02月13日
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●オープニング
●回想
オアシスの町リトの民、ある一連の事件によりその地を去る事を余儀なくされた彼らは、メイディアへと移住した。救助された人数は、百人は軽く超える。難民となった彼らに、国は最小限の保証をした。仕事の斡旋、住居等を。けれど全ての者が、全く異なる都での生活に適応できる訳もなく、ゴーレム工房や王宮には相談が寄せられた事もあった。慣れない土地での暮らしに心細さを感じていた者も、少なくなかっただろう事は想像に難くない。
そう。砂漠に棲む生物、カオスニアンの族、率いられてきた恐獣部隊に襲撃を受けるという――住人に相次ぐ不幸が襲いかかったのは、少し前の事。苦境に立たたされ孤立した町を救うべく、ゴーレム工房が動き鎧騎士達、そして冒険者らの協力を得て事件は幕を下ろした。
けれど、――それは本当の意味で終わりではなかったのかもしれない。
●転章
メイディアのゴーレム工房にて。来客だということを工房の受付の職員に告げられ、天界人のゴーレムパイロット、富永 芽衣が赴くと。そこには精悍な若者に支えられた、腰が曲がった見知った老人がいた。
「鎧騎士の姉さん。――仕事が忙しいところ、すまんのぉ」
駆け寄った芽衣の手を、包み込むように握る。この老人はこんなに弱弱しかっただろうか、と芽衣はつかの間呆然としたが。孫の青年が頭を下げてきた時に、我に返った。
「どうぞ、お気になさらず。・・・・お久しぶりですね」
思っていない事を口にするのは、苦手な娘である。お元気そうですね、とは言えず口ごもる。
「今日はご挨拶に伺いました。俺達、俺や祖父ちゃんだけじゃなくて。都に移り住んだ殆どのリトの奴らが。近々、都を離れ遠くに行く事になったんです。それで芽衣さんや他の鎧騎士の方達にもお世話になったので。こうしてご挨拶に伺った次第で」
「遠くへ? それは一体どういうことですか?」
眉を顰める芽衣に、青年は教えた。
「俺達のような難民を、積極的に受け入れてくれる場所があるんです。芽衣さんは、イムレウス子爵領をご存じですか」
場所と名前を聞いたことがある程度の知識だったが、頷く。
「あの領地で、難民救済措置の為の法案ができたらしく。砂漠に住めなくなった俺達のような奴らを、ゴーレム工房で受け入れてくれるなり――あの領地で傭兵として、雇ってくれるんだそうです。家族も共に移住して構わないと。半月程前に領地で活躍されているゴーレムニスト様がいらっしゃって。それで、皆で出した結論なんです」
サミアド砂漠にあったオアシスの町は、『リト』だけではない。芽衣だけでなく、あの広大過ぎる砂漠を熟知している者など、いないだろう。そう、砂漠での他の何か所もの町が襲われたという報告があったという事、その詳細を。芽衣はこの時まで、知らなかった。国も、冒険者ギルドも。各地で事件があろうと救援を求める声がなくば、詳細など知りようがない。
「鎧騎士の姉さん。あんたは特に、わしらの事を気にかけてくれた。上の方達が、わしらの仕事のことを考えてくれたのも、あんたのような人らがいたからかもしれん。とても感謝しておるんじゃ」
「ですが、俺達はここではやはり余所者なんです。受け入れてもらった、難民にすぎない。助けてくださったあなた方にこんなこと言うのは、申し訳ないのですが――」
*
その晩。酒場で彼らの集会が行われるとのこと。よろしければ、と老人と孫に誘われ。親しいゴーレムニストのリカードと、鎧騎士のロッドと共に。芽衣もそこへと足を運び――直接話し、彼らの気持ちを知って。彼らの強い決意を、知った。
受け入れ先では腕に覚えのあるものは兵士として雇い入れられ、規模が大きくなりつつある工房で、雑用等が主だろうが――沢山の人数を雇い入れてくれる予定であることも、聞いた。
「いい話といえば、いい話だな。それだけでなく・・・・魔物や恐獣に恨みのあるここにいる彼らが、積極的に恐獣だのカオスニアンだのと戦う姿勢を見せているイムレウス子爵に惹かれるのも、無理もない」
「まぁ、言えてるね〜。あそこの子爵はゴーレム製造にも力を入れてるって言うし。今回来てるゴーレムシップにもいろいろ積まれてるらしいしな」
「そうなんですか?」
リカードは裏情報だけどね、と頷く。
「ああ。それに予め、何度か連絡は来ていたらしいぞ。難民受け入れに関して、打診も兼ねて。そして子爵の命を受け、正式にゴーレムニストが使者として訪れ、彼らにその話を持ちかけた」
「そう、・・・・ですか」
盛りあがる男達を芽衣は、ちらりと見る。
彼女は。その中で、少々思い悩んでいる風のあの老人の様子が、気にかかっているようで。
「・・・・私も、一緒に行けないでしょうか」
酒を飲む動作が止まる。唖然とした二人に、補足する。
「あ、いえ。話を聞く分には、いい話だとは思うんです。あの人達が望むなら、そうしたほうがいいとも。でも、あの方達が安心して身を預ける事が出来る場所かどうか、この目で見てきては駄目でしょうか」
「相変わらず・・・・責任感が強い子だねぇ。ってか、メイメイ、仕事どうすんのさ」
「今まで休み返上で働いてきた分、数日休暇を工房長から頂く事ができるなら」
首を竦めつつ食い下がる芽衣に、二人は呆れる。
「休みなんてもん、最近皆返上してるだろーに」
まぁ、当然な反応だった。だが。
●そして――
その子爵領は、東に広がるティトル侯爵領と、その間に横たわる山脈を隔てて存在する。南北に伸びた土地と、一つの島を含める領地だ。
そして、使節団の者達は。その島と大陸のあるポイントで、来る途中恐獣の襲撃を受けたのだという。
そういった事件は珍しくはないが、大型の翼竜となると話は別だ。彼らが積極的にゴーレムシップを襲う元々の原因は不明だが、来るときは振り切ったものの、また襲撃を受ける可能性は高い。
聞けば、最近あの海域で翼竜が目撃されるという情報が、入ってきてはいたのだという。
「――事情はお話した通り。我々の船にも、当然機体は積んでありますし、鎧騎士達もいる。しかし、今度は、往路とは異なり戦いに不慣れなリトの生き残りの皆さんが乗船する。彼らに万が一にでも怪我を負わせるようなことがあってはならないのです」
原因は不明だ。けれど、振りかかる火の粉は払わなければならない。人に害なす翼竜であれば、放置すれば沿岸の町にまで被害が及ぶかもしれない。
「今回襲撃がないのであれば、それでいい。ですが望まぬ事態になった場合、あの翼竜を放置する訳にも、いきません。あの者達を倒すために、力をお貸しいただけませんか」
淡い金色の長髪を首の後ろでゆるく束ねた、優しげな風貌の立派な身なりの30程の男――子爵お抱えのゴーレムニストは。工房長にそう願った。
そして工房から数名の鎧騎士が同行する事になり。さらに冒険者ギルドで共にイムレウス子爵領へ向かってくれる冒険者達を、募る事になった。
●リプレイ本文
イムレウス子爵領の中型のゴーレムシップ二隻が、その日都の港を出港した。水の精霊力を利用した制流板の働きにより、水は後ろへと押し出され船は前進を続ける。天候は左程良好とは言えないものだったが、多少の風雨などゴーレムシップの航海に影響を与えるものではなかった。
船に乗り込んだ乗客の大半は、住むべき町を失った難民達である。その町で起きた事件に関わった事のある三人が、今回の護送の依頼に名乗りをあげてくれていた。
「住み慣れた場所を捨てる勇気もだけど、新天地が安全という保障もないわ。・・・・? 何か変なこと言ってるかしら」
月下部有里(eb4494)が、きょとんとする。彼等は顔を見合わせ、苦笑した。
「いいや、そういう訳じゃ。もし女医さんが都の事を言っているんだったら・・・・俺らにとってメイディアは住み慣れたっ・・・・ていう感じではなかったな」
「都の人らには当然の事も、俺達には解らなかったし。結局よそ者だって皆感じてたんだよ」
「同じよそ者でも、俺らは故郷を奪った恐獣や、カオスニアンの奴らを倒す為にイムレウス子爵領に行って傭兵や工房の職員として働けた方がいい。・・・・ってな!」
「あなた達は砂漠の民、元々過酷な生活に耐えてきました。・・・・きっと、新しい街でも上手くやっていけるでしょう」
と、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が。
「傭兵が必要とされているような場所、それでも行くのならばその選択も勇気よね。 頑張ってね。・・・・そうね、また何かあれば冒険者ギルドの方に依頼書でも持ってきなさい。 健康診断して欲しいという用件でもいいわよ? 」
女医さんの冗談を含んだ申し出に、それはありがたい、と。どっと沸く。食事をしながら時折話に混ざったり笑ったりしていた青年――前町長の孫に。ベアトリーセは笑顔で尋ねる。
「お爺さんは、相変わらず頑固? それに、姿が見えないようですけど。休んでいるんですか?」
「ええ、船なんて乗ったことないもんだから。弱ってもなお、うちの爺ちゃんは頑固さはなくさないですよ。困ったもんです。でも正直そうしてくれているとほっとはします」
弱る、という表現にベアトリーセは眉を寄せる。
「爺ちゃんは移住には頷いてくれたけど、そんなに乗り気ではないんですよ。俺達の仲間は大勢死んでしまった。また戦場に近づく事で、仲間が傷つくかもしれない。それを心配しているみたいで。でも俺達は」
「・・・・ええ。傭兵を募集しているという事は、貴方がたも覚悟しての移動でしょう、もしかしたらまた私たちに依頼が来るかもしれませんね、まぁ、そのときはそのときで改めてよろしくね」
「はい」
「失礼」
二隻の船の責任者は、ゴーレムニストの男性だった。淡い柔らかそうな金髪を耳の下で緩く束ねた、黒の魔術師風の衣装に身を包んでいる人物。航海の途中船内の休憩室で休む子爵領への移住を決めた町人と、冒険者達の前に彼は現れた。
「先程はご挨拶も出来ず失礼を。私はイムレウス子爵領の工房で働く、フィーダ・ロウという者。この度のご助力感謝いたします」
*
今回メイディアから派遣された鎧騎士は二人――鎧騎士ロッドと、富永芽衣。――そして彼らと何度も顔合わせしているパラの鎧騎士のシファ・ジェンマ(ec4322)が、連れだって歩いている。ついさっきまで、船内で子爵領直属の鎧騎士達に挨拶を済ませ色々と話をしてきたところだ。
その後、先月に行った天界人ゴーレム乗り育成企画の話――その時シファが沢山作ってくれた料理の話とかに花を咲かせ。やがて二人は言葉少なな娘の様子がいよいよ変だと気付いた。
「さっきの、考え込んでんのか」
「あ・・・・はい」
黒髪の美少女は、心ここに有らずだ。言葉少なな彼女を見上げ、シファが。
「あの方は芽衣さんに似た女性を、ご存じのようですね」
「フィーダ殿、忙しそうにしてたからな。後で改めて話を・・・・とかって事だったが。今子爵領で人気の――なんとかって楽器の演奏が評判の若手音楽家・・・・に似てるとかって言ってたか? 」
聴いた事のない楽器だったがな、とロッドは首をすくめ。足を止め。芽衣は頭痛を堪えるような顔つきで、黙る。ロッドは様子のおかしい後輩をどうした? と言いたげに見下ろしている。
「・・・・もしかしたら、そのひと。姉さんかもしれません」
二人は沈黙した。
「・・・・え?」
「何だって?」
「富永 真理。私と5つ違いの姉と私は、見た目がよく似てるんです。姉は・・・・将来を約束された、弦楽器の奏者――ヴァイオリニストで。後でもう一度話を伺ってみようとは思いますが。でも、まさか・・・・」
シファが、ロッドが彼女の言うことを吟味するように黙りこみ。驚いた様子で、顔を見合わせた。
「あの、その可能性があるなら、行ってちゃんと確かめた方が良くありませんか?」
「まったく、シファさんの言う通りだぞ。なぁにぼんやりしてやがるんだ、この嬢ちゃんは!? なんでさっきもっと突っ込んで聞かなかった」
「時期は違うとしても、姉妹そろって『こちら』に来たなんて、そんなバカなことがある訳が・・・・」
「別世界からアトランティスに来るってだけでも、常識をかっ飛ばした話なんだぞ。何が起きても不思議な訳があるもんかい」
二人に強く促されて芽衣は、頷いた。
「でも。この件を確認するのは、・・・・皆さんを無事に子爵領へと送り届けた後でにします」
「今は任務に集中する――か。まったく、お前さんは」
私事ですから。そうぺこり、と芽衣は頭を下げた。
*
船は目的地に向けてかなりの速度で――順調に進んでいった。中型ゴーレムシップは大型に比べれば積載量は劣るが、その分速度は出る。二隻の船は領地南端が見える海域を過ぎ――問題の地点へと近づいてきていた。
地図でその拠点を予め聞いていた冒険者達、鎧騎士、他乗組員は例の翼竜からの――襲撃に備える。
ベアトリーセは念の為に、と。依頼主であり責任者である、フィーダに持参したアイテムがあることを告げる。ゴムボート、空飛ぶ絨毯、救命胴衣、消化器といったアイテムを渡された彼は、丁寧に礼を告げ受け取った。万が一に備えて、怪我人が出る可能性も頭に留め置いている有里は、持参した治療道具のチェックを行う。
「怪我人が出ないに、越した事はないけれど」
三人とも、新天地への期待と不安の入り混じった乗客達に気取られないよう、明るく振る舞ってはいたが、最悪の事態は考えていた。いかなる時もあらゆる事態を想定して動ける事――それは、冒険者として優れた資質と言えるだろう。
*
「岩山が海上に点在していますね・・・・」
優れた視力で遠くの海上の様子を、シファが観察する。船が進むのに支障がある程度ではないが。
「成程、翼竜には絶好のポイント、というわけですか」
長い髪が風に乱されるのを押えながら、ベアトリーセが。緑色の術の光に包まれる有里――風術のブレスセンサーだ。彼女を拠点とし、100メートルにわたる広範囲の呼吸音を拾う。
「・・・・敵さんはあの岩壁に群れているみたいね。弱っている様子も、乱れている様子もない。・・・・呼吸音小さいのが、プテラノドンね、きっと。数的には・・・・30くらい。強く聞こえるのは、ケツァルコァトルスね。こちらは聞いてた通り、二匹みたいよ」
6分は術の効果は持続する。目を瞑り耳を澄ませて、有里が得た情報を正確に、皆に伝える。
「では打ち合わせ通りに」
三人は力強く頷いた。
並列に進むシップの両脇を、ベアトリーセとシファがグライダーを操り上空で護衛を務める。シファは威力と命中力が期待できる鉄鞭を。ベアトリーセは軽量化を計られたグライダー用の特殊なランスを装備済みだ。グライダーに騎乗しながらの戦闘は不慣れな者にはできない事だが、双方それを可能とするだけの技能がある。
一隻に一機ずつ、アルメリアが配置されている。片方はイムレウス子爵領の鎧騎士が、もう片方は馴染みの鎧騎士ロッドが弓を装備し敵襲に備える。
降りかかる火の粉は払いのける、フィーダの発言は三人にとって異論はない。ましてや、この船には顔馴染みである者達が乗っているのだから。
そして眼下の海上に現れた『獲物』目掛けて、崖上から飛び立つ翼竜の姿があった。風に乗り凄まじい速度で滑空してくる。
そして当然ながら一番真っ先に狙われるのは上空の二機――!
「・・・・来た」
シファが呟き前方の竜を見据える。
「返り打ちにしてあげます」
ベアトリーセの瞳が、物騒な輝きを帯びる。
二人が空中戦を始めた直後、別にシファのグライダー目掛けて向かってきた一匹の翼を、甲板から打ち出されたアルメリアの銀の矢が射抜く。よろめきながら向かってくる翼竜を、グライダーを巧みに操って避け、機体を操縦しているロッドに、見てないと解っていても一度シファは頭を下げる。ベアトリーセは効率的に傍にいる風精霊と連携し、ストームを使用させ翼竜の頭の飾り狙いで攻撃を畳みかけて行う。海に負傷し墜落してしまえば、翼竜の性質上それ以後戦線に復帰するのは難しい――放置すれば、死に至るだろう。
次々現れる翼竜の群れ。これでは武装していない船などであれば、窮地を脱するのは難しいだろう事は誰の目にも明らかだ。
「やっと出てきたわね」
甲板に生身で佇む有里は、あらかじめ決めていた通り行動した。風術――今度は幻を送りこむ技だ。増え続ける敵をまともに相手にしていたら戦況が厳しくなるのは、必至。ぎりぎり射程の範囲に入った時、有里は高速詠唱で幻を送る――現れた先頭の一匹のケツァルコァトルスに、プテラノドンが餌鳥に見えるように。ゴーレムシップ上空を轟音を立て、大きな影を落として後方へ。そして相手は上手く後方で旋回し、再び向かってくる。狙う対象をグライダー二機から同族へと切り替えたのを見る所、術の発動は成功した様子だ。同士打ちを始めた者達――。有里は、アイスコフィンやレミエラ使用のライトニングサンダーボルトにより広範囲攻撃で仲間の援護を行った。
ベアトリーセのグライダーは精神力温存の為、甲板へ降り立つ。そして、ひとりの男がマントを翻し歩み寄ってくる。野性的な風貌の、長い黒髪の若者が声をかけてきた。
「別嬪さん、あんたの闘いっぷりはいいねぇ! 見てて結構ぞくぞくしたぜぇ」
「‥‥はい?」
「後は俺に任せて休んでな。おぉおい、それに比べてなんだそのへっぴり腰は。当たるもんもあたんねぇよ! 選手交代だ!!!」
大音量で響くその声の主は――子爵領の鎧騎士だろうか。戦況を見ていたらしく馴れ馴れしくベアトリーセの肩を叩いてアルメリアに向かっていく。彼女はなんだこの男は、と言いたげにその背を見送った。彼より若い鎧騎士が下りてきて恐縮したように頭を下げているのを見ると、それなりの地位は在るようだが。
そしてアルメリアに騎乗した彼は。降りてきた仲間が動かした時より、遥かに良い動きを見せ容赦なく翼竜を海に沈めていった。
その鬼神のごとき戦いぶりを――皆は目の当たりにすることになった。後に彼女達は聞くことになる。彼がイムレウス子爵領で頭角を現している有名な天界出身の、鎧騎士だということを。
彼は新時代を作ろうとしているイムレウス子爵の片腕として、『黎明の騎士』という名で呼ばれているのだという――。
*
三人、そして鎧騎士らの活躍により。船に破損や怪我人が出るといった、手酷い打撃もなく。その後、無事に都の港に到着した。それだけでなく、殆どの翼竜を殲滅することができたという快挙に皆満足げだ。
「皆様、本当にありがとう。助かりました。放置しておけば、別の船が狙われる危険もありましたから」
「俺がいるのに、援軍を頼むたぁ信用がないねー」
「都に向かう時、爆睡して役に立たなかった貴方に言われても。その一度寝ると中々起きられない体質なんとかしてもらえますか」
ぼやいたあと、その軽口の応酬に。きょとんとしている皆に苦笑を向ける。
「・・・・失礼。ご案内いたします。皆様、どうぞこちらへ」
礼と報奨金を渡された、その後。芽衣の希望と、フィーダの快諾により。『彼ら』と共に受け入れ先のゴーレム工房や、提供される住居等の見学を皆で行い。予想以上に良い環境と、美しく整備された街の様子を見せつけられ、一部の者の心にあった不安は氷解していった。
「皆頑張ってね。本当に、また私達の力が必要な時が来たら、手を貸すわ」
「どうか、息災で・・・・」
「次にお会いする時まで、元気で。お爺さんを大事にね」
「――はい」
皆と別れを惜しみながら言葉を交わし。再び船に乗り込んだ三人に皆が手を振る。
「あれ、芽衣ちゃんとロッドさんは? そういえばフィーダさんと一緒にどこかに行くって言ってた?」
有里の問いに、シファが事情を説明する。
フィーダが告げた『真理』という女性は、富永 真理。芽衣の姉と同姓同名の、天界出身のヴァイオリニスト。芽衣によく似た容姿の彼女は、様々な情報を照らし合わせるに彼女の姉と同一人物にほぼ間違いがない事を。
「だとしたら・・・・この広いアトランティスで、別の土地に住んでいた二人が再会できたなら。それは奇跡ね。それに子爵に召し抱えられるかもしれない人なんですって? それって、凄い話なんじゃないの。あら、・・・・どうかしたの? 浮かない顔をして」
「・・・・前に、彼女に似た、音楽家の女性に逢ったことがあるような気がして。名前も似た感じだったような」
ベアトリーセはそう呟く。
「でも違うかな」
なぜなら、あの女性は――。
約束の出港時間ぎりぎりに、二人は戻ってきた。あのゴーレムニストと、傍らに長い黒髪の女性がいる――見送りに現れたらしい。
芽衣を抱きしめ、名残惜しそうに手を握る。
「芽衣、すぐ連絡ちょうだいね。こっちに身を寄せるって話、もう一回ちゃんと考えてよ?」
「姉さんこそ、メイディアに来る事を考えたら」
「だって私はここで音楽家として活動してるんだもの。皆も期待してくれてるし。芽衣が折れてよ」
「私は、自分の居場所を見つけたから。それは無理」
「この、頑固娘。・・・・異世界に来ても、変わらないんだから」
「相変わらずの我儘なあなたに言われたくはないよ」
二人は顔を見合わせ、吹き出した。
「あーあ‥‥せっかく再会できたのにな」
「あなたの妹さんの事は、俺達に任せてください」
「・・・・よろしくお願いします。ロッドさん」
そしてその手が離れる。
*
「本当に奇跡が起きたみたいね」
その様子を遠くから見ていた有里が、感心したように言う。良かったですね、とシファがその邂逅に安堵したように笑い。ひとりベアトリーセだけが、じっとその様子を見ていた。
一つの奇跡。それがこの後どのような物語を紡ぐのか。それを今知る者は――いない。