【湯屋フランチェスカ・OPEN!】
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月22日〜03月26日
リプレイ公開日:2009年03月30日
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●オープニング
湯に浸かるという行為は、いわゆるストレス発散にもってこい――というのは言うまでもなく。温かなお湯は心身ともに癒しの効果抜群である。
大きな町には一つくらいは公共の銭湯が存在するし、王都たるメイディアともなれば、そこで暮らしている住人には周知のことかもしれないが、規模の大小問わず様々な銭湯がある。
5アイアン程で使用できる一般向けの銭湯から、使用量こそ跳ね上がれど、もっと小奇麗な銭湯まで、実に様々だった。
さて、前置きはこのくらいにして本題に入る事にしよう。
メイディアの王宮からそれ程離れていないこの場所に、それなりに高級感溢れる銭湯を作り運営をしてほしい。昼は貸切で、夜は民間に開放する形で。出資金、経費は全て用意するから――。
そんな話が、ある男の元に舞い込んだのは二月ほど前の事だ。
依頼主はやんごとなき地位に就く人物――ある貴族の男性で。彼の具体的な希望を元に大風呂二つと、個室的な作りの部屋に置かれた中程度の大きさの風呂。女性客が好む白系統の明るい石で飾られた内装だとか、何種類かの風呂があることとかは要望通りに設計され、ほぼ完成している。
自分達家族の為にだけというなら屋敷に作るのが自然の流れ、けれど社会的奉仕活動の意味もあり時間を決めて他の者達も使用できるよう考えていると――依頼主はその旨も最初の段階で話をしたらしい。
今回の物語は、その話が持ち込まれたときより二か月を経た今――オープンを間近に控えた現在。銭湯を作るよう頼まれた男性が冒険者ギルドの扉を開く事で動き出す。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
初老の男性に、にこり、と受付嬢は可憐に笑いかける。そして彼は椅子を勧められ、詳細を話し始めた。
彼が高級銭湯を作るよう依頼された経緯も、もう一つメイディアで人気の銭湯を経営する腕を買われたという理由であり、依頼も筋が通ったもので悪い話でも決してなかった。
だから引き受けたのだが、正直彼は今――大いに、困っている事があるのだという。
「問題は、風呂の他に何を用意して、提供すればいいか分からないことなのです」
白い眉を思い切り寄せて。困惑をこめて彼は言う。
「はい?」
聴き間違いではない。不思議そうな受付嬢フローラの反応は自然なものだ。銭湯とは湯に浸かりにいくところ。一体それで、何がいけないのか。
「それだけでは、どうにもこうにも、足りないようなのです」
老人は大真面目だった。今回のような話も珍しいが全くない訳でも、聞いた事がないわけではなかったし。依頼主の貴族も実にまっとうな人物だった。だからこそ引き受けたものの。
「設計自体は私が考えていたものとほぼ同じ。お喜び頂いたのは良いのですが。後は君がいいように手を加えてくれて構わないと。ご依頼くださったあの方は、元々は奥様とお嬢様の為に今回の事を考え付いたようで」
社会的奉仕活動――それもまた真実だろう。でも、奥方達の為に貸切にも出来る銭湯を作りたいと思っている訳で。
つまりは、女性が喜びそうな接待を望んでいるふしがあるのだという。そして密かに準備し、恐らく驚かせたいのだろうというのもなんとなく察せられた。そうでなければ直接聞けばいいわけだし。
しかしそうなると。こういった施設に女性が望む物とはなんぞや? という壁にぶち当たる。さらに、話に耳を傾けているうちに、フローラにも解った。昼は貸切、夜は民間に開放する高級湯殿、だからそれなりに客を呼び込む工夫も必要になってくるのだろう。
「(なるほど、だから悩んでるのねー)」
「では冒険者の方々に銭湯に何があったら嬉しいか――意見を聞かせてもらいましょう。いい知恵を貸してくださる方がきっといますよ」
「それはありがたい」
アドバイス云々手伝ってくれた方には礼金は元より、初日の夜存分に【フランチェスカ】を満喫できるよう取り計らうと約束してくれた。
提案されたサービスが依頼人の彼と従業員で出来ない類のものである場合、初日・二日目の営業を手伝ってくれた人には特別報酬も考えているから頑張ってほしい、とのことだ。
これは中々美味しい依頼かもしれない―――。
「(いいなー。仕事がなければ、私が行くんだけどなぁ)」
などと思いつつ。そうフローラは確かに承りました、と。とびきりの営業スマイルを浮かべるのだった。
●リプレイ本文
●そんなこんなで、始まりです☆
ギルドの受付嬢より地図をもらい、それを頼りにオープンを間近に控えた湯屋フランチェスカへ訪れた三名は。中規模程の石造りのその建物に、おお、と目を見張りました。植物のアーチを潜り整えられた小さな庭園内の舗装された道を行き、建物を覗き込み声をかけます。出てきた人の良さそうな初老の男性が今回の依頼人でした。
「良く来て下さいました、ギルドから話は伺ってます」
他の従業員達も続々と。なんとも和やかな歓迎ムードが漂います。
「鎧騎士のルエラと申します。よろしくお願いいたします」
どうぞどうぞと中へ誘われ。ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)さんが礼儀正しく告げ、小柄な少女然とした人物――美芳野ひなた(ea1856)さんがペコリと頭を下げ同様に挨拶をしました。やはり女性として興味があるのでしょう。きょろきょろと観察する二人の様子は実に楽しげです。そして彼女達の後ろには、長身のどことなく女性的な雰囲気の漂う男性――長曽我部宗近(ec5186)さんが。きさくな性格なのかあれこれ喋る彼の口調に、軽く面食らった様子の依頼人とフランチェスカの皆さんでしたがすぐに元の笑顔に戻りました。
彼らは決め手に欠ける湯屋フランチェスカ、そのオープンを本気で心配していた様子なので、手伝いに来てくれた彼らへの感謝と期待がとても強いということだったのでしょう。
●発案☆
「あらァん、男湯の見直しはしないのォ〜‥‥っち! 」
フランチェスカの従業員休憩部屋で、顔を突き合わせつつ今後の相談タイムに突入です。
美のエキスパートの宗近さんの発言は、暗にそっちも見直ししましょうよ、という事だったのしれませんが。依頼人さん達の苦笑ぶり。女湯メインなので今回は男湯は、いわばおまけ的な扱い――ということをやんわり言われてしまいました。
「ふぅむ、ま、いいわ。地球でも高級リゾートスパはあるの。さすがに泡の出るジェットバスとかは再現不可能だけどね」
聞きなれない単語が彼の口からポンポン飛び出して。きょとんとした依頼人や仲間達に、ジェットバスの説明などをしたりしています。感心しきりの皆さん。
「天界ってそういうものもあるんですなぁ〜」
「こちらより様々な技術が優れているとは、聞いた事がありますけどね」
「でも、努力と工夫次第で凄く素敵な銭湯になると、ひなたは思いますよ! 例えば」
びしっと指を立てて、ひなたさんは頭の中でまとめてきた考えを口にし始めました。
残念ながらフランチェスカは、特殊な効能ありな温泉を引いてきている訳ではないのです。あくまで銭湯、ということでお湯を売り物にはできない――それなら?
「考えたんですけど、果物を麻袋に入れてお湯に浸したり、香水をお湯に垂らして香りをつけて、花びらを湯船に浮かべるとか」
「それは、いいですね」
その光景を想像したのでしょうか、ルエラさんが賛同します。
「うん、素敵だと思うわ。いい香りにお花に、女の子はそういうの好きでしょ」
「では使用できそうな香水は探してみましょう。これからの季節は様々な花が咲くし、善処してみます」
皆さんの賛同を得られて、ひなたさんは多少照れつつ、嬉しそうです。
「えへへ、ですよね。それに、ひなたの故郷のジャパンにも柚子湯や菖蒲湯があります。定期的に変わり湯を出して飽きさせないようにするんです」
「でも毎日毎日、全く異なるものを用意するのは難しいですね」
「いえ、何種類か決めておいて、それをローテーションしていけばいいんじゃないかと思いますよ?」
女性は我儘、最初いいと思ってもずっと同じ事が続いてしまうと、最初の感動も色あせてしまうのです。ひなたさんの言葉は実に世間一般の女性の心の機微、ツボをついていたと言えるでしょう。
「あと、湯上りは喉が乾きますよね」
「あぁ、それなら考えていましたぞ。湯あがりにはやはり牛乳でしょう。こうぐぐぐーーっと!」
にこやかにそう口にする依頼人に、従業員達が口を尖がらせて。
「店長それは絶対普通の銭湯のノリですって! ここに来るお客さん達は高貴なご婦人がたでしょ、はいって牛乳差しだされても、喜んで飲まないと思いますよ」
「何を言う、美容にもいいと嫁が言っていたぞ」
何かこだわりがあるのでしょうか。
「体にもいいと想うんですがなぁ」
それはまぁ、そうだとは思いますが。
「あ、じゃあお洒落なグラスを使えばいいんじゃな〜い? ミルクにはハチミツを入れて」
宗近さんの提案に、唸る皆さん。グラスはこのアトランティスでは大変高価なものなのです。
「それならば提供する時に、小綺麗な陶器を利用したらどうですか?」
可愛い絵柄をあしらった陶器などであれば、手に入るでしょうし、とルエラさんが。
「ほかに何種類か欲しいということであれば、果物の絞り汁にお酢とハチミツを混ぜた健康ドリンクもいいですね♪」
よろしければ参考になさってくださいと、ひなたさんはほほ笑みました。
●美を安らぎと癒し追求する、女性の為に☆
さて、お次はルエラさんと宗近さんの出番です。
「もし、可能でしたら」
と前置きした上でルエラさんが提案したのは、温泉を堪能した後に専用の個室でマッサージを受け日頃の疲れを癒す――というサービス。
「あぁ、成程。リラクゼーションルームね☆」
サービス案は採用されることになったものの。ただ石造りの湯屋は――内装は全て出来上がっています。その為新たに個室を作る事はできない――とのこと。しかしながら妥協案として多目的ルームという事で用意されていた広い部屋であれば使えると言われました。
「ちゃんとした衝立を置いてみたらどうかしら」
寛ぎの時間、他者からその姿を見られるのを、嫌がる人もいるかもしれないし。
「あ、衝立で思い出したわ☆」
従業員らとよりよいサービスの為、ある提案を始めた宗近さん。向こうでドリンクや料理について打ち合わせを始めた、ひなたさんに。ひとまずそちらの打ち合わせは任せ。ルエラさんはノコギリを手に、御客さんが寛げるよう、台の制作に取り掛かる事を依頼人達に告げます。
「では、始めますね」
穏やかにそう口にした後。彼女の目がキラリと光ります。本気モードに突入したのでしょう。
ガリガリゴリゴリガリガリ!!!!! 綺麗なお姉さんが工具で勇ましく作業を行っていく様は従業員から感嘆の声が上がるのも当然でした。作る木造の寝台は4つ。屑が飛び散っても大丈夫なよう、敷物を引いて、持参した木材を使い、足りない分は買い足して貰って。テキパキと作業を続け。
「鎧騎士さんて大工もできるのか?」
「すっげぇなーー」
「あ、ルエラさん。ここに飲み物をおいておきますんで」
「ありがとうございます」
少し滲んだ汗を拭い、爽やかな笑う彼女に、ときめく従業員。
どうやら、意外な場所で彼女はファンを獲得したようでした。
従業員らもやすりをかけたり、日曜大工的な腕を持つ者たちが積極的にルエラさんの手伝いを行っていったのでした。
*
「内装は中々いいわね〜。石も結構いいの使ってるみたいだし。ただね、脱衣所周りも気を遣わなきゃちょめ☆よ」
「と言いますと?」
素朴な疑問――その、従業員の問いに。
「あなたも女性なら判るかもしれないけど。女って同性にプロポーション見られるのってプレッシャーに思ったりするでしょ。見ず知らずの他人に肌を晒すの、コンプレックス持ちの女の子だっているかもしれないし。個室があれば良かったんだけど。う〜ん」
女より女心を読む機微に長けた男――とは彼の事かもしれません。――そう宗近さんが告げ確かに、と頷き合う従業員達です。だからね、と首を傾げ。
「そうね、衝立を用意しましょう。ルエラちゃんが言ってたマッサージルームに置くものと似たような感じのでいいわ」
あとは櫛、タオルはたっぷり用意してね――。
清潔感第一。回収した櫛はしっかりと消毒を行って、タオルは綺麗に洗ってね!
それから、掃除は開業前と営業終了後。湯船も脱衣所も念入りに掃除しなさい!
女って、髪の毛一本湯船に浮いてるだけでも幻滅しちゃうのよ。
汚物入れも毎日チェックなさい。女の身だしなみはね、何かとゴミが出るの。
次々出る、チェックポイントの数々――有無を言わさず飛び出す命令――じゃなく指示に皆まめまめしくメモを取ったり。ごみ箱とか櫛とか、もっと数を増やす為そういった足りないものの買い出しに走ったり。衝立を見るのに宗近さんが同行してくれることになり。フランチェスカでは引き続きルエラさんが寝台作りに精を出し、ひなたさんは飲み物だけではなく軽く食事もできるようにメニューの提案などをしていました。
「食事できる場所があったのは何よりです。えっとですね、メニューなのですけど」
既に入浴後に軽食を提供できるよう――サラダとかさっぱりしたデザートの類とか、そういった案は出されていたようです。ふむふむと頷きひなたさんは類まれなる料理の才能と経験を生かして、的確なアドバイスを行っていきました。
「サラダを何種類か作るのはいいと思います。海藻のサラダも、入ってますね。えっと、では私が考えてきたメニューも加えて頂けますか? 女の方が対象なので、油の量や味の濃さに注意して量より見た目の美しさで勝負! なヘルシー料理を。白身魚を使った品とかもうどうでしょう」
聞いているだけでお腹がすいてきそうな感じです。料理人さんはちゃんと雇っている様子ですので、そこら辺は心配無用そうでもあり。
マッサージ用の台はルエラさんの頑張りで初日に間に合い、必要な衝立や小道具、備品なども購入を終えあれこれ三人も意見を出してくれた上で、設置も完了。花を飾ったり植物を置いたり。フランチェスカはその華やかな名前通りの、女性が好きそうな明るくこ綺麗な女性向けの高級湯屋へと生まれ変わりました。
初日は三名とも、手伝ってくださる事になりました。
●湯屋フランチェスカ・オープン☆
湯屋の初めての客は、ここの作成依頼を行ったある貴族の一家。夫は仕事がある為護衛付きで訪れたのは中年であって尚艶を含んだ花の如き貴婦人と、人形のように愛らしい少女でした。あと貴婦人の友人達。計5人のお客様達でした。
「うわぁー綺麗!」
花びらの浮かぶ良い香りのするお風呂に、美味しい料理に飲み物に、と。婦人達は寛ぎながらもこの湯殿を口ぐちに褒めました。給仕をしたりマッサージの手伝いをしたり。彼女達が大いに満足した様子で帰って行った後、午後には噂を聞きつけてきたらしい別の貴族の方達が訪れ――フランチェスカは初日にしては中々の繁盛だったといえたでしょう。アドバイスしたサービスは続けていくことを依頼人は約束し、少ない人数で頑張ってくれた三人には特別ボーナスが上乗せされ報奨金が支払われました。
三人の活躍により、フランチェスカは幸先の良いスタートを切ったといえたでしょう。
――メイディアでちょっとお洒落な銭湯を求める女性は、ぜひ湯屋フランチェスカへと訪れてみてくださいね。
とっておきのサービスが貴女を待っているに、違いありませんから!