【黙示録】丘の魔女へ贈れ、死の花束を――

■イベントシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:29人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月22日〜03月22日

リプレイ公開日:2009年03月30日

●オープニング

 魔に付け入れられるのは弱きもの―――
 魔と戦うべく立ち上がるのは豪のもの―――

 アトランティスに存在する大国メイの王都より西方に位置する子爵領、眼下に聖都オレリアナを一望できる霊峰の主――霊鳥ホルスは全長50メートルはある体躯に、黄金の羽を持つ巨大な鷹の姿をとる陽属性の高位のエレメントだ。その場にいながら様々な方法で世の流れを把握する。

 ひとは愚かで弱くてそのこころは、風のように目まぐるしく変わりゆく。とは霊鳥の弁だ。
 魔に取り込まれる事も。精霊との絆を断つことになる行いを実行に移し、恐ろしい未来に身を投じようとも彼らの弱さが招いた事であるなら、それもやむなし。
 そう考え聖域を侵した人間に憤る若い精霊達をとめることなく静観することをその身に貸した霊峰の主は――先だって冒険者達に正された。

『我と同胞らと、そなた達が、距離を置いている場合ではない――。ひとは弱いが、その心に望みがあるという―――それを信じろとそなた達は我に、願った』
 霊鳥は【陽の祭壇】と呼ばれるその建造物の傍で翼をはばたかせ、巨大な体に似合わず優雅な動きで舞い降り、語りかける。
 ひとの娘よ―――。
 言葉が向けられるのは『聖都オレリアナ動乱』と呼ばれる大事件の後、滞在し先の動乱の後始末に父同様残っていた、ひとりの占い師の娘。世界の相を見、このイムレウス子爵領で起きる怪異を止める為に動く、ロゼ・ブラッファルドという女性だ。

『地獄に、ゲヘナの丘という場所が存在することを知っているか』
「いえ―――」
 精霊を振り仰ぎ、ロゼは正直に答える。地獄については聞き及んでいるが直接足を踏み入れた事はない。見渡す限りの荒野、要となる場所を護る魔物の姿もあり、到底血の臭いと怨嗟が渦巻く恐ろしい地だと聞くが。
『まぁよい。魂を生贄とし、無限の力を引き出せる場所――といえばいいだろうか。そこを狙う魔物――そして魔女がいる。名をエキドナという大蛇の半身をもつ女だ。思いのほか地獄内部への人の進軍が打撃だったのであろうな。勢力を盛り返そうとこころみておるらしい』
 なぜか愉快そうに告げる霊鳥に、ロゼの相棒の――共にその場にいた若者――クインが顔をしかめた。
「それで、俺達をジニールを使いに立ててまで呼び出した訳は?」
『これは奇妙なことを聞く。そなた達が申したのだろう―――? 魔と戦う為に力を貸せと・・・・』
 意外な言葉に、微かに目を丸くする。
「地獄の魔物との戦いにも、手を貸すって言うのか。あんたが」
『驚くことであろうか。それともそなた達は、この子爵領に渦巻く怪異だけを何とかすれば、――この地に住む者達だけ助けられればよいと考えていたか?』
 奴等は次から次に湧いてくるのだよ――そう、物憂げなのか揶揄しているのか、判然としない調子で霊鳥は語る。
「いいえ。――ホルス。ありがとうございます。でも、具体的に何をすれば宜しいのでしょうか」
 皆が地獄へ行ける訳ではない事は――承知している。

『祈りと歌と踊りと―――、オレリアナよりこの祭壇までの山道、試練の道から守護者達を下がらせよう。皆でこの祭壇まで来るがよい。この霊峰より紡がれる祈りは、魔のエキドナにとって身を爛らせる猛毒となろう。直接戦う事を望む物がいるのなら、地獄への道を我々の力で開こう。そこよりゲヘナの丘へ進み魔女に一太刀浴びせてきてもよかろう』
「(この方は――)」
 ありがとうございます、とロゼは賢者に深く頭を下げた。それ以上は言葉を紡げない。感謝の言葉を山程積み上げても、伝えきれないと思ったのだ。 
『我は力を貸そうと想うた。霊峰の精霊らと話し合った。先の動乱の最中、猛る精霊らに臆することなく真っ向から試練の道を通り我のもとまで辿り着いたそなたたちに、――我らは敬意を表する』

 魔と戦うべく立ち上がるのは豪のもの―――
 魔に付け入れられるのは弱きもの―――
 そう言っていた精霊が、いま、信じようとしてくれている。

「あんた達が協力してくれて助かるよ」
 クインがいつになく神妙に礼を告げると。魔に打撃を与える役目は、そなた達に担わせるのだ。結果が出るまで礼など言わぬがよかろう。と精霊は続ける。
 どれ程痛手を与えられるかどのような結末が待つか、現時点では予測がつかない。
 おろかで愛しい種族の子らよ、この世を救いたくば足掻くがいい――。

 そう、彼は締め括った。

●今回の参加者

ケンイチ・ヤマモト(ea0760)/ 風 烈(ea1587)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ エレアノール・プランタジネット(ea2361)/ ルイス・マリスカル(ea3063)/ キース・レッド(ea3475)/ 双海 一刃(ea3947)/ グラン・バク(ea5229)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ レインフォルス・フォルナード(ea7641)/ エヴァリィ・スゥ(ea8851)/ エルマ・リジア(ea9311)/ エイジス・レーヴァティン(ea9907)/ マスク・ド・フンドーシ(eb1259)/ 白鳥 麗華(eb1592)/ セラフィマ・レオーノフ(eb2554)/ 忌野 貞子(eb3114)/ 伊藤 登志樹(eb4077)/ ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)/ 月下部 有里(eb4494)/ シルビア・オルテーンシア(eb8174)/ フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)/ ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)/ 晃 塁郁(ec4371)/ 齋部 玲瓏(ec4507)/ クロード・ラインラント(ec4629)/ 水無月 茜(ec4666)/ 村雨 紫狼(ec5159

●リプレイ本文

●自分の為すべき事を
『皆さん、どうか気をつけて』
『無茶すんなよ? ホルスが例の魔女は相当性質が悪いって言ってやがった。反撃に気をつけろって。身の危険を感じたら撤退しろ。あんた達は俺より強いだろうし・・・・俺が言うまでも、ねえかもしれねーけど』
 そう紡ぐのは霊鳥ホルスと縁の深い占術師ロゼ・ブラッファルドと相棒のクインだ。彼等は祈り組として残る。
『無事のご帰還をお祈りしています』
 そして他の仲間達から沢山の同様の言葉や激励が、地獄へ向かう彼らにかけられた。
 皆の見送りの中。イムレウス子爵領の霊峰に住む霊鳥ホルスと、精霊達の力により。霊峰より地獄への道は開かれ。荒野へと、冒険者達は足を踏み出す――。
 目指す場所は――大蛇の下半身を持つ女のいる丘。負の女王――エキドナの力を削ぐ為に。


●地獄への進軍
 グリフォンに騎乗し弓を構えるシルビア・オルテーンシア(eb8174)。上空よりその優れた視力で誰よりも早く敵に、気付いた彼女。射撃の腕を武器に、シルビアの手から放たれた矢は、数匹のデビル内一匹の体を正確に貫く!
 勢いよく落ちるインプ。それが合図になった。味方にとっても敵にとっても。
 空の色を隠す程の夥しさで、インプらが飛び交う。そして地上の冒険者達へは――毛むくじゃらの巨大な鼠、そして背後から青白い顔色の薄汚れた風体の者達、縊鬼が大軍で押し寄せてくる。
「術を放ちます!」
 エルマ・リジア(ea9311)が高速詠唱で、水術アイスブリザードを放つ。上空へと放たれた激しい吹雪に翻弄された大勢のインプ――ある物は翼を凍らせ失速し、致命傷にはならずとも確かなダメージを加えたその術者へと、憎悪のこもった叫びを上げた。起動済みのレミエラにより効果範囲を扇状に拡大させ、ライトニングサンダーボルトを放ち月下部有里(eb4494)もまた、援護を行う。二人の術は上空のデビルの勢力を削いだ。
 ゲヘナの丘へ辿り着くには敵を排除して進むしかない。見たところ下級のデビルが圧倒的過半数を占めるが、雑魚でも束になれば紛れもない戦力となる。後方支援を務めるエルマと有里。有里は雨雲を呼ぶレミエラも既に起動している。落雷を降らす為に。前衛を務めるもの、後方支援を務めるもの。既に打ち合わせ済みだ。
 戦いの火ぶたは切って落とされた!
 
 対デビル戦において有効とされる武具は、殆どが皆所持している。そこに事前にクリシュナ・パラハ(ea1850)が、『バーニングソード』と『フレイムエリベイション』の付与を行っている。またセラフィマ・レオーノフ(eb2554)が『オーラパワー』の術を施していた。
 武器強化は、一撃一撃の攻撃力を上げデビルに打撃を与えるのに効果を発揮すること、フレイムエリベイションは地獄という特殊な空間で戦う彼らの心を支える、確かな力となる事は確実だった。

「ギャアアアア!!」
 耳障りな絶叫。騎馬特攻の前に、クリシュナに魔法付与を行われたファング・ダイモス(ea7482)の魔力を帯びた武器が縊鬼の体を両断する。スマッシュEXとバーストアタックEXの合わせ技だ。騎乗している彼は目立つ。魔物の集中攻撃を受けるが、それは予測されたこと。彼は少しも慌てることなく、下級のデビルを地獄の荒野に散らしていった。
 上空より片翼を裂かれ叩き落とされたインプが闇の術を仲間へ解き放とうとした時には、気付いたフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が駆けより、その剣で絶命させた。咆哮を上げながら滑空してくる新手は、気付いたエルマが即座に術の詠唱を試み、アイスコフィンで氷の棺に閉じ込めた。
 魔物の中には愛らしい少女の姿をした妖精達も含まれている。リリスだ。上空より放たれる火術と黒炎。
 上空のインプは二人の鎧騎士達、高みより攻撃を仕掛けてくるデビルへの攻撃手段を持つ者、ルイス・マリスカル(ea3063)がソニックブームを使い倒していく。カウンターを使用し下級デビルを倒していた風烈(ea1587)もまた、援護を行う為武器を持ち変え、上空の敵をソニックブームを使い切り裂いた。
 敵もさるもの、数匹で集中攻撃を試みるべく行動を開始、伊藤登志樹(eb4077)もファイアーボムで応戦したが、高速詠唱を使用できない為放つまでタイムラグが生じダメージを被った。魔物達の攻撃の楯になった双海一刃(ea3947)が、二刀で敵を迎撃し、背後の登志樹にポーションを渡し窮地から救った。前方より押し寄せてくる鼠を、レインフォルス・フォルナード(ea7641)がCOを駆使して撃退、多少の手傷にも怯まず仲間の盾となり敵を減らしていく。
 しかし全てを食い止められる訳ではない。他から同様に突撃してくる素早い鼠にはベアトリーセ・メーベルト(ec1201)がフェイントアタックを使用し相手を怯ませ隙をつき、次々仕留めている。セラフィマもまたすぐ傍で身の丈程もあるスピアを振り回しデビルを牽制し、爪や術による攻撃を受けながらも果敢に応戦した。回避等の能力が心もとなく敵に傷つけられそうなものは、より経験を積んでいる者達がそれとなく庇い、窮地を救った。自分突っ走らず、連携や周りの者達に気を配る心構えを持っている者が多かった為、現段階で戦闘不能に陥る者は現れてはいなかった。
 白兵戦を繰り広げる彼等は、下級デビル相手に戦況を有利に進めた。だが数が多い。上空より降り注ぐ黒炎。一度に受けるダメージはたかが知れていても度重なれば――これが延々と続けば、どうなるか。ある者はアイテムで自らの傷を癒し、あるものは治癒する間に少しでも多くの敵を減らそうと戦い続ける。
 地上への攻撃を繰り出すインプらを上空のシルビアが、そして同じく上空で自身のペガサスによりレジストデビルを付与されたルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が、チャージングとポイントアタックの合成技で魔物達に突進し、盾によるガード、カウンターアタック、スマッシュの合成技で順次魔物達を退治、撃墜させていく。
 魔力切れを起こした者には、クリシュナがソルフの実を渡し、ルイスもまた魔力の杖を使用し回復させる。急ぎの体力回復には、ルイスがクルセイダーソードのリカバーを使用し。仲間の治療を行うルイス達を足止めする為近づいたリリス達は、焦りと怒気をその顔に滲ませ攻撃を仕掛けるが、それに気づいた援護する余裕のある者が応戦、またルイスやクリシュナ自らその剣と炎の鞭で牽制、回復を行っていった。
 どれ程のデビルを葬った時だろう。この嘆きの渦巻く地に。その声が響いたのは。
『妾の丘に、人間どもが何用じゃ? 貴様らが足を踏み入れて良い場所ではないぞえ』
 そして美しき魔女がその丘で冒険者達を待っていた――。


●陽の祭壇 紡がれる祈り
 時は少し遡る――
 地獄へ向かう者達と分かれ。霊峰に残り、祈りを紡ぐ者達がいた。
 聖域で紡がれる祈り、一人ではなく沢山の者達によってなされる儀式は確かな力で地獄へ行った者達を援護し、負の生物である魔女へと打撃を与えるだろう――そう霊鳥ホルスは告げた。
 地獄で武器を振るわなくとも、出来る事はある。
 彼等は自分達の為すべきことをなす為に、行動する事を誓ったのだ。

 *

 階段を上りゆく先にある陽の祭壇。
 皆が一度にそこで祈りを捧げるのは、歌、詩、言葉、踊り、演奏――其々方法が異なる為難しい、という訳で。順番に行われる事になった。

 枝と布を使用し御幣を作り、傍には精霊も控え――共に祈る。
 月道で繋がる世界、地上に生きる全てのものの安寧の為に。
 そう決意を胸に一番手としてそこにいるには、齋部玲瓏(ec4507)だ。


 かしこみ かしこみ 白さく この地を統べる
 数多の精霊よ 草ぐさのものの陰に隠れ給いし御霊よ
 これに集える民ともがらの許に 集い給へ 祈り給へ
 いつき御力もちて うしはく魔を 祓へ給へ 清め給へ 


 祈りが魔物の力を削ぎ、そして地獄へ向かった彼らが無事に戻れるように――。精霊と彼女の体の周囲に清浄な強い光が生まれる。そしてそれがやがて空高く、何処かに吸い込まれるように消えていった。

 *

「次は私かしら」
 エレアノール・プランタジネット(ea2361)がそう言い、進み出る。
 良く通る声で。滔々と紡がれるのは、祈りの詩。

 精霊よ 人よ皆 喜べ それは来ませり
 心を開きて 迎え奉れ 楽を分かちて 喜びを分かちて
 御恵みの光 世に遍し 万物の精霊 いさ歌へよ  いさ歌へよ
 海山の島々 落ちたる星々よ 還るところ来ませり 
 心を開きて 昇り給え 原罪を解かちて 鎖を断ちて
 御名の光 天に還し 主の下へ御使い いさ召されよ

 その詩には二つの意味が含まれる。彼女の願い通り、魔物がしかるべき場所へと戻るように。この世が平和に、なるように。生まれた清らかな光は玲瓏の時同様――何処かへと消えていった。

 *

 メイド服に身を包んだ仲良し三人娘、その名も『純情可憐メイドガールズ!』 
 そう、それは忌野貞子(eb3114)、水無月茜(ec4666)、美芳野ひなた(ea1856)で構成されていた。
 彼女達が特別な衣装でもって、神聖な陽の祭壇にいると。天界風に言うとコンサートホールのステージみたいに見えてくるこの不思議。
 伴奏を務めるのは――伴奏、歌唱共にかなりの腕前のバードの二人ケンイチ・ヤマモト(ea0760)と、エヴァリィ・スゥ(ea8851)だ。どんな曲か茜より聞いて短時間とはいえ練習も行った。その為二人の優秀なバードは実に見事にその曲を再現できた。

 ♪♪♪♪♪

 星空が揺れる 光瞬いて
 愛するってこと 想い貫いて
 希望守りたくて 私 今強く願うの 
 世界を包み込む悲しみに負けない 
 この願いに光込めて
 みんなとなら怖くない 
 どんな暗闇も飛び越えていける ___ 
 銀河の彼方まで叫びたい 繋ぐ絆∞(無限大)
 
 久しぶりの本気、右目を開放してアグレッシブモードになった貞子が手をぶんぶん振りまわしながら、
「みなさ〜ん、頑張っていくわよ〜。も〜ノリ悪いぞ〜っ、メッ☆」
 素顔を晒し美少女ぶりを全開にしながら促す姿は文句なしに可愛かった。
 ただしその方の通常バージョンを知る皆はおおおおっ・・・・と唸る。いや唸ってる場合ではない。教えられた歌詞をうろ覚えになりながら歌ったり楽器・アドリブでセッションを行ったり。某所から召喚されたお祭り騒ぎ大好きな濃い三つ子のシスターズ達(注・男)達はノリノリで踊り狂っていた。そして彼女らと共に連れてこられた桜庭幸人はやや苦笑いを浮かべながらタンバリンを振っていた。

「うわぁ〜。なんか凄いねー」
 リュートを賑やかにかき鳴らしながらそう評するのは、エイジス。とはいえ賑やかなのは好もしいのだろう。彼も大いに歌ったり。どらパピも宙返りをしたり、適当に歌ったり。
 広い祭壇で高らかに歌い紡がれる『祈り』は、霊峰の精霊や霊鳥達はいうなれば不思議そうな眼で、彼女達を見ていた――。

「貞子さん! 凄い〜!」
 例の子犬ちゃんなラス少年も拍手喝采、またも天界風に言うならアイドルを応援するノリで盛りあがっている。少年の肩をぽむ、と叩いたのは妙に達観した様子の渋い中年エドワンド・ブラッファルド。ロゼの義父だ。先程VDの御返しを先程した弟子に何か思うところがあったのだろう。おじさんには少々ついていけん、といいつつリュートをかき鳴らしている。
 貞子にウィンクを飛ばされて、応えるように手を振っている年下の魔法使いの弟子をやってる少年を案じてクインが一言。
「ラスの奴ぁ・・・・女難の相が出てるんじゃねぇの」
 ロゼは少し苦笑を滲ませそれには答えず、歌を続けた。

  KIRARI☆夢のツバサ 続くセカイ 
  絶対に終わらない
  だから唄うの 私を諦めたくないから
  悲劇が待ち構えていても構わない
  選んだ道 後悔しない
  ココロは輝く小宇宙 ちっぽけな願いでも
  想いは強く 瞬くように
  だから唄うの 届け この想い・・・・

 パチパチと沸き起こる大きな拍手と、歓声と。精霊達を含む彼女達より――その祭壇から生まれた淡く美しい輝きは。どこかへ消えていく。
 恐らく地獄のエキドナの元へと。
 その光は夕闇が忍び寄るその場で、儀式は続く。

「んでは! 我輩も平和を祈って踊り献上である!! 君も一緒に祈ってくれたまえ!」
 テンションの高い仮面をつけた謎のマスクマン――マスクド・フンドーシに促され。品のある気の強そうな顔立ちの少女は――こくりと頷いた。傍で慌て、
「お嬢様――あの、やっぱり」
 帰りませんか、と蚊のなくような声で告げたのは――従者。
 突然屋敷へと訪れたのは見覚えのある人物。彼女達の暮らす、運河の町で起きた怪事件を解決させる為力を貸してくれた奇抜すぎる格好の男――。
 彼の説明と願いを受け。少女はそれを受け入れた。最初は、まぁ、何というか儀式か何か知らないがこの子爵領へ来る事を止めた屋敷の者達ではあったが。少女が望んだのだ。この霊峰へ来ることを。
「ごちゃごちゃ言わないで、あなたたちも祈って」
 膝をついて手を組み、目を瞑る。
「で、ですが、お嬢様」
「あの事件の時。あの人が一生懸命やってくれたのを知ってるでしょ。解決できなかった事を悔いているのもきっと本当。私達に悪かったって。あの人が気に病む事じゃないのに」
「お嬢様・・・・」
「祈りましょう。魔物達が、いなくなるように」
 気丈に告げる少女に、従者もつられたように祈り始める。マスクマンの相方、奏者を務めるバードのスゥ。演奏中派手に踊りまくり最後には、薔薇を咥えて笑顔で彼は大空にキメたのだった。

 *

「儀式には間に合ったようだね。フィオリ君。さ、どうぞ」
「あ、ありがとう」
 キース・レッド(ea3475)の手を借りて。グリフォンより降りたのは、優しげな風貌の――村娘だ。異端を嫌う閉鎖的な集落、その村人の手で赤子の時に近隣の森へと捨てられた、ハーフエルフの少年に関する一件で冒険者らと関わった――少年を疎む村人の中で母親を除いてはただ一人真剣に彼自身と未来を憂えている人物。
「スフィンクスも。助かったよ」
 同行してくれた陽精へ礼を告げる男に。鷲の翼と獅子の半身を持つ半人半獣の陽精は軽く肩をすくめて、背に乗せていた少年を振り落とした。放り出されて唸る野性児。
『何をする』
 陽精としては鬣を引っ張られたり空中で暴れて落ちかけたところを助けたり、手を焼かされたのだ。憮然とするのも当然の事といえた。
「お疲れ様です。あなたがフィオリちゃんと例の男の子ね。私はロゼよ。よろしくね」
 ペコん、と頭を下げたフィオリから離れた場所で、野生児はロゼを睨む。気にした様子もなく穏やかに微笑んでいる。
 その様子は予想済みだったが、警戒を炸裂させている彼をキースが宥める。
「誰も取って喰いはしない。大丈夫だよ」
「キースさんの言う通りよ。おいで。あなたも。ここにはあなたを傷つける者はいないから」
「グルルルル・・・・」
「ね、一緒に行こう?」
 不承不承動き出した少年。
 キースが見せたかったのは、人と人の絆。彼が祈る内容はこの世界の平和。地獄の騒乱も重要な懸案だが、彼が望むのは。
「偏見や無知からの差別が無くなる事はない。哀しいがね・・・・。だが、人の心の光・・・・絆、愛はそんなものだって乗り越えられるはずだ。フィオリ君、僕も野生児君と同じ境遇の女性を愛している。けれど、今まで彼女との幸せしか望んでこなかった。その慢心を、君が正してくれたんだ」
 予想外の言葉に、少女は面食らう。
「私、自分がしたいようにしていただけだよ」
「それが僕の目にどれだけ眩しく映ったか。フィオリ君、ありがとう。さあ祈ろう、自分の幸せを願うように。他者の幸せを願おう」
「キースさん・・・・」
「うん。そしていつか君が少年と共に暮せる世界を、僕も祈ろう」
 少女はありがとう、と告げ。一方少年は、神妙な顔つきで仕方なしに、といった風を装いつつも。少し遅れてロゼと共にその祭壇へと登っていった。少年の事を気にかけ何度も振り返っていたフィオリは。ようやくちゃんと目を合わせてくれたその少年に、微笑みかけた。


●丘の魔女へ贈れ、花束を
 オーラマックスを発動させ、デビルにスマッシュボンバーを繰り出し排除しながら、突破口を切り開く男がいる。仲間と連携を行い、道を開き。出来た隙を逃さずエキゾナに一撃を与えるため疾走する。
 エキドナを目指す途中、彼は何かを思ったのだろう。武器で突進してくるインプをなぎ払いながら、彼が紡ぐのは美しい言葉だった。
 
 堕ちたる星々よ
 貴殿らに還るところあり
 心を開きて 天に昇り給え
 原罪を解かちて 鎖を断ちて
 御名の光 天に還し 主の下へ御使い いさ召されよ。
 ジーザス 

 他の立ち塞がる魔物を振り払いながら向かう先にいるのは――

「望むなら死ではなく安らぎの花束を」
 うねる大蛇のその身を駆けあがり、眼前に現れた人間へ目を見張る魔女の左肩に渾身の力――チャージングスマッシュを繰り出し突き立てる。確かな手ごたえがあった。その体に強烈な力がかかり、直後地面に叩きつけられその半身で相手を締め上げられる。
 爛爛と光る目は怒りに溢れている。グランの何かが彼女の逆鱗に触れたらしい。
 軽やかに女は笑う。笑いながらグランにかける手は緩めない。痛手を受けて尚その余裕は損なわれない。
『安らぎ? 敵に情けをかけるのか―――人間とはおかしなものよのう。それで己が命を捨てる事になっても同じ事が言えるのかのぉ』
 近づく仲間達は、湧き出す魔物に行く手を塞がれる。魔法を放てば、拘束されている彼にぶつかる。
『さぁもう一度言うがよい。妾に、何を贈ると?』
「・・・・・・!」
 一切の慈悲を拒絶する魔性の目がグランを眺めている。
 上空から弓を番える者にエキドナは気付かない。外せない。ひとりの鎧騎士が弓を構える。触れたら切れる程の真剣さを漲らせ、
「(――当たれ!)」
 放たれた矢は大蛇へとまっすぐに向かっていく――


●人と精霊の絆
「クロード、ここでいいのか? 次に使ってもいいと思うけど」
 そう問いかけてきたのはクイン。陽の祭壇でではなく隅で祈る、と告げた彼にかけられた問いだ。
「ここで構いません。それにこの子達の事を、エヴェリンが気にかけているようですから」
 地獄へ向かった冒険者らの一部が、相棒をこの儀式の場へと残していた。所在なさげな彼らを気にして傍をちょろちょろしているのは、クロードの陽精――ミスラの少女だ。
「クインさんは?」
「俺もあいつらの様子を見に。地獄に爬虫類とか普通のペットを連れていこうとした奴がいたぞ。止めて正解だったと思わねぇ? まったく―・・・・」
 ぼやく、クイン。激戦が予想される地――決戦を前に準備は怠らなかった兵達の中で、ペットへの配慮を欠いていた者も残念ながら存在した。下手をすれば戦いに巻き込まれて死亡するペットも続出しただろう。
「手は足りますか?」
「あ、大丈夫。ローズマリー達が見ててくれてっから。ロゼもちょくちょく覗いてるし。んじゃ、邪魔したな」
 また後で、と言葉を交わし。
 
「聖歌が効くとは限らないが――」
 傍らのエヴェリンが不思議そうにクロードを見上げる。聞き覚えのない言葉だからだろう。故郷で教会へと足しげく通った事を、クロードが説明すると。
「遠くにいる、だれかに、祈るの?」
 その指摘に、笑みを誘われた。
「そうだな、オレリアナの精霊達に祈ってみようか」
 どんなことを? と幼い口ぶりでミスラは問う。
「懸命に生きる人々に、魔物に脅かされることのない人間らしい穏やかな日々がもたらされるように。――そして彼らの安全を。無事に帰還できるように」
 クロードは手を組み目を瞑る。
 邪魔しないよう静かにしていた少女は。
 彼の傍らに座り。真似をし手を組み、目を瞑る。
 ふわふわの金色の髪にも似た輝きが、きらきらと生まれた。
 そしてクロードの傍に居た、居残りを命じられた精霊達。
 中には落ち着きなくウロウロとしている者もいたが、儀式を邪魔するような真似をする精霊は幸いにしていない。
 主人と絆を深く持つ者ほど真摯に。静かに祈る。
 主人の無事の帰還を。この祈りが届く様に。
 属性の色ともいえる様々な輝きはその場から放出され、異界へと向かっていった。


●エキドナの反撃
 エキドナを射抜いたシューティングPA――シルビアの矢、緩むくびき、グランは残る力でそこから逃れる。彼女の体の上を転がり、地上へと放りだされた。
「・・・・ったく、・・・・とんでもねぇ」
 受身を何とか取り毒づいた後、激しくせき込む。そこに仲間が駆けつけ回復アイテムで治癒を行う。
 直後、エキドナの叫びがその場に轟いた――魔女の周囲に不釣り合いな清浄なる光がまとわりついている。両手でそれを振り払うようなしぐさを見せるが、それは消えない。その光が何なのか、冒険者達は気付く。そしてできた隙を見逃すような事はしない。
 ベアトリーセは魔力付与により攻撃力を増した武器で、ブラインドアタックEX+スマッシュEXを繰り出しエキドナへと大ダメージを与え、ファングはその暴れる半身にスマッシュEX+バーストアタックEX+チャージングを決め、その堅い鱗を粉砕し肉を断った。
 清浄なる光に阻まれ思うように力が奮えない魔女は、臍を噛む。
『忌々しい・・・・・・忌々しい人間ども』
 このままでは済まさぬ、と唇を釣り上げ、怨嗟をこめて魔女は言葉を紡ぐ。
 下級の魔物達は美しき魔女を護るように冒険者らに攻撃を仕掛けたが、対エキドナの技を持つ者たち以外がそれを牽制、援護していたが――。
 魔女の反撃が始まった。 


●想いが力になる世界
『天は御主の栄光を語り、大空は御手の業を示す。
 話す事も、語る事もなく。その声は聞こえずとも。
 その響きは全智に。その御言は世界の果てに向かう。
 精霊の恩恵に導かれし我らの祈りよ。
 今こそ永久に輝ける祝詞を解き放ち給え。
 全てを清め、至高なる輝きを誘い給えり。
 天と地をつなぐ精霊の祝福の永久に絶えん事を』

 陽精と共に心をこめて祈り捧げた晃塁郁(ec4371)は、その後に。
 術を使い魔物の気配を探った――現在この場に危機は迫っていない様子であることを確認する。
 祭壇から離れた後も傍にいる陽精の少年と共に祈り続けた。

 *

「我らが見張っている。そなた達の祈りの儀は、邪魔はさせんよ」
 陽の祭壇の向こう、進む先は断崖絶壁――そういった場所に忽然と現われているのは大きな穴だ。空間が歪み、そこから先に揺らいで見えるのは例の――荒野だ。
 地獄からデビルが来るか、それともこの霊峰目掛けて、魔物が来るか。先程まで、精霊のチコリと、この霊峰より来た風神のリコリスと。祭壇で歌と演奏で友愛の力を送り続けたエイジスは。それを終えた後皆が向かった地獄への入口へと来たのだ。
 案ずる必要はない――そう約束する高位のエレメントに。エイジスは礼を言う。
「なら、いいんだ。ありがとう」
 先の試練の際、『道』と通り抜けた彼の実力は周知の事だ。彼程の力があればエキドナに深手を負わせる事も可能だっただろう。それを告げたら、彼は剣を振り回すだけが戦いじゃない、と笑って告げるだろうか。
 
 *

 ロゼ・ブラッファルドが祭壇の中央に進み出て、深く一礼した後。何事か囁いたのち。両手首につけた鈴をしゃん、と鳴らしながら。祭壇の上で静かに舞い始める。
 イムレウス子爵領に古くから伝わる舞曲を紡ぐのは、エドワンド。そして笛を奏でるのは彼らと縁の深い金髪美女、エルフの女傑だ。傍では彼女の弟子のミーアが手を組み何かを祈り、クインは舞う彼女をじっと見ていた。
 神々しささえ感じさせるそれは、普段の穏やかな振る舞いをする彼女とは別人のよう。
『見とれてないで、祈ってくださいよぉ』
 ミーアに脇腹を小突かれ、反発の言葉を紡ごうとするが。たてた人差し指を前にぐっと飲み込んだようだ。不承不承祈り始めた少年。傍では村雨紫狼(ec5159)がぐぐぐ、と力いっぱい何かを祈っていた。傍にいる陽精と風精を大切にしている彼の事である。
「(俺達は確かにバカだ、けどな、みんなそれぞれこの世界に価値見つけて!! どうにもならねー現実に迷って傷ついて! 間違っちまうときもあるさ!! けどな、俺たちは生きてんだよ! 俺たちはカオスにも地獄にも負けねー! バカってんなら、そのバカ極めちゃるぜホルス野郎!! でもって、ふーかたんも、よーこたんも、俺の嫁だ〜〜)」
 おそらく彼女達に関わりのある事も多分に含まれているのだろう。
 こちらに残り、儀式に参加した者達が同調するように、祈る。淡い光が生まれる。その数だけ、想いの強さの分だけ。
 ロゼは舞曲が続く限り軽やかにステップを踏み、くるりくるりと舞って、やがてしゃんと鈴を鳴らし、膝をおった。
 ――その後も、祈りも歌も、舞いも――休憩を挟み、冒険者らと縁のある料理人達が行ってくれた食事を取りながら。かわるがわる行われた。


●ゲヘナの丘より撤退、そして――
 魔女の反撃は一撃で中傷を負う者が、続出する程強烈なものだった。彼女が怯んだ際にかなりのダメージは与えている。多少でもダメージを与えたい――フィオレンティナのように強い想いで反撃覚悟で向かっていく者達は、確かに怪我を負いながらもエキドナに一撃を加えて、魔女の命を削っていった。
 いざというときは撤退することもやむなし――そう告げていたベアトリーセに異論を唱える者はいなかった。
 未だ溢れ出る下級の魔者達を牽制したのは、エルマと有里。その術を使用の為削られていく力は、仲間のアイテムにより回復され――やがて敵を完全に引き離した。
 そして援護してくれた大きな力――。彼らが引く時魔女に隙を作り、助けたのはまさしく『地上から届いた祈り』の力だったのだろう――。

 *

「エキドナの命数は完全には尽きてはいないが――。そなた達は魔女に確かに痛手を与えたようだ」
 ホルスが告げ。その後――暫く立ったのち。やがて地獄より帰還を、ひとりも欠ける事無く皆が果たした。
 途中天界人の医師の有里が治療アイテムを使用し手を尽くし、仲間が怪我を負った場合惜しみなくアイテムを使用しようと考えていた者達の手によって、かなりの怪我を負いながらも悲惨な状態は脱していた者達も多くいた。
 帰還を果たした勇士達を、皆が温かく迎え入れ労い、互いの健闘を称えあう。
 ―――けれどトドメをさせなかった事を、残念に思う気持ちもまた事実で。

「――エキドナはじきに、滅ぶ」
 冒険者らの心を見通したのか。ホルスが告げる。
 あの魔女は不死ではない。自らを癒す術もしらず、いつしかその身を動かす力は底をつくであろう、―――ホルスは静かに続けた。
 祈りの心を忘れなければ。少しずつ力を削いでいけば。
「そなた達は、己が力の及ぶ限りの事をした。ひとたび休息するが良かろう―――」

 *

 嘆きと殺戮が起き、怨嗟が渦巻くゲヘナの丘。
 エキドナの名を持つ美しき魔性――数多の者の母は、ひとの死と破壊を望む紛れもない高位のデビル。
 ―――冒険者らが立ち去ったゲヘナの丘で、一たびその闇の中にエキドナは身を横たえる。
 あどけなささえ残す整った横顔に滲むのは、怒りと苛立ち。
 歴戦の強者達が身に付きたてた刃物、浴びせられた祈りの名を持つ猛毒。それが彼女の身を苛む。

 望むなら安らぎの花束を―――

 おそらく憐憫をこめて紡がれた人の言葉も、魔女には届かなかった。女は魔そのもの、だったから。
 エキドナはその後――時を経て――新たに接近を試みる者達への気配に、柳眉を逆立て憎悪を向ける。まったく笑っていない目、唇に湛えられた笑みが、壮絶なまでに美しく、いっそ醜悪だった。

 *

「ホルス――また、しかるべき時。力を貸して下さいますか」
 何か思う事があったのか。ロゼの願いに、霊鳥は応える。
「必要とあらば」
「ありがとう。・・・・宜しくお願いします」
「しかしながら我の他にもそなたや、そなた達に力を貸そうとする者は、多そうに見受けられる。竜の子の眷属とも縁を結んでいるだろう」
 クインの傍にいたコロナドラゴンの子が軽く眼を見開く。そして応えるように鳴いた。
「不思議な者達が――現れたものだ。そなた達が試練を超え、あの時我の前に現れた――その時も思ったが。それとも、これが世界に生まれた。新しい流れなのか―――」

 ゲヘナの丘ではその後も、戦いが繰り広げられるのだろう。
 だが、魔女が消えうせるまで――おそらく、あと僅かな時。