宮廷音楽家護衛&天界グッズ購入ツアー!?
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月29日〜04月03日
リプレイ公開日:2009年04月06日
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●オープニング
『拝啓 芽衣。おげんき? なかなか連絡くれなくて、お姉さんは寂しいぞ。昔ハマった小説みたいに、異世界に来るなんて突飛な状況に置かれて、最初は途方に暮れたけど。芽衣もこっちに来ているって知って驚きながらも嬉しかったわよ。こんな事もあるのねぇぇえ。もう家族に二度と会えないかも――・・・・って思って本気で絶望してたからね、うん。でも、片や妹は大陸の東端にいて、一緒に暮らせないのが悲しいです。まだこっちに来る気になれない?(以下諸々続く』
「うわ、なにこの不思議文字。これ芽衣の故郷の言葉?」
「ええ」
「はー・・・・、にしても。姉さんからの手紙ってなっがいねー。また向こうに越してこないかってお誘い? でも言ったんでしょ? 彼氏ができたから、メイディアから離れられません、引っ越しなんて無理だって」
「・・・・それだけが理由ではないですよ」
「そーなの?」
休憩場所で。ふと文面を追っていたその動作が停止する。手紙を握る手に力がこもる。
『今度ね、都で天界グッズが購入できるイベントがあるの。でね、その当日昼過ぎにそこで私達のコンサートがあるの。広い公園でやるんだけど。(中略)。子爵領は最近怪異っていうの? 変な事が色々起きているらしくて。都の中だし大丈夫でしょって言ったんだけど、皆警戒してるのね。護衛が必要だっていわれて。でね芽衣にそれを頼みたいの。あなたは我が妹ながら昔から強いし、ね。そこに例のリカード君っていったっけ、彼を――』
「どーした、芽衣」
「子爵領に・・・・リカードを連れてこいって」
「あらら、まぁ。可愛い妹をどこの誰かもわからん男にはやれんって、やつかな」
「自分は彼氏をとっかえひっかえしていたくせに、人の事になるとなんでこう・・・・」
――ちなみに、リカードとは。例のVDのイベントで晴れて工房公認☆の芽衣の恋人となったお人である。本名リカード・ヴァレッティ、メイディア出身とある貴族の三男坊、くるくる巻き毛の長い金髪長身派手好き、軽いノリとフットワークの持ち主、な工房でも目立つ若手のゴーレムニストである。
「駄目だって書いて返信しよう」
「えー。お休みもぎ取って行っておいでよ。天界グッズも沢山買ってこれるんじゃない」
「私はさておき、リカードは無理なのに。ゴーレムニストは忙しいんだから。誘ってもたぶん断られるし。今、工房は猫の手も借りたい程の忙しさの筈」
「でも愛するメイメイとの旅行なんて、そうそう出来ないでしょ。見逃す事はしない気がするけどなぁ」
*
「いけるよー。まぁ5日間くらいなら、ってことだけど。既に工房長の許可は貰ったし」
「・・・・・・」
王都と子爵領間には貨物船――小型中型のゴーレムシップが行き交う。それに同乗しメイディアの工房を訪れた子爵領の工房の実力者、ゴーレムニストのフィーダ・ロウが持ってきたのは、富永真理より預かった手紙だけでは、なかったらしい。
「それにこれが来た以上、ね」
リカードから差し出された高級そうな紙で作られた巻物。これは何、と当惑する芽衣に。姉さんからの手紙には書いてなかった? と不思議そうな様子で説明してくれた。
「・・・・‥子爵からの、公文書、ですか」
「らしいよ」
冷や汗が流れる。そんな大物からじきじきに公的に招待を受けた、ということだ。貴族だの身分だのに疎い天界人の自分にも判る。ただ事ではない。さらに芽衣だけではなく、姉から伝わったらしいリカードの名前まで刻銘に記載されていた。
『彼氏と一緒においで。せっかくだから大勢で来たら? 楽しみにしてるから』
「(子爵にもお願しちゃったんだ。とか言いそうだ、あの人・・・・)」
子爵は天界の文化に興味を持っている人だとは。再会時にその様な話は聞いた気は、するけれど。姉はヴァイオリニストとしての才能に恵まれた人物だし、気に入られている風なのも薄々わかっていたが。使者として工房へ訪れたフィーダ・ロウの意味ありげな笑みは、こういう訳だったか、と芽衣は合点がいった。
「真理さんの演奏会が、都であるんだってね〜。宮廷音楽家としての彼女の護衛を付ける予定だけど、それを妹であるメイメイに頼みたいと。『遠くに離れて暮らしている姉妹、異国に来た血縁同士積もる話もあるだろう。遠路遥々起こし頂くことになるが、時間が許す限り、滞在をされては如何か―――』って書いてある、子爵直筆っていうのも本当っぽいね。これを真理さんの手紙と一緒によこすっていうのは‥・・洒落のわかる御仁なのかな」
手紙を見る芽衣の脇で、妙に感心した様子でリカードが表する。
「楽しみだねー。天界グッズの市なんてそうそうないじゃない。メイメイも沢山買い物できるよ? 皆にもさっき話をしたら快く(?)行って来いって言ってもらったしねー」
「エリカ様達に?」
正確には、エリカ様には散々からかわれた末、チクチクと嫌みを言われ、土産を買ってくるんで! と拝み倒したらころりと笑顔を向けられた、が真相ではあるが。他の同僚からは行ってきな、とありがたいお言葉を頂いた。
晴れて公認カップルになったおかげで、良い事もあるものだ。
「そ。だから何も心配はなし」
「そう、ですか‥‥」
コンサートの護衛兼、天界グッズお買い物ツアー、といってもいいものだ。折角だから冒険者ギルドに依頼を出してみようかとも思う。子爵領の怪異の噂は、芽衣の耳にも入っている。念の為護衛は人手が多い方がいいし、もしかしたら遠方への船旅、天界グッズに興味を惹かれる人もいるかもしれない。
それに。
「(まぁ。いいか)」
姉に矢尻つきの黒い尻尾が見える時はあるけど。姉の性格を考えると、死ぬ程からかわれるに違いないけど。
「行きましょうか、一緒に」
とりあえず目の前の恋人がとても嬉しそうにしているわけでは、あるし。
「賛成〜。じゃ、早速メイメイも工房長に休みの申請を、だね」
●リプレイ本文
●
出港の朝、メイディアはいっそ清々しいまでの快晴だった。
「さあ! またこのチャンスが巡ってきましたわっ☆ 最近は物騒な依頼ばかりで、ゆっくりお買い物出来ませんでしたもの」
と力いっぱい叫ぶのはシャクティ・シッダールタ(ea5989)だ。彼女のお目当ての品を知っている友人、巴渓(ea0167)は、『ねえと思うんだがなー』と少々疑わしげだが、そんな声は彼女の耳には入っていないようである。依頼を受けてくれたのは7名の内ひとり、布津香哉(eb8378)が最後に乗りこみ、小型のシップは動きだした。彼は出発前、ゴーレムニストとして、念の為メイディアから離れる旨の連絡を工房に入れてきたのだ。
「しっかし、アンタがメイたんのカレシかよ〜。ま、ヨロシクな!!」
村雨紫狼(ec5159)と握手をしつつ。
「この間メイメイがマチルダさんの所でチョコを作ってくれた時、一緒にいた人かな?」
「そうそう! っておばさんの事知ってんの?」
「あの後、メイメイと一緒に顔出しに行ってきたんだよ〜。メイメイが俺に愛の告白をしてくれる日がこようとは。マチルダさんや君等のおかげだよー。会えて良かった、これからよろしくねー」
「初めまして、俺はゴーレムニストの布津香哉。よろしく」
「あ! ユリディス先生から聞いてるよ〜。熱心な天界出身のゴーレムニストだって」
先日のVDイベントで芽衣に関わったのは香哉も同じ、この人が芽衣さんのお相手か、と興味深そう。年齢も近く同業者という事で、すぐ打ち解けたようだ。
「・・・・しっかしメイたん、俺も姉貴いるんだけどさ〜。そっちも大変そうだな」
「『そっちも?』」
「紫燕姉貴っつって。メイたんのとこと一緒で、ワルノリ大好きでさー。弟としては結構大変だったんだぜー」
地球とこちらと。今は遠く離れている。その後雰囲気が重くならないよう気遣ったのか。明るく話し続ける紫狼に救われたように、芽衣は微笑んだ。
●
首都オリハルクの船着場に降り立った彼らを出迎えたのは。真理と、文書を届けた後先に戻った人物、ゴーレムニストのフィーダ・ロウだった。
長い癖のない黒髪、眉の上で切り揃えた前髪、そして美人。
芽衣とよく似ている。
一人一人と握手して、ニッコリ。
「真理です。どうぞよろしくね」
そして彼女は目ざとく、芽衣の荷物を運び出す手伝いをしている、青年に目をやった。
「リカードです。この度はお招きありがとうございます、お姉様」
視線に気づいたものか。芝居がかった様子で礼を告げるリカード。あらー・・・・と、まの抜けた声を発し。頬に手を当て、うっとりと一言。
「美形じゃない。芽衣ってば、面食いだっけ」
「お言葉ですがお姉様、俺は顔だけの男じゃないですよー」
「あはは、言うわね」
「姉さん、そういう話は後。とりあえず、コンサートの護衛を皆さん努めてくださるんですからね、ちゃんと打ち合わせを」
「せっかちな子ねー」
「姉さん」
低音な声で妹に呼ばれ、首を竦める姉。
「さっそくで、申し訳ないが。芽衣君に聞いたのだが、コンサートは明日の正午過ぎで間違いないね?」
キース・レッド(ea3475)の問いに。フィーダが、答えた。
「ええ、その通りです。逗留先も用意しておりますので、そちらで本日は疲れを癒し、明日に備えていただきたい」
「わかった。本日中にコンサートの護衛に必要な情報を、聞いておきたいのだが」
「はい。イクシオン様からも、詳細を皆様にお伝えするよう命じられておりますので」
イクシオン、というのは子爵の名前だ。イクシオン=レフ=イムレウス。病を患い爵位を退いた父に代わり、その名を継いだ人物。
「道中、御説明致しましょう。馬車の準備もできております。どうぞ、こちらへ」
●
こちらに『来落』してから、紆余曲折を経てこの都に来たらしい彼女は、何度もこの首都でミニコンサートを行ってきたらしい。住人からの人気も高い。その才能が認められ、宮廷音楽家として身分を保障されているのだが。知名度が増し、その分比例して危険も増しているが、本人にその自覚は薄い、という事が彼等にも解った。
フィーダを拝み倒して、芽衣や冒険者らと同じ宿に泊まった彼女。
よって、宿に危険がないかどうか、確認した伊藤登志樹(eb4077)の行動にも、驚いている様子だったからだ。
――呑気である。
そして夜――彼女は、冒険者らにある話を持ちかけた。
「二人に、思い切りデートを楽しませてあげたいの。これだけ頼りになりそうな護衛の皆さんがいるわけだし」
「ちょっと離れたところから様子を窺って、後で芽衣さんをからかおうっていう魂胆では?」
鎧騎士のルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が少々呆れながら、突っ込む。
「そんな事は」
その顔。姉はやはり、出歯亀する気満々らしい。
「でも、ゴーレムニストって忙しいでしょ? それに本当はろくに遠出もできないって聞くし」
「まぁ、確かに、制約の多い仕事ではありますね」
本職の香哉が頷けば、ぽんと手を打つ。
「ね? せっかく付き合い始めで盛りあがってる筈なのに、なんだか可哀そうだなって」
「それだけ? レディの覗き趣味は感心しないな」
「酷ーい、キースさん。妹と彼氏の仲を案じる姉心と言ってほしいな」
主張され。じっと真理を見た後、誤魔化すようにえへっと真理は笑う。脱力。ふー・・・・っとキースは溜息をついた。
「・・・・目に余る行動を取るなら、即座にコンサート会場まで強制エスコートだ。これは譲れないよ」
「えー? もうっ。皆さん揃って、私の事、暴れ馬みたいに」
「あ、暴れ馬? あのですね、別段、意地悪で言ってるんではないんですよ? 皆さん、あなたに危険がないように、案じているんですわ」
「そうそう」
シャクティの発言に、渓も頷く。
「ここであれこれ言っても、どうせ聞かねえだろこの人。とりあえず別行動はよし、それぞれに護衛が張りつく、それで構わないっていう条件が飲めるんなら、だが」
登志樹がビシっと言う。
「飲みます」
特にゴーレムニストだからといって狙われる事もあるという事を、真理はよく理解していなかったらしい。これには素直に反省するところが、あったようだ。
「うし、じゃ、決まりだな」
「あと、登志樹さん。さっきのあれ、元気出して下さいねー?」
「ほっとけ」
「実は結構凹んでたり?」
「・・・・うるさい」
ついさっきまでしていた、登志樹とリカードのやり取り―――
ゴーレム用の『弓』と『盾』、『マント』も欲しい。金は払うと彼に交渉を持ち掛けていたのだ。
個人の私物で実験をすると兵器開発が一気に進む・・・・と主張し詰め寄った彼を、リカードはじぃっと見つめて。こう告げたのだ。
『登志樹ちゃんに必要なのは、弓とか盾じゃなくて可愛い彼女だと思う』
依頼の本旨からずれた話であるし。高圧的な物言いは茶化し混ぜっ返すのが、リカードの性格である。
弓だけでも、工房間売買でも100G超えているしね、それに個人管理の限界などの問題もあるよね? と補足され。
兵器開発に一生懸命なのは判るが、他にも大切なことってあるんじゃない? とリカードは言いたかったらしいが。果たして、どこまで伝わったかどうか。
●
翌日、別行動の話をすると。芽衣は最初異論がある様子だったが、それは渓が説き伏せた。
宮廷から、海に向けて伸びた中央大通り。そこには街路樹が立ち並んでいた。大通り沿いは、石造りの優美な建造物が多く、一見とても華やかで洗練されている。移動のさなか、近づいてくる人物、傍に物騒な凶器や潜んでるものがいないか、インフラビジョンで見て警戒をしている登志樹だったが、今のところ脅威もないらしい。勿論他の面々も、会話をしながらも周囲に気を配っている。
何もない――今のところは。
「聖都と、また雰囲気が異なる都ですね。あちらより規模も大きいですが、それだけではなくて」
「オレリアナはね、ここの人達曰く、『古都』なんだって。ここ――首都は新しい文化をどんどん受け入れる、活気がある都で。聖都オレリアナは精霊や竜へ強い信仰心と古い歴史を尊ぶ、新しいものを受け入れない、って。どちらがいい悪いじゃないと思うけどね」
真理があっさりと教えてくる。紫狼が都をしげしげと見渡しながら、
「最近、オレリアナは大変だったんだぜ? それに比べてこっちは一見、平和そうだなぁ」
「そういえば、最近あの都に行ってたって話、してたね。犯罪が急増とかって。でも、この首都でも、ちょっぴり不穏な話も聞くのよ」
「不穏な?」
「そ。ここらの海で、海蛇とセイレーンが船を襲う被害が広がってて、もう何人も船乗りが犠牲になってるんだっていう話。イクシオン様達も動き出したみたい」
公務で忙しい風で、短時間だけではあったが。皆、昨日子爵と面会を済ませている。二十歳そこそこの若さでありながら威風堂々とした人物で、口調は柔らかだが既に上に立つ者としての風格があった。
「さ! もうじき着くよ」
*
海に程近い大きな公園に、人が溢れ返っていた。
あれだけ念を押されていたから、真理は皆に護られながら無難に市を楽しんでいた。紫狼は、渓の値切りの援護を期待したようだが彼女は芽衣の護衛についていっている。努力で何とか値切りの交渉をし、安くはないものの双眼鏡を手に入れる事が出来た。
「うしっ! あとはふーかたんとよーこたんに、何か土産をっと」
「私は魔法瓶は買いましたし。後は発炎筒が欲しいですね」
「あ、ルエラさん。あれのこと?」
「まとめて買えば、値切れるんじゃないのか」
「試してみます」
ルエラは冷静な交渉の末、10本、無事全うな値段で購入することに成功した。キースはコンサートを控え警備員らと、最終打ち合わせをしている。過去、恋人の身に起きたある事件の教訓を生かし、彼らにも助言を行っていった。
「あ、ちょっといい雰囲気」
向こうでは、リカードが何やら手に取って芽衣に差し出している。
「何買ってあげてるんだろ。くそう。見えない。もう少し近づくか〜」
背延びしたり、身を乗り出したりして、人にぶつかりかけた彼女の首根っこを掴んで、ルエラがきゅっと引き戻し。
「真理さんは今回の主役でいらっしゃいますから、あまり突飛な行動はご遠慮願います」
「突飛かなぁ?」
「はい」
「・・・・んー。あっ、向こうに可愛い雑貨が売ってるみたい。見に行っていい?」
悪びれもせずの発言。彼等は過去チキュウでの芽衣の苦労を想像し、ちょっぴり妹に同情した。
*
チャイナドレスにクリスタルパンプス、パールルージュと日傘、レインコート。趣味の釣り道具など他にも沢山。彼女への贈り物を含め、彼が欲しい物は幸いにして市場で見つかった。が、総額を聞いて香哉は固まった。金払いがよさそうな客と思われたのか。明らかにぼったくりと思われる――その金額を提示されたのだ。
「あのな、それはねーだろ、おっさん。だいたいホラ、この釣り竿傷が付いてるし。それがこの値段っていうのはおかしいぞ。それにまとめて買うって言ってるんだ、もう少し景気良く値引こーぜ」
すかさず、間に入った渓が算盤を取り出し、細かく交渉を重ね――最終的に安くさせ、総額、予算の50Gに収める事に成功した。
「ありがとうございました」
事前に頼んでおいてよかった、香哉は苦笑い。
「なんの」
渓が軽く言って、笑う。渓が欲しかったあるベルトは、残念ながら見つからなかった。その代り、秘湯の湯、という入浴剤を購入する。警備の為動き回っているキースに買う時間がないかもしれないからと、頼まれていた物だ。
「あぁ〜ないっ」
渓の傍で聴こえる、シャクティの嘆き。彼女が探していた『ぶるまあ&体操服』は、とうとう、見つからなかった。とりあえず今のところは。
「今度こそは、手に入れようと思いましたのに!」
「?」
子爵の金の額縁入りの絵姿を手にしている、リカード。あのひとにはこれか、等と呟いている。
彼が香哉と渓と話している隙に、彼女は芽衣を引き寄せる。
「うふふ・・・・愛する殿方に愛でていただくには、出来る限りの努力はしなければいけませんわ」
「め愛でる?」
「わたくしも豊かな夜の営みの為、化粧を変え髪型を凝らし、天界の装いに身を包んだりもします」
「はぁ」
「芽衣さんもご一緒に探しません?」
「何を?」
「夜の装いを」
ひと欠片も邪気のない笑顔を向けられても。
「わ、私は遠慮します!」
●
公園のすぐ傍、一段高い噴水の傍で。
天界で有名なクラシック――モーツァルトの華やかな曲が奏でられ始める。
力強く、時に優しく響く、弦楽器の音色。
誰しもが――耳を傾けずには、いられない。
音楽家――ヴァイオリニストとして、才能に溢れた彼女の演奏は続く。
香哉と登志樹の龍晶球の探査によると、カオスの魔物の反応はない。しかし、彼女に危害を加えようとした者は、確かにいた。それは登志樹が連れている月精霊の、レミエラ使用の昼使用可能となったムーンフィールドに遮断された攻撃で、明らかになった。
―――複数の矢。
度重なる攻撃を阻んだとき、その結界の境界面が明らかになる。しかし動じず、真理は演奏を続行する。ざわめきが、その迫力に呑まれたように、ある程度以上は大きくならない。ペガサスと共に傍に控えていたルエラが、登志樹が盾でそれから、彼女の身を護るべく動く。青い屋根の上から狙撃した相手目掛けて、ルエラがペガサスを駆り。打ち合わせ時に明らかになったある死角にまんまと身を潜め、彼女を狙った狙撃手は――事前にキースと、シャクティが傍でそこを警戒していた事もあり、彼女のスクロール、コアギュレイト使用後――その体術で捕縛され、狼藉者は然るべき裁きを下してもらうよう、警備兵へと引き渡された。
幾度かのアンコールによる演奏を終えた彼女は。にこりと笑って、観客に向かって一礼した。
*
「皆さん、色々ありがとう。お陰で命拾いしちゃった」
「笑ってる場合? 子爵にお話しして、一緒に行こう」
「行けない」
「また同じような事があったら、どうするの」
真理は頷かなかった。ただ、助けを求めたら来てくれる? と冗談ぽく言うだけだ。
「どういう事?」
「ほら、例えば――また私が狙われる可能性がある、大きなイベントがあるとか。ね」
「当たり前でしょう」
「・・・・必ずよ? 約束ね。皆さんにも、お願いするわ。何か事件が起きたら、この街の人達も巻き込まれるかもしれない。それは――絶対に、嫌だから」
「――姉さん?」
真理はそれ以上、多くを語らず。微笑む。そしてぎゅうっと芽衣を抱きしめた。
「リカードさん、この子をよろしくね。大切な妹なの」
「はい。彼女は俺が護ります。――約束します」
子爵領は首都であれ、安全ではないらしい。それを改めて意識しながら――皆、メイディアへの帰路に着いたのだった。