ある入り江で、また事件が起きてます

■イベントシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月11日

リプレイ公開日:2009年10月29日

●オープニング

 ある日の昼下がり。その時もまた、とある入り江の砂浜をサクサクと音をたてながら動きまわる生き物がいた。入り江の両端にあるゴツゴツとした岩場と、間の砂浜をうろつくその生き物達は。その浜辺を陣取り、そのギッシリと身の入っていそうな‥‥じゃなく恐ろしげな立派な体躯で、他の生き物を威圧し、彼らを震え上がらせていた。
 なんの前触れもなく突如として現れたその巨大生物は、その入り江を仮の住処と定めたらしく。その鋭利な武器を使い、海の魚を捕まえ食い荒らし、海岸に住む小動物達を狙い続けた。
 事態を憂えたのはその入り江傍に住む漁村の者達だ。
 突然の制圧者に抵抗すべく、果敢にも銛や網を手に立ちあがった。
 けれど、そう簡単に相手は倒れてはくれなかった。
 戦った経験上。漁に出たくても奴らが浜辺を徘徊している限り、下手にそこへ向かえば例のあれで怪我をさせられるだろう事は皆分かっていた。相手は攻撃を仕掛ければ実に素早くそれを回避し、反撃をするべく全長二メートルもある体で全速力で向かってくるのだ。
 それはなかなかに迫力ある光景――であるらしい。
 等、事の経緯をギルド職員へと、冒険者ギルドへと現れた二人の漁師が説明した。

 片方の若者が、カウンターに拳を叩きつけ悔しげに言う。
 その光景に、なんとなく既視感を覚える受付嬢。
「村の連中も何人も怪我をさせられたんです! 数人がかりで行ったので、なんとか牽制して重傷を負う前に村に逃げてこれはしたのですが。くそっ。あんなでかい図体で浜をうろつきやがって‥‥! もう全て倒さないと気が済まないじゃないですかっ‥‥」
「あのぅ。またですか」
「またです」
 あの時は冒険者らは忙しかったらしく人数が集まらず、結局『昨年の同様の事件』は漁師たちが何とかしようとし、‥‥失敗した。そして悠々と『それ』は移動し、また今年同じ月にこの地に戻ってきたらしい。
「お気持ちは良く分かります。そうですよね、相手はこれだけ皆さんに迷惑をかけているのですもの。なんとか一泡ふかせ‥‥いえそれじゃ皆さんの気持ちは収まらないですよね。今度こそ仕留めてお湯に放り込んで後悔させてあげるのもいいかもしれませんね」
 話しているうちにテンションが上がってくる。過激かもしれないが、言わずにはおれない。弱肉強食とはいえ、魚も小動物だけでなく人も被害を受けているのだ。ためらってはいけない。ギルド受付嬢がこみあげてくるものを布で拭いながら、深く深く同意した。
「解ってくれますか、職員さん!」
「なら話が早い。そんな訳で姉さん、今度こそっ!! 冒険者の皆さんに一肌脱いでもらってだな。あの凶暴極まりないバカ者どもを退治してもらいたいんだ。今のところ村まで来てはいないんだが、もし浜辺の生き物をあらかた食いまくったらまた違う場所に移動するかもしれないだろ? で、皆さんは引き受けてくれると思うかい?」
「えぇ、今度こそきっと!」
「そうかい? それなら良かった!」
「それで。皆さんの協力で依頼が無事成功した暁には、勿論例のあれを計画していらっしゃるんですか?」
 ギルド受付嬢の期待のこもった眼差しに、海の男達は強く同意した。
「勿論、奴らがいなくなった入り江で夜通し行うつもりさ。酒とかも持ち込むし。きっときっと最高の蟹パーティーになるだろうぜ!!」

●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ アマツ・オオトリ(ea1842)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ キース・レッド(ea3475)/ 忌野 貞子(eb3114)/ 水無月 茜(ec4666)/ 村雨 紫狼(ec5159)/ レラ(ec5649

●リプレイ本文

●全ては夜の為に☆
 善良なる漁村の住人達、その平穏な生活を破る憎きモンスター。その名もビッグクラブ――――大蟹―――。
「(通常堅い甲羅に8本の足と2本のハサミを持ち、片方のハサミは1mはあろうかという大きなものです)」
 潮風も左程強くない。実にさわやかな秋晴れの日。その下を、共についてきたそうだったギルドの受付嬢が熱く説明した通りのイキモノが、依頼人達に案内された冒険者らの目に映る。
「蟹だな‥‥」
「蟹ですね‥‥」
 皆次々、蟹だ、と繰り返す。
 赤々とした硬そうなボディ。冗談みたいなでかさ。
「まあ、地獄の魔王や狂った領主なんてふざけた相手よりはマシだよ。巨大蟹も十分、ふざけた相手だけどね」
 と言うのはキース・レッド(ea3475)。そう、もはや砂浜をご馳走が闊歩しているようにしか見えない。
「第一回!チキチキ秋のカニ食べ放題ツアーin近所の海辺〜〜っ、ですねぇ」
 ちらりと笑うのはクリシュナ・パラハ(ea1850)だ。勿論それは倒した後、の話だけれど。
「ちなみに、10匹はいるようですよ」
 バイブレーションセンサーを高速詠唱で発動、確認して皆に教える。
 迅速に、すみやかにしなくては。こうしている間にも被害は出るかもしれず、またお腹はすいていくのだ。冒険者らは、深く頷き合う。
 作戦は、こうだ。まずキースと村雨紫狼(ec5159)がカニの正面に、そして攻撃を加える。左右に逃げたところをクリシュナと水無月茜(ec4666) と巴渓(ea0167)が右側にて、アマツ・オオトリ(ea1842) と忌野貞子(eb3114) とレラ(ec5649) が左側にて攻撃――――捕獲の流れ。
 さて、そう上手くいくかどうかは不明ながら―――キースと紫狼が囮として砂浜へ。近づいてきた人間の姿に、逃げる事無く逆に奥から蟹が近づいてくる。それを見てすみやかにすすすっと左右へと散る後の冒険者ら。それを見計らってキースと紫狼、攻撃を開始! 勿論手加減はする。紫狼の嫁の二人も、得意とする精霊魔法で目くらましや、風刃で牽制。甲羅はやはりそれなりの強度だった。果敢に攻撃を返す蟹もいる、それを避けたところで上空で待機していた風神が主に頼まれていた通り風で援護をする。しかしこれは皆も巻き込んだ。蟹達のように風に翻弄されぬよう、身を屈め堪える皆。
「(蟹釜飯が食えれば最高だったけどな!)」
 とは渓が。いつも魔物やら強いモンスターらを殴っているその拳は、今捕獲の為かなり控えめにキース達から逃げてきた蟹に当てられていた。だが十分それでも威力はある。怯みまくる蟹。
 クリシュナのグラビディーキャノンは数匹の蟹を面白いくらいに巻き込み、ひっくり返らせた。そこにアマツは駆け寄り、蟹が天然自然の一部である事、摂理によって闊歩しているのだとしみじみ考えその命奪う償いとしてきちんと食することを決めていた心のままに、居合いを用い、刀が突き立てやすい部分―――甲羅の継ぎ目を狙い刃を突き立てた。ぎちぎち音を鳴らしながら暴れる蟹。何事かと逃亡を図る数匹の蟹にウォーターボムをぶつけ貞子が足止め、一匹を仕留めたアマツはすぐそちらへ向かう。
 茜は四匹や五匹ならば自前のレミエラでムーンアローを同時打ちしようと考えていたが、蟹が思った以上にいるようなのでそれをやめ、一匹一匹に確実に当てていっている。何というかまともな抵抗を歴戦の勇者達相手に出来るわけもなく、次々砂浜に倒れていく彼ら。哀れ、蟹。
 皆のように華麗な(?)戦いぶりとはいかないレラも、自分が囮になって引き寄せ、近づいてきた蟹を相棒のキムンカムイと共に倒そうと試みる。先程貞子の水術と茜のムーンアローで痛手を被っていた蟹、まだ駆け出し冒険者である彼女を援護するべく再びウォーターボムやムーンアローがその蟹めがけ放たれ命中した。その後、レラでも十分に止めを刺す事が出来た。
 漁師やその妻達が後方で念を送ってきている。
 十匹の蟹が全て倒れ動きを止めたとき―――観客から歓声が上がった。


●お楽しみの時間☆
 村の広場にて炎を囲み、皆でテーブルや椅子等を持ち寄って精霊達が彩る天界風に言うなら満天の星空の下、皆で蟹パーティが開始された。
 蟹グラタン、蟹コロッケ、バター焼き、蟹味噌の荒汁、定番のボイルされた蟹、塩などもある。
 蟹身たっぷりのピザも、段取り、調理、全てが熟練のプロレベルの美芳野ひなた(ea1856)に、村の料理自慢の女達が協力して調理を手伝った。牡蠣は手に入らなかったが、昆布は村人から渡され、魚も蟹がいなくなった後漁師たちが短い時間だが漁に出、幾らか手に入った。グラタンに必要な牛乳、バターに卵、マカロニ等。旬の野菜等は都で購入済みだ。ちなみに今回かかった材料費は、ひなたの友人である貞子の奢りである。皆に礼を言われ満更でもない様子の貞子。村の者達のぶんまで大量に作られたそれに、皆舌を巻く。このうまさ、ただ事ではない。
「そう言えば、北海道のグルメ番組のレポーターしたことあるんですよ。今回もひなたさんの手料理ですから、ハズレ無し!」
 茜が叫び、おいしーい!と歓声も上がって、ずっと料理に専念していたひなたも嬉しそう。村の女達の手からも村の者達に行きわたる。慣れない初めて食べる料理に目を白黒させつつ、口にしてみると驚きの美味さで。村の女達も熱心にひなたに料理を教わったようだった。
「沢山ありますからね、どんどん食べてくださいね!」
「この蟹味噌の荒汁、なかなかの味だな‥‥」
 頬を緩め、そうアマツが。キースは希望通りのクリームコロッケを次々堪能している。好物なのだろうか。蟹グラタンー! めちゃうまですしね! とクリシュナも皆にその美味しさを語りつつせっせと口に運んでいる。
「ボイルも普通に上手いけど、だが、グラタンとかやっぱ忍者ちゃんが腕によりをかけて作ったこのピザとか‥‥すっげー上手いし!」
 感動してる紫狼の傍で、ご機嫌なご主人ににこにこと嬉しそうな二人の精霊。ちょっとだけねだるように顔を近づけている。必ず食事を摂取する必要がない精霊だが、絶対口にできない訳ではない。ほんの少しだけふーかとよーこはピザをかじり、おいしい、と口々に言い笑った。
「しかし、美味い料理は酒が進むなぁ。これでひなたに男が出来りゃ完璧だがな!」
「もー何言ってるんですかっ///」
 痛いところを突かれて、からかわれひなたは赤面。渓だけでなく、そのセリフに皆がどっと笑う。でもこれだけ料理上手で可愛ければ心配しなくてもじき、相手は見つかるだろう。きっと。
 貞子とひなたと茜は、かつて三人で結成した絶対可憐メイド隊なるものを再結成、しっかりテンションが上がった三人は天界のアイドルのノリでとにかく歌って踊った。冒険者らだけでなく、何だ何だと酒に酔った漁村の住人からも好意的な歓声が上がる。
 レラは慣れ親しんだ故郷の――民族舞踊を披露する。こちらには村の者達が楽器を奏でてくれ、素朴かつ親しみのある踊りに皆が温かい拍手を送った。
 貞子は遠き地に暮らす『子犬ちゃん』に、紫狼は蟹は魔術師の師弟に渡す以外は遠き元イムレウス子爵領と呼ばれた地に残る友人や知人達の為に蟹を!! というわけで。村人に事情を話し、蟹を確保した。茜はメイディアの孤児院で働く桜庭という天界人と、シスターら、そして子供達の為に蟹をいくらか譲り受けた。
 貞子のアイスコフィンでそれを保存。貞子達は遠きかの領地にこれを運ぶらしいが、アイスコフィンは0℃以上では解け始める魔法。船がまともに出ていない今、グリフォン等で向かうにせよ途中術をかけ直す事になりそうだが‥‥まぁ、多少鮮度が落ちようがかの者達なら喜んで受け取りそうではある。大切な人達にそれを運ぶ為の算段を、貞子と紫狼は皆から少し離れ話をしていた。離れていても気にかけてくれる事を、かの地にいる人々は嬉しく想うに違いない。
 村の人々に感謝され、美味しい蟹をこれでもかと言う程堪能しつくして―――そう、これは浜を侵略した巨大蟹との戦いの記録。皆の心にその料理の味と共に鮮烈に刻まれた一つの思い出―――ある秋の日の出来事だった。