【舞姫護衛】愛vs復讐のアメリ

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜05月29日

リプレイ公開日:2008年06月03日

●オープニング

 入ってきただけで、ギルドに訪れていた利用者の視線を奪った美しい少女がいた。
 服こそ簡素なものだったが、よく陽に焼けた肌、漆黒の腰まで届く長い髪、丸い柔らかな輪郭を描く顔、薔薇色の頬、――そして、均整の取れた唇が動き言葉を紡いだ。

「こんにちは、ここで依頼を出せると聞いたんですが」
 大きくは無い筈なのに、その声はよく通る。
「あの、すみません?どういう手続きを踏めばよろしいですか?」
 自分を見つめている青の瞳は、美しかった。見惚れていた為、反応が遅れてしまった。慌てて椅子を勧めた。
「失礼致しました。――ようこそ、冒険者ギルドへ」
 少女は短く礼を告げて、椅子に腰掛ける。ひとつひとつの動作が絵になる依頼人だった。

 ギルドの受付の彼は、目の前の尋常じゃなく美しい少女を知っていた。
 彼女は、彼が最近ご贔屓にしている見世物小屋の一座の花形である――奇術師である舞姫なのだ。
 手首に鈴を付け流麗な動きで舞台で踊りを披露し、何処からともなく花を生み出し華麗に舞う美しき少女。弦楽器も巧みに操る多彩さも兼ね備えている。

「・・・・あなたは、『流星座』のアメリさんですよね?」
「ええ、そうです。もしかして舞台をご覧頂いたことが・・?」
 思い切り頷いた相手に、アメリは苦笑をしてみせた。
「ありがとう。なら話が早いです。最近私を狙ってあの手この手で嫌がらせしているド変態・・・天界風に言うならストーカーですね、そいつを捕まえるのを手伝っていただきたいんですよ」

 アメリのファンである受付の男性は目をギラリと輝かせる。
「それは許せませんね。・・・・詳しい事情をお聞かせください」
 彼女は頷き、神妙な表情で説明を始めた。
「流星座は天幕の入口で、まず入場料を指定の箱に入れて入場していただきます。それはご存じだと思うのですが、そこに―――』
『アメリは自分の恋人なんだから、僕だけの為に舞って欲しい――』
 その考えに囚われた犯人は幾度となく羊皮紙を箱に滑り込ませ、自分の気持ちを伝えてきたというのだ。最初は思いこみの激しいファン、くらいで皆は左程深刻には考えていなかったらしいのだが・・・・。

「その日の舞台が終りに差し掛かる頃です。しかも、突然何もないところから火があがったんですよ! お客さんは突然出て消えた炎も奇術の一環だと想ったようですが」

 少女は唇を噛みしめる。舞台を壊さないように彼らは辛うじてそれを取り繕った。青年はその舞台を見に行っていたので絶句する。不自然さを感じた客が出たとしても、予め予定されていた奇術だと言える程、彼らは舞台を壊さないよう咄嗟の判断でそうしたのだろう。

「そのあと、箱を調べたらお金に混じってまた羊皮紙が入っていて。そこに『炎の中で舞う君も綺麗だと思ったんだ。驚いたかい?』と」
「・・・・!」
「仲間は離れた所から火をつけるのは、炎の魔法の使い手でないと無理だと。ですが、詳しい事は分りません」
「性質が悪いですね」
 青年は嫌悪を滲ませて厳しい口調で、評した。

「本当に。あと、・・・・私が水浴びをしているところを・・・・覗かれたことも。例の如く箱の中、お金にまぎれてその時のことを書いたらしい羊皮紙が、出てきたんです」
『なんだとォォ―――!!』
 いつの間にか周囲に集まってきていたギルド利用者達が叫んだ。
「何処の馬鹿男だ、そいつぁ!こんな可愛い娘さんの水浴びを覗くなんざいくらファンだろうが許せねえな!」
「そいつ、私がイキノネを止めてやります。許されることではありません・・・・! アメリさんの裸体を拝もうなどとこの勘違いのストーカー野郎ォォォ・・・・!」
「落ち着いて。皆さん先ほど別の冒険の依頼をお受けになったばかりではないですか」
 青ざめて震えている青年もまたこの舞姫のファンだろうか。なんとかその場を収めて、アメリを奥へと案内しようとした。このままでは落ち着いて話す事もできないからだ。

「アメリ!」
「座長」
 ギルドに駆けこんできたのは、少しの衝撃で飛びそうなボタンが並ぶ、派手な衣装をまとった小柄で太った男性。癖っ毛らしい黒い髪の毛が絡まりそうになっている。
 ギルドの従業員は彼を奥へと通してやる。挨拶も手短に、急いできたのだろう、額に滲んだ汗をレースのハンカチで拭きとり彼はぜえぜえと息を乱していた。
「・・・・一緒に行ってやるといったのに、なんでお前はひとりで行っちゃうかね」
「私のせいで迷惑かけてるのに、座長の手を煩わせる訳にはいかないですよ」

 青年は二人の為に冷たい飲み物を持ってこようと、席を外した。
 戻ってきた時、彼らはヒソヒソ声で何かを話していた。
「だから言ってないですって。俺が男だってバレちゃ不味いって話は、散々昨日聞かされ」

 がしゃんッばしゃんッごろごろ。果物のジュースを運んできた彼の足元に見事にグラスがひっくり返る。アメリと座長が弾かれたように顔を上げた。顔面蒼白で佇む受付の彼。

「男・・え? ・・嘘でしょう?」
 座長が口を手で押さえて目を泳がせている。
「すみません、聞かなかった事に」
 アメリはひきつった笑みを浮かべる・・・・が、薄く目に涙を浮かべ始めた男性を見て表情を改める。アメリは机の上で両手を組み、至極真面目に告げた。
「なんなら胸触ってみます? 壁板となんらかわりがないですよ」
 隣でひいいっと座長が声にならない悲鳴を上げる。
 あまりの事にギルドの従業員は言葉が出ない。
 

「覗きのお話は先ほど御説明したとおり。その妄想癖全開ド変態の怖いところは、私が男だと知って尚、ストーカーを続行してるところにあるんですよ。最近の手紙の文面には、運命の出逢いとかいうフレーズばかりだったのに、最近は禁断の恋でも構わない、とかそういう単語が出てくるようになっちゃったんですよ。奴はどんどんヤバイ方向に向かってるみたいで」
「・・・・」
「どうやら普通の一般人じゃないようで。アイスコフィンっていう魔法あるでしょう? それで私を氷漬けにしようとしたこともあるんですよ。舞台稽古をしているとき、仕掛けられた事もあるんです。殺気を感じたんで思わず反射的に座長を楯にしちゃったんですが」
 座長と青年は微妙な表情で沈黙した。
「といっても術が正式に発動する前に仲間が、『何をしている!』って声をかけてくれたら、不発に終わり。慌てて尋常じゃないスピードで逃走したらしいんですけど」
「それがどうしてアイスコフィンだと・・?」
「『今回は失敗したけれど、次の舞台こそ、この魔法で君を永遠に美しいままの姿にしてから氷漬けにして、僕達の愛と一緒に閉じ込めてあげるから』ってご丁寧にメッセージをくれたからですよ。仲間に魔法に詳しい人がいて。ホモっけありで妄想癖で魔法使い、三拍子揃うと正直手に負えません。捕まえるの、手伝ってくださる方を募集したいんです」
 相変わらず自失している従業員を一度申し訳なさそうに見るアメリ。
「それにしても、同じ人物が水と炎、っていう反対の属性の魔法を使うことって可能なんでしょうか? あの、もしもしー?」
 アメリと座長が声をかけつづけ、数分後意識を取り戻した彼は、従業員の使命を思い出しよれよれになりながらも書き上げた。

【舞姫護衛!】
 勿論、姫の文字が震えがちになったのは・・‥言うまでもない。


●今回の参加者

 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb9700 リアレス・アルシェル(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

●公演前日 

 公演を明日に控え、依頼を引き受けた冒険者達は、流星座の天幕の中で団員達と話し込んでいた。
 アメリ本人より許可を得た例のギルドの職員から、舞姫の性別の真相を教えられていた冒険者達だが。その美少女ぶりを目の当たりにすると、皆驚きを隠せない。

「人は見かけによらない、と言うか‥‥ホントに『見かけ』によらないんだね、アメリさん」
 リアレス・アルシェル(eb9700)が『舞姫』をしげしげと見て、評する。
「うふふ・・・・いいじゃなァい・・・・女装美少年なんて。ホント‥‥お姉さんの、大・好・物・・くーくっくく!男と知って尚も狙うストーカー‥‥っていうのも」
「・・・・面白がってません?私的に結構切実にイヤなんですが‥・・」
「うふふ・・・・もう。若いのにカタいのねェ・・・・あらァ性格が、よ。意外と男らしいのねェ・・‥タイプ的には攻め、それとも誘い受け、か・も☆ まァ・・・・ブサイクな男だったら・・・・やっつけてあげるから。私‥・・カップリングには・・・・こだわる、主義・・・・」
 固まったアメリは、何か心得た様子の無言の瀬方三四郎(ea6586)に、はしっと口を塞がれた忌野貞子(eb3114)を呆然と見ている。団長がいち早く我を取り戻した。
「さ、さて!先程確認したとおり、手紙の筆跡鑑定により、どちらも癖字ではあるもののよく見ると別人である可能性が高くなりました」
 額の汗をハンカチで拭いつつ流星座の団長はせかせかと告げ、リアレスに頭を下げる。提案をした彼女は苦笑い。傍らではアメリは顔を顰めている。まさか二人とは、と彼の顔にはそう書いてある。

「犯人特定の為、水魔法発動時の発光色である青系統の淡い光と、火魔法発動時の発光色である赤系統の淡い光は、公演中は使用しないようにしていただけますか? 」
 ウィザードであると紹介された、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の専門的な提案に団員達は一様に頷くく。
「もしも犯人が今回も火の魔法、水の魔法を行使する場合、演出で行われたように見せたいんですが」
「公演を壊さないように、ですね。お気遣いありがとうございます。行使された際は、司会役の団長に奇術の一環であるとお客さんに説明してもらうことにしましょう」
 とはアメリ。
「犯人の付け入る隙を減らす為の提案なのですが」
 瀬方は断りを入れてから述べていく。出入り口が混雑を避ける為二つあるとのことだが、入り口を一つに制限して欲しいということと。ファン等、今回は控え室に極力ひとを近づけないようにと。
「水の魔法を使う犯人を見た団員の方は?」
「はい、俺です」
 リアレスの問いに、舞台の美術担当の、そこそこ背が高く筋肉質の青年が進み出た。舞台の下で皆を支えている普段肉体労働しているのがうかがえる体つきだ。
「アメリさんを水の魔法で氷付けにしようとした犯人の姿や特徴って、何か覚えてる?」
「特徴・・・・俺と同じくらいの背格好だな、と思いましたね。魔法使いっていうより戦士風というか。でもなんせ舞姫目当ての20代位の男の客は多いので、・・・・睨むな、アメリ、ええと、なもんでそれだけで特定するのは難しいですが・・・・」
「そっか、ありがとう。了解です」
「それで、クウェルさんが確か舞台のお手伝いをしてくださるとか」
「ええ、アメリさんは舞・・・・(コホン)姫であると同時に奇術師でもあるとのことですのでもし可能ならば出させていただこうと思います。助手件、囮として」
「助かります。ぜひ、お願いします」
「チキュウでは、身体を切断されたりナイフを投げられたりするような役割だそうですが‥・・?」
「今回は、箱の中に入って頂いて刃物を突き立てるとか、そういうのはあります」
「そ、そうですか」
 その反応を見、アメリは軽やかに笑う。
「大丈夫、私は奇術に関しては子供の頃から修行を積んでいますし、万が一にもクウェルさんを傷つける事は絶対ありませんので。ただ、一緒に踊って頂くような事は難しいですか? やはりどうしても私の舞いを楽しみにしてくださる方がいるので、それを中盤以降省くことはできないのですが」
「私は踊りなどは素人に毛が生えた程度しか出来ませんのでそれでも舞台に立てればですが・・・・」
「素人・・・・」
 反芻し、暫く考え込んだ後、アメリが目を輝かせた。
「なら名案があります。クウェルさんは最初客席に混ざっていただいても?」



●開演

 流星座は珍しい見世物と、看板である舞姫が評判を呼んで、その日もまた天幕の前には沢山の人が長蛇の列を作っていた。入り口を一つに制限したことによって入場時間は増すが、この際仕方ない。クレーム客には入り口の団員等がにこやかに、うまく対応している。
 クウェル・グッドウェザー(ea0447)は事前の打ち合わせ通り、お客として舞台の最も近い最前列へ。リアレスもまた客に混じり、観客席を見渡せるよう、客席の後方の席につく。天界風に言うところサリーという衣装に近い色鮮やかな布をまいて、団員に扮したソフィア。瀬方は他の団員と共に客の誘導を行っている。ソフィアは他の団員と共に入場料支払いの箱を団員に代わり抱え、にこやかに応対しているが、コインと共に別のものを混入しようとしている者が居ないか、油断無く観察している。そして一人の不審な男を発見したものらしい。小柄でぽっちゃりとした体つきに黒い短髪、ゆったりとした服を着て、特徴的な眼鏡をしている。傍に控えていた貞子にアイコンタクトが送られる。客に紛れてその男を、追う。そして客は全て天幕の中へ消え、ソフィア、瀬方、団員らは情報を交換する。
「ひとり不審な様子の男性がいましたね。何かお金と一緒にこの中に入れたみたいです」
「ソフィア殿が見つけた男は、貞子殿に一先ず任せましょう。お二人はそれぞれの配置へ。私はここで不審な者が逃走しないよう見張っております」

 
 団員の笛や弦楽器などの演奏が始まり、照明が当たる。明るい金色の光に照らされた舞台中央に、舞台袖からひらひらとした衣装をまとった少年少女が、軽快な調子で現われる。彼らはかなり難易度が高いと思われる空中ブランコなどに挑戦している。団長自ら道化師の姿になり、奇術を行い何もない筈の箱の中から次々生き物を登場させ、彼ら猪や猿を使い、様々な芸をさせた。色とりどりの球転がし、団長の喋りや舞台をユーモアたっぷりに駆けまわる動物達は客席をどっと沸かせた。途切れることのなかった音と光の演出と流星座の皆が見せる、現実を一時忘れさせる程の演出。それがふっと初めて闇の中に消える。客席の歓声も静まった。舞台の中央には異国風の衣装をまとった黒髪の乙女が膝を抱えるように顔を伏せて蹲っている。
 薄闇の中、細い腕が孤を描く。りん、と鈴の音が響いた。ふわりと動きだし希代の舞姫は舞台を妖精のように軽やかに舞い始める――。

「今宵はメイディアでの公演最後の日、特別にお客様の中の一人、我が流星座一の美女、舞姫アメリと共に舞台に上がって頂きましょう」
 我こそがと歓声が湧き上がる。相手を押しのけて舞台に近づこうとした熱狂的なファン達を上手くかわすように、アメリは軽やかにある人物の傍に近づく。ひっぱりあげられた――クウェル。

「アメリが選んだのはこれはまた美しい青年ですね。だが、選ばれなかったお客様もどうぞご気分を害されますな、これからこの男性を待つのは、幸福と恐怖が隣り合わせの役目。流星座一の舞姫は希代の奇術師、彼女の銀の刃を彼はその身に受けることになるのですから!」

 舞台中央までアメリのリードで二人は舞いを披露することになる。慣れぬステップもアメリのリードとクウェル自身の運動神経の良さでサマになっている。舞台袖から現れた人が入れるくらいの、巨大な暗褐色の箱。アメリは、床に置かれたそれに入ることを促す。箱の中身が改められた後、中に横たわったクウェルの頭だけを突きだす感じで、蓋は閉じられる。
 演奏は盛り上がり、アメリはその『客人』の額に、柔らかな唇を押し付ける。
 目ざとく気付いたファン達の怒号、悲鳴、きゃー! っという黄色い声などが響き渡る。唖然としたクウェルに、にこりと舞姫は笑いかける。そして彼にだけ聞こえる声で小さく呟いた。
「すみません、ソフィアさんと貞子さん達にそれくらいはしろと言われていたもので」

「ををっと今夜の幸運な客人は、舞姫アメリより祝福のキスを与えられました〜!これで彼の体は銀の刃は貫通しつつも、無事生還を約束されたに違いない!」
 例の道化師姿の団長は大きな声と身ぶり手ぶりで盛り上げる。
 団員達の手で台の上に箱が載せられる。その脇にはこれから使われるであろう十本ほどの長い刃物が並べられている。アメリがその長剣の一本を片手に構え、箱に近づいた‥‥!
 

●『炎』の彼

 火と水の魔法の発動光。客席の二か所でそれぞれが確認された。身体を赤の光に包まれた体格のいい男がリアレスから多少離れた位置にいる。放たれた炎は天幕に燃え広がると思われたが、派手な勢いで舐めるように広がったかと思うとあっという間に消火された。ざわめく観客達に団長がとぼけた口調で、派手な演出、奇術の一環という事で強引にアメリのいる舞台へと観客の気持ちを引き戻した。見事な手腕だ。
 舞台袖にいたソフィアがスクロールのファイアーコントロールで炎を消しとめたのだ。戸惑ったように大きく青年の体が波打った。動揺が色濃い動き。立ち上がった男に近寄ったリアレスがぶつかった。相手がびくっと体を強張らせる。
「わ、ごめんなさーい」
 脂汗を滲ませた男に、若干わざとらしく謝罪する彼女。男は何かを悟ったのか、彼女を突き飛ばし出入り口のほうへと駆けだした。リアレスも即座に反応し追いかけ、使いなれたホイップを繰り出す。絡めて動きを止めようとしたが、敵もさる者、他の立ち見をしていた観客を彼女のほうに突き飛ばしてくる。突如絡み付いた鞭に心底びっくりした様子の女性を受け止め、事情は後で話します、ごめんなさい、と謝罪をするリアレス。顔を巡らすと男が出口に消えていくのが見えた。


●『水』の彼
「アメリたん、アメリたん、僕のアメリたんに近づくなぁあああああ‥・・」
 ぶつぶつと呟き男は魔法を唱え始める。彼が愛する美しい人物を閉じ込める氷の檻を作ろうと思っていたが、許しがたいあの箱の男。標的はチェンジだ。身体を取り巻く青の光。けれど周囲の人々は、舞台に釘付けで彼の動向に気付かない。
「・・・・・・・・!?」
 高速詠唱を所持していない彼は魔法の発動まで時間がかかる。そうこうしているうちに、小太りの男はがくんと力なく蹲った。身体が急に重くなったように感じられた。身体に生じた異変に青ざめる。途切れた魔法を再び唱え始め、今度こそ詠唱を終え魔法を解き放つ筈が、彼の期待通りの光景は広がらなかった。またも術は中断したからだ。
「‥‥まだあと20人近くの冒険者が潜んでるわ。あの子が、好きなんでしょ‥‥。だったら‥‥大人しく観覧なさいな」
 背後から肩を鷲掴みにしてくる相手から感じられる、有無を言わさぬ気迫。絶対零度の声とはこういうのを言うのだろう。男は震え上がった。魔法の詠唱の失敗。例え成功したとしても舞台で囮になっているクウェルのレジストマジックで魔法は不発に終わっただろう。がくんと男は力なく項垂れた。


●衆道の恋の末路

 逃亡を図った『火』の男は天幕外、出入り口で瀬方に素早く胸倉をつかまれて、背負い投げで地面にたたきつけられた。地面に押さえつけ腕を捻りあげながら、せつせつと瀬方は、話し出した。

「武士道にも『衆道』があります故、男子同士の道ならぬ道も理解しております。
 しかし、それは互いの理解と尊重、何より愛があってこそ。
 相手の気持ちをを顧みず、ただ己の欲のままに心身を奪おうなど言語道断!!
 男子たるもの、恥ずべき事が無ければ堂々と思いの丈を伝えなさい。
 そして如何なる返答であろうと、しっかと受け止めなさい!」
 朗々と熱く『衆道』とはなんたるかを解く瀬方に、犯人の片割れは地面に投げ出され放心状態である。

「瀬方さん、その人実は気絶してるのかな? うんともすんともいわないけど」
「・・・・はぁ、もしかして、そのひとはアメリさんが男性だって知らなかったほうの犯人さんかしら?」
 駆け付けたリアレスとソフィアが口ぐちに言う。
「‥‥。私が言ったことちゃんと耳に入っておりますかな?」
「・・・・聞いてる。アメリが・・・・男? って本当・・・・?」
「外見は娘御のように可憐だが中身は立派な雄々しき男子ですぞ」
「うんうん、見た目は美少女、実は凛々しい男の子、ストーカーさんを見つけたらぶん殴るって宣言してたよー。手の骨ぼきぼき鳴らしながら」
「嘘だ、嘘だっ‥・・! 清楚で可憐な花みたいな、あんなにきれいな彼女が」
「夢を壊して申し訳ありませんけど。触らせて頂きましたけど、胸は本当に壁板のようでしたよ。あの方は正真正銘、男性です」
 ソフィアがどきっぱりと、宣言した。
「嘘だろォ・・・・・・」
 悲鳴を上げ、がくっと首を落とした。泡までご丁寧にふいている。
 そして冒険者達は犯人達を縛りあげ、犯人二人を流星座に引き渡した。
 その後アメリの鉄拳が降ったのか、殴ることでさらなる変態さんにパワーアップするのを恐れて(特に『水』の彼は生粋の変態さんである)踏み止まったのかは想像にお任せする。
 非日常の空間、時には幻想的、時には心より笑え興奮できる素晴らしい舞台を披露してくれた流星座のメイディア最終公演は大成功の中、終了した。
 ちなみにアメリはあと暫くは『舞姫』としてやっていくつもりとのことである。