【僕の森】
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月05日〜06月11日
リプレイ公開日:2008年06月13日
|
●オープニング
「今、村は敵に包囲されている。森に手を出した我が村の者達は、森の魔物の怒りをかい滅ぼされんとしているのです。言い伝えを蔑ろにするようなことをしたから、罰があたったのでしょう」
椅子をすすめられどっかりと腰を落ち着けた男の横には、 紅い服を着た十歳程の少女が座っている。娘なのだそうだ。ゆるく波打つ茶色の髪をリボンで結わえて、お人形のように口を閉ざしたまま彼女はそこにいた。戸惑ったような職員の反応を見、男性は隈を作った目元を強張らせ、口を歪めた。
「申し訳ない、いきなりそんなことを言っても、当惑させるだけでしたな」
「いえ、そんなことは」
「順を追ってお話させていただきます」
職員の否定を受けて、思いのほかしっかりとした口調で語り始めた。
メイディアから、その問題となる村まで馬車でまる二日程かかる距離なのだそうだ。
昔のまま時が止まりどこか取り残されているような状態だった、その地方の小さな村。酪農や、農業、そういった事だけで生計を立てていた小さな村の人々は、もっと自分達の生活を豊かによりよいものにする為に策を講じた。
村の近隣には、豊かな深い森があった。森は古くから存在し、沢山の茸や木の実があるだけでなく、森のあちこちで手に入る湧き水は、病や怪我の治癒に効果を発揮するもので、沢山の薬草も豊富に生えていた。しかし昔から森の入り口付近しか入ることをよしとしていなかった村人達は、必要最低限の恵みを手に入れるだけで、それ以上手を出したりはしなかった。
「我が村には以前より伝わる言い伝えがありまして。齢数百年になる大樹は意思を持つ事がある・・・・というのを聞いたことはございますか?」
「ええ。・・・・樹齢百年を越す大木は、力と心を持ち得ることがあるとか」
「はい。森の主であるトレントを崇め、必要以上にその森に踏み入ってはいけないという教えでした。森の生き物を傷つけることで災いが降りかかるだろうと。トレントと呼んでいるその大樹は、未だ村の者達の畏敬の象徴でした。
けれど、その口伝が生じたときから今まで余りに長い時が過ぎた為か。畏怖を抱きながらも、貧しい私たちの村は、村の収入源を増やすため、森の恵みに目をつけ、森を開くことにしたのです」
時代も移り変わり村人の生活に密接に関わっていたその深く広大な森の奥に分け入るようになると、森の獣達だけでなく、そこには多種多様なモンスターも棲み付いていることもわかった。村の中でも腕に覚えのあるものが、数人がかりでその森に向かいモンスターを退治することもあったが、数的に圧倒的に不利な状況だった。
森の恵みをもっと享受する為には、皆が森のモンスターは邪魔だとみなしていた。村人は人とは極めて異質である森の魔物を退治することに決めた。冒険者を雇い、村人も協力して『敵』を排除しようとしたのである。
「森に巣食う沢山のモンスターを退治することは私たちの為だけでなくトレントや、森の獣達の為になると考えていました。ところが・・・・。我らは読みを誤ったのかもしれません。そう考えるに至ったのは、あるひとりの少年の行動でした」
彼は憂い顔で深くため息をついた。
「少年・・・・?」
ギルド職員の青年の眉をひそめさせた。
男性は一層強張った顔つきで、重々しく頷き、告げた。
とがった耳、その深紅の瞳に逆立った髪、がりがりに痩せ、獣のように手を前足のように使い村人を襲ってきた少年のことを。
幾度か森に入った人々、彼らがモンスターを退治しようとした場に神出鬼没で現れて、暴れまわって村の者に重軽傷を負わせたのだという。
「私たちの村は貧しい。山を背に、前方には森が広がり、我々は逃げ場がないのです。そして、小さな村とはいえ、別の場所に住処を、移動するわけにもいかんのです。私たちがきっかけを作ったのは事実、ですが。魔物が村のごく周辺で目撃される事が増えました。このままでは遠からず村は滅ぼされてしまいます。森の大樹のもとにいき、もう森から手を引くことを伝えなければならないが、その途中魔物に出くわし退治すると、その血の臭いを察知したように少年が現れ、行く手を阻もうとする」
ここに来るまでの道中も、比較的安全とされる数少ないルートを通って、無事辿り付いたのだという。一人娘を危険な村に置いていくのも憚られ、連れてきたようだが・・・・。心痛の余り胃腸を痛めているのか、男は席を外した。残された少女は、書面に必須事項を書き入れていく青年に声をかけた。
「・・・・冒険者のひとたちに伝えて。村ではみんなあまり口にしないようにしているけど、森にすむその男の子は、ひとだけど、ひとじゃないの。エルフのパパの血がはいってるの。たぶん、私が生まれるより前に、森に捨てられちゃった子なの」
「―――捨てられた子供?」
「そう」
こくりと、少女は頷いた。
迫害は小さな集落になる程強い傾向があった。仕事柄ハーフエルフである冒険者らに出会う機会が多い彼は、そういった偏見を持たなくなって恐らく久しいのだろう。
「・・・・その子は、ハーフエルフなんだね」
複雑な表情で、その種族の名を口にする。
「エルフと人間の、子なの」
少女はハーフエルフという言葉を知らないようだった。そう、口にする。
「いっぱい、その子にきずつけられたむらの人がいるけど、でもそれはその子がぜんぶ悪いわけじゃないよ。トレントが好きで、森が好きで、動物も、森に棲むまものも、あの子の友達だったの。みんなが、まものをわるものあつかいしていたから、食いちがっちゃったの。いってること、わかる?」
「・・・・うん、判るよ」
「あの子のママは今も村に居るよ。でも、あかちゃんを生んだときのショックで、・・・・あかちゃんの、大きく開いたおめめが真っ赤だったんだって。それを見たその子のママは少しおかしくなって、あかちゃんはむらのひとに捨てられちゃって、パパはいなくなっちゃったの。詳しいことはわかんないけど・・・・みんな、こっそりその子に違いないってうわさしてる」
「そう」
「その子は嬉しくないかもしれないけど・・・・これ、その子のママのもの。この間遊びに行ったとき、渡されたの。トレントの子供に渡してっていってたんだ」
トレントの子供――。
美しい指輪だった。小さな手のひらに乗っていた指輪を預かり、職員は確認する。
「・・・・依頼を引き受けてくれた冒険者の人達に頼んでおくよ。この指輪をその男の子に渡して欲しいって」
少女の体温が宿った銀の指輪に秘められた人の想いに、思いを馳せる。
その不幸な母親が少年のことを何処まで把握しているかは、わからない。それでも。
少女は肩の荷が下りてほっとしたのだろうか。泣き笑いのような顔をして、頷いた。
●リプレイ本文
●病んだ村
重苦しい空気が漂うその村に訪れた冒険者達を迎えたのは、ささくれ立った荒んだ態度の村人達だった。背後に広がる巨大な森から現れる異形の者におびえ、皆精神的に参っているらしい。
依頼主と村長、村の年かさの者達が一番大きいと想われる建物に集まり、冒険者を交えて話し合いの場が持たれたが、皆思い思いに不安や恐怖を口にして話しが進まない。
想った以上に荒れている彼らを落ち着かせるべく、声をあげた天界人の演歌歌手、水無月茜(ec4666)がメロディという魔法で彼らの精神を落ち着かせた。
「我らの行動が森の主の怒りに触れたのなら、これ以上森の奥に入るのは控えたいというのが我らの見解なのですがな。しかし我が村は豊かとは到底言いがたい。今までどおり森の入り口辺りを入るのは許してもらえれば助かるのですがな」
「それが無理なら・・・・。それ以前に、わしらが今後森に足を踏み入れないと言ったとしても、果たして彼らはそれで引いてくれるものか。・・・・わしらに明らかな敵意を抱く子供が森には棲み魔物を庇うような行動をとっているという。村の者達もその小僧に手傷を負わされ酷い目にあった」
「・・・・失礼ですが、その少年が何者かあなたがたは心当たりがおありでしょう?」
少年を非難する村人達の様子を見て想うところがあったのか。苦いものを含んだクロード・ラインラント(ec4629)の発言に、室内にざわめきが走る。怯えと嫌悪が浮かんだ老人達、視線を逸らした依頼人の姿を冒険者達は見た。
「なぜ、それを。誰から聞きなさった」
「誰が口にしたかなど、たいした問題じゃないさ。残念だが、もはや君たちが限界なのは自覚しているだろう。・・・・生き延びたければ、英断を下したまえ。少年は君たちを許さないかもしれない。だが、それは彼の当然の権利だろう? もし共存出来ずとも、互いの領域を侵さなければいいんだ」
壁に背を預け、腕組みをして沈黙し続けていたキース・レッド(ea3475)が、少々厳しい口調で言い放つ。仲間達は彼の想い人がハーフエルフの女性だということを道中、そして一部の者は今まで関わった冒険において理解していた。村人は十中八九異端を理由に、産まれたばかりの赤子を森に捨てたのだ。彼の苛立ち、やるせなさは当然察せられた。諌めるのではなく、語を引き継ぐ形で、クロードが続ける。
「・・・・村の現状を考え、トレントに、以前のように森の入り口付近での作物の採取等は出来るように、可能であれば交渉してみます」
「それは助かる」
村人達は皆口々に言い合った。
「私は天界人なのですが・・・・酪農や農業に関し、生産性向上の余地がないか、助言できることがあれば、全てが終わって村に戻った後しましょう。そして・・・・。皆さん。もしその少年が村に帰る意思が生まれた場合、受け入れて頂く事は可能ですか?」
押し黙った彼らの反応が、答えを如実に現していた。
●緑の海
森の中は樹海といった様相を呈してきた。土御門焔(ec4427)が、炎以外の灯りを確保すべくライトで光明を作り出し、ついでフォーノリッヂの魔法を発動する。
術者が指定した事の大まかな未来を知ることを可能とする魔法だ。トレントより少年のほうがはっきりと『視えた』ようだ。
「赤黒い髪の少年の姿が見えます。とても痩せている姿で、獣のような動きで、モンスターを庇うように、とても悲しそうな顔で戦っている・・・・」
湿った土に隆起した木の根、その道なき道を五人は進む。
途中ブレスセンサーを使用したクロードは、溜息交じりに言う。
「魔物の数が多すぎます。皆、こちらの様子を伺っているようです」
緑の海の中、色鮮やかな蝶が舞う。日中陽の光すら遮る鬱蒼と広がる森の中冒険者の頭上をひらひらと燐粉をまき散らしていく。
ただの蝶ではない。術を扱う三人の楯をかって出ていたキースと、シャクティ・シッダールタ(ea5989)が目を見交わし、三人にその場を退くように合図する。直後、ざわ、と奇妙な気配が周囲から膨れ上がった。
「!!?」
素早く植物の影から大量に向かってきた生物の鎌が唸った!
仲間達を庇うべく立ちふさがったシャクティだが、その腕が大鎌に切り裂かれる。ジャイアントマンティス、と仲間の一人が叫んだ。襲いかかる大カマキリをキースが素早く鞭でうち払っていく。諦め離れるもの、鞭で打ち払われようとも向かってくるもの、腹が膨れている大きなカマキリはメスだろうか。奇妙な外見の魔物に青ざめ怯えた様子を見せていた茜も、焔同様、何匹ものカマキリをスリープで戦闘不能にした。クロードがシャクティの治療を行い、五人は森の中心を目指す。
敵意。隙あらば人間を排除しようとする意思が森中から伝わってくるようだ。それに気押されたのか、皆必然的に無口になった。森の中心に近づくにつれ、道なき道はさらに険しくなり、モンスターの数も増えていった。可能な限り無血で進む道中、幾度か比較的温和そうな生物にテレパシーを使い、思念で少年の事を尋ねようと試みた焔が、首を左右に振った。皆少年の事に関しては頑なに口を噤んでいる様子だと、告げる。
やがて、森の中そびえる一本の大樹が見えた。もしやこれがトレントか、と近づく彼らに襲いかかってくる樹。蔦が絡んだ木はその枝を振りまわして冒険者達を攻撃してきた。強烈な鞭にも似た長いそのよくしなる枝を辛うじて避けて安全な場所に移動した仲間のうち、クロードが呟く。
「依頼人が言っていたトレントによく似た人を喰らう事しか頭にない食肉植物とはこれの」
クロードは口を噤む。今対峙していた大樹の影から姿を現す生物がいたからだ。
薄暗い森の中にあってもあの獰猛な目つきは想像がつく。こちら目掛けてモンスター達は向かってくる。不気味な光景に、皆に緊張が走った。弓矢がこちらへ飛んでくる。ホイップで払い落しながら、キースが皮肉を込めて評し、唇を歪める。
「オーガ、・・・・それに、ゴブリンか。本当に、次から次と現れるものだな」
「依頼人のおっしゃった通りですのね。豚鬼や子鬼・・・・わたくしが引き受けますわ」
進み出たシャクティが構える。真剣な表情だ。
「殺しは致しません。御仏に仕える者としては無益な殺生は好みませんもの」
達人級の格闘技術を持つ彼女は、かけだす。武器を手に持つ彼らが反撃を試みる前に、流麗な無駄のない動きの蹴りやその拳で無血で、敵を地に沈めていく。
「皆、下がるんだ!」
その時だ。キースの鋭い指示が飛んだのは。
頭上、恐らく樹上から実に身軽に何者かが石のように落下してくる。
痩せっぽっちの、だが爛々と光る双眸を持つ少年は、高所からの着地に関わらずうまく衝撃を緩和して四つん這いになりそこにいた。唸り声を上げて獣のように襲いかかってくる。狙われたのは直ぐそばにいた茜だ。
「きゃっ・・・・」
慌てて下がろうとして植物に足を取られてバランスを崩す。僅かな逡巡の後、やむなくホイップを唸らせるキース。身体を打ちすえられてぎゃん! と苦痛を堪えるように声を上げもんどりうって少年は転がるが、すぐ態勢を立て直し、地を蹴った。怒りの形相で狙いをキースに替え彼は突進していく。少年の鋭い爪はナイフのように唸る。接近戦でそれをかろうじて避け続けながら、キースは怒鳴る。
「やめたまえ! 君を傷つけるつもりはないんだ!」
伝わらないと判っていても、叫ばずにはいられない――、その表情が告げている。
「テレパシー!」
呪文詠唱後、術を解き放ち、少年に説得を試みようとする焔。だが荒ぶる少年はその対話に応じようとしない。シャクティがゴブリン達を昏倒させ、かけ戻ってくる。キースを狙う少年を背後から素早く抑え込む。少年は唸りながら暴れる。
「ウー!!! ウゥゥウウゥウ!!!」
でもシャクティは辛抱強く少年を押さえ続ける。よく通る声が響く。茜のメロディだ。のびやかな声が森の中に響く。荒れた心を落ち着かせる不思議な響きの歌。少年が喉を鳴らす。人の全てを拒絶するように怒りを漲らせていた顔からだんだんと憑きものが落ちていく。
「山童子・・‥わたくし達は、あなたを、あなたの大切な森を傷つけるつもりはありませんわ。豚鬼や子鬼達に乱暴をしたことは謝りますが、わたくし達も殺されるわけにはいかなかったのです。彼らもまた時間がたてば目を覚ますでしょう。わたくし達の言葉に耳を傾けてはくれませんか・・・・?」
優しく、シャクティが囁くように願う。クロードがテレパシーで、少年にシャクティの言葉を伝える。優しい抱擁の中、少年は力を抜いた。抱擁を受けながら、少年は獣の声で小さく鳴いた。
「何が目的で森に入り、何を望むのだと、聴いています」
焔が進み出て、少年の心に直接語りかける。
彼らは『思念』で対話しているのだろう。やがて、少年は小さく頷きシャクティから離れた。ずっと優しく抱きとめていてくれたシャクティを何か言いたげに見上げてから。くるりと背を向け、彼らを誘うように動きだした。恐らく、森の中心にある大樹『トレント』の元へと。
●森の大樹
どれ程歩いただろう。頭上に広がる木々の緑。樹齢数百年に及ぶ大樹は、静かに森の中央とおぼしき場所に在った。案内を終えた後、ふいと少年が大樹のもとへと向かう。大樹の隆起した根元の間の窪みは、彼の所定の位置なのだろうか。腰を下ろし、何処かに消える様子でもなかったようなので冒険者達は、ひとまず焔とクロードはトレントと対話を試みる。
「森の魔物とは異なり、トレントに、村を積極的に襲う意思はないようです。村人が森の奥に入り魔物を傷つけることをしないというのなら、今まで通り森の入口付近で植物等を取ることは構わないと」
焔が少し安堵したように笑う。
「少年の狂化は沢山の流血が引き金になるようです。血の匂いにも敏感な為、森の中での必要以上の殺生は禁じているのだと。村の方たちにもそれを伝えましょう」
神妙に告げたクロードに、首を傾ける、茜。
「でも、今までこの森で・・・・こんなに魔物や生物がたくさんいて、流血沙汰も、ゼロじゃなかった筈じゃ?」
「この森の魔物達は森の住人に対し、必要以上の殺生はしないのだそうです」
「魔物が・・・・?」
「この森は一つの世界なのだと。人が入り込む事でその均衡は容易く崩れる、だから奥には入らせないで欲しいと」
「山童子・・・・あの子を、人の世に返すことは無理なのでしょうか?」
大樹に駆け寄り、シャクティは問う。その声は真摯だ。キースも進み出る。その手には銀の、美しい細工が施された指輪がある。
「彼の母親から、指輪を預かっている。トレントの子供・・・・少年の手に渡る事を彼女は望んでいるようだ」
焔とクロード、テレパシーを使える彼らはトレントを見上げる。
大きな幹。広がった枝にびっしりと生い茂った葉が立てる音が、耳に届く。
まるでトレントが嗤っているかのようだった。
―――やがて、焔は項垂れた。クロードが沈黙した彼女の代わりに口を開いた。
「・・・・トレントはこう言っています。『あの子は人の世から捨てられた。あの子は一度死んだのだ。彼を一生護ってやることができないのなら、そんなことを言ってはいけない。決して言ってはいけない―――・・・・』」
違うトレントは人を、嘲笑っているわけではなかった。
恐らく、自分の傍で生きる少年に慈愛を注ぎつつ、数奇な運命をたどり森で生きるその子供を憐れんでいたのだろう―――。
●終章
人が森を侵さないのなら、魔物に村人を襲うようなことはさせない。
岐路につく冒険者を道案内してくれている彼は、テレパシーで焔と対話を続けていた。森の魔物とある程度の意思の疎通ができる少年は、そう約束してくれた。
クロードはトレントに約束を取り付けた薬草の採取をさせてもらい、村へ持ち帰るべくそれらを丁寧に摘んでいった。村で薬草を沢山育てる事が可能であれば、村の収入を支える一助になるかもしれない。
森を抜けて。村が見える場所で少年は足を止た。四つん這いのまま、純粋な目で彼らを見ている。キースは少年の頭を優しく撫でた。煩そうに軽くそれを押しやる少年を見て、キースは少し笑う。焔とクロードも何と声をかけていいのか判らない様子でそれ以上村へ近づこうとしない少年を見つめている。
「互いに愛し合った結果なのに‥‥この世界にも、どうにもならない事って…あるんですね・・・・」
「茜君・・・・」
声を詰まらせ、茜は顔を覆ってしまった。
トレントの言葉を聞いてからずっと落ち込んでいたシャクティは、少年に近づき、キョトンと見上げてくる彼に微笑みかけ、やがて静かに涙を零した。少年はキースの差し出した指輪にまつわることを、仲間のテレパシーを通じて知り一度怒ったように顔を歪めたが。傍で泣いているシャクティや気遣わしげに見てくる彼らの前で、複雑な顔つきながらもその指輪を受け取った。少年は薬指にそれを嵌める。
村から数人の村人が、冒険者らに気付いたのか近づいてきた。弾かれたように少年は顔を上げる。そして一度冒険者らと目を合わせてから。身を翻し深い森の奥へと消えていった。