【協力者募集】美食ホテルオープン奮闘記
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月12日〜07月19日
リプレイ公開日:2008年07月18日
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●オープニング
「ちょっとちょっと‥‥!? ここに店を出せっての?! あなたは!!」
首都メイディアより馬で半日ほどの、海沿いの街、の外れで響き渡ったのは――まだ若い娘の叫び声。
天界風にいうと地中海系料理を得意とする料理人のリザが、師匠の下数年に渡るメイディアでの修行を終えて、晴れて自分の店を出そうとこの海沿いの街に目をつけたのは二月ほど前のことだ。
事前に場所の確認等行ってきたリザは、目的の場所にはとうに『違う店』がオープンしている現実を前に何を思っているのだろう。リザの妹のアルマは、密かにそんなことを考えた。
「そりゃ建物や土地代を全額先払いで入金してくれる人のほうが都合がいいだろうけど‥‥それにしたって、少しとはいえうちは前金払っていたのよ!? それなのに」
メイディアで懸命に働いていて、迷惑をかけないようにと後任の料理人に引継ぎをしてきたリザ――少女の兄は、確かにこの街に頻繁に足を運ぶことはできなかった。その為、残りの代金も支払いが遅れていたのは事実だ。けれど、先ほど対応に出た男の愛想笑いと、『残りの支払い期日が迫っているのになんのご連絡もないもので、てっきりこのお話はなかったものになったのかと』という発言はどうかと、少女は思うのだ。兄の念願だった店を出すにあたって、二人は色々計画を練っていた。幅広い年齢層に食べて欲しいと願っていた料理の数々、若者もお年寄りも気軽に立ち寄れるような居心地の良い店内にしよう、とか‥‥。
それなのに、と。その後、怒りが収まらない妹と、呆然としていた兄の為に謝罪と共にもうひとつ店を出せそうな場所と、空き家になっている建物があると紹介してくれたのではあるが、それを前にして冒頭のセリフを叫んでしまった妹。言葉を失い立ち尽くす兄。『もしこちらで契約して頂ける場合、ご連絡ください。建物は自由に手を加えて頂いて構いませんので』と告げ。愛想笑いをお面のように貼り付けたあの男は、妹の怒髪が天を突く前に尻尾を巻いて逃げていったのだった。
そう、街の外れ、広範囲に続く防風林の影にその建物はあった。先ほどの男の説明によると数年前に飲食店を営み経営不振で営業こそ終了した後、そのまま放置されていたらしい白塗りのそれなりに大きな建物が。もちろん雨風に晒されて部分的に色が剥げ、ドアもまた軋みを上げそうな有様だ。防風林の木々の間から光が差し込んできている。腰ほどまで届く雑草が生い茂る、見渡す限り荒れ放題の庭を兄は横切り、木々の間から見える海を眺めた。大柄で朴訥、といった外見の少女の兄は少女を振り返り、からりと笑った。
「見てみろ、アルマ。眺めだけは最高だぞ。へえ、階段もあるんだな。直せば砂浜に下りていけるか」
「リ、リザお兄ちゃん?」
呆然としていても仕方ないと判断したのか、兄の顔には不思議な明るさがあった。まさか本気でここに店を出すつもりなのか、と目で問いかける妹に、はっきりと彼は言った。
「場所はさておき眺めはいい。この建物も手を加えれば使えるだろ。アルマ、ここに店出すぞ」
「ほほほ本気なのお兄ちゃん! こんな辺鄙なところで、前の店も潰れたっていうのに! 縁起悪すぎよ!」
ひいいっと顔を引きつらせた妹の遠慮ない物言いに、兄は笑った。
「アルマの言い分はわかるが、俺の勘はそれなりに当たるの、知ってるだろ? この場所は悪くねえ。最初からレストランだけとしては難しいかもしれないが、かなり美味い料理を食える眺めのいい宿屋もかねてってんなら‥‥客は来ると思わないか?」
「!!!?」
「幸い、宿なら街道を利用する冒険者や旅人をターゲットにできそうであるしな。夜は宿、昼はレストランとして営業して。最初は宣伝しまくって、あとは口コミを期待して。リピーターが付けば必ずなんとかなる」
「お兄ちゃん」
「一緒に頑張ってくれ、アルマ」
この雑草の生い茂った蜘蛛の巣を張り巡らしているであろう建物を前にして、兄は朗らかに言う。胸の前で手を組み、目を潤ませ震えながらアルマはつぶやいた。
「お兄ちゃん。う、うしろ!」
「おわ!!!」
手にしていたバックでぶっ飛ばしたのは、蜘蛛。大人の男の手のひらサイズの蜘蛛がぶらぶらと糸にぶら下がっていたのだった。この場所の周辺には防風林や植物が生い茂っているだけですんでいる人はいない。まさか、と二人の中にある考えが閃いた。不吉な予感とも言うべきそれは的中した。
建物内、その周辺の自然には虫達が‥‥かなり強烈な大きさになった常ならぬでかさの虫達が棲んでいるようだった。
ここ数年の間に、人の手が入らないのをこれ幸いに、繁殖しまくったらしい。一時間後、虫の巣窟になっている建物から離れたところで、アルマとリザはへたり込んでいた。未知との遭遇の後に相応しい硬くこわばりまくった体をぎしぎしと動かし、アルマが歪んだ笑顔を兄に向けた。
「お兄ちゃん、女性客を見込みたいなら、これは駄目だわ。可愛くない生き物の巣窟になってた宿屋なんて賭けてもいい! 誰も来たがりゃしないわよー!? 私だって嫌よー!」
ぐすんぐすんと泣きながら訴える妹の頭を撫で、兄は評した。
「アルマは昔から虫が苦手だもんなぁ」
「蜘蛛や蟷螂の柔らかそうなお腹とかムカデのうねうねとした動きとかああああああ嫌なのー!」
「いや虫は追い出せばいいんだから、落ち着け、アルマ。しかし・・‥ふむ。不動産のあいつ、この話はしてなかったからな。また値切る口実ができたか。元々破格値ではあったけどな‥‥うまくやればここただ同然で手に入れられるかも」
こいつは名案と目を輝かせるリザに、アルマは絶望のこもった眼差しを向ける。
「な、なんでお兄ちゃんそこまで冷静なのよー! てか、まだここで店出すつもりなの? マジありえないんだけど! お願いだから止めようよ〜〜ッ」
「アルマ、兄ちゃんの勘に狂いはない。結果は後から付いてくる・・‥ってな! 最初は大変だが二人で乗り越えよう。まずは人手を募ってこの店をオープンできるまで持っていかなけりゃな」
格安でこの土地と建物は買えるから、資金を他に回せる。建物の修復、壁の塗り替え、好き放題に生い茂った庭や防風林周辺を綺麗にし、晴れてオープンできる準備が整ったら客を呼び込むための宣伝をし、そしてそれ以前にこの『場所』に巣食う生き物をどうにかしなくては。妹は虫関係に限ってはまったく頼りにならないし、棲みついているもはやモンスターといってもいいような虫達の存在は、さすがに一人ではどうにもならない。そうだ、冒険者ギルドで依頼を出してみるか、と呟き。思い浮かんだ名案に満足したのか、リザは笑った。
「ついでに俺もお前も名前付けるのとか下手だからなぁ。店の‥‥宿の名前も一緒に考えてもらうか」
「‥‥これっぽっちも、店出すのやめようなんて考えてないわね‥‥。兄さんの頑固者ー!!!」
一度こうと決めたらそれを通す性格の兄が、このときばかりは恨めしかった。アルマの叫びが何処までも抜けるような青天の下、虚しく響き渡ったのだった。
●リプレイ本文
●敵は虫とボロボロの家屋
海の青さに負けない程の青空の下、例のヤツらが棲み付いた家屋の敷地に、冒険者達は足を踏み入れた。メイディアから馬車に揺られてくる途中、今まで幾度も共に依頼をこなしてきた顔見知りの冒険者だけでなく、初顔合わせの者も関係なく和気あいあいとすっかり打ち解けた様子の5人はどれ程すごい家屋なのだろうと話していたのではあったが。
「あっはは、こりゃあボロだ! ‥‥腕がなるねェ」
皆の内心を代弁した形となったかもしれない、からりと笑って言い放つのは、大工を生業にしていたという、天界人の鷹栖冴子(ec5196)――彼女曰く『おタカ』さんだ。
確かにかつて飲食店を営んでいたというその二階建ての建物は、あちこちにガタがきているようで、潮風も影響してか随分と傷んでしまっているようでもあった。
建物を観察していると、もう一台の馬車が到着した。荷台に山積みの荷物を見るに、街に買出しにいった帰りなのかもしれない。
そう、現れたのは、依頼人のリザとアルマだった。
「ああああ皆さん、よくこんな虫屋敷に来てくださって‥‥こんな厄介な依頼を受けてくださってありがとうございますー!」
ぶわっと涙を溢れさせながら依頼人の妹のアルマがぺこぺこと頭を下げてきた。
「あっはは、だからアルマ、心配しすぎは杞憂だって言っただろう? 兄ちゃんの言ったとおりちゃんと集まってくれただろうが」
「何その爽やかな笑顔(泣)お兄ちゃんて‥‥ホンッと根拠のない楽観的思考回路の持ち主よね‥‥!!」
脱力したように、アルマは呟いたのだった。
「申し訳ありませんが、皆さん覚悟してくださいね。ほんとスゴイですから」
敷地の中央で目を瞑り高らかに歌う、天界人の演歌歌手、水無月茜(ec4666)の『メロディ』は残念効果なしだった。その後煙で燻された虫達がわらわらと外に飛び出してくる。相当なデカさになっている(大人の手の平大!)蜘蛛、ムカデ、蟷螂、毛虫、などなど。家屋から、荒れ果てた雑草だらけの庭から、潜んでいた生き物たちが一方向に移動する光景は、ちょっと夢に出てきちゃいそうなものだった。
茜以外の4人の冒険者達――ある者は顔を引きつらせ、ある者は薄く浮かべた笑顔のまま固まり、その尋常ではない光景を見つめていた。皆を励ますために歌っていた茜は、ちらりと目を開けて様子を伺い、るる〜〜と涙を流しながらもじりじりと後ろへ下がり、我慢できなくなったのか、叫んだ。
「う、ううううう‥‥む、むしいいいいいいっ!!!」
若い娘には刺激が強すぎる赤だの紫だの鮮やかで奇天烈な色彩の虫達。巨大な一匹が向かってくるのに怯んだ茜をかばう様に、すっと前に出た忌野貞子(eb3114)は手を伸ばす。彼女を取り巻くのは涼しげな青の光。術の詠唱は終わっている。
「‥‥アイスコフィン」
カッキーン!!という大きな氷の棺に閉じ込められた虫はもはやピクリともできない。アルマ号泣必至のぐちゃぐちゃのべちょべちょという最悪の自体は回避されたのである。ついで皆の惜しみない拍手。
また、他にはもうこれはモンスターじゃね? というような巨大な昆虫もいたが、アイスコフィンの冷気を嫌って一目散に逃げ散ったのを書き添えておく。
「お次は掃除・補修ですね。小町流花嫁修業目録、美芳野 ひなた‥‥行きます! 皆さんも頑張りましょう!」
美芳野ひなた(ea1856)が並々ならぬ闘志を漲らせ、宣言した。
蟲が去ったらまた一難‥‥だがここからが本番だ。掃除や運び入れた寝台のベッドメイクをてきぱきと実に神業的な勢いでこなしていくひなたを始め、彼女の指示に従い共に掃除や補修などを行う貞子と茜、そしてアルマに内装は任せ、外回りはおタカとアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が担当することになった。
「さて。兄さん、補修用の機材を確認させてもらおうかい。ふーん‥‥どれどれ。まあ、あたいの世界の道具に比べれれば‥‥ねえ。だいぶ遅れてるねェ」
「ああ、おタカさんは天界の方なんでしたもんね。やっぱり色々違うものですか‥‥」
「なかなか難しそうですか?」
「悪い、二人ともそんな顔しなさんな。大丈夫だよ。だからって、弱音を吐かないのがあたいって女さ! あたいは大工の仕事して長いからね、なんとか効率よく動いて営業開始予定日前には補修完成させるようにするよ。あんたには助手をしてもらいたいんだけど、いいかい?」
「構いません。宜しくお願いします」
アルトリアはにこりとおタカに笑いかけた。
虫退治と家屋の補修工事、皆で全力であたり丸二日間は費やしたが、だいぶ様になってきた。幸い柱は無事だったので壁板や床板を中心に直し、明日以降は、居残り家屋の補修工事をする組と、『街』で店の宣伝組に分かれる事になった。美食レストラン&宿屋のこの建物の名前は、ひなたの案で『若葉亭』という名に決まった。まさにこれから、という店に相応しい名前だと依頼人のリザとアルマは大層喜んでいたようだことを、付け加えておく。
●宣伝
元々飲食店で使用していた建物だけあって、かまども当然あり厨房も使い勝手は悪くなさそうである。初日の打ち合わせ通りに、密かに仕込みをしていた依頼人リザの手作りのお菓子や、焼きまくったピザを適度な大きさに切り‥‥準備万端だ。
「宣伝は‥‥地球の歌姫、水無月さん‥‥」
「はーい! 私の出番ですね! 頑張ります。ひなたさんと三人で街に営業ですね」
「はい♪ 試食用にお兄さんとおつまみを大量に作りましたし。魔法を込めた歌で街の皆さんを惹きつけ、持参したおつまみを食べてもらってきますね♪ 」
柔らかな布地でできた短めのスカート、すらりと伸びた手足、愛らしいふりふりのついたエプロン、OTAKU☆ でなくともイチコロな可憐なメイドさん姿の三人だったが、一人だけちょっぴり浮いていた。
「皆似合うねぇ、でも貞子はちょっと怖いような。せっかく可愛いんだから、あんたちょっとにこって、笑ってみたらどうだい?」
「(おタカさん!!?)」
しげしげと見て悪びれないサバサバとした口調で評するおタカと傍らでビックウッと肩を波打たせるアルトリアと、依頼人兄妹。
「‥‥ふ。心配ご無用、よ。さぁて‥‥私も、本気だしましょうか‥‥」
前髪をかき上げ素顔を晒しつつ。ばあっ!!! と流れる髪。露になる右目。
なんと‥‥いつも硬く封印されていると思われた(?)前髪の向こうには普通に右目があったのだ‥‥! あ、いえ、ありますよね、普通に。
「‥‥ふう、なに呆けた顔してるの?」
ぽかんとした様子の皆に、普通に話しかける貞子。
「ひょっとして、右目が無いとでも思った? え、喋り方が違う? ああこれ。普段は楽な髪型と喋り方にしてるだけよ。でもね‥‥霊が‥‥視えるのは、変わらないからねェ‥‥くーくっく! じゃあ、行きましょうか」
残された皆に激励されて、沢山のピザやケーキを持った三人娘は街の中央へと向かった。
途中街を練り歩いている時から茜のメロディで人を惹きつけ、公園で集まった人達相手にひなたと貞子がおつまみを配り歩く。その際店の名前、店の場所、オープンの日時、などなど二人は抜かりなく伝えていく。
あんな外れに店を出すんだね、などと最初は戸惑いがちだった街の人達もピザやケーキを頬張っていくうちに驚きに目が丸くなるのもしばしばだった。
あれだけ沢山用意したつまみもみるみるうちに残量を減らし、メイド姿の三人娘は立派に役目を果たしたといえる。
「若葉亭は宿屋も兼ねたレストランでーす。海を一望できる宿でのんびりくつろいで美味しい料理を召し上がるのもよし、レストランに通いつめてメニューを制覇するのもよし‥‥。オープンは明後日の11時からです! お待ちしています!」
公園に集まった街の人々。そこにある笑顔や興奮したようにピザなどを頬張る人々の様子におそらく励まされながら、茜がその良く通る声を生かし宣伝をして締めくくったのだった。
●オープン当日
宣伝を終えた翌日、補修工事、料理の下準備等を経て。円卓が10卓並んだ店内、見違えるように整えられた光景を前に皆で、『ここが満席になる程お客さんが来てくれればいい』と皆が喋っていたのは数時間前の事だったか。料理を少しでも早く提供できるよう、ランチメニューの数を絞ったものの、果たしてどれ程客は来るのか‥‥?
数時間後。
「オーダーありがとうございま〜す!」
そんな声がにぎやかな店内の中に響く。
「七卓のお客様オーダー入りました! 鶏肉とハムのピザを二人前お願いしま〜す!」
厨房に顔を出して言う茜。
「‥‥こっちもよ。オーダー、三卓のフレッシュ野菜の特製ドレッシングのサラダを追加! あ、お客様、いらっしゃいませっ♪ (にこにこ)。はい、いえ、大丈夫ですよ♪ そちらのお席でお待ちくださいね〜〜」
営業スマイルを絶やさない別人のような貞子に皆突っ込みを入れたくて仕方ないが、忙しくて残念ながら誰も突っ込めてないままだったりする。
アルトリアも慣れないウェイトレス業務を一生懸命こなしていた。おタカは食器洗いなど厨房の補佐に回っている。
『あいよー!!!』
オーダーが入る度、厨房ではそんな声が響く。厨房は熱気溢れるある種の戦場と化していたが、リザと助手をしているひなたの顔には特になんとも言えない生気が満ち溢れている。
リザが自慢の料理の完成に集中出来るように、食材の管理や下ごしらえ、かまどの火の調節や下がってきたお皿、洗い物の整理‥‥それらを無駄のない動きでてきぱきこなしていくひなたに兄が感心したように笑った。
「すごいな、ひなたさん! 料理人として通用するよ!」
フライパンや様々な道具、食材を自在に操るリザの姿にひなたは顔を輝かせる。
「いえいえお兄さんこそ、すごくカッコいいです‥‥! よーし、ひなたも負けてられない! 唸れ、ひなたの万能包丁‥‥!!」
切れ間なく『若葉亭』には客が詰め掛け、予想以上の大盛況で夕刻六時頃ににもなると食材が尽き、よってその日の営業はオーダーストップ、となったのだった。その日最後の客となった彼らに、茜からの歌のプレゼントがあった。美味しい料理だけでなく陽気な曲、食事が進むような楽しげな色々な歌を披露する彼女に、彼らはとても満足そうに聞き入って、その時間を満喫していったのだった。
大盛況の夜に、リザの兄妹は自分達と冒険者達の為に初日の打ち上げパーティを開いた。労いを込めて丁寧に焼き上げたピザ、絶妙な茹で具合のパスタ、特製ドレッシングのサラダ、そしてそれらに合う、美味しそうなワイン。椅子に腰掛け、のんびりとくつろいだふうの皆は、心地よい達成感でいっぱいといった様子だ。
「皆さん、お疲れ様でした。沢山の人に満足して帰ってもらえたのは、あなた達のおかげです。ありがとう」
「ほんと盛況でびっくりしちゃった。皆さんがお手伝いしてくれる期間のうちに、手伝ってくれそうな友達に声をかけてみたりして従業員を確保してみようと思います。二人じゃちょっとまわすの大変みたいだし」
アルマはちらりと兄を見上げ。
「お兄ちゃんの直感は、まぁ捨てたものじゃないみたいね。眺めも、ほんとサイコー‥‥」
それに、あのボロボロの蟲屋敷が嘘みたいだわ。皆さんのおかげね。と照れ隠しのように付け加え。
夕刻特有の赤みがかった色に染まる海が、窓から見えた。
それが後にこの街にこの店ありと言われるであろう、美食レストラン&美食ホテル『若葉亭』始まりの一日だった。