戦乙女
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■ショートシナリオ
担当:美杉亮輔
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月01日〜03月06日
リプレイ公開日:2005年03月09日
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●オープニング
呼びとめられ、サイラス達は振り返った。
カップルを襲い、金を奪った帰りだ。その金で飲んだ酒で、彼らは上機嫌だった。
「なんだ?」
透かし見る闇の彼方に、五つの影があった。
眼は仮面で隠し、動きやすくするためか、露出の多い衣服をまとっている。顕わになった腕と脚が特徴的だ。顔はわからぬが、その柔らかそうな肢体から十五、六歳の娘と知れた。
「サイラス一味ね?」
中央の金髪の娘が口を開いた。
「なんだ、おめーらは?」
「ヴァルキリー」
金髪の娘が名乗った。
とたん、サイラスが眉根を寄せた。
「ヴァルキリー? ‥‥聞いたことがあるぞ。最近、この辺りを荒らしている盗賊だとか‥‥」
何を思いついたか、ククッとサイラスはほくそ笑んだ。
「そのヴァルキリーが俺達に何の用だ?」
薄ら笑いを浮かべ、サイラスが問うた。すると、黒髪の娘が足を踏み出した。
「今までの悪行の報い、受けてもらうわ」
「ほう、遊んでくれるってのか。おもしれえ」
あさましい獣性を顕わにすると、一斉にサイラス達は娘達に殺到した。その様は雌鹿に襲いかかる野良犬の群れに似ている。が――
突然、男の一人がのけぞって弊れた。
何が起こったのか分からない。ただサイラス達は娘の一人が碧玉色の光に包まれるのを見、咆哮にも似た風の唸りを聞いただけだ。
「な、何をしやがった――」
顔色を変えるサイラスの眼前で、娘達の体は五色の光を放ち出した。云い知れぬ恐怖に襲われたサイラス達は、逃げる代わりにダガーをかまえ、一気に娘達に迫った。
疾る乱刃をかわし、赤い髪の娘が空に、銀色の髪の娘は左に、金色の髪の娘は右に飛んだ。
刹那――
苦鳴とともに二人の男が弊れた。彼らを屠った者は、残る二人の娘だ。
栗色の髪の娘の手には煌く水晶の剣、白髪の娘の手には紫電をからみつかせた雷の刃が握られていた。
「な、何なんだよ、おめーら!」
震える声でサイラスが叫んだ。
もはや恐怖に戦き、絶叫するしかなくなったサイラス達を取り囲む形で、ダガーをかわした三人の娘達が立っている。
そして――
彼女達の手がゆっくりと上がった。
「ウォーターボム!」
「ファイヤーボム!」
「ムーンアロー!」
三つの呪の詠唱が、サイラス達が聞いた最後の声だった。
「ヴァルキリー――聞いたことがあるかね?」
冒険者ギルドの男の問いに、幾人かが頷いた。
「知っている者もいるか。この稼業をしているだけあって、さすがに耳が早い」
云うと、ギルドの男は依頼書を前に押しやった。
「あくどい商人やならず者を弊している――うーん、義賊とでも云うのだろうか。噂では五人の娘達らしいのだがね――」
何人かの苦笑をうけて、ギルドの男は真顔を向けた。
「おいおい、笑っちゃいけない。この娘達、まだ若いノルマン人らしいが、けっこう腕が立つ」
ギルドの男は依頼書をトントンと指でたたくと、
「そのヴァルキリーから守ってほしいという依頼があった。依頼人はオーベルという貴族だ」
ギルドの男の言葉が終わらぬうちに、幾つかの溜息がもれた。次いで――
ヴァルキリーに狙われるのならば、その男、悪人なのだろうが――問う声がし、ギルドの男は苦笑とともに頷いた。
「その通りだ。簡単に調べただけだが、このオーベルという男、何人もの女性に乱暴をはたらいている。その都度権力と金で口封じをしてきたらしい――」
ざわり、と揺れる冒険者達を、ギルドの男は手を上げて制した。
「依頼を受けたくない君達の気持ちは分かる。しかし、君達がやらなければ、オーベルは他の者を雇うだろう。事の是非が分かる者なら良い。しかし、そうでない狂犬のような輩が雇われたなら‥‥もし、そのような輩に娘達が敗れたらどうなる? 彼女達を待っているのは悲惨な運命だ。そうなる前に、何とかしてもらいたい。君達になら、それができるはずだ」
●リプレイ本文
酒場の裏はゴミが放置され、小便の臭いが漂っていた。
その中で――
たった今叩きのめした酒場の用心棒からマスターに眼を転じ、クウェル・グッドウェザーは少年のようなあどけない顔をほころばせ、尋ねた。
「それではオーベルのこと、聞かせてもらいましょうか」
「これも銀杯を護るためですから、我慢していただけませんか?」
愛くるしいシフールの少女――空の色を宿した蒼髪蒼羽のフィリア・レスクルト(eb1231)が懇願した。
銀杯を偽物にすりかえておく――彼女の提案であったが、しかしオーベルは尊大に首を横に振る。戦闘時の破損に備える為という倉城響(ea1466)の言葉にも、彼女の目立つ胸に視線を這わせただけで取り合おうとしない。それよりも貴婦人の如き美麗なエクリア・マリフェンス(ea7398)が気になる様子で、舐めるように彼女を見つめている。
その態度に業を煮やしたか、無頼めいて壁に背を預けていた榊宗十郎(eb1339)が足を踏み出した。瞬時にして、室内に剣呑な空気が満ちる。
が――
「ここは、プロである彼らに従いましょう」
云って、榊の前にグランが立ちはだかった。ニヤけた相貌の中、眼に刃の光を揺らめかせて。
ちらりと交した二つの視線に散る火花。それを見とめ得たのは、響とフレドリクス・マクシムス(eb0610)のみである。響は北辰流、マクシムスはレオン流の使い手であった。
すると――グランにどれほどの影響力があるのか、あっさりとオーベルが頷いた。
「グランのおかげで助かったな。それにしても‥‥」
エクリアに対するオーベルの執心ぶりを思い出し、ソファにふんぞり返った青年が嘲笑した。
が、当のエクリアは青年――アースハット・レッドペッパー(eb0131)には眼もくれず、静かな眼を窓の外に向けたままだ。何か思う所があるらしく、エクリアは極力他の冒険者との接触を避けているようだった。
「あの様子ではオーベルさんの横暴は本当のようですね」
代わりに、フィリアが口を開いた。
「正直云って許しがたいのですが‥‥でも依頼は依頼。銀杯はきちんと守りましょう」
「それはそうだが――」
初めての依頼に武者震いするフィリアに微笑を送りはしたものの、しかし山本修一郎(eb1293)はすぐに高貴な面に沈鬱な色を滲ませた。
「他の者の毒牙にかかるというのも賛成できぬな」
「ふっ」
山本達のやりとりに冷笑を返し、マクシムスが立ちあがった。
「ヴァルキリーだか何だか知らんが、ふざけた連中だ。相手がどんなろくでなしだろうと、連中のしている事を正当化しようなどとは俺は思わん。依頼として、きっちりと撃退するまでだ」
冷然たる語調のマクシムスは、オーベルの警護をすると云い残し、姿を消した。他の者達も、それぞれの持ち場に着くべく退室していく。後に残されたのはエクリアのみだ。
その憂いを湛えた眼は何を見ているのか――黙したまま、彼女はただ遠くを見つめ続けていた。
「オーベルが責任を取らされるような物を探さしださなきゃね。あんな非道な事する奴だもん、何か証拠があるはずよ」
独白するミュウ・チャーム(ea4085)は、真紅の妖精の如き可憐な身をふうわりと浮かせた。警護の為と称して潜り込んだオーベルの書斎の中である。
オーベルは盗品並びに人身の売買にかかわっている――友人のクウェルがもたらしてくれた情報に基づき、彼女は犯罪の証拠を求めているのであった。
デスクの引出に手をかけようとし、ミュウは呪を唱えた。念のためにと発動させたブレスセンサーであるが――ミュウは凍りついた。
ドアの向こうに何者かいる。
一人。
体つきからして――グランだ! 恐らくミュウの様子を窺っているのであろう。
油断ならない奴‥‥
唇を噛むと、ミュウは引出から手を離した。
「よお、どうした?」
屋敷の中を巡廻していたアースハットは、難しい顔で二階から下りてくるミュウを見とめ、声をかけた。天真爛漫な彼女にしては珍しいと思ったのであろう。
「証拠探し、邪魔されちゃった」
「グランの奴か」
問うアースハットに、悔しげにミュウが頷いた。その肩にそっと手をおいたのは響だ。
「やはり、彼には依頼人の警護にあたってもらいましょう」
「その方が良い」
響の提案に榊が同意した。
グランとヴァルキリーを噛み合わせるのはまずい。
対峙した感触から、彼はグランの危険性を痛感していた。
闇の中、一陣の疾風と化して疾る五つの人影が、ぴたりと制止した。眼前に佇む人影を見とめた故だ。
「――オーベルの手の者か?」
夜目にも鮮やかな白い髪の娘の問いに、マスカレードをつけた人影はかぶりを振った。
「怪盗ナイトベール」
応える人影――ナイトベールに、五人の戦乙女は怪訝な眼を向けた。
「その怪盗が、私達に何の用?」
「貴方達に協力したい。銀杯奪取の、ね」
瞬間――五人の娘達が身構えた。
「貴様――なぜ、そのことを知っている?」
「知っているのはそれだけじゃないわ」
謎めいた微笑を浮かべると、ナイトベールは続けた。
「本物の銀杯の隠し場所も承知している」
あっと息を飲むヴァルキリー達。その彼女達に向って、信用してもらう証として他の情報も提供しようとナイトベールは申し出た。
「すごーい! ナイトベールさん、親切ーっ!」
一人手を叩いてはしゃぐ金髪の娘の頭をポカリと殴りつけると、紅髪の娘が進み出た。
「それを信用しろと云うの?」
「罠なら、もっと上手く張るわ」
苦笑を浮かべるナイトベール。
見つめ返す紅髪の娘の紅唇にも、やがて笑みの翳が刻まれた。
夜空をうっとりと見上げていた響の顔が、突如引き締まった。吹きつける灼熱の殺気に呼応するかのように振り返る。
刹那の攻防――疾り来たった風の刃を、彼女は軍配を構えて抗う。
「来ましたね」
響の腰から白光が噴出した。
炎爆に倉庫が揺れ、悲鳴が響いた。
とっさに盾で身を守ったものの、衝撃までは防ぎきれず、榊は地に叩きつけられた。悲鳴は倉庫の中に潜んでいたフィリアのものだ。
「くっ」
苦鳴とともに立ちあがった榊の前に佇むのは炎よりも紅い髪の少女。
「たぎる炎の精霊よ、俺の声に応え、俺のその力を剣に宿せ! 焔剣!」
叫ぶ榊の指が刃をすべり――刃を赤熱化させた。
屋敷の裏。
ここでも静かな戦いが始まろうとしていた。
対峙する二人――水晶の剣をもつ少女の前に立つのは新陰流の山本である。
「いかなることがあろうとも、犯罪は犯罪だ。あのような男のために罪人にさせるわけにはいかない。ここは引いてもらないか」
真摯な山本の声音に、少女は一瞬眼を伏せた。
その眼を過ったのは哀しみの色――そう判じたのは山本のひがめか。
が――
迷いを振り切るかのように、少女は山本めがけて刃を疾らせた。
「このような形で逢いたくはなかったな」
噛み合う刃の向こうで、山本はぽつりとつぶやいた。
テラスの柱の陰から、まるで浮かび上がるかのように人影が現出した。ヴァルキリーの一人――金髪の少女だ。
少女は響の離れた玄関から内部に滑り込もうとし――すぐさま足をとめた。階段に腰を下ろす黒髪の若者を見とめた故だ。
若者――マクシムスは豹のように襲った。黒い颶風と化して少女に迫る。
グランの凶刃にかけさせぬ為には時はかけられぬ――マクシムスは焦っていた。
台所。
巨大な食器棚の扉が開けられるのと同時にミュウが飛び出した。
本物の銀杯の隠し場所に潜んでいたものであるが――扉を開いた銀髪の少女の表情には驚いた色は見えず、むしろ予期していたかのように、彼女はミュウの頬を両手で挟んだ。
「何があったか知らないけど、こんな事続けてたら駄目だよ。いつか捕まっちゃうよ」
懸命に諭すミュウに、ぽつりと少女は告げた。
「ごめんなさい」
彼女の声が消えた時、ミュウの体は蒼い氷棺の中にあった。
玄関のドアをぶち破って、金髪の少女が転げ出た。それを追ってマクシムスが踊りかかる。
手刀がまさに少女の鳩尾に突き刺さる、その刹那――
「鳴り響け。疾風の旋律よ。断罪の衝撃と化せ」
絶叫が響き、マクシムスが跳びずさった。
直後、彼のいた空間を紫電が疾りぬける。続いて放たれたムーンアローを盾で防ぎはしたものの、マクシムスは成す術もなく後退した。
「早く!」
雷の射手――ナイトベールの声に、はじかれたように金髪の少女が立ちあがった。
が、その手を掴む者がいる。アースハットだ。
「女の子に、こんな真似は似合わないぜ。それより、お茶でもどうだ」
すでに戦意の消失しているアースハットは、臆面もなく金髪の少女を誘った。さすがのヴァルキリーも、こんな輩は初めてなのだろう。頬を紅潮させ、腕を振りほどこうともがく。
その時――
アースハットがのけぞった。ナイトベールの紫電に撃たれたのだ。
ポーションを口に含み、再び戻した彼の視線の先に、すでに金髪の少女の姿はなかった。
「ここまでのようね」
紅髪の少女が跳びずさった。
轟!
噴きあがる炎の壁が少女の姿を覆い隠した。それが合図であったか、他の二人の少女もするすると後退していく。
深追いを避けた冒険者達は、それぞれに刃をおさめた。
「終わったのか‥‥」
そのつぶやきは、持ち場から屋敷の玄関前に集まった冒険者達の中からもれた。ヴァルキリー達を傷つけぬように撃退したはずだが、皆一様に違和感が拭えない。
「ヴァルキリー達、戦ってばかりで、倉には眼もくれなかったね」
榊にリカバーをかけつつ、フィリアが云った。
何気ない一言であるが――はじかれたように響達は駆け出した。目指すは調理場――本物の銀杯の隠し場所だ。
と――
彼ら冒険者の前に、グランがゆらりと現れた。
「噂に聞く冒険者とやらも、たいした事はありませんね」
グランの口の端が、嘲るように吊りあがった。
銀杯を奪われた――惨憺たる結果だ。救いはオーベルの犯罪の証拠――売買に関する契約者をミュウが手に入れていたことだけだが、それも今となっては‥‥
「――しかし、どうして本物の銀杯の在処が分かったんだ」
ぼそりともらした山本の疑問に、冒険者達は顔を見合せた。誰の胸にも宿っていた疑問だ。
「それとなく見張っていたが、使用人からのリークはないぜ」
「と、なると――」
榊の言葉を受けて、マクシムスはエクリアに視線を移した。
「ヴァルキリーに気絶させられたと云っていたな」
無言で頷くエクリアに、今度は榊が問うた。
「以前、あんたのスキルを尋ねたな。応えてもらえなかったが――よもや、雷撃使いじゃあるまいな」
ギラリと眼を光らせる榊の前で、ややあってエクリアは口を開いた。
「そのとおり。ヴァルキリーに協力したのは私よ」
「てめえ!」
掴みかかろうとする榊をフィリアが抑えた。
「そんな――どういうつもりなんですか?」
愕然として問うフィリアに、エクリアは快笑を返した。
「理由はないわ。私は、やりたい事をやったまで。己の心のままに生きる――それが冒険者でしょ」
爽たる風をまいて立ち去ろうとするエクリア。それを追おうとする榊をアースハットがとめた。そのとおりだ、と口を歪めて。
闇に消え行く美麗な影を見送りつつ、彼らは思った。
ヴァルキリーとグラン――いつか決着をつける時が来る。
降るような星空の下、その予感に冒険者達の胸は戦いていた。