【聖杯探索】日輪とともに
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■ショートシナリオ
担当:美杉亮輔
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 89 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月09日〜05月18日
リプレイ公開日:2005年05月18日
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●オープニング
「これは、一体‥‥?」
その机は、巨大な机であった。ぐるりと円を成したその机は、アーサーが王座につきし時より、キャメロットの城と、キャメロットの街と、そしてイギリス王国とその民たちを見守ってきた座であった。
その名は円卓。勇敢にして礼節を知る騎士たちが座る、王国の礎。そしてそれを囲むのは、アーサー・ペンドラゴンと16人の騎士。
すなわち、誉れも高き『円卓の騎士』である。
その彼らの目に映りしは、円卓の上に浮かぶ質素な、それでいて神々しい輝きを放つ一つの杯。緑の苔むした石の丘に浮かぶそれは、蜃気楼のごとく揺らめき、騎士たちの心を魅了する。
「‥‥『聖杯』じゃよ」
重々しい声の主は、マーリンと呼ばれる一人の老爺。老爺はゆっくりと王の隣に立ち、その正体を告げた。
「かのジーザスの血を受けた、神の力と威光を体現する伝説‥‥それが今、見出されることを望んでおる」
「何故?」
「‥‥世の乱れゆえに。神の王国の降臨を、それに至る勇者を望むゆえ‥‥それすなわち、神の国への道」
老爺の言葉が進むにつれ、その幻影は姿を消していた。‥‥いや、それは騎士たちの心に宿ったのであろうか。
アーサーは円卓の騎士たちを見回し、マーリンのうなずきに、力強く号令を発する。
「親愛なる円卓の騎士たちよ。これぞ、神よりの誉れ。我々だけでは手は足りぬ‥‥国中に伝えるのだ。栄光の時が来たことを!」
悲鳴は死と憎悪の只中からした。
煌く白銀の髪の、可憐な少女が一人。血を吐くような悲鳴を上げながら逃げ惑っている。
その少女を追う者は――おぞましき腐敗。黄泉よりの使者。
人は、その者達のことを怖気をもって、こう呼ぶ。
ズゥンビ。あるいはスカルウォーリアー、と。
生ある者を憎むがごとく、彼等は命ある者を喰らい、または切り刻む。その彷徨の跡に残るのは、ただ血と肉片のみ――全き絶望だ。
今、彼等はあらたな獲物を見出した。
銀髪の幼き――村の娘で、名をリタという。彼女のあげる絶叫が、さらに死者達を誘っているようだが、幼き身がその事を知るはずもない。
「まずい! リタが外に――」
息をひく村人達の視線をうけて、しかし長はかぶりを振った。
「――ならぬ。村に災厄を引き入れることは‥‥」
「しかし、リタは長の――」
孫娘という言葉を村人達はのみこんだ。沈痛に歪む長の面に気がついたのだ。
誰よりもリタを救いたいと願っているのは誰あろう、長自身に他ならぬ、村を危険にさらさぬため、己が心を殺しているのだ。握り締めた手の爪は、深く肉を裂いているに違いない。
されど――
その時、一際高い悲鳴が響き渡った。ついにリタが亡者の群れに追い詰められてしまったのだ。
たまらず村人が石塀の上から身を乗り出した。
その眼前で、亡者達の腐れた爪が、錆びた剣が、今まさにリタを引き裂かんとした、刹那――銀光が疾り、どす黒い血煙があがった。
あっと呻いた村人達は見た。飛鳥のように疾り来たった若者が亡者を薙ぎ払ったのを。
続く死者の一撃を舞いのようにかわし、返す刃は雷の如く迅い。蠢く死者達は怨嗟の声もなく崩折れている。
血塗られた刃を肩に担ぎあげた若者は、まるで楽しい遊びでもしているかのようにニヤリと笑った。
喚声に迎え入れられた若者は、村人に助け出したリタを預け、自らは剣の血を払った。
「ありがとうございます」
駆け寄った長が深々と頭を垂れた。上ずった声音は嗚咽をこらえている証しだ。
「礼には及ばん。あれしきの魔物――」
漢くさい顔立ちの若者は、不服そうに顔をしかめた。心底戦い足りぬ風情は、悪戯っ子のようでもある。
「――しかし、先に奴らの始末をつけねば、メイドンカースルには行けぬな」
「!」
悲鳴にも似た驚愕の叫びは、介抱されているリタの口からあがった。
「どうした、娘?」
問う若者。が、リタは恐ろしいものから逃れるように首を振るばかりだ。
そのただならぬ様子に、さすがの若者の眼も険しさを増している。
「メイドンカースル――それが、どうかしたか?」
若者がリタの両肩をつかみ、顔を覗きこんだ。その優しい声音が響いたか、リタの焦点の合わぬ眼に、ゆっくりと光が灯りだした。
「せい、はい――」
「!」
今度は若者の方が絶句した。
聖杯――リタが口にしたもの。それこそは、若者が捜し求めているものに他ならぬ。
「――いかなくちゃ‥‥」
囁くように声をもらすと、リタが眼を閉じた。どうやら気を失ってしまったようだ。
年端もいかぬ身でありながら、死者に襲われるという恐ろしい目に遭ったのだ。それも無理からぬことである。
リタを村人に託し、若者が立ちあがった。その眼に宿るのは決然たる光である。
「――娘。理由は分からぬが、お前は神の道を示す道標であるのかも知れぬな。ならば――」
若者は長に眼を転じた。
「長殿。すまぬが娘御を預かるぞ。娘御と聖杯――何やら因果があるのかも知れぬ」
ハッと顔色を変えた長を、すぐさま若者が制した。
「心配はいらぬ。この俺がついている限り、リタには何者の指一本とて触れさせぬ。とはいえ、やはり助けはいるな――」
若者は不敵な笑みを浮かべると、
「長殿。早文を出せるところはあるか?」
「近くの街に、シフール便が」
「よかろう。道は俺が切り開く。誰かその街に行ってシフール便を頼まれてくれぬか」
「――俺が」
進み出たのは優しそうな若者だ。
「お前は?」
「ソレックといいます」
「ソレック――行ってくれるか」
「はい。リタはいつも俺を慕ってくれていました。なのに、俺はリタを救うことができなかった。もし、貴方が来てくれなければ――だから、せめてものお礼のしるしとして」
「有り難い。ではその間、村は俺が守ろう」
微笑む若者はソレックの手をがっしりと掴んだ。
「託けの先はキャメロット。王城と――」
若者――「太陽の騎士」と呼ばれる無双の騎士は、暗雲立ち込める彼方の空に眼を上げた。
「――冒険者ギルドだ」
「危急の依頼だ」
冒険者ギルドの男は羊皮紙を掲げると、声を上げた。いつになく声音が堅い。大事の予感を冒険者に感じさせるに足る語調だ。
「依頼主はガウェイン・オークニー。円卓の騎士殿だ」
●リプレイ本文
「凄く嬉しいっ! 憧れのガウェイン様と一緒に戦えるなんて! よぉぉーし!頑張っちゃうぞぉっ☆」
はしゃぎ回るシルールの少年。可愛い面立ちは少女のよう――ノイズ・ベスパティー(ea6401)である。
その彼を先ほどから必死になって抑えているのは友人の月城要だ。ノイズに頼まれて銀のネックレスを渡しに来たものであるが‥‥
「とにかく落ち着いてぇ〜!」
叫ぶ要の声も聞こえぬかのように、彼女の頭の上でノイズは飛び回る。ガックリと肩を落すと、そっと麗しき陰陽師は溜息をもらした。
村から黒煙があがっている。死者を焼く弔いの炎から上がる煙だ。
その傍らの木陰で寝息をたてる一人の若者。身なりからして騎士である。
「ガウェイン卿ですね」
声に、若者が眼を開いた。覗き込むようにして二つの影が立っている。
「フォレスト・オブ・ローズの生徒でセレナ・ザーン(ea9951)と申します。至らぬ点はございますでしょうが、どうかよろしくお願いいたします」
はにかむジャイアントの少女。若年ながらも、彼女はイギリスの騎士である。
続けて、傍らの獣耳ヘアバンドの可憐な少女が名乗りをあげた。
「ナイトのサクラ・キドウ(ea6159)です。よろしくお願いします‥‥」
一人は瞳を輝かせ、そしてもう一人はそっけなく。しかし、ともに眼前の若者に向ける瞳には憧憬の光が宿っている。
と、彼女らに、若者は大きな欠伸を返した。
その様に拍子抜けしたか、ふっと二人の身体から力が抜ける。刹那――
電光の迅さで抜きうたれた刃がセレナの顔面に疾った。
その凄絶の一閃に、さしものセレナも避けもかわしもならず――カッと見開かれた彼女の顔の寸前で、刃がピタリととまった。
「やるな」
ニッと笑うと、若者は刃をひいた。
ややあってセレナが深い息を吐く。やるな、と云われても何の事だか分からない。彼女には若者の奮う刃の剣影すら見とめられなかったのだから。
が、心中舌を巻いていたのは若者の方であった。
俺の剣圧を受け、この娘は眼を閉じる事はなかった――
「噂に違わぬ」
立ち上がると、若者は右手を差し出した。
「俺はガウェイン。待っていたぞ、お前達が来るのを」
「太陽の騎士」とも「マリアの騎士」とも呼ばれる円卓の騎士中最強の使い手の一人と、八人の冒険者が相まみえた瞬間であった。
「できたよ」
リタの前に、ウシャス・クベーラ(eb0927)が携帯用の食器をおいた。
保存食では可哀想と、リタの為につくれられたものだが――湯気をあげる料理は保存食とは思えぬほど美味そうだ。
メイドンカースルまであとわずかの距離の街道。馬車を停め、冒険者達は食事をとっていた。
「これは預かっておきましょうね」
ふうわりと微笑むと、ユイス・アーヴァイン(ea3179)はリタが抱きしめているイースター・ラビットの人形を手にとった。
彼がプレゼントしたものだが、今ではリタの宝物となっているようだ。レディとして扱ってくれる優しき魔導士に、リタを心を許し始めている様子である。
美味しそうに食事をとるリタの頭を撫でながら、リオーレ・アズィーズ(ea0980)は教え子の幼き頃を思い出していた。愛らしい姿がだぶるのである。
教え子の為にガウェインから騎士の在り様を学ぼうと思っていたのだが――リタの身を案じ、たまらずリオーレはウィニング・イースターを差し出した。
「これはね、持っていると幸運のウサギの加護で運が良くなるそうです。差し上げますから、お守り代わりにしてくださいね」
姉のように慈しむ彼女を不思議そうに見上げるリタ。
その彼女の膝の上に、ポンと煌くものが置かれた。月の光で作り上げたような銀のネックレスだ。
「僕とおそろいのお守りだよっ♪」
ノイズは神秘的な金茶の瞳をつぶってみせた。
道中、彼は一時もリタの側を離れた事はない。その甲斐々々しさは肉親すらも及ばないほどだ。
「強く、そして優しき者達か」
ガウェインの口からぽつりと呟きがもれた。
「円卓の騎士殿が直接関わってくるほどの依頼――何が起こっているか、御教え願えないか?」
問う声は鋭い眼差しの若者からした。エリック・シアラー(eb1715)。弓をもたせれば凄腕のレンジャーである。
ガウェインは振り返ると、躊躇うことなく応えた。
「聖杯だ」
幾許か後――
出立の準備を終えた冒険者達が次々に馬車に乗り込んでいく。
「リタ」
呼ばれて、リタは下生えの側から立ちあがった。トコトコとノイズの元に駆けていく。
が――
ノイズは知らない。リタが立ち去った後の下生えの中に、銀のネックレスと、ユイスがくれた髪留めが捨てられている事に。
いや、さらに――
忍びやかに伸びた手が、誰にも気取られる事なく、その捨てられたものを拾い上げた。
朽ち果てかけた建物の残骸。
その中央にぽっかりと空いた空洞。続くなだらかな傾斜。
メイドンカースルの遺跡の一つである。
「少し‥怖いかもしれませんが‥あなたは私達‥それにガウェイン様が必ず守りますから‥。安心してくださいね」
地穴の入り口で、リタの頭を撫でながらサクラが囁いた。
口調は相変わらずだが、弱き者をいたわる想いの強さは、彼女が今まで受けてきた依頼からも知れる。それに、伝説の聖杯とリタとの関係も気になる彼女であった。
「心配無いよ。何があっても、僕が守るっ! ちっちゃくっても頼りになるんだからっ☆」
兄のように肩を抱くノイズ。その彼の髪をクシャとつかんだのはガウェインである。
「頼もしいな。ならば、リタの事はお前に任せよう。しがみつかれる度に髪の毛を抜かれてはたまらん」
苦笑いするガウェインの前に、凛とした騎士が立った。名をアルトリア・シュトルハイム(eb1272)。イギリスのナイトだ。
「お聞きしておきたい事があります。騎士とは何なのでしょうか?」
真摯な彼女の眼差しを受け、ガウェインは眩しそうに眼を細めた。
「騎士か?」
かなり考え込んでから、ガウェインはあっけらかんと応えた。
「分からん」
「わ、分からない!?」
ああ、と照れくさそうに頷いてから、彼は続ける。
「優秀なアイツな答えられかも知れぬがな。俺も答を探しているところだ」
ややあって、そのやり取りを面白そうに眺めていたユイスはエリックにスクロールを手渡した。
「無茶はしないようにして下さいね〜」
口調は時候の挨拶のように柔らかだが、彼に油断はない。遺跡への魔法の影響を計算しているのだ。
「では、ゆこうか」
さらりとしたガウェインの声に、八つの影が大きく頷いた。
「来るぞ」
ランタンを掲げたエリックの口から、何度目かの叫びがあがった。幾つかの隠し穴をエックスレイビジョンで見破って来たのであるが、その度に封じられていた死者達との戦いが繰り広げられている。そして今も――
「死してなお蠢くものたちよ‥‥今、私が安らかに眠らせてあげます」
燐光をおびたサクラが死者の一体を薙ぎ払った。強烈な一撃に死者がのけぞる。
が、死者には致命の一撃ではなかった。すぐさまサクラに肉薄する。
と――その首が空に舞った。
「サクラ、一撃目は疾いが、ニ撃目が遅いぞ」
戒め、ズゥンビの首をはねたガウェインは別の死者を蹴り飛ばしつつ、傍らで戦うウシャスに眼を向けた。
その口からほうと息がもれる。ウシャスが死者の一体を、リオーナから借りうけたクリスタルソードで斬り下げたところであった。
「やるな! よく見切っている!」
ガウェインの評に、ウシャスは会心の笑みを浮かべた。聖杯よりも、むしろ彼女の興味はガウェインと共に戦う事にあったからだ。
その時、叫びがあがった。セレナの声だ。
分岐した別通路から追いすがってきた死者に襲われているのだろう。
はじかれたように駆け戻るガウェイン。
刹那、追いすがる死者がよろけた。その首に深々と突き刺さっているのはエリックの矢だ。
すれ違いざまエリックの肩を叩き、ガウェインはユイスに目配せする。クスクス笑うユイスの口が開き――
「塵は塵に、灰は灰に、土は土に、と云ったところでしょうか〜。今度は安らかにお眠りなさいな〜」
数瞬後、洞窟内を紫の光が染め上げた。
死者の怨嗟の爪と歯を、四人の冒険者が必死になって抑えていた。彼等はただリタを護る為、身を挺して戦っているのである。
ストーンアーマーを纏ったリオーレはその身で、アルトリアは盾とクリスタルソードで、セレナは盾で受け流し、そしてノイズはダーツを駆使して――
「リタ殿には指一本触れさせん!」
「紅い雀蜂の針は痛いよっ!」
叫ぶアルトリアの剣が唸り、ノイズのダーツが煌く。
そして――第四の刃が閃いた。
「凄いぞ、お前ら」
黒血の飛沫の中で、ガウェインは快笑を浮かべた。
「また行き止まりか‥‥」
エリックの口から溜息がもれた。
彼らが行きついたのは何度目かの行き止まり。かなり広い空間である。
すでにかなりの数のポーションが消費され、松明の残りも心もとない。が――
「あれは!」
叫び、エリックが壁の一点を指差した。
ランタンの弱々しい光に浮かびあがる窪み。そこに――石の欠片がある!
エリックとユイスが罠のない事を確かめて後、ガウェインが手にとった。どうやら石版の欠片のようだ。文字とも紋章とも知れぬものが刻まれているようだが、判然とはしない。
「聖杯への道標かも知れぬ」
頷くと、ガウェインはノイズに欠片を手渡した。
「預けておく。頼むぞ」
立ちあがったガウェインは辿ってきた道に視線を投げた。
ここらが潮時か‥‥
ガウェインの帰還の指示に、冒険者達がほっと息をついた。その安堵が油断を生んだものか――無防備にさらした背の一つに刃のような爪がそろそろと伸びた。ガウェインの背に!
が――
今まさに疾らんとした手刀の前に刃が突きつけられた。ガウェインの剣だ。
「貴様、リタではないな」
ガウェインは懐から銀のネックレスを取り出した。
「おかしいとは思っていたが‥‥」
「それに、時々妙な殺気を放っていたからね――あんた、何モンだい?」
ウシャスもまた問う。
刹那、応えの代わりにリタが飛びずさった。どこへ――ノイズの傍らに!
「待て!」
踏み出しかけたガウェインの前に炎の壁が噴きあがった。たたらを踏む彼と冒険者の前で、リタは次第に変貌を遂げていく。耳が尖り、口が裂け――
「デビル!」
アルトリアの口から呻きがもれた。
「リタは――リタ殿はどうした!?」
が、デビルは応えない。獣のものに似た口の端を鎌のように吊り上げたのみだ。そして――
ズブリ、とデビルはノイズの背に爪を突きたてた。
「あっ!」
ひび割れた声をあげる冒険者達の前で、ノイズは口から鮮血を滴らせている。すでに石版の欠片はデビルの手の内だ。
「おのれ!」
叫ぶガウェインの脳裡をかすめすぎる映像。それはリタを思いやり、護る冒険者の姿だ。
止める間もあらばこそ――反射的にガウェインは炎の壁に身を躍らせている。一瞬後、炎を斬り裂きつつ刃が疾り、飛びずさったデビルの腕が――石版の欠片がポトリと地に落ち、割れた。
刹那、苦鳴をあげるデビルの手から火球が噴出した。流星のごとく疾るそれは、炎の壁から転がり出たガウェインをかすめて壁を粉砕する。
「!」
息を飲む冒険者の周囲で、洞窟が不気味な鳴動をはじめ、ついでデビルの背後の壁が崩れ落ちた。
「必ズ、殺ス」
呪詛の如き言葉を残し、デビルがぽっかりと空いた闇の中に姿を消した。
ややあって、消滅しはじめた炎の壁を踏み越え、冒険者達がガウェインに駆け寄った。
「ガウェイン卿、何という無茶を」
「本当だよ」
傷ついた二人にポーシヨンを与えつつ、セレナとウシャスが慨嘆した。さすがのユイスも真顔で溜息をつく。
「魔法なりで、他に策もあったのでしょうけど〜」
「――すまぬ。咄嗟に身体が動いてしまった」
頬を赤らめるガウェインは、しかしすぐに痛みに顔をしかめた。
「とにかく早く洞窟を出よう。拙い雰囲気だ」
声は、石版の欠片を拾い集めるエリックからした。
「すまぬ。俺の為に――」
「いいえ、決してガウェイン様のせいなどでは‥‥あの娘はこうなる運命だったのでしょう」
村の長が寂しげに笑った。無理に明るく装う姿はさらに痛ましい。
「されどガウェイン様。死者が蘇り、デビルが跳梁する‥‥イギリスはどうなってしまうのでしょう。私は不安でなりませぬ」
「大丈夫だ」
すがるような眼の長の肩を、ガウェインがしっかりと掴んだ。
「キャメロットに円卓の騎士ある限り、何も心配はいらぬ。それに――」
ガウェインは眼を上げた。その深い微笑をたたえた眼差しの先は――
八人の冒険者が小さな墓標に花を手向けている。リタの墓の前で――泪のとまらぬノイズをリオーレが抱きしめていた。
「彼等――冒険者がいる。一人一人は小さな光かも知れぬが、夜空の星の如く、彼等がいる限り、イギリスに全き闇の訪れる事はない」
「俺は一足先にキャメロットに戻る」
馬の手綱をひくと、ガウェインは見上げる小さな影に視線をとめた。
「ノイズ、一つ頼まれてくれぬか」
「――はい」
緊張した面持ちで空に舞いあがったノイズに、ガウェインは銀のネックレスを手渡した。
「お前のものだ。これをリタの墓に手向けてやってはくれまいか」
「はい!」
頷くノイズ。
本当のリタを守る事はできなかったけれど、せめてその霊のお守りとなってほしい‥‥
再び泪にくれるノイズの手をがっしりと握り締めてから、ガウェインはアルトリアに顔を向けた。
「アルトリア。騎士とは何かと問うたな」
ハッと顔をあげたアルトリアの前で、ガウェインは日溜りのような微笑を浮かべた。まるで妹の成長を見守る兄のような――
「思うのだがな、お前はもうその答を得ているのではないか」
「えっ、私が――いや、しかし」
戸惑うアルトリアを、すぐにガウェインは制した。
「焦る事はない。ゆっくりと見つけ出せば良いのだから。もし分からねば――」
ガウェインは悪戯っ子のようにニッとした。
「このガウェインを訪ねて来い。共に探してやろう!」
ガウェインは馬首を返した。最後に惜別の眼差しを八つの影に送る。
「いつかまた、共に戦おう! さらばだ!」
叫びざま、ガウェインは馬の腹を蹴った。
風を巻き、たちまち遠くなる騎影。
それを見送る八つの影。
九つの勇姿は、ともに日輪の光の中で煌いている。
ここに、始めての聖杯探索行は幕を閉じるのであるが――
しかし、冒険者達は失念していた。ある重大な事を。さしものガウェインですらも――
その事実はいつか、恐るべき形となってガウェインの前に姿を現す事になる。