【神の国探索】アルマゲドン
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■ショートシナリオ
担当:美杉亮輔
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:12人
サポート参加人数:6人
冒険期間:12月29日〜01月01日
リプレイ公開日:2006年01月16日
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●オープニング
「真逆、『聖杯』の安置されている『聖杯城マビノギオン』が、リーズ城だったとはな」
「リーズ城を知っているのかよ?」
アーサー・ペンドラゴンは自室のテラスで、日課の剣の素振りをしていた。傍らには美少女が居心地が悪そうにイスに座っている。けぶるよう長い黄金の髪に褐色の肌、健康美溢れるその身体を包むのは白いドレス。誰が彼女を、蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』だと思うだろう。
かつてのイギリスの王ペリノアの居城に、彼女は四肢を分断されて封印されていた。しかも、聖杯によって人間の女性へ姿を変えられて。
これにはクエスティングビーストを狙っていたゴルロイス3姉妹の次女エレインも、流石に騙された。
彼女を無事保護したアーサー王は、キャメロット城へ住まわせていた。
「ここより南東に50km、メードストン地方のリーズという村を治めている城だ。城主は‥‥ブランシュフルールといったな。名うての女騎士だが、聖杯騎士とは」
「聖杯は然るべき時にならなきゃ姿を現さないんだろうぜ。でも、てめぇらが手に入れなきゃ、俺だって『アヴァロン』への門を開けられねぇんだからな」
クエスティングビーストが真の姿を取り戻さない限り、神の国アヴァロンへの扉を開ける事は出来ない。
「しかし、この格好、何とかなんねぇのかよ?」
「グィネヴィアの趣味だ。もう少し付き合ってやってくれ」
クエスティングビーストは王妃グィネヴィアに取っ替え引っ替えドレスを着せ替えられていた。アーサー王との間の子供のいないグィネヴィア王妃にとって、彼女は娘のように思えたのかも知れない。
「アーサー王、失礼します!」
そこへブランシュフルールへの書状を携えて斥候に向かった円卓の騎士の1人、ロビン・ロクスリーが息急き立てて駆け込んできた。
「どうした!?」
「マビノギオンから火の手が上がっており、オークニー兵とおぼしき者達とデビルに攻められています!!」
「何、オークニー兵だと!? ロット卿は動いてはいないはずだ‥‥モルゴースか! デビルがいるという事はエレインもいるようだな。ロビンよ、急ぎ円卓の騎士に招集を掛けろ! そしてギルドで冒険者を募るのだ!!」
ロビンはその事を報せるべく、急ぎ引き返してきたのだ。
そして、アーサー王より、最後となるであろう聖杯探索の号令が発せられるのだった。
荒野を白馬に跨った騎士が疾駆している。
疾風と化して。
いや、風すら追い越して。
ガウェイン・オークニー。太陽の騎士と呼ばれる、円卓の騎士中もっとも勇猛な男。
その彼は今、ひたすらキャメロットめざしてひた疾走っている。聖杯城マビノギオン急襲の報を受けて。
と――
突如、ガウェインは馬をとめた。馬首をめぐらせ、自らも視線をとばす。
その先――冬枯れの樹。その高い梢の上に朧な影が浮かんでいる。灰色に沈む風景の中に、その正体は判然としないが――
鈍色の雲間から天陽が顔を覗かせ、やがて影の実体が露わとなった。それは――
道化師。
派手な衣装をまとい、この世の全てを嘲っているかのような嗤いを白塗りの顔に浮かべている。
「ガウェイン様で?」
「そうだ」
道化師に問われ、ガウェインは頷いた。そして、
「何者だ、きさま。木登りの好きな道化師など知り合いにはおらぬが」
「ニバスと申します」
道化師――ニバスはいやに大仰な仕草で礼をとった。するとガウェインとふんと口をゆがめ、
「デビルか」
「左様で。‥‥ガウェイン様にお伝えしたき儀があり、罷り越してございます」
「伝えたいこと? ――興行の案内ならいらぬ。俺は今忙しい」
「噂通り、食えぬお方で」
面を苦笑にゆれさせ、しかしニバスはすぐに探るかのように眼を細めた。
「そうではございませぬ。私がお持ちいたしましたのはモルゴース様よりの伝言で」
「なに、母上の!?」
ガウェインが息をひいた。
が、それも一瞬。ぎらと彼の眼が煌く。
「よかろう。――では、聞かせてもらおうか、母上の伝言とやらを」
「されば――」
ニバスの紅をひいた口がきゅうと吊りあがった。
「マビノギオンへは、来るなと」
「聖杯城に!? 来るな、と!?」
「はい」
慇懃無礼にニバスは肯首した。
「さらに、ひとつ。――我に味方せよと」
「ほお」
ガウェインの口辺に野太い笑みが刻まれた。
「会わぬうち、母上も随分と口やかましくなられたようだ。――で、口上はそれだけか」
「いえ、今ひとつ。――もし先の二条に従えぬ時は」
「従えぬ時は?」
「此度は容赦せぬと」
「ほお」
ガウェインの笑みが深くなり、その眼が異様な光を放った。その身から噴き上る凄絶な殺気に、吹き荒ぶ風すら哭く声を高くしたようで。
「面白いな」
「面白うございますな」
再び、ニバスの口の端が鎌のように吊りあがった。
遠くなる騎影を眺め遣りつつ、道化は小首を傾げた。
――さて、ガウェインはどうでるか? が、まあ‥‥
つっとニバスの視線が自らの手に落ちた。そこに掴まれている数本の髪の毛。
「憐れガウェイン。マビノギオンの露ときえるか」
「デビルが、そのような――」
近侍の若者が絶句した。
キャメロット城の中。今、ガウェインよりデビルとの遭遇の経緯を聞いたばかりだ。
「――で、ガウェイン様はどのように」
「どのようにも、このようにも――」
鎧を纏う手をとめ、ガウェインはニヤリとした。
「このような楽しいこと、見過ごしにしておけるものかよ」
「しかし――」
若者の声が震えた。
ガウェインの様子は常の如く洒脱だ。が、待ちうけている者は只の者ではなく。いかにガウェインとて平静でいられるはずがない。
「敵中には御母上様が――」
「いるだろうな。のみか、母上のことだ。もしやすると、すでにマビノギオン内にいるかもしれぬ」
と、マントをつけていたガウェインの手がとまった。
「なんという顔をしている。まるで死出の門出を見送るようだぞ」
ニンガリと笑い、
「それより、お前に頼みたいことがある。冒険者ギルドに走ってくれまいか」
「それは宜しゅうございますが。‥‥して、なんと」
「少数精鋭の者の同行を求む、と依頼を出してくれ」
「それは――」
若者は声を失った。
すでにマビノギオンをとりかこむ深い森の中には敵が潜んでいるいう。その中をわずかばかりの手勢でゆくとは、そもどういう神経であろうか。ガウェインを知る若者であったが、彼が正気であるのかどうか疑わずにはいられない。
「ばか」
その若者の疑念を読み取ったのか、ガウェインはひらと手を振った。
「此度、俺はアーサー王の陽動としてマビノギオンに潜入するつもりだが、それには数が少ない方が都合が良いのだ。それにお前も知っていよう、冒険者のことを。彼らが共にあるなら心配はいらぬ」
ばさり。
マントを翻し、ガウェインが歩み出した。
「ゆくか、最後の戦いへ」
●リプレイ本文
●
地平線、煌き。
昇りゆく太陽を背に、今、一人の騎士が歩む。
風をはらんだマントは紅翼のように翻り、石畳をうつ靴音は薄闇に沈む街を震わせて――。
彼の名はガウェイン・オークニー。太陽と呼ばれる円卓の騎士。
そして。
白くのびる陽光に浮かびあがる影は十二あった。
煌星の如き彼らの名は――
リオーレ・アズィーズ(ea0980)。
リン・ティニア(ea2593)。
サクラ・キドウ(ea6159)。
逢莉笛舞(ea6780)。
アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)。
アルカーシャ・ファラン(ea9337)。
フレドリクス・マクシムス(eb0610)。
セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)。
ベアータ・レジーネス(eb1422)。
鹿堂威(eb2674)。
カイン・リュシエル(eb3587)。
クロック・ランベリー(eb3776)。
――と、云った。
「ガウェイン卿!」
叫び、走り寄る影は三つあった。
リン、サクラ、アレクセイの三人である。
「ガウェイン様、またお会いできましたね」
満面に喜色を滲ませているのは天使のように可憐なリンである。
「おお、リンか」
ガウェインは破顔したものの、三人を見まわすと首を傾げた。
「うーん。‥‥こうして眺めてみると、男であるはずのリンが一番可愛いのはどういうわけだ」
「‥‥」
一瞬呆気にとられ、サクラとアレクセイが顔を見合わせた。
憎まれ口はいつものことだが、此度は事情が違う。アレクセイは表情をあらためると頭を垂れた。伏せた眼に、つよい光。彼女はこの日あるを、ただ胸に期していたのだ。
「信じてお待ちしておりました。参りましょう。悪魔などに聖杯を渡す訳にはいきません」
「助かる。金狼が共にあれば心強い」
アレクセイの肩をがっしと掴み、次にガウェインはサクラに眼を転じた。
「どうした、サクラ。何か云いたそうだな」
「いえ‥」
一度頭を振り、しかしサクラはぼそりともらす。
「あの‥お久しぶりです。最後の戦い‥お供させてもらいます‥。最後まで‥」
「最後とは――」
ガウェインがニッと笑った。
「ということは、やはり、お前に男を教えるのは俺の役目のようだな」
「!」
耳朶までルビーの色に染めて。ほとんど反射的にサクラは手を閃かせている。
眼にもとまらぬその一閃を、しかしガウェイン左の掌で優しく受けとめた。
「疾くなったな。このガウェインが認めるには後少しだ」
今度は右の掌で、サクラのやや桃色味をおびた紅髪をくしゃりと撫でた。サクラはじっと、ただガウェインの手の温もりを受けとめている。
と、ガウェインの眼がわずかに上向いた。やや見開かれたのは、他の見知りの顔を見出したためだ。
「おお、佐祐李!」
呼ぶ。
当の緋芽佐祐李は楚々として会釈した。
「此度はお母様との決着をつけられるとのこと。少しでもお手伝いさせていただきたく、参上致しました」
「生憎だが、リーズ城に着くのには一日かかろう。此度は助けてもらうことはなさそうだ」
「それは残念」
と声をあげた者がいる。
鳳蒼龍、カノン・クラウド、クリア・サーレク、バデル・ザラームの四人だ。彼らはそれぞれに露払いでもと駆けつけたのだが。一人、カノンは勇気づける。みんな、頑張って帰って来るんだよ、と。
その時、佐祐李に紹介された黒衣のくノ一――舞が目礼した。
「初めてお目にかかる。卿のことは佐祐李から話は聞いているが――円卓の騎士に同行とは光栄だ」
舞の言辞はひどく無愛想だ。
が、ガウェインに頓着はない。己より上背のある舞を、彼はただ感心したように眺めている。
「しかし」
溜息ともつかぬ息をもらしたのは、サクラのものとはまた違う燃えるような髪をゆらしたカインだ。
母と戦わねばならぬ――骨肉の争いという辛い宿命を背負ったガウェインに同情して依頼を受けた彼であったが。しかし実際に見る円卓の騎士の様子は拍子抜けするほど陽気である。
「彼がかの太陽の騎士か」
フードからよく光る眼だけを覗かせたアルカーシャが誰にともなく呟いた。普段、あまり感情を表さぬ彼であったが、さすがにガウェインの様子には疑問を禁じえないようだ。
五十三年の生涯のうちに、アルカーシャは数え切れぬほどの茨を踏み越えてきた。迫害、暴力。その過程で、彼は心に氷の鎧を纏ったのだ。しかるに、眼前で戯れる騎士はどうだ。心の痛痒など感じない――あるいは馬鹿か。
「円卓の騎士を見るのは初めてだが。‥‥どこまで本気であるのか」
「ああいう方なのです」
ふふ、と微笑を零したのはリオーレである。
「どんな想いを秘めていても、平気な顔で笑う、そんな方ですから。‥‥だから私も、微笑んでお供するつもりです。あの方が望む決着をつけ、その後も笑って供に居られる様に」
「殊勝なことだな。惚れた弱みというやつか」
皮肉にフレドリクスが笑った。
戸惑ったように頬を染めるリオーレを一瞥してから、彼は鋭い眼差しをガウェインに向けて投げる。
「聖杯や神の国、親子の決着も結構だが‥‥。俺はそのようなものに興味はない。神なぞ居なくとも人は生きていける。‥‥少なくとも俺は生れ落ちてより神の祝福なぞ一度も受けた事は無いが、こうして五体満足で生き延びているからな」
「貴方は――」
「ふん」
リオーレを制し、フレドリクスはひやりとする気配を抱いた背を向けた。
「心配はいらぬ。依頼として受けた以上はそれを完遂してみせる。神でも国の名でもなく、俺自身の名において、な」
●
「とめろ」
ガウェインの声に、御者が手綱をひいた。馬が嘶き、激しく横揺れしながら馬車がとまる。軋む車輪が悲鳴をあげた。
「ガウェイン卿、どう――」
「わかんねえのかよ。とんでもねえ殺気が漂ってんだ」
御者に云うと、威は鉄槌を担ぎ上げた。その眼は刃のように周囲の木々を薙いでいる。
森の中に敵が潜んでいるかも知れぬと予想はしていたが、どうやらその予想は正鵠を射ていたようだ。森が殺気で凍りついている。これ以上進めば馬車も御者もただではすむまい。
そうだと同意したクロックがはひらりと馬車から飛び降りた。
「死にたくなくば、ここでじっとしていることだ」
「そうね」
御者に目配せし、セラフィーナも後に続く。地に足をつけるなり、彼女は耳を澄ませた。
「どうやら物音はしないようね」
「人影も見えぬようだ」
フレドリクスが眼を凝らした。常人を超えた視力をもつ彼の探索の網から逃れることは困難である。ということは、ここはまだ安全か。
しかし――
「さて、どうしたものかしら」
セラフィーナが白く細い顎に指をあてた。
アーサー王の陽動と聞いていたが、それはリーズ城内に潜入を果たした後のことであろう。それはそれでとてつもない難事なのだが、そこに行く着くまでが一苦労だ。森と湖には敵が溢れ返っているだろう。
それに――
半ば恐怖に近い眼で、セラフィーナは己の手を見つめた。
指が――震えている。あまりの寒さのために。
そう、彼女は防寒服の用意を怠っていた。他にもクロックが。
クロックの剣さばきも鈍くなるはずだ。が、それにも増して――弓矢を使う彼女にとって指の自由を失うことは致命的だ。
ふわり、と。
セラフィーナの肩に深紅のマントがかけられた。慌てて振り返ったセラフィーナは見た。馬車の荷台に向かって歩み去るガウェインの後姿を。
「ガウェイン様」
静夜のような声。
荷台の荷を解いていたガウェインは、手をとめると振り向いた。
「リオーレか」
「はい」
小さく頷くと、声の主――リオーレはガウェインに歩み寄った。
「お手伝い致しましょうか」
「いや、よい。もうすんだ」
「そう――」
応え、やや躊躇った後、再びリオーレは口を開いた。
「あの‥‥お聞きしたいことが‥‥。ガウェイン様は聖杯にまつわる様々なこと、どのようにお考えになられているのでしょうか」
「俺か?」
ガウェインは腕を組んだ。息を詰めて考え込む姿は少年の熱心さである。ややあってガウェインは困ったように苦く笑うと、
「難しい問いだな。お前はどうだ?」
「私ですか」
リオーレは小首を傾げた。白魚のような指を頤にのばし――
「私は――。私は想うのです。聖杯も神の国もいらないって。‥‥この地で、私達が幸せで居られたなら、それでよかったのにって」
リオーレが海色の瞳をあげた。鈍色の天穹に、彼女はこの争いで命を失ったリタやアイネの面影を追っている。
「でも起きた事は戻らない。だから‥‥これ以上の悲しみを起こさせない為に終わらせましょう、決着をつけて」
リオーレは瞳を戻した。天から地の太陽へと。真っ直ぐに。
「私、ガウェイン様の事、愛しています」
開きかけたガウェインの唇をリオーレは指でとめた。
「返事は終わった後でお聞かせてください。その為にも生き残ってくださいませ」
そこまでが精一杯。逃げるように背を返したリオーレを、ゆるやかなガウェインの声が呼びとめた。
「リオーレよ。もし――。もし生き残れたら、これをもらってはくれぬか」
ガウェインが右腕を差し出した。その手にしっかと掴まれているのは、彼の帯剣だ。
「銘などはないが、そこいらの剣よりはよほど切れるぞ」
「そんな――。もったいのうございます」
「気にするな。剣として使わなくとも、ナイフ代わりくらいにはなろう。少し大きいがな」
「ぷっ」
堪らずリオーレは吹き出した。同じように笑い、ガウェインは腰に剣をおとした。
「では、ゆくか」
●
深紅にけぶり。
クロックは斜めに薙いだ。
倒れ伏すオークニー兵には眼もくれず、彼は土を掴んだ。ぬらつく手に擦りつけ、再び剣の柄を握りなおす。
露払いと先んじた彼は、もっぱらオークニー兵を相手としていた。それは魔を滅する武器をもたぬ故であったが――結果は惨憺たる有様だ。
斬れば滅するデビルと違い、人は血を流す。オークニー兵の返り血はクロックの身のみならず、彼の手もどっぷりと濡らし、剣の把握を甘くしようと目論んでいた。
「危ない!」
叫びより迅く。凄剣舞う。
疾走の術で足さばきを増した舞のガラントソードが、クロックの頭上から襲いかかったデビルをうちはらった。
「すまん、助かった」
「なんの。――が、さすがにこの辺りは敵が多いな」
舞の眼が素早く周囲を一瞥する。
眼前の湖。今、その上にはリンのフライングブルームに引かれた小船が波をきっている。
偶然に残されていたそれは舟遊びにでも使われていたものらしく小さく、数度に分けて冒険者を運ぶことになったのだが――
その船上。
流星、疾る。
セラフィーナの矢。
貫く意志。払う想い。
それは、つよく。魔道の付与なくとも、それは翼あるデビルの牽制には十分であった。
「邪魔者はどいてもらうわよ!」
「そのとおりだ!」
威もまた勇躍。
冷たき鋼の槌、熱く。そこに迷いはない。空気ともどもデビルを殴る。
と――船を操るベアータの叱咤がとんだ。
「キミィ、あまり暴れないでくれるかな」
表情も声も、それほど切迫した様子は窺えないが、事実は違う。揺れる小船を静めるのは、彼もまだ知らぬ女を御すのに似ていた。
●
城壁に穿たれた穴を踏み越え、アルカーシャが一行の中で聖杯城マビノギオンに第一歩をしるした。
城内は思いの外静かで――が、数々の苦難を実際の傷とし全身に刻み込んだアルカーシャに油断はない。肉食獣の細心さで眼を凝らし、耳をすます。
「ベアータ!」
「もうやってる」
応えるベアータの身はエメラルド光に包まれている。
ブレスセンサー。彼は見ずして遠地の者の動きを知り得る。
「いるぞ」
「何人だ?」
すう、と。問うフレドリクスの手が剣の柄にかかった。
「この先。五人。こっちに向かってきている」
「では、やりますか」
前髪を払ったアレクセイが剣を抜き払った。
右手には忍び刀、左手にはエスキスエルウィンの牙。それは双翼をひらいた猛禽にも似て。
「そうですね」
ふっと笑い返したのはベアータだ。
「陽動ということですから、親子喧嘩はガウェイン卿におまかせして、こちらは派手にやるべきことをしましょう」
「そう、派手にな」
もう一人の猛禽――左右手に霞小太刀をかまえたフレドリクスが床を蹴った。
●
影と光。めくるめく。
時には城内に残るリーズ兵をやり過ごし、時にはオークニー兵とデビルを倒しつつ。物陰を伝うようにガウェインと冒険者は城内を奥へと進んでいた。
「まだ現れないようだな」
「ええ」
ガウェインに寄り添うように付き従うサクラが、クロックに頷いて見せた。
クロックの云う未だ現れぬ者とは即ちモルゴースとニバスなるデビルである。が、リーズ城内にすでにデビルとオークニー兵の姿がある以上、敵の首魁たるモルゴースとニバスがいないはずはなく――
「ふん。聖杯を目指して進めば、そしてガウェイン卿の存在が向こうに知れれば、敵は向こうから現れるだろうぜ」
フレドリクスがニヤリとする。が、アルカーシャは思案の態だ。
「が、卿が会ったというニバスという道化姿の悪魔、奴等は狡猾だ。ただ言伝を伝えに来ただけとは思えん」
「そうだな」
舞が肯首した。
「悪魔は人に化けると聞く。合言葉を決めておいた方が良いだろうな。符牒は――アーサー王に栄光あれ、でどうだ?」
「賛成!」
リンがにこやかに手をあげた。その時――
「静かに!」
カインが制し、指をあげた。
その指し示す先――柱の陰から影がわいた。
それはこの世の者とは思えぬほどに妖艶な美女。
「母上――」
ガウェインが口を開いた。すると美女――モルゴースは鮮やかに紅い唇を微かにゆがめて、
「来るな、と命じておいたのに。‥‥相も変わらず、聞き分けのない子」
「昔から、よく叱られましたな」
ガウェインが苦笑した。
と、その前にするすると鉄槌を担いだ姿のままで威が歩み出した。
彼の守備範囲は零歳から五十歳。相手が魅力的な女性なれば、己よりも年上の息子がいても平気だ。
――愛の伝道師の名に賭けて、一度はモルゴースお嬢さんに声をかけなければ!
「初めまして、モルゴースお嬢さ〜ん♪」
気取った仕草で威が礼を送る。が、モルゴースは刃に似た光を眼にゆらめかせただけだ。
「何者です、そなた」
「威といいます♪」
ニヤリとして、
「復讐なんて、やり遂げたところでなーんもいい事ありませんよ。これ、経験談ね。――そんな事より、俺と危ない一夜を過ごす方が楽しいですよ〜♪」
「ほう、面白い」
モルゴースは艶然と笑うと、
「ではガウェインとともに、そなたも我が陣に加えてあげましょう。――ところで」
モルゴースはガウェインに視線を戻した。
「返事を用意してきたのでしょうね。ニバスに言付けた私の伝言への」
「母上」
ガウェインの笑みが深くなった。
「今、申されたではありませぬか。相変わらず、と。ならば、私の返答はご承知のはず」
「ほお」
モルゴースが上目遣いにじろりとねめつけた。それは毒蛇が鎌首をもたげたような、ぞっとする様相である。
「やはり、そう出ますか。ならば」
「ならば? 母上、此度ばかりは如何様に邪魔だてなされようとこのガウェイン、退くことはあり得ませぬ」
「わかっています、貴方の性分は。貴方が本気になれば、所詮私は女の身、いかほどのことが成し得ましょうか」
「母上――」
異変を感じ取り、ガウェインがわずかに顔色を変えた。その前で、モルゴースは取り出した短刀の切っ先を己の胸に押し当てた。
「な、何を――」
「黙れ、ガウェイン。貴方を我が物とできぬ以上、もはや望みはない。この上は、我が手をもって我が命を絶つのみ」
云うが早いか、モルゴースは己の胸に深々と刃を突き刺した。
「あっ」
さしものガウェインの口からひび割れたような声が発せられた。まるで迷い児のように、よろめく足取りで倒れ伏した母の元に歩み寄っていく。
刹那――
まるで糸で引かれた操り人形のように、すうとモルゴースが立ち上がった。
「なにっ!」
愕然とするガウェインの眼前で、きゅうとモルゴースは口の端を吊り上げた。
「かかったな、ガウェイン」
「!」
呆然とする冒険者達は見た。いや、それはおそらく幻視であったろう。しかし、冒険者達はモルゴースから立ち上る闇色の瘴気が黒い蛇となり、のたくりながらガウェインにからみつく様を確かに見たように思った。
「ガウェイン様!」
リオーレの悲鳴が響く中、ガウェインがガクリと膝を折った。
「あ‥‥ああ――」
苦悶するガウェイン――円卓の騎士中、最も勇猛にして太陽と異名をとる騎士の足がおこりにかかったように震えている。同じように震える掌は両の眼に上に。
その前で、モルゴースの姿が――
ああ、溶け崩れていく。――と、しか見えぬ。ゆがみ、霞んだその姿は不気味に蠢動しつつ、やがて本来の――道化師の姿を取り戻した。
ふふふ、と道化師――ニバスは含み笑った。
「本来ならば円卓の騎士ほどの者、そう易々と呪いにはかかるまい。故に貴様の心に穴を――隙を穿った。ほんの僅かであろうと、我が呪いはその隙をこじ開け、忍び入る――」
ニバスが短剣の刃をガウェインの肩においた。それだけで、ガウェインが地に膝をつく。眺め下ろすニバスの眼に勝ち誇ったかのような光がゆらいだ。
「もはや貴様の視覚は我が物。――太陽、堕ちるべし!」
「ガウェイン卿!」
一人、迂闊に動けぬ冒険者の中からサクラが飛び出した。まるでガウェインしか眼に入らぬかのように駆けより、その背にしがみつく。
「ガウェイン卿、しっかり!」
「無駄だ、娘。もはやガウェインに抵抗する余力はない」
せせら笑うニバスであるが。サクラははっしとその白塗りの顔を睨み上げた。
「そんなことは、ない‥」
サクラはガウェインを抱く腕に力を込めた。そして、想いを声にのせ――
「あなたの想いはその程度ですか‥。あんなデビルに操られて終わる程度の弱いものなのですか‥」
絶叫する。
いや、叫びは二つ、三つ――十一。
全ての冒険者がガウェインの名を呼んでいた。その声は城内に木霊し、リンの口ずさむ旋律がその響きをさらに高め――。
心を強く 汝の想いを貫くために
あまたの誘惑に、支配に惑い、囚われることのないように
今一度 我等の想いを奮い立たせよ
「馬鹿め」
ニバスが哄笑をあげた。いかに叫ぼうとも、また歌おうとも、デビルの呪いが破られるはずがない。
と――
ニバスの笑いがとまった。彼の眼は、この時異様な光景をとらえている。
それは――。
ガウェインを抱く少女の内から光流がのびている。それは意志あるものの如くガウェインの身裡に吸い込まれ――。いや、それだけではない。他の十一人の冒険者達――
リオーレの――
リンの――
舞の――
アレクセイの――
アルカーシャの――
フレドリクスの――
セラフィーナの――
ベアータの――
威の――
カインの――
クロックの――
彼らの裡から放たれた光球が、次々とガウェインの中に――。
それは、今度はニバスの幻視であったろう。が、ニバスは見たと思った。そして、感じた。消え入りそうであったガウェインの魂の光がその時、爆発的に膨れあがるのを。
瞬間――。
ガウェインから凄まじい闘気が迸り出、それはうねる黒蛇を吹き飛ばした。苦鳴にも似た轟きが辺りを圧し――。静寂。
「ば、馬鹿な‥‥。我が呪いが破れるなど――確かにガウェインはとらえたはず」
ニバスの口から喘鳴の如き声がもれた。
その眼前で。
「何も、わかってはおらぬ」
ゆらり、とガウェインが立ち上がった。
「俺独りならば破れていたかも知れぬ。が、貴様が戦っているのは俺独りではない」
すう、と。ガウェインの指があがり、背後に向けられた。
「貴様にも見えるはずだ。我が戦友達の裡に宿る暖かき光が」
「なにっ」
ニバスがガウェインの背後に眼を転じた。そこに――十二対の眼光、燦然と。
その時、翻然とニバスはある符合に気づいた。
その昔、人の世に降り立った神の子の使徒の数は十二ではなかったか。またジーザス教の聖なる母の教えでは、この世に十二の良き者が現れた時、神の子が再臨するといってはいなかったか。
いや、断じて眼前の騎士が神の子の再臨などということはない。ないが、ニバスのその偶然を畏れた。
すると――
この世の全てを嘲り、呪い、蔑み、憎んできたデビルが後退った。差しそめす曙光によりおしのけられる闇のように。
と――
どかり、と闘気をまといつかせたサクラの刃が、棒立ちとなったニバスの胸を貫いた。
「ひっ」
ニバスが飛び退ろうとする。が、なんで冒険者が逃そうか。ベアータが沈黙の呪を紡げば、舞の刃が翻り――ふるうは伝説の名工「ガラント」の剣!
「滅びるが良い、悪魔め!」
「終わりだ!」
止めの威の鉄槌は潰す。横に。ニバスの脳髄ごと。
「カッ」
あり得ぬ形に歪んだ面のまま、ニバスが吼えた。それが断末魔。咆哮の尾をひきつつ、ニバスの全身が空にのみこまれていくように――溶け消えていく。
毒々しい道化の姿が完全に消失するのを見届け、ようやくサクラは木剣をおろした。
「終わりました‥かね‥」
「いや――」
ガウェインの眼がぎらと光った。その眼差しの先――満ちる陽光すら翳らせる、妖気というか瘴気というか、形容しようもないほどの禍々しい気をまといつかせた凄艶な美女が現出した。
「モルゴース!」
うめいたきり、冒険者は動けぬ。それほど圧倒的な美女――モルゴースの殺気であった。
「やはり、ニバスごときでは歯がたちませんでしたか」
モルゴースが蔑笑した。返すガウェインは苦く笑って、
「いや、なかなかに。‥‥冒険者なくばこのガウェイン、あと少しで料理されているところでした」
「ふっ、食えぬ奴」
モルゴースの形の良い唇がゆがんだ。
と、その右手に紫電がからみついた。次の瞬間、それは雷光を束ねたかのような剣を形作る。
そして――
相響く鐘のように、ガウェインが剣を抜きあわせた。
今――
相対する母と子。一人は闇を、そして一人は光を象徴し。宿命の糸に導かれ、雌雄を決すべき対峙する二人から放たれる凄愴の殺気はマビノギオンにしぶきを散らした。
「母上!」
「ガウェイン!」
モルゴースが刃をかまえた。
その時、すでに剣を振りかぶったガウェインの足は床を蹴っている。
が――
ガウェインが吹き飛んだ。のみならず、全ての冒険者達もまたはるか後方に飛ばされ、壁に叩きつけられている。モルゴースから吹きつける暴風によって。
「これは――」
「ケルト魔術!?」
身を起こしたベアータとカインが、愕然として視線を交し合った。
何の予備動作もなく発呪してのけたところをみると、おそらくモルゴースは高速詠唱を身につけている!
「ならば、僕も――来れ、火精よ!」
火球を放つべく、カインが腕を突き出した。彼もまた高速詠唱なる業を身につけている。が――
何も起こらない。失敗だ。
高速詠唱は高等技術であるため、使用の際には発呪の成功確率を低めてしまう。未だ手習い程度のカインが用いた場合、発呪の可能性は限りなく低い。
「ふっ、火の魔道の使い方、教えてあげましょう」
嘲りの声とともに、モルゴースの手から紅蓮の炎塊が噴出した。それはまだ身を起こしきらない冒険者達めがけて飛び――咄嗟に冒険者達は逃れた。ある者はごろごろと床を転がり、またある者は身を投げ出すようにして。が、それでも――
轟!
と炸裂した炎塊から散る炎が冒険者達を飲み込んだ。
「ガ、ガウェイン様!」
顔をゆがめつつ、アレクセイがガウェインににじりよった。
「このままでは――」
「くっ」
ガウェインもまた苦痛に満面を汗に濡らし、冒険者達を見遣った。
冒険者が――あの冒険者が、たった二つの魔道の攻撃を受けただけでかなりの損傷を受けている。母の魔道の威力がこれほどであったとは――。
その横で上半身を起こした舞はきりりっと歯を噛んでいる。
所詮敵は一人。同時に複数の攻撃をぶち込めば対処はしきれなかろうが――いかんせん、間合いがありすぎる。こちらが仕掛ける前に、それを封じるほどの一撃が‥‥!
舞の眼がかっと見開かれた。
ある。モルゴースを破り得る手が一つ――
「散れ!」
舞の思念を読み取ったかのように、威が叫んだ。彼もまた気づいていたのだ、完璧とも見えるモルゴースの攻撃の間隙を。
モルゴースの魔道に全周囲に及ぶ威力のものはない。ならばモルゴースを取り巻くように散開すれば、いかに高速詠唱を駆使しようと追いつくまい。
しかし。
地が――床が揺れた。それがモルゴースの仕業と知るより早く、よろめきつつ走り出していた冒険者達は再び倒れ伏してしまう。
恐るべし! 散ることすら許さぬケルトの魔道!
ガウェインを含め、全ての冒険者の面をどす黒い絶望の翳が過った。
その時――
「で、でも――」
リンが震える足を踏みしめ、立ち上がった。
「ガウェインさまが――みんなが、無事でかえれるように‥‥」
――負けられないから!
優しさは脆弱につながる。それは弱者のいい訳だ。
――と、誰かが云った。
否!
見るがよい、心優しき吟遊詩人の姿を。
優しさは――紛うことのない勇気と強靭さはリンの裡に間違いなくある!
「おおう!」
軍神のように雄叫びあげて。ガウェインもまた立ち上がった。そのままリンの脇をすりぬけて走る。モルゴース目指して。
「愚かな。まだわからぬか!」
声すらしならせて。モルゴースの指先から紫電が疾った。
それは空を灼きつつ、ガウェインの胸に――
「ああ!」
悲鳴をあげて、ガウェインを庇ったリオーレが崩折れた。
「リオーレ! ――なんということを」
慌てて抱きしめるガウェインであるが。リオーレは弱々しい笑みを彼に向けた。
「‥だって私、ガウェイン様に死んで欲しくないです‥から」
「――リオーレ」
静かにリオーレを床に横たえ、ガウェインははっしとモルゴースに眼を向けた。
「母上。――参る!」
「馬鹿め!」
怒号とともに、閃く焔
が、その前に紅髪の少女と金髪の娘が――
「決着つけるまでは居なくなられては困りますから‥」
「護ると決めた方を‥死なせるなんて‥もう二度と御免です‥!」
背を炎に灼かれつつ、しかしサクラとアレクセイは会心の笑みを浮かべた。特にアレクセイの眼には誇らしげな光すら滲んでいる。
――これで良いでしょう、ジェシー?
「サクラ! アレクセイ!」
血を吐くようなガウェインの声があがり、
「ぬぅ、またしても――」
モルゴースが歯軋りした。が、ふと、その眼の殺気の炎が不審にゆれる。
ゆっくりと倒れる二人の冒険者の向こうに――ガウェインの姿がない。
では、どこに――上!
モルゴースが気づいた時、すでにガウェインの姿は彼女の上空にあった。
破っ!
裂帛の気合とともに、大気に光の亀裂を刻みつつガウェインは袈裟に斬り下げた。
「う――」
モルゴースがよろめいた。口からたらたらと鮮血を滴らせいるものの、傷は浅い。
それは、一抹の情がガウェインの剣先を鈍らせたものか。はたまた咄嗟に発呪された石鎧がモルゴースの身を守ったためか。
「母上」
再び、ガウェインがゆつくりと剣をかまえた。彼の頬が濡れているのは血や汗のせいばかりでなく――
「次の一撃が今生の別れとなるでしょう。――さらばでございます!」
天陽の光、切っ先に集め。ガウェインが刃を振り下ろし――ぴたりと刃がとまった。
刃が――驚愕に瞠目する彼の前で、モルゴースの胸から刃が突き出ている!
やがて、刃がゆるりと引きぬかれ、モルゴースの身がゆらいだ。床をうつ前に抱きとめたガウェインに向かって刃の主――フレドリクスがぼそりと告げた。
「詫びなら幾らでも‥‥。が、円卓の騎士に親殺しの汚名をきせるわけにはいかぬ」
「詫びを云うのは俺の方だ」
ガウェインは沈痛な眼をあげた。
「俺が負わねばならぬ十字架をお前に負わせてしまった。お前が気にすることではない」
「――そう」
すうと、モルゴースの口が開いた。
「冒険者。そなたが気にすることはない。これはすでに決まっていたことなのです」
一度咳き込み、モルゴースが続ける。私には、と。
「仲間といえば血を分けたエレインとモーガンだけ。しかし、貴方にはこのような戦友達が‥‥。これでは勝てるわけがありません」
この場合に、モルゴースは微笑んだ。それは慈母のように無限の優しさに満ち溢れたもので。
そっとモルゴースは手をのばした。ガウェインの頬へ。
「つよくなりましたね。‥‥よく見せてちょうだい。私の偉大な息子の顔を――」
「母上――」
ガウェインが手をさしのべた。
が、彼の指先が触れるより早く、モルゴースの腕は力なく下がり、冷たく床をうった。響く乾いた音は、弔いの鐘のように寂たる空気を震わせ――
「――ガウェン卿、ご苦労だった。そなたは成すべき事を成した。それだけの事だ」
抑揚をおさえた声で舞が告げた。
下手な慰めなどいらぬ。そう判断しての言辞だ。
「そうだな」
ガウェインが立ち上がった。
と、その背に、薬水による治療を終えたサクラの声がとんだ。
「ガウェイン卿、これからどうされるんですか‥‥?」
「決まっている」
びゅう、と空薙ぎ。ガウェインは剣を肩に担ぎあげた。その面にも眼にも、いつもの曇り無き笑みが煌いている。
「行くのさ、聖杯の元――いや、その先の光へ!」
「おお!」
ざん、と。
十二の運命が動き出した。
輝かしき明日に向かって。
アーサー王は聖杯を手にし、神の国――魔法王国アトランティスを見出した。それは一つの大いな物語の終わりを意味している。
しかし、それは同時に新たなる物語の始まりでもある。
物語は――
永遠に続く。