はぐれスパイ純情派 1――ジャパン・京都

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月02日〜09月09日

リプレイ公開日:2005年09月16日

●オープニング

●平安の都――その裏事情
 京都は、まがうことなきジャパンの首都である。
 南北約5.3キロメートル、東西約4.5キロメートルの長方形。中央部を南流していた鴨川は、河川流路の改修の結果、都の東辺に移動し、西をながれる桂川とともに重要な水上交通路となった。
 北部中央には南北約1.4キロメートル、東西約1.2キロメートルの政庁や官庁をあつめた大内裏があり、その南面中央が朱雀門で、そこから南に、幅85メートルの朱雀大路が都の南端の羅城門までのびている。大内裏の中央東よりに神皇の御所である内裏があり、公事や儀式をおこなう正殿の紫宸(ししん)殿をはじめ、神皇の日常の居所である清涼殿などの建物がならんでいる。
 京都は、朱雀大路を中心として南北に走る9本の大路、東西に走る11本の大路によって碁盤の目のように区画されている。中央を南北に走る朱雀大路で左京と右京にわかれたが、西側の右京は桂川の湿地で沼沢が多く、現在ややさびれぎみである。

 京都における冒険者というのは、いわゆる不正規兵員――つまり傭兵的な雰囲気がある。
 そもそもジャパンにおける冒険者ギルド自体が、東国である江戸文化に成り立ちがあり、同じジャパン国内でありながら『異文化』と見られがちだ。西国にある組織の中でも、これほど東国の言葉を使用する組織は無い。ついでに言えば、京都人は江戸人を『東国の田舎者』と蔑視する傾向がある。プライドの高い京都人からすれば、そんな組織に頼るのは正直はばかられる。
 が、背に腹は変えられない。揉め事を抱えているのは貴族にせよ武士にせよ一般人にせよみな同じであり、『荒事専門の何でも屋』や『智賢ある知識人』に頼らなくてはならない事態もあるのだ。そしてそれを放置しておけば、事態が悪化するのは目に見えている。つまり、選択肢は無いのだ。
 組織に縛られない、『自由人』である冒険者。
 彼らはまさに、澱んで固化した京都に新風を吹き込む、活力なのである。だから首長の平織虎長も、彼らを容(い)れたのであろう。
 そしてその評価を決めるのは、冒険者自身である。

「はじめまして。烏丸節子(からすま・せつこ)と申します」
 楚々とした仕草で、その女性は冒険者諸賢に対し、丁寧に頭を下げた。
「東者(あずまもの)で至らぬところもありますが、姉の薦めもあり、この京都で冒険者ギルドの番頭を勤めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
 やけにきっちりした仕草で、節子は言った。姉は、聞けば東国でやはり冒険者ギルドの番頭をしているという。名前は烏丸京子。聞いたことがあるかもしれない。
「本日お集まりいただいたのは、ほかでもありません。いささか難儀な事件が起こっております」
 と、まじめな口調で、節子は切り出した。

 話はこうである。
 世の中には、間諜――つまり忍者やスパイと言った職能を持つものがいる。これらの者たちは情報収集の専門家で、いわゆる『諜報活動』というものに長けた者たちだ。もちろん暗殺などのテロ行為――破壊工作――にも精通している。感情など無きに等しく、さまざまな特殊訓練を受けており、任務遂行を第一とする。要するに、人間を素地に作られた冷酷なマシーンということだ。
 これが、平安京の内部で確認されたという。
「その外国人――女性の間諜は、何らかの理由によりこの平安京に潜伏し、何かの諜報活動を行っていたようです。ただ、何を目的にしていてどのような情報をつかんだのかは不明です。しかし、そのような状況を許すわけにもいかず、新撰組がその逮捕に動き始めました。ですが――」
 そこで、節子は困惑したように言葉を途切れさせた。
「ですが、その間諜は羅生門に出る強盗から依頼人を助けるために、姿を現したそうです。十余名の強盗を退け、その女性は去りました。今回の依頼は、その助けられた母子から受けました。金額的には微量の依頼ですが、情の許す限りその間諜を助けてあげてほしいとのことです」
 『人斬り集団』『壬生狼』とも呼ばれる新撰組に目をつけられて、その間諜が生き残れる可能性は千に一つ程度である。よしんばこの平安京をから逃れたとしても、帰国はかなわないだろう。つまり、その間諜にとっては手詰まりなのだ。
 選択肢はいくつかあるが、時間はあまりなさそうである。決断しなければならない。

●今回の参加者

 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1172 ルシファー・ホワイトスノウ(30歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb2313 天道 椋(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3436 ティア・ラ・アズナブール(25歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

李 麟(eb3143

●リプレイ本文

はぐれスパイ純情派 1――ジャパン・京都

●神聖暦1000年スパイ事情
 スパイ活動は諜報活動ともいい、政策決定、経済活動、技術開発など多方面の非公開情報の収集と分析を意味する。その関心と活動が集中するのは国家の安全保障にかかわる領域、とりわけ他国の外交・防衛政策に関する情報である。
 これらの情報の多くは国家機密であるため、スパイ活動は非合法性という側面をもち、それゆえ秘密裡におこなわれることを特徴とする。さらにスパイ活動には、マス・メディアを利用した宣伝活動、他国の政情不安に便乗した破壊活動など、単なる諜報活動の範囲をこえた非合法な謀略活動も加えられている。
 スパイ活動と国家紛争は、切っても切れない関係にある。ジャパン一つ取っても平織・源徳・藤豊の間には表面に見られない暗闘部分があり、そしてその中では忍者という職能の者が深く静かに活躍しているというのが現状だ。
 ましてや、月道という国家間を行き来する通路があるとあっては、各国がスパイ活動に血道をあけるのもうなずける話である。

「お帰り下さい、せっかくですが、協力は不要です」
 新撰組の屯所から追い出されたのは、僧侶の天道椋(eb2313)である。
 ――俺の口車が通用しないとは‥‥。
 内心忸怩(じくじ)たる思いを持ちながら、それでも笑って屯所を去る。
 椋は今回の一件について、新撰組内部からの調査を試みていた。つまり新撰組が集めた情報を、トンビに油揚げよろしく掻っ攫おうという、虫のいいことを考えていたのである。
 この場合、このような『虫のよさ』は美徳である。目的の為に手段を選ばないことも、冒険者の資質の一つだからだ。
 ただ、鉄の掟を持つ新撰組に口車だけで挑むのはやや無謀とも言える。いかに弁が立っても、冒険者と新撰組はある意味水と油。相容れる要素が無ければ、立った弁も意味を成さない。
 ――ま、いいや。相手のことは分かったし。
 持ち前のポジティブ思考に気持ちを切り替えながら、椋が思う。
 『相手』というのは、今回新撰組から出された人員――隊士のことである。
 狭間大作(はざま・だいさく)という平隊士で、四角い顔の巨漢であった。新撰組の人間にしては物腰の柔らかい男で、椋の訪問も笑顔で受け、笑顔でお帰り願った人間である。
 話の分かりそうな人物であるが、笑顔の下心はどうかというとよくわからない。やはり用心の一つぐらいは必要そうであった。

 一方。
「やーれやれ。面倒なことになっちまったぜ」
「これってどういうことでしょうか‥‥」
 浪人の伊東登志樹(ea4301)とイギリスの神聖騎士のルシファー・ホワイトスノウ(eb1172)が、四条通の裏道でやくざ風の男たちに囲まれていた。人数は約10人。手に手にヤッパ(短刀)を持ち、今にも襲い掛かってきそうな感じである。
 登志樹とルシファーは、京都の裏社会を調査していた。実際のところは恫喝と暴力を織り交ぜての不穏当な聞き込みが主体なのだが、それが大きな報復行為を生む事は無いことを登志樹は知っている。
 つまり、この状況は何か異常なのである。
「ルシファー、事情を聞きたいから手加減アリでな」
「はい」
 その言葉を契機に。
 裏道で、盛大なケンカが始まった。

 ティア・ラ・アズナブール(eb3436)はノルマン出身のクレリックである。ただしハーフエルフなので、あまり生い立ちは幸福なものではない。
 もっとも、それが彼女の性格を捻じ曲げることにはならず、彼女はわりと天真爛漫に生きてきた。
 彼女は、今回の冒険が初めての依頼になる。有力な情報は新撰組に集まると踏んで共同戦線の設置を申し入れたが、無下に断られちょっと凹んでいた。
 少しすれば回復するが、それまでは気分転換にと京都見物を決め込んでいた。幸い仲間の待ち合わせには、多少時間がある。
「髪伸ばせば良かったかなー?」
 ティアが飾り物屋で髪飾りを見つけて、思わず顔をほころばせる。彼女の銀髪はショートヘアだ。
 とん。
「おっと、ごめんよ」
 そのティアに、男が軽くぶつかった。ティアは軽くよろけたが、たいしたことでは無い。
 大変なのは、男のほうだった。「ぐぇっ!」とカエルをひき潰したような声をあげると、道路に力なく伸びてしまう。
「これ、アンタのだろ?」
 男が手に握りこんでいた皮袋を取り出し、ティアに向かってそれを差し出してきた人物が居た。皮袋はもちろん、ティアの財布である。男を昏倒させたのもその人物であろう。
「あ、ありがとうございます!」
 その人物に向かって、ティアが頭を下げる。
「気をつけな。京都も安全ってわけじゃないからね」
 その人物が言った。
 長身の、燃えるような赤毛の女性だった。外国人に見えるが、葵染め和装を身につけている。
「姐(あね)さん! こんなところにいやしたか!」
 やくざ風のサンピンが二人、その女性に向かって近寄ってきた。
「あまり外に出られては困ります。なにやら最近、姐さんを探している連中も居るようであたっ!」
 何かを言いかけたサンピンの一人を、もう一人が殴って黙らせた。殴ったほうは、ティアのほうを見ていた。
「姐さん、行きましょう」
 男が、赤毛の女を促す。
「あの‥‥お名前を‥‥」
 ティアが言うと、赤毛の女は「アカカラス」と言って去っていった。

●中間報告
 一同はそれぞれの情報を持って、冒険者酒場に戻ってきた。
 伊東登志樹とルシファー・ホワイトスノウは、どうやら裏社会に、このスパイを探して欲しくない空気があることを、チンピラを叩きのめして情報として得ていた。
 天道椋とティア・ラ・アズナブールは、たいした情報を得る事は出来なかったが、新撰組が今回の件に割いている人数が3名であることを突き止めていた。隊士全体からすれば少数だが、捜査人員としては結構な人数である。
「で、だ」
 登志樹が話を切り出した。
「本当はいの一番に会いたかった依頼人はどうしたんだ? 家にも居なかったようだが‥‥」
 登志樹の問いに、ギルドの番頭、烏丸節子はその美しい柳眉を曇らせた。
「先ほど報告が入ったのですが‥‥新撰組に逮捕されたそうです」
「「「「なっ!」」」」
 全員が驚きの声をあげる。
「新撰組は冒険者ギルドの動きを察知して、先手を打ったようです。この事件、冒険者には介入して欲しくないみたいですね」
 うーむ、と椋が考える顔になった。その情報を提供したのは、ほかならぬ彼だからだ。
「ともあれ、この一件は私が預かります。すぐに動きがあると思いますので、構えてお待ちください」
 どうやら、事件の根は深そうである。

【つづく】