●リプレイ本文
武道家推奨・牛を倒せ!――ジャパン・江戸
●七夕祭り
太陰暦7月7日のジャパンには、平安中期に華国から伝わった星祭りがある。織女星と牽牛星を主人公とする、華仙教大国の星の伝説に由来する年中行事、七夕祭りである。
伝説によれば、天の川の東で機織りにはげむ女がいた。天帝がこの女を愛でて西側にいる牽牛と夫婦にしたが、新生活の楽しさに機を織らなくなったので、怒った天帝は彼女を天の川の東に追い返し、年に1度だけの逢瀬を許した。この夜、カササギが天の川にかける橋をわたって、織女は牽牛と再会する。
華国のこの伝説にはいろいろ異型があるが、古くは『詩経』の大東詩にうたわれ、後漢の時代には一般化して、やがて女たちが星に針仕事の上達を願う乞巧奠(きっこうてん)の行事となった。
この伝説は日本につたわり、日本では七夕の信仰と行事になった。『万葉集』には七夕を詠んだ歌が130首以上もあり、牽牛を彦星、織女を『たなばたつめ』(棚機を織る女)とか『たなばた』と詠っている。
日本では川を渡るのが男になり、彼らの出会いを我が事のように詠う歌が多いのは、当時は夫が妻の家に通う『妻問婚』が一般的だったことによるものであろう。
乞巧奠の行事は最近つたわり、朝廷の節会の一つになった。人々は鴨川で身を清め、琴を奏して七夕にたてまつり、歌会などをひらいた。織女は『織り姫さま』とあがめられている。
そして今回、『牛殺し』の称号を賭けた名も無き祭りに、なぜかこの七夕の名が冠される事になった。
その名も、『七夕牛殺し祭り』。
そこのお前、笑うな――。
筆者も冒険者も大真面目なのである。
今回の祭りに携わった冒険者は、次の12名。
華仙教大国出身。人間の女武道家、巴渓(ea0167)。
華仙教大国出身。人間の女武道家、李欄華(ea0740)。
華仙教大国出身。ジャイアントの女武道家、紅李天翔(ea0967)。
ジャパン出身。ジャイアントの侍、三笠明信(ea1628)。
ジャパン出身。ジャイアントの志士、山王牙(ea1774)。
エジプト出身。人間のジプシー、タゥ・ダレット(ea2409)。
ジャパン出身。人間の志士、琴宮茜(ea2722)。
華仙教大国出身。人間の女武道家、跳夏岳(ea3829)。
ジャパン出身。人間の女浪人、音羽でり子(ea3914)。
華仙教大国出身。ジャイアントの武道家、李飛(ea4331)。
モンゴル王国出身。ジャイアントのレンジャー、イフ・サルラーン(ea4459)。
華仙教大国出身。ドワーフの僧兵、錬金(ea4568)。
さすがに『牛殺し』の称号は魅力なのか、挑戦したい武道家がずいぶんと集まった。たいした顔ぶれであろう。
ともあれ、祭りは始まる。祭りの期間は、準備と後夜祭を含め7月の6日、7日、8日、9日、10日の五日間と定められ、執り行われることになった。
●7月6日
7月6日。冒険者一行は、入念な打ち合わせをして、祭りの会場と街に散った。もちろん『七夕牛殺し祭り』の広報および宣伝のためである。
「さー、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 明日は華国から伝わった最新の流行、『七夕』祭りだよ〜!」
ナイフのジャグリングをしながら周囲にそうアピールしているのは、華国の女武道家、巴渓である。筋肉質の身体を惜しげもなく晒し、華国風の派手な衣装で決めて大道芸を披露している。なかなかに芸達者だ。
李欄華は、山王牙や琴宮茜らと共に、七夕の笹に飾る短冊を集めていた。そして市内を練り歩き宣伝をする。
「さあさあ、年に一度の七夕の日。楽しい劇の始まりだ。祭りのメインの闘牛場に、天帝様と、織姫さん、牽牛さんが舞い降りる。これを見逃したら後悔する事、間違い無し。七夕の日は闘牛場へ寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
願い事を短冊に書く風習は、貴族が詩歌を書き飾ったものが庶民に普及したものなのだが、満足な教育を受けた字の書ける庶民と言うものは少なく、おおむね代筆を頼んでいるのが現状である。それでも千枚近い短冊が集まり、準備会ではその対応におおわらわだった。
紅李天翔は三笠明信と共に、短冊を飾る笹集めの為に、竹林へと赴いた。天翔が拳撃で竹を折り、明信が竹を切り揃える。他にも祭りの準備会から人手を借り、相当数の竹を用意した。
「ベッピンさん〜占いどない♪ 当たるとえぇなぁ〜♪ 芝居どない♪ きっとオモロいわぁ〜♪」
ジプシーのタゥ・ダレットが、なにやら奇妙な踊りをしながら、道行く若い女性(限定)に向かって話しかける。その場には何やら『占いやります。今ここで』とか『芝居やります。七日夜』と書いたのぼりが立てられている。
跳夏岳とイフ・サルラーンは、舞台装置の設営に追われていた。天翔たちが運んできた竹を(素手で)二つに裂き、節を抜いて舞台の天井に這わせる。これがうまくゆけば、雨を舞台に降らせる舞台装置になるはずだ。
「さあさあ、明石名物玉子焼きやでぇ〜」
と、景気の良い声をあげているのは、音羽でり子である。丸い玉子焼きを売る屋台を引いて、祭りに花を添えていた。錬金も屋台に立ち料理の腕を振るっている。とんだナマグサ坊主である。
一種異様な期待感を膨らませながら、祭りの準備は着実に進んでいった。
●7月7日
7月7日。七夕祭りの本祭である。願い事の書かれた短冊が次々と飾られ、そして短冊をたくさん吊るされた竹が、仮設闘牛場の周囲に立てかけられた。
「良いか! お前はこれ以降、一年に一日しか会うことまかりならん!」
天帝に扮した錬金が、大仰な芝居で牽牛役のイフに向かって言う。ちなみにこの七夕の芝居、イフの脚本によるものだ。
ちなみに配役は次の通り。
【天帝】
錬金
【牽牛】
イフ・サルラーン
【織姫】
巴渓
【天帝の家来/雨降らし】
三笠明信
【月の舟人】
李欄華
【カササギ】
李飛
タゥ・ダレット
紅李天翔
【ナレーション】
琴宮茜
【舞台装置】
跳夏岳
山王牙
舞台には雨も降り、かなり凝った芝居となった。イフは主演・脚本。クリエイターとしては冥利に尽きるだろう。
芝居は続いた。
「そして牽牛、お主はこれより、織姫と会うには、この牛を倒さねばならん!!」
ぶも〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
闘牛場の一角が開け放たれ、青龍の門から黒い雄牛が飛び出してきた。かなり興奮しているらしく、突撃を受けたらただでは済まない勢いである。
「まず、天帝であるこのワシが倒してみせよう!!」
そう言うと錬金は、舞台を降りて雄牛に向かっていった。
どかっ!
錬金の先制の攻撃! <ストライク>が雄牛の額に炸裂する。
ぶも〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?
雄牛はいっそう暴れ始めた。雄牛と金の一騎討ち! 数分の戦いの後、金を置いて雄牛が逃げ出した。
「ど、ど、どうじゃ。牽牛、こ、今度はおぬしのば、番じゃぞ」
ぜーぜー、はーはー。
かなーりいっぱいいっぱいの態で、金が言う。
「承知しました、天帝さま」
イフの扮する牽牛が、余裕の態で舞台を降りる。そこに、今度は白虎の門から再び別の雄牛が放たれた。
どかっ!!
牽牛は一撃で、壁際まで吹っ飛ばされた。
●7月8日
結局昨日の芝居は、かなりの混乱と笑いのうちに終了した。牽牛のイフは重傷を負ったが、織姫である渓と乱入したでり子の手で牛は仕留められ、栄えある『牛殺し』の称号は二人のものになった(イフは僧侶の治療を受けて、なんとか回復した)。
8日は普通のお祭り。しかし地回りの間では賭けなども行われているらしく、それなりに賑わっていた。
でり子の玉子焼きは、今日も好評であった。
9日はいよいよ、闘牛である。
●7月9日
7月9日、いよいよ『七夕牛殺し祭り』のメインイベントである、闘牛が行われる。
闘牛には、すでに『牛殺し』の称号を手に入れた金と渓、そしてでり子と自分の器を知ったイフ以外の、祭りに携わる冒険者のほとんどが参加した。
以下、闘牛ダイジェストを列挙しておこう。
【李欄華】
マタドールを気取り赤マントを持参した欄華でしたが、終始雄牛に圧倒されていました。しかし奥義<鳥爪撃(ちょうそうげき)>によって牛を撃砕。見事『牛殺し』の称号を手に入れました。
【紅李天翔】
フェイントを織り交ぜた攻撃で牛を翻弄し、合間に<ストライク>を着実に決めて牛を撃退。見事『牛殺し』の称号を手に入れました
【三笠明信】
牛に先手を取られ防戦一方になり、逆転の<ダブルアタック>を放つもこれを空振り! 牛の突撃を受けて重傷を負い、無念の敗退を喫しました。急所狙いには<ポイントアタック>の修得が必要です。
【山王牙】
牛の足を止めようとするも、<ポイントアタック>が出来ず苦戦。<ソードボンバー>連発で牛に打撃を与え、結局体力と力押しで勝利。『牛殺し』の称号を手に入れました。
【琴宮茜】
雄牛の攻撃を受け、回避し、<フェイントアタック>でダメージを蓄積。一撃受ければ天国が見れるような接戦を繰り広げましたが、力及ばず敗退。剣の道はまだ遠そうです。
【跳夏岳】
跳夏岳は突入直後、牛を一か八かの<スープレックス>で地面からぶっこ抜き、牛を瞬殺。会場は大いに沸きました。『牛殺し』です。
【李飛】
<カウンターアタック>と<デッドorライブ>で受けたダメージ以上の打撃を与え続け、牛を撃退。最後は奥義<爆虎掌(ばっこしょう)>で牛を撃砕しました。
以上、闘牛ダイジェストである。
●7月10日
後夜祭は、焚き火を囲んでダンスである。異国風の男女が組みになって踊るダンスが催され、周囲の耳目を集めた。焚き火には、願い事の書かれた短冊のついた竹がくべられ、誰もが願いがかなう事を願った。
祭りは大盛況と大成功の内に終了し、夏の風物詩の一つに数えられることになったのである。
――来年もやろう。
冒険者一同は、固く心に誓った。
【おわり】