下町の英雄たち 1――ジャパン・箱根
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月12日〜06月19日
リプレイ公開日:2006年06月14日
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●オープニング
●箱根における冒険者
箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。
天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
神聖暦980年ごろ、源徳家康によって東海道が整備されると、湯本から須雲川沿いに元箱根へいたる道が開かれ、湯坂道にかわる本道となった。最近になって小田原から8里、三島から8里の芦ノ湖岸に箱根宿が開設され、元箱根にあった箱根関が宿の東に移転。道筋には杉並木と石畳がととのえられた。箱根神社への参詣も活況をとりもどし、元箱根は門前町として発展した。
一方、芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は箱根七湯の名で知られるようになり、湯治場として賑わっている。とくに湯本は、唯一東海道沿いにあるため繁栄し、一夜泊まりの客は小田原宿や箱根宿をしのぐほどである。
その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。
箱根そのものは小田原藩の直轄地であり、その運営は藩主大久保忠義が直々に行っている。だからといって、侍の領地運営にありがちな馬鹿みたいに厳格な統治ではなく、例えるならすごしやすい程度に適度に散らかった、自分の居室のようなものだ。わりと小器用に清濁併せ呑み、武士にとっても町民にとってもそれなりに居心地の良い場所になっている。
実際、景気もかなり良く、仕事も数多くあり、『箱根で三日も働けばどこの藩に行く駕籠代も工面できる』などという評判も立つほどだ。そして実際、その通りなのだ。
無論、多くの人が居れば揉め事も多い。深刻なことなら役人が、瑣末なことなら地回りたちがそれを解決してくれるが、『暴力専門の何でも屋』という職能が求められる場合はそのどちらも対処できない場合がある。たとえば、鬼種を始めとする怪物系の揉め事である。それ以外にも、愚直な役人や縦割り社会の地回りたちでは絶対に解決できないような、知能系の問題になると『彼ら』の出番となることが多い。
『彼ら』――すなわち『冒険者』である。
江戸では、社会の底辺のさらに底辺に属する性格破綻者の集団と見られがち(ヒデェ)な冒険者ではあるが、箱根ではわりと立派な部類に入る職業として認知されている。宿場と街道の安全を確保しているのは間違いなく多くの冒険者諸賢であり、惣菜の材料調達から夫婦喧嘩の仲裁まで、冒険者の仕事は実に多岐にわたりそして尽きない。
だからこそではあるが、冒険者に来る依頼は「本当にどうにもならんのか?」と言いたくなるぐらい厄介なものもある。しかしそれで尻尾を巻くようでは、そもそも冒険者などやっていられない。
そして今日も、やっかいな依頼がやってくる。
「今回の依頼は、湯本の町内会から来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「温泉町で一番大きな湯本だから当然住んでいる人も多いんだけど、下町のほうまではキチンと司直の手が行き届いていないのが現状なのよね。町外れの山の中とかだと、未だに小鬼や犬鬼なんかの出没があるの。で、ここからが重要。子供が何人か、『鬼退治』と称して山の中に入ったらしいの。多分肝試し程度にしか考えていないと思うんだけど、もちろん小鬼とか以外に野生の獣なんかは驚異になるわ。それにおなか空かしているだろうし」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼内容は、この子供達を保護しておしりペンペンして欲しいってこと。のんきな依頼だけど、結構急ぎだと思うわ。よろしくね」
●リプレイ本文
下町の英雄たち 1――ジャパン・箱根
●僕らはみんな少年だった
子供というのは、時々何をするか分からないところがある。
どんな大人でも子供時代というのはある。秘密の隠れ家を作ったり、探検と称してあちこち出歩いたり。子供時代、洞穴や廃屋は格好の遊び場所だったはずだ。
が、それが野生動物の住み処であったりすると痛い目を見ることもある。例えば野良猫の住み処に飛び込んだりしたときは、結構嫌な目を見る物だ。
一つ一つ経験を積みながら成長してゆく――それが子供という生き物と言って良いだろう。
今回の依頼、依頼を受けたほとんどの者が茂吉以下の『探検隊』をほほえましく思っていた。同時に、子供たちに説教したくてうずうずしている者が数名。
「それで、現在行方不明の子供達の総数は6名でいいんですね?」
イスパニアのナイト、ヨシュア・ウリュウ(eb0272)が、今回行方知れずになった子供達の父兄に言った。それに5組の夫婦はうなずいた。
ヨシュアがまず確認したのは、帰ってこない子供達の顔や年齢、特徴などの諸情報である。同じ事はカムイラメトクのコンルレラ(eb5094)の支援者も行っていたが、あいにく良い情報は集まっていない。
帰ってこない子供達は、男の子4名に女の子2名。女の子は姉妹だそうである。
●探索開始
パーティー一行はそれぞれの手段で捜索を開始した。いくつか問題点――例えばコンルレラの飼い犬は幼すぎてにおいによる探索の意味が分からなかったり、風魔隠(eb4673)の犬は結構優秀だけど馬が山道が全然ダメだったり、桂武杖(ea9327)が木に登って探索しようとしたら山猿にじゃまをされて落ちそうになったり――を抱えては居たが、『なんとなくこの辺に居そう』という雰囲気で探してゆく。
一番威力を発揮したのは、ジプシーのサラン・ヘリオドール(eb2357)による《サンワード》であった。が、奇妙なことにその追跡が途切れた。
「おかしいわね〜」
サランが珍妙な声を上げる。実は《サンワード》、日光の照っている場所ではほぼ正確と言える精度の情報を得ることが出来る。いったん子供達を発見してそこに向かっていたのだが、それが途切れたということは日の差さない場所に入ったということだ。
もっとも箱根の森はうっそうと茂っている。日陰は結構多い。
「何か聞こえるわ‥‥獣の声かな‥‥」
エルフのウィザードのアリティシア・カーザンス(ea0909)が、長い耳をそばだてて言う。
はっと、その顔色が変わった。
「オーガ種が近くに居るよ! これはオーガの言葉だよ!」
●追い詰められた子供
シフールのファイター、ロニー・ステュアート(eb1533)は、犬を待機させて上空からの偵察を試みた。シフールは素で優秀な密偵である。広域探索に翼という機動力を持った彼らは、インドアではスパイや忍者に劣るとも、アウトドアならカラスや猛禽類以外に対しほぼ無敵だ。
ロニーはアリティシアに言われた方向に行き、木立の上からその場所を俯瞰した。
ざっしゅざっしゅざっしゅざっしゅ。
そこには大型の茶鬼が3匹、穴を一生懸命掘っていた。鬼達からすると子犬ぐらいの大きさの穴だが、子供ぐらいは入れそうだ。
――子供?
ロニーの少ない脳みそに、嫌な予感というのが走り抜けた。
があああああッ!!
茶鬼が穴の中に向かって吠える。するとかすかに、子供の悲鳴のようなものが聞こえた。状況は明らかだ。
「まずいですね」
ロニーは、仲間のところにとって返した。
●本物の鬼退治
ロニーの報告を聞き、一同は行動を開始した。茶鬼が3匹、相手としてはやや難しい手合いである。しかしまごまごしていると、子供達は鬼の胃袋に収まってしまう。
「馬は置いていきます。犬は戦力に数えていいでしょう」
ヨシュアが言った。異論を唱える者も居たが、この場合状況は選べない。コンルレラの子犬以外は先陣を切って、相手を撹乱することになった。
隊形としては、
【第1列】強襲
犬×3匹
【第2列】前列
コンルレラ
桂武杖
ヨシュア・ウリュウ
【第3列】飛び道具
ロニー・ステュアート
風魔隠
【第4列】魔法
アリティシア・カーザンス
ティア・プレスコット(ea9564)
サラン・ヘリオドール
という布陣である。幸いなことに、回復要員が居ないという一点を除けば、そこそこバランスの取れた布陣になった。
「好機と見て取れば子供達の救出に向かうでござるが‥‥」
隠が言う。
「日向に呼び寄せれば《サンレーザー》で攻撃できるけど‥‥」
サランが言った。
「状況はあまり選べん。犬が討たれる前に子供と鬼を分断し、救出して逃げよう。子供の無事が最優先だ」
武杖が言う。呼気を整え、《オーラパワー》を発動させた。
「よし、放て!」
犬の鎖紐が外され、犬たちが吠えながら茶鬼に飛びかかる。その後にコンルレラと武杖、ヨシュアが続いた。茶鬼はこの急襲に、まったく気づいていなかったようだ。
「早くこっちに出てきて! 逃げますよ!」
ティア・プレスコットが掘り崩された穴に向かって言う。中には子供達が身を寄せ合っていた。
「早く!」
ティアの言葉にやっと反応して、子供達が出てきた。1、2、3‥‥6人、ちゃんと全員そろっている。
ティアが振り返ると戦闘は進んでいて、双方に多少の負傷が見て取れた。ロニーが《シューティングポイントアタック》で茶鬼の一匹の目を射抜き、ヨシュアの《スマッシュ》が茶鬼を吹っ飛ばす。しかしヨシュアもダメージを少なからず受け、戦闘はほぼ互角のようだった。
「子供は確保しました! 逃げましょう!」
ティアの言葉に、鬼に背を向けず一同がじりじりと下がってゆく。微妙な間合いを保ちながら、茶鬼も迫ってくる。
が、日向に入った瞬間サランとアリティシアの魔法が立て続けに放たれ、その威力に驚いた鬼達は算を乱して逃げ散っていった。
●説教大会
子供達は疲弊していたが、命に別状は無かった。ただ空腹とのどの渇きにあえいでおり、ティアの《クリエイトウォーター》で出来た水をのみ保存食を分けてもらうと、一人また一人と眠ってしまった。
子供達を無事親元に帰した後は、個々に説教大会が開かれていることだろう。冒険者諸賢にはその『説教』を楽しみにしていた者も居たが、とりあえず子供達が息災なので飲み込んでおくことにした。
後日、別のちょっとした問題が発生した。子供達が、「将来冒険者になりたい」と言い出したらしい。鬼を撃退した冒険者たちに、いたく感銘を受けたようだ。
が、またそれは別の話である。
【おわり】