山賊いぢめ――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月20日〜06月25日

リプレイ公開日:2006年06月20日

●オープニング

●今昔江戸物語
 江戸開闢(かいびゃく)から21年。関東と呼ばれる、本州中央にある平地帯の治安は、かつてに比べ恐ろしいほど良くなった。
 その多くは、『関東王』源徳家康の覇力によるものである。この21年間の間に、彼は関東の豪族達を傘下に置き、磐石に近い国礎を作り上げた。絢爛たる江戸城は、豪奢さでは藤豊秀吉のそれに劣るというが、当代最新の築城技術で建設されており、まさに難攻不落。江戸のシンボルとして江戸の中心にそびえたっている。こうなるともう、源徳が恐れるものは後顧の憂いとなる奥州藤原軍団ぐらいしかない。
 だが、国が大きくなると組織も大きくなる。大きくなった組織は必ずと言っていいほど腐敗し、そして膿を抱え込むことになる。そしてそれは、より弱い部分――弱者である庶民を汚染することになるのだ。
 政治の腐敗は、何をどうやっても避けられない。綺麗な政治などというものが幻想だ。権力の快楽に溺れ、汚れてゆく聖人など掃いて捨てるほどいる。むしろそういう人物ほど、堕ちたときは激しい。
 政治家の器量というものは、つまりいかに上手に汚れるか、ということでもあるのだ。
 源徳の抱える侍集団が江戸の表の顔なら、『冒険者ギルド』はその裏の顔である。そこはある意味、江戸の持つ負債が吹きだまるこってりとした坩堝(るつぼ)であり、多くは『冒険』という麻薬のような刺激にとり憑かれた性格破綻者の集まる場所である。
 だが、何事にも汚れ役という存在はなくてはならない。些銭と名誉に命を張る『冒険者』という存在。彼らなくして、社会の運営は成り立たないのだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「早速だけど、話を聞いてもらえるかしら」
 と、艶やかな口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪がなまめかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は上野(こうずけ)の寅五郎さん。いわゆるヤクザさんなんだけど、ちょっとした問題を抱えているわけ」
 『上野の寅五郎』と言えば上野の侠客の一人で、一声あれば日に一〇〇人の手下が集まるという大親分である。仕事もまっとうで悪癖も無く、庶民に慕われている侠客だ。
 が、息子に侠客の道を歩ませるつもりは無いらしく、字を教え学を与え、それなりにまっとうに育てていたつもりだった。
 だがそれは、親のヌキ目というものだったらしい。息子は悪い仲間に担ぎ上げられ、野盗を始めたそうだ。まだ人殺しまではしていないようだが、後戻りが出来るうちに更正させたいのが親心。しかし寅五郎は親分という立場上息子の凶行はきつく取り締まるべき『仕事の相手』となってしまう。
「つまり依頼内容は、親御さんに変わってこの息子を懲らしめ、二度と悪の道に足を踏み入れないようにクギを刺すこと、というわけ」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「要点は『懲らしめること』。二度と悪い気を起こさないように、死なない程度に徹底的にやっちゃってちょうだい」

●今回の参加者

 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9803 霧島 奏(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アディアール・アド(ea8737)/ 紅谷 浅葱(eb3878

●リプレイ本文

山賊いぢめ――ジャパン・江戸

●親の心子知らず
「アレを甘やかせたのは、ワシの不明だ」
 四人の冒険者、白銀剣次郎(ea3667)、霧島奏(ea9803)、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)、クリステル・シャルダン(eb3862)を前に語ったのは、上野の寅五郎である。白髪のいぶし銀で、漢惚れしそうないかにもな侠客だ。
「片親だったんで歪んじまったんだろうなぁ‥‥その辺のちんぴらにやいのやいのと担ぎ上げられて、今じゃただの悪党よ。上野の寅五郎ともあろうものが、息子一人のケツもふけやしねぇ。なさけねぇ限りだ」
 寅五郎が、嘆くように天を仰いだ。
「しかして寅五郎殿、そのご子息はどのような風体をされておるのかな?」
 剣次郎が寅五郎に問うた。
「身の丈は6尺5寸ほど。細面で眉毛がワシに似ている」
 他にも剣次郎は、彼ら寅次一味の住み処や手下などの情報を、つぶさに教えてくれた。
「アレはいま、舞い上がっているだけだ。親の抜き目かもしれねぇが、真っ当に育ててやりてぇ。客人にはすまねぇが、きっちり渡世人の掟ってやつを教えてやってくれ」

●寅次の住み処
 寅次一味は、20人ほどの盗賊集団である。いわゆる野盗。それもかなりケチな部類に入るもので、それはもうチンピラみたいなものだ。
 寅次に人が集まるのは、『上野の寅五郎の息子』だからである。自分で意識しているかどうかはわからないが、要は『虎の威を借る狐』なのだ。寅次本人にそれほどの器量があれば、寅五郎はとっくに引退して自分の跡目を継がせているだろう。
「しかし、なんともどうしようもない悪たれだな」
 剣次郎が奏に言った。
「そうですねぇ‥‥まあ、若気の至りとも言いますが、悪い芽は早めに摘み取った方がいいのは確かです。では、僕は先に偵察に出ています。見張りぐらいは黙らせておきますよ」
 そう言って、奏は走り出した。
「やはり話し合いからしましょうよ〜。暴力に訴えるのは最終手段ですよ〜」
 暑そうに手で顔を扇ぎながら、ジェシュファが言う。
「そうは言ってもなぁ‥‥やつらはまず話など聞かんと思うぞ」
 剣次郎が苦笑しながら言った。ジェシュファは坊ちゃん坊ちゃんしているので、現実認識が甘い部分がある。
「神は申されました。『右のほほを張られたら左のほほを差し出せ』。コテンパンにやられたら、二度と悪事などしないはずです」
 ピントのずれたことを、クリステルが言っている。馬鹿ではないが、ちょっと脳が沸いているタイプだ。女性宗教人にやや多い。博愛主義者なのだが、敵になった者には容赦が無い人物像を持つ、ある意味ジーザス教徒としては正しい姿である。
 剣次郎は苦笑するしか無かったが。
 道ばたで、奏が待っていた。足下には奏から『通行料』をふんだくろうとした野盗の見張りが、二人ぶっ倒れている。半殺しを通り越して、2/3殺しぐらい行っていそうだ。まあ、奏は手加減できるような器用さは持っていないからだが。
 さて、本丸突撃である。

●先生、お願いします
 襲撃は、夜だった。奇襲で状況を撹乱し、コトを有利に進めるのは戦の常道だ。
 野盗の半数は、ジェシュファの《アイスブリザード》でほとんど戦意を無くしていた。剣次郎が《スタンアタック》で、次々と野盗を気絶させてゆく。一番不幸だったのは、奏の相手をした者だろう。なにせ手加減できない性分なので、いいように切り刻まれている。
「てってってってっ、手前ら何者だぁ!」
 寅次らしい若者が、ゲシュタルト崩壊寸前の表情で言った。
「あなたの、お父様の使いの者です」
 クリステルが、『寅』の文字の入ったはっぴを見せる。つまり寅五郎の一家の委任状代わりである。
「くそ! 『先生』! お願いします!」
「どーれ」
 お約束なセリフにお約束な展開が来た。寅次たちが住み処にしている木こり小屋の奥から、浪人者が出てくる。見ない顔だ。
「しょうがない、相手をしてやるか」
 剣次郎が言った。この場合、一番の適任者であろう。
「給料分の働きはさせてもらうぞ」
 浪人者が言った。そして刀を構える。
 ばっ!
 歩測で20歩以上離れた場所から、斬撃が来た。
「なんとぉぅ!」
 剣次郎がかろうじてかわす。一応見えたからだ。
 《ブラインドアタック》+《ソニックブーム》の組み合わせ技である。さしずめ『見えない百歩神拳』というところか。
 かなり意表を突かれた剣次郎を見て、「さすが先生!」と寅次が快哉をあげる。
「ふん、その程度か」
 剣次郎が言う。そして。
「ジェシュ!」
 と一言ジェシュファを呼んだ。
「《アイスコフィン》〜!」
 ばききっ!
 浪人は、名乗る間も無く凍り漬けにされた。
「て、てめぇ卑怯だぞぉう!」
 寅次が言う。もう完全に、いっぱいいっぱいだ。
「臨機応変です〜」
 ジェシュファが言った。

 数分後。
 野盗達は完全に沈黙した。

●説教大会
 クリステルから『説教』を受けて、寅次は完全に萎縮していた。
「あれはほとんど恫喝ですね」
 奏が言う。
「まあ、小悪党程度で済んだ方がいいに決まっておる。良い薬だ」
 剣次郎が言う。
 後にこの事件は、『上野の20人斬り』と一時人の口に上ることになるが、それはまた別の話である。

 その後、寅次が悪さをしたという話は聞かない。

【おわり】