暴れん坊藩主#4−2――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月15日〜08月22日
リプレイ公開日:2006年08月23日
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●オープニング
●サブタイトル
『かまぼこが結んだ父子愛。箱根七湯かまぼこ珍道中』
【箱根黒玉子】
箱根温泉玉子と並ぶ温泉玉子料理。いわゆる燻製玉子なのだが箱根温泉湯で煮た玉子をいぶすと硫黄が化学反応を起こして黒に近い茶褐色に染まる。独特の風味があり、温泉玉子と並んで箱根の名産品とされる。
●玉子騒動勃発
『箱根練り物組合』からの依頼をこなした冒険者たちに、新たな依頼が来た。今度は箱根の鶏卵業者組合からである。最近鶏卵を買い占めて値のつり上げを狙っている者がいるらしく、ヤクザを使っての嫌がらせ行っているそうだ。
当時鶏卵は貴重品で、土産物でもなければ口にしないほど特別な高級食材である。当然買い占めが成れば、その元締めは莫大な利益を得る。温泉黒玉子に温泉玉子、それに仕出し料理の卵焼きに至るまで、高級食材ながらその利用版図はいかにも広い。
「そこで、今回は箱根かまぼこを守ったあなたたちに、名指しで依頼が来たわけ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「箱根の鶏卵事情は、さっき話した通り。今ヤクザのは、芦之湯あたりの鶏卵業者を荒らし回っているらしいわ。その裏を取り、悪の親玉をたたきつぶすこと。それが今回の仕事よ」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「それと、この前助けた忠吉(ただきち)って男の子の面倒見てくれないかしら? なにやら父親を捜しに来たっていう話しなんだけど、あなたたちの報告を聞くと何かワケありみたいだし、放っておくことも出来ないのよね。面倒を押しつけるようで悪いんだけど、なんとかお願い。じゃ、よろしく」
●リプレイ本文
暴れん坊藩主#4−2――ジャパン・箱根
『かまぼこが結んだ父子愛。箱根七湯かまぼこ珍道中』
●卵焼き
玉子は高級ながら、ポピュラーな食材である。
今、冒険者諸賢が(大野進之助のおごりで)舌鼓を打っている箱根温泉宿の仕出し料理(正確には仕出しではなく、板前ごとやってくる移動料理店)に出された卵焼きもそうだ。
卵焼き自体は、箱根宿が繁栄するずっと前から存在する料理である。京都や他の西国で出汁を溶いた卵焼きの料理法が確立され、すこぶる高級な料理として貴人達が食していた。
実は鶏卵以外にも、皆様ご存じのうずらを始めとする鳥類一般(軍鶏なども含まれる)の玉子も食べられていた。当時卵焼きは、ニワトリに限らない結構キワモノな料理だったのである。玉子=ニワトリとなったのは、ニワトリの品種改良と家畜化が進んだ(現実の)江戸時代の話しであり、それまでも多くはニワトリの玉子だったが、たまーに奇妙な鳥の卵も混じっていた。
なお、卵の生食は日本独自の文化で、世界では相当なゲテモノに入るらしい。西欧では(宗教上の戒律からか)、卵の生食を法律で禁じている国もあるぐらいである。
なお、関東名物(?)の甘い卵焼きが出現するのは、砂糖が一般的に流通するようになるかなりの後年の話しになる。
さて、話しを本筋に戻そう。
大野進之助が食事を振る舞うというのは、取り立てて珍しいことではない。まあ、ここまで一式そろった食事というのはあまり無いが、小銭を持っているので菓子ぐらいは結構ごちそうしてくれる。
が、進之助の目的は別の所にある。
「今日はこの板前さんに、色々事情を尋ねてみてはどうかと思ったんだ」
進之助が言う。
今回の鶏卵買い占め事件で、影響を直に受けるのは料理人の皆さんである。当然料理から卵を外せない彼らは、『その筋』の噂にも造詣が深い。死活問題に、限りなく近しいからだ。
そして今回の事件に関して、冒険者諸賢は情報を求めていた。依頼人に被害者に冒険者。彼らの利害は一致し、上手く回転するようになっていた。
板前の名前は、流れ板の藤吉と言った。
「卵の流通が滞っているのは、市場ではなく出荷元です」
藤吉が言う。
「ヤクザものが無理矢理卵を買い付けてゆくっていう話しでして、売らなきゃ乱暴狼藉をはたらくというもっぱらの噂です。鳥小屋を壊された家もあるそうで、これがなかなか質が悪い。チンピラ以外に一人腕の立つ浪人者が居るそうで、農民には手出し出来んという話しです」
ふむ、と冒険者たちは考える顔になる。
「え〜っと、卵の値段が上がって、得をしている人を探し出せばいいんだよね?」
スギノヒコ(eb5303)が言った。
「それなら分かっておりやす。『児馬屋』って食材問屋ですワ」
流れ板が言った。
「どこも卵不足なのに、『児馬屋』だけは在庫を切らした事がありません。つまり値段が上がった分だけ、まるまる儲けているわけです」
「どのぐらい儲けているんだい?」
黒淵緑丸(eb5304)が、付け合わせのキュウリをかじりながら言った。
「さて‥‥価格が倍になって、さらに品不足で客が増えて居るとなると、あっしら庶民には見当もつきませんや」
流れ板は困ったように答えた。
「それは、領地替えが出来るほどの金額になりますか?」
ブロード・イオノ(eb5480)が問う。それに応じたのは進之助のほうだ。
「そうだな‥‥藩主はともかくその取り巻きにばらまく金の一部ぐらいは工面がつくだろう。ざっと2000両金。領地替えとなると、その5倍は必要だろうが‥‥」
「それなら、その一端はすでに稼いでいると考えたほうが良いのではないですか?」
と、これはヨシュア・ウリュウ(eb0272)。
「前回の事件――忠吉さんが関わっていた事件で、すでに幾ばくかの悪銭を相手は手に入れています。いかほどかは想像付きませんが、100両200両ということは無いでしょう」
たかがかまぼこと言っても、塵も積もればなんとやら。まこと悪が稼ぐのはあぶく銭。しかしこれが、膨らむものであることは、悪人をよく知る冒険者には分かっていることである。
「ひとまずその『児馬屋』を叩いてみよう」
水上流水(eb5521)が言った。
「ホコリの出る身なら、何か出るんじゃないか? 鬼やヘビかもしれないけど」
それに刈萱菫(eb5761)が、「賛成ですわ」と唱和した。
●ホコリが出た
「展開早いなぁ‥‥」
あまりにお約束の状況に、スギノヒコが呆れたように言った。
児馬屋に探りを入れた冒険者達は、翌日いきなりチンピラたちに囲まれたのである。
『
ここに冒険者達の華々しい活躍を2分24秒ほどお書き下さい。
』
「覚えてやがれー!!」
えー。
言うまでもないが、そんなチンピラが多少多いからと言って遅れを取るほど、冒険者はヤワではない。
ただ確定したのは、児馬屋が真っ黒だということだ。チンピラ達は逃げて行き、その後を緑丸が追った。
その結果、芦之湯の地回りの一人、大熊一家というのに行き当たった。
緑丸の報告によって、冒険者達は大熊一家を押さえ児馬屋の陰謀を阻止する行動に出る。
しかし、その前にやることがあった。もう一つの懸案事項。忠吉の父親探しである。
●忠吉の父親
「忠吉さんのお父さんは、どんな方なのですか?」
ヨシュアが、優しく忠吉に問いかける。
「‥‥包丁職人」
「「包丁?」」
冒険者から、いくつか声が上がった。
包丁職人は、いわゆる包丁を鍛造する人で、名人の手になるものとなれば名刀に匹敵する価値を持つものである。華美な装飾や人を斬る能力に長けている必要は無いが、料理人にとっては魂と同義のものだ。武士が名刀を欲しがるように、名料理人はすべからく銘のある包丁を求める。
が、職人も遊びで作っている分けではない。名刀と武士に出会いがあるように、料理人にもそれに見合った銘の包丁との出会いがある。そういう矜持を持って包丁作りをするのが、包丁職人というものだ。
逆説的に言えば、銘のある包丁を持っているということは、実力はどうあれ名料理人に序列されるということでもある。
ゆえに近年では、権威や金銭で、銘のある包丁を欲しがる者も多い。武士と同じで、料理人にも仕官の道があるからだ。
「妙な流れになってきたな」
流水が言う。
「忠吉を人質に取ったということは、親父さんに何かを要求するためだろ? だがそれが包丁となると、普通は1日ぐらいで出来るものだ」
「つまり、お父さんは要求を呑んでいないのではないのですか?」
菫が言う。
「どういうことですの?」
ブロードが問う。
「忠吉さんのお父さんはおそらく包丁の名工で、忠吉さんを人質にして包丁を作らせようとしていた。しかしお父さんは未だに首を縦に振っていない。つまり忠吉さんのお父さんは、忠吉さんが助けられたことを知らずにどこかに軟禁、あるいは監禁されている、ということですね?」
ヨシュアが流水に向かって言い、流水がうなずいた。
「それなら、お父さんも助けないと!」
スギノヒコが言う。
「それなら、あの人たちに話しを聞くのがいいんじゃないかな」
緑丸が言う。宿屋の表に、多数の人の気配があった。どうやら、昨日のお礼参りのようである。
「一仕事するか」
進之助が、刀を腰に帯びて言った。
ちゃーんちゃーんちゃーん、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃーんちゃーんちゃーん♪(※BGMは参考です)
戦いが、始まった。
●新展開
20名余のごろつきを、冒険者たちはたたきのめした。そして尋問を行い、児馬屋が今回の卵の買い占めに絡んでいることを白状させた。
また、忠吉の父親についての情報も少し得られた。忠吉の父親は、たいそうな武家にかくまわれているらしい。
武士が、何の目的で包丁を求めているのかは分からない。しかし、ろくな目的でないのは確かだろう。
「もう一仕事頼めるかな」
進之助が、冒険者達に言った。
「相手は、領地替えのための資金を集めている。それも小悪党ばかり使って目立たぬように。そしてその目的のために、忠吉の父親を攫い、包丁を作らせようとしている。何を考えているかは分からないが、よからぬことであることは確かだ」
同感である。
「おそらく、また動く」
進之助が言う。
「忠吉の父親を助けるためにも、その動きを察知して、対応せねばなるまい」
事態は、急展開を見せ始めた。
【つづく】