下町の英雄たち 3――ジャパン・箱根
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月15日〜07月22日
リプレイ公開日:2006年07月24日
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●オープニング
●箱根における冒険者
箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。
天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
神聖暦980年ごろ、源徳家康によって東海道が整備されると、湯本から須雲川沿いに元箱根へいたる道が開かれ、湯坂道にかわる本道となった。最近になって小田原から8里、三島から8里の芦ノ湖岸に箱根宿が開設され、元箱根にあった箱根関が宿の東に移転。道筋には杉並木と石畳がととのえられた。箱根神社への参詣も活況をとりもどし、元箱根は門前町として発展した。
一方、芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は箱根七湯の名で知られるようになり、湯治場として賑わっている。とくに湯本は、唯一東海道沿いにあるため繁栄し、一夜泊まりの客は小田原宿や箱根宿をしのぐほどである。
その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。
箱根そのものは小田原藩の直轄地であり、その運営は藩主大久保忠義が直々に行っている。だからといって、侍の領地運営にありがちな馬鹿みたいに厳格な統治ではなく、例えるならすごしやすい程度に適度に散らかった、自分の居室のようなものだ。わりと小器用に清濁併せ呑み、武士にとっても町民にとってもそれなりに居心地の良い場所になっている。
実際、景気もかなり良く、仕事も数多くあり、『箱根で三日も働けばどこの藩に行く駕籠代も工面できる』などという評判も立つほどだ。そして実際、その通りなのだ。
無論、多くの人が居れば揉め事も多い。深刻なことなら役人が、瑣末なことなら地回りたちがそれを解決してくれるが、『暴力専門の何でも屋』という職能が求められる場合はそのどちらも対処できない場合がある。たとえば、鬼種を始めとする怪物系の揉め事である。それ以外にも、愚直な役人や縦割り社会の地回りたちでは絶対に解決できないような、知能系の問題になると『彼ら』の出番となることが多い。
『彼ら』――すなわち『冒険者』である。
江戸では、社会の底辺のさらに底辺に属する性格破綻者の集団と見られがち(ヒデェ)な冒険者ではあるが、箱根ではわりと立派な部類に入る職業として認知されている。宿場と街道の安全を確保しているのは間違いなく多くの冒険者諸賢であり、惣菜の材料調達から夫婦喧嘩の仲裁まで、冒険者の仕事は実に多岐にわたりそして尽きない。
だからこそではあるが、冒険者に来る依頼は「本当にどうにもならんのか?」と言いたくなるぐらい厄介なものもある。しかしそれで尻尾を巻くようでは、そもそも冒険者などやっていられない。
そして今日も、やっかいな依頼がやってくる。
「今回の依頼は、箱根の役所から来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「箱根峠を越えたところに、『小鬼砦』っていう場所があるのよ。まあ、古い砦か何かの跡なんだけど、去年小鬼の家族が住み着いてきたんで掃除したのよね。でもまた別の小鬼の一家が住み着いたみたいで、ちょくちょく東海道に現れているわ。東海道の安全は旅人の安全。鬼なんかにいいようにされちゃ困るのよ。そこで!」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼内容は、『小鬼砦』の鬼を殲滅するか追い出すこと。石垣と洞窟が一つの砦だけど、攻めるとなるとちょっと工夫がいるかもしれないわね。その辺はうまくやってちょうだいな」
●今回の参加者
ea9564 ティア・プレスコット(20歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
eb1533 ロニー・ステュアート(30歳・♂・ファイター・シフール・イギリス王国)
eb2196 八城 兵衛(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
eb5094 コンルレラ(24歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
eb5521 水上 流水(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
●サポート参加者
陸堂 明士郎(
eb0712)/
アルディナル・カーレス(
eb2658)
●リプレイ本文
下町の英雄たち 3――ジャパン・箱根
●小鬼砦
『小鬼砦』と呼ばれる場所は、東海道を西方に向かって約3日ほどの所にある。
元は本箱根方面に向かう旧街道の関所跡ということらしいが、木造の施設が取り払われて地下牢と石垣だけが残った。
小鬼などの鬼種はこの地下牢を拡張して迷宮化し、そこに住み着いた――というのが、20年ほど前の話。その後小鬼砦は、何度となく拡張と司直の怪物退治の手が入り、中身は何がなんだかよくわからない状況になっている。
水上流水(eb5521)が調べたところでは、小鬼砦の洞窟部分は地下に伸びているらしく、当初予定されていた煙による燻りだし作戦にやや疑問の湧く展開となった。
「砦の入り口は地上部分にあるが、住み処の部分は地下4層ぐらいになっているらしい。よくもまあ掘り進めたものだが、鬼の性癖を考えるに考慮しておくべきだったな」
ギルドから借りた古い記録を広げて、流水が言った。
「これでは、煙攻めは苦しいですわね」
ティア・プレスコット(ea9564)が、残念そうに言う。
「折衷案だな。一層ずつ入り込んで火を燻し、煙を送り込む。出てきたら各個撃破。現在も内部の状況が、流水どのの資料の通りとは限らないから、結局は中に入らざるを得んだろう」
八城兵衛(eb2196)の言葉に、うーむと冒険者諸賢がうなり声をあげた。洞窟探索となると、茶鬼あたりが出てきたときに前衛に不安が残る。また大事なペットに危険も及ぶだろう。
「見張りはいたか?」
兵衛の問いに答えたのは、シフールのファイターのロニー・ステュアート(eb1533)だ。
「小鬼が1匹だけいたよ」
「それならすでに、私の魔法で眠らせてあります」
宿奈芳純(eb5475)がさらに付け加えた。
「周囲の状況は?」
「近くに危険な生き物は居なかったと思うよ」
コンルレラ(eb5094)が、愛犬の顎の下をなでながら言った。
「やろう。どのみち逃げ道でもあったらコトだ。しらみつぶしにやるしかあるまい」
兵衛が言い、方針は決定した。
●火と煙と通路と
「ここに分岐路‥‥と」
ティアがマッピングを行っている。
小鬼砦は(想定外だったが)予想の範疇を出るような迷宮ではなく、単純な分岐路の繰り替えしだった。難物なのは縦穴だったが、これも力の無い者は縄で下ろされるなどして、事なきを得ている。ロニーが空を飛べるので、斥候としても役立ったのが大きいだろう。
冒険者は1層ずつ小鬼を各個撃破してゆき、降りた縦穴の下には油をまいて火をつけ、上に煙が昇って誰も降りてこれないようにした。残っている小鬼が居れば、燻されて逃げているはずだ。これはコンルレラが、無益な殺生を嫌ったゆえの選択でもあった。
ただ1ヶ所だけ、冒険者が割れた局面がある。洞窟の3層で、小鬼の子供の群れを見つけたときだ。あくまで殲滅を主張する一派と、見逃そうという一派に別れたのだ。
結局小鬼の子供は殺されたが、誰にとっても後味の悪い仕事になったことは言うまでもない。しかし放っておけば、小鬼は成長しどのような被害をもたらすか分からないのだ。
この辺りに来ると、さすがに鬼達にも動きがあった。逃げるものがほとんどだが、武装して向かってくる小鬼も現れ始めたのである。
少数の小鬼に遅れを取るほど冒険者は弱くなかったが、茶鬼と戦うことも考え消耗は最小限に抑えられた。具体的には魔法の使用を控え、持久戦に備えたのだ。
そして、洞窟探索は佳境を迎えることになる。茶鬼の出現である。
●対決! 茶鬼!
のそり、と、それは暗がりから姿を現した。
小鬼を人間大に拡大コピーしたような姿。たいまつに照らされた皮膚は名前の由来通り茶色で、壊れた盾や鎧を装備している。おそらく人間からはぎ取ったものと思われた。
「茶鬼のご登場か」
兵衛が大斧を構える。
「雑魚はぼくがやる」
両手に短剣を構えながら、コンルレラが言った。茶鬼の周囲には、小鬼も居たからだ。流水もそれに当たる振りを見せた。ロニーは、弓で援護の構えだ。
「先手必勝!」
兵衛が大斧を大上段に振るう。《スマッシュ》である。
がつん!!
鈍い音が響き、茶鬼は斧の斬撃を盾で受け止めた。
「生意気なやつめ!!」
がつん!! がつん!! がつん!!
兵衛の重い連撃が茶鬼を圧倒する。しかし兵衛は一つ忘れていたことがあった。
ガン!
「ぬわっ!」
不意打ちに等しい攻撃を、兵衛は盾でかろうじて受け止めた。槍の攻撃だった。
茶鬼は、2匹居たのだ。
ガン! ガン! ガン! ガン!
手数で押され、兵衛は防戦一方になった。ロニーの援護射撃も入るが、致命打には至らない。十数合受け続け、コンルレラが救援に入るまで軽傷で済んだのは奇跡に近い。
しばらくそれで状況は拮抗したが、意外にも勝負を決めたのは、ティアの《ウォーターボム》と芳純の《ムーンアロー》だった。前衛の防備を頼り魔法を続けざまにたたき込んだのだが、数度の詠唱によって相手の体力を削り、拮抗していた戦力バランスを崩したのである。
後は、たたみ込むだけであった。茶鬼を倒した後は、小鬼をことごとく殲滅する。
ほどなく、今回の『掃除』は完了した。
●洞窟封鎖
ティアの《クリエイトウォーター》によって火を消し、入り口まで戻った冒険者達は、煙のにおいを身に染みつかせた態で外に出た。
「空気がうまいですねぇ」
芳純が言う。言わずもがなである。
その後、冒険者たちは小鬼砦の洞窟を崩し、二度とこの洞窟が小鬼などに利用されないようにした。
「箱根で温泉に入りましょう」
ティアが言い、皆が同意した。
後、小鬼砦に鬼が住み着いたという話は聞かない。
【おわり】