【ファーストミッション】小鬼の洞窟
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月22日〜08月27日
リプレイ公開日:2006年09月04日
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●オープニング
●今昔江戸物語(読まなくてもいいよ)
江戸開闢(かいびゃく)から21年。関東と呼ばれる、本州中央にある平地帯の治安は、かつてに比べ恐ろしいほど良くなった。
その多くは、『関東王』源徳家康の覇力によるものである。この21年間の間に、彼は関東の豪族達を傘下に置き、磐石に近い国礎を作り上げた。絢爛たる江戸城は、豪奢さでは藤豊秀吉のそれに劣るというが、当代最新の築城技術で建設されており、まさに難攻不落。江戸のシンボルとして江戸の中心にそびえたっている。こうなるともう、源徳が恐れるものは後顧の憂いとなる奥州藤原軍団ぐらいしかない。
だが、国が大きくなると組織も大きくなる。大きくなった組織は必ずと言っていいほど腐敗し、そして膿を抱え込むことになる。そしてそれは、より弱い部分――弱者である庶民を汚染することになるのだ。
政治の腐敗は、何をどうやっても避けられない。綺麗な政治などというものが幻想だ。権力の快楽に溺れ、汚れてゆく聖人など掃いて捨てるほどいる。むしろそういう人物ほど、堕ちたときは激しい。
政治家の器量というものは、つまりいかに上手に汚れるか、ということでもあるのだ。
源徳の抱える侍集団が江戸の表の顔なら、『冒険者ギルド』はその裏の顔である。そこはある意味、江戸の持つ負債が吹きだまるこってりとした坩堝(るつぼ)であり、多くは『冒険』という麻薬のような刺激にとり憑かれた性格破綻者の集まる場所である。
だが、何事にも汚れ役という存在はなくてはならない。些銭と名誉に命を張る『冒険者』という存在。彼らなくして、社会の運営は成り立たないのだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
堅苦しい説明はここで終わり。ここからが本題である。
「早速だけど、話を聞いてもらえるかしら」
と、艶やかな口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭である。漆を流したような黒髪がなまめかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
女番頭がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「今回あなたたちに集まってもらったのは他でもないわ。冒険初心者がいつまでも初心者じゃこまるから、実践で経験値をつけてもらおうっていう話し。依頼人はとある村の村長さん。依頼内容は、小鬼(ゴブリン)が洞窟に住み着いたから退治してっていう話しよ。単純でしょ?」
そう言って、女番頭は絵図を出した。洞窟の絵図のようだった。
「この洞窟は漁師小屋代わりに使われていたもので、内部の構造は分かっているの。この絵図以上のことは無いと思うから、気張って小鬼を退治してちょうだい」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がった。
【地図について】
A:入り口。北向きで幅3メートルほど。
B:分かれ道。Y字状。右へ行くとC。左へ行くとD。
C:行き止まり。
D:地下水路。幅1メートルほど。深さは30センチ程度。足下が滑る。通路が続いている。Eへ。
E:部屋状の空間。通路が続いている。Fへ。
F:小部屋状の空間。行き止まり。
【敵】
小鬼(ゴブリン)の数は10匹程度。茶鬼(ホブゴブリン)も数匹目撃されている。
茶鬼の戦闘能力は新米冒険者とほぼ同等。
●リプレイ本文
【ファーストミッション】小鬼の洞窟
●ジャパンにおける鬼種と汎人類
同じ五体を持つものとしては、ゴブリン、オーガを始めとする鬼種と、人間やエルフ、ドワーフといった汎人類は、生物的なカテゴリとしてはよく似ている。共にある程度の知能を持ち、言語を持ち、共同体を構成している点。また時には器物・道具を使い集団で狩りを行うなど、そのありようもなかなかに似たものだ。
しかしこの世界『ジ・アース』では、この二種族は不倶戴天の敵、という認識で良い。
見敵必殺、遭遇はおおむねどちらかの、あるいは双方の血を見ることになる。同じ五体を持つ生物でも人間と猿が違うように、両者には決定的な差があるのだ。鬼種は汎人類を食料か何かとしか見ておらず、シフールなど棚に下がったキュウリのようにバリバリ頭から食べてしまう。万物の霊長(というのは一部の神学者の常套句であるが)たる人類、つまり『神に似せられて創られた』神の子たるモノに害なす悪しき奴ばら。神の寵愛を受けられないケダモノ。
つまり『悪』。
過分に排他的な考えだが、人間が世界に幅をきかせるようになればなるほど、これら鬼種を始めとする様々な異種族との摩擦は増して行く。
エコな物語だと『自然と協調して生きて行こう』などという緑の豆党の方々がグロスでデモ行進するようなシチュエーションがあるかも知れないが、この世界はそんなことで止まれるほど優しくはない。
例えば、現代に状況を置き換えてみよう。
反戦運動をする人たちは世の中にごまんと居る。しかし彼らがデモ行進したりシュプレヒコールを挙げたり、ダイ・インをしたからと言って戦争が止まったという事例は、過去一度も無い。ベトナム戦争でさえそうだ。一見民意が盛り上がったからそうなったように見えるが、それはアメリカがテト攻勢で大敗北を喫し、大日本帝国の大本営発表のようだった戦勝報告が嘘だったことがバレたからである。その時点ですでに、アメリカはベトナムでの戦闘行為の継続が不可能になっていたのだ。ゆえに、撤退した。ここに反戦運動はまったく関わっていない。
人間同士でさえそうなのである。多少似ているからと言って、自分のことをエサとしか見ない相手と仲良くやっていこうというのは、それは夢以前にただのバカだ。殺らなきゃ殺られる殺伐とした世界で平和を唱える奴は、どこか壊れているか真正の電波であろう。
ゆえに。
この依頼は、シビアに現実と直面するものでもある。初心者向け、と言ったのは単に戦闘単位としての評価の問題であって、そこに冒険者諸賢のメンタリティは計算されていない。つまり甘い判断をした時点で、その冒険者は二度と仕事を振ってもらえない可能性だってある。
自分が剣を握っているのは何故か? 魔法を使用するのは何故か? 何故戦っているのか?
その意味を理解させるために、冒険者ギルドの女番頭はこの依頼を選んだのだろう。
それを、冒険者たちは、後で思い知ることになる。
●入り口(A)
洞窟の入り口は、地層が斜めに刻まれている断層の断面にあった。崩れたのか削れたのか分からない空間が、ぽっかりと口を開けている。
見張りらしい小鬼が、何をするあてもなくぼーっと座っていた。その背後に紫色の影が降り立ったことにも気づかない。
トン。
その一撃だけで、小鬼はくたりと地面に伸びた。
「‥‥‥‥」
風魔隠(eb4673)が、無言で手招きする。《スタンアタック》で黙らせたのだ。
ついてくる冒険者は3名。女浪人の刈萱菫(eb5761)、志士の遠野梓矢(eb5983)、最後が武道家のワミータケテ(eb6036)である。
予定より人数が激しく少ないが、まあたまにあるドタキャンなので問題ではないだろう。
一同は小鬼をふん縛って、中へと侵入した。
●分かれ道(B)
分かれ道で、冒険者達は二手に分かれた。隠とワミータケテは右へ向かい、梓矢は左の水音がするほうへ向かったのだ。菫が後詰めに三叉路に残る。戦力の分散は通常愚策ではあるが、梓矢の《ブレスセンサー》で右左双方の通路に呼吸の反応を見たからである。
「多分、茶鬼だな」
呼吸の大きさから、梓矢は右側の敵をそう判断した。
「罠を張るよ」
隠が言う。
「付き合うよ」
ワミータケテが言って、足音を忍ばせた。
●行き止まり(C)
ぐごごごごごごごご。
ものすごいイビキが聞こえてくる。
身振り手振りとアイコンタクトで、隠とワミータケテは忍び入っていた。これだけの騒音だと多少の足音は消えてしまう。
どん詰まりに、大きな人影が寝ていた。無骨な体躯に長い腕。身長は人間とそう変わらなさそうだが、肉の総量はジャイアントよりありそうである。
茶鬼、だった。
隠は、紐などを使った罠を仕掛けた。殺傷力を付けるために手裏剣などを地面に立てておく。
ワミータケテが合図をし、拳ほどもある石を思いっきり茶鬼に投げつけた。
ごっ!
かなり、具体的に痛そうな音が響いた。
GUAAAAAAAA!!!
痛みに茶鬼が咆える。鼻っ柱を思いっきりドつかれ鼻血を噴きだし、一発で目を覚ました。
ぶるるん! と、茶鬼が頭を振った。暗闇なのにこちらが見ているらしく、怒りの咆哮を上げて迫ってくる。
びん!
その足が、隠の張った紐に引っかかった。
どばん!
思いっきり、茶鬼が転んだ。手裏剣などが置いてあったところなので、モロに打撃を被っただろう。
が、茶鬼は立ち上がると折れた前歯を吹き出して、隠たちに殴りかかってきた。
怒り心頭の茶鬼に、理屈は通用しない。半ば狂戦士と化した茶鬼に、防備の薄い二人は防戦を迫られる。罠としては、モノが生半可すぎた。冷静さを失わせはしたが、防御を考えない突撃に、ワミータケテも隠も押され気味である。
隠も飼い犬の忍犬をけしかけて応戦するが、いかにも打撃力不足。ちくちくとダメージを蓄積させるが、長期戦は冒険者に不利だ。
が、最後を決めたのは隠の《スタンアタック》だった。
●地底水路(D)
「予想より大きい‥‥」
長雨の影響か、地下水路の幅は聞いていたものより大きく膨らんでいた。表面は緩やかだが下の方はかなり流れが速い。水路の噴出口は泡立ち、かなり剣呑な感じになっている。
「これは、小鬼は半ば閉じこめられていると見ていいですわね」
菫が言う。実際、小柄で軽い小鬼が、簡単にこの河を渡れるとは思えない。
一同は足を滑らせないよう用心し、河を渡った。
梓矢が考えたことは、この河を渡ると言うことは、事実上背水の陣になるということだった。
●突入(E)
攻撃は、不意打ちだった。
《ブレスセンサー》で敵の位置や数を把握していた冒険者は、もっとも効率の良い形で部屋に攻め入ることが出来た。虚を突かれた小鬼は、その部屋にいた六匹のうち半数が数十秒で戦闘不能にされ、残りは奥の部屋に逃げ込んだ。
多くを語る必要が無かったのは、要するに冒険者が必勝の態勢で臨んだからである。戦う前に勝敗が決しているというのは、戦の常道。戦いは結果を確認する行為であり、そも孫子とかそういう人はその著書で「戦争なんてろくでもないんだよ〜」ということを書いてある(本当)。
勝ち戦は楽しい。しかしその後、冒険者は頭から冷や水を浴びせられるような決断を迫られることになる。
●殲滅(F)
最後の部屋は、あまり大きくない空間だった。断層のスキマに出来た、偶然の産物。
そこには、戦意を無くした小鬼と、小鬼の子供が数匹居た。
「どうしますか?」
菫が言う。
冒険者には、もう分かり切った話だ。
殺す。
嫌も応もなく、殲滅する。
が、さすがに戦意を無くし、哀れみに満ちた目でこちらを見ながら子供をかばう生物を殺すのは、気が引けた。
「殺すでござる」
決断したのは、隠であった。
「小鬼といえども、一般人には脅威でござる。ましてや人間に恨みを持ち、手負いとなりそして成長した子供が何をするかは明白。禍根は断たねばならんでござろう」
隠は一般論を言っただけだが、非常に悪い空気が周囲に満ちた。
隠が手裏剣を振るう。グェっとうめいて、小鬼の一匹が死んだ。
あとは、蜘蛛の子を散らすように小鬼たちが逃げ出す。反射的に冒険者達は、小鬼たちを斬り殺した。
血臭が残り。
死体だけが、そこに残った。
●依頼完了
「はい、報酬よ」
ギルドの女番頭から、冒険者は報酬を受け取った。
が、なんとも後味の悪い仕事になった。
「どう? 勉強になったでしょう」
その冒険者達を見透かすように、女番頭が言う。
「世の中、きれい事じゃ済まないのよ。以後、覚えておくといいわ」
ただその言葉だけが、冒険者の腹に落ちた。
【おわり】