コングルスト砦の攻防

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月28日〜11月04日

リプレイ公開日:2006年11月04日

●オープニング

●カオスの脅威
 『カオス』が何であるか?
 実は、多くのアトランティス人は把握していない。ただカオスニアンや『カオスの魔物』などの存在から、邪悪で『このアトランティスを冒(おか)すモノ』であると認識している。
 だが、その本質にまで迫った学者や魔法使いは居ない。それはこの50年変わらぬアトランティス各国の命題であり、そしてなんとか探りたい事物である。
 なぜか?
 話しは簡単だ。どうやって生きて(発生して)いるかが分かれば、滅ぼすことも不可能では無いからだ。
 生物のメカニズムは、かなり解明されている。まあ、天界の知識でアクチン・シトミンといったアミノ酸の集合体であるという人間の構成が、アトランティスやジ・アースでは『六大精霊』によって構成されているものであったりとその有り様は様々だが、モンスターも含めて、解明された現象はあまり脅威ではない。ウィルスの発見により免疫学が発展したように、正体が分かれば対処のしようがあるからである。
 だが、カオスだけは別である。現状その発生原因も分かっていないし、ある日突然『カオスの穴』が開口しサミアド砂漠が広がり、文字通り『世界が崩壊しかけた』この事象は、今だ謎のままだ。
 そして、バの国の台頭。
 基本的に『リーダー』という存在の無かったらしいカオスニアンたちは、バの国の『軍』というシステムを教えられ、『群体』から『軍隊』に変化した。それは身体能力にすぐれたカオスニアンに適合し、そもそもバイタリティあふれるカオスニアンを巨大な一個の『暴力』に作り上げたのである。
 そしてカオスニアンの多くはどん欲で、実に凶暴である。そしてしたたかで、認めなければならないのは『賢い』のだ。
 悪の賢人ほど始末の悪いものは無い。そして、彼らは虎視眈々と『何か』を狙っている。

    ◆◆◆

 メイの国西方に、『コングルスト城塞』という名の城塞がある。どうやらメイの国建国時に伝播し文化の影響を受けた帝政ローマ時代の古ラテン語『コンスル(軍人:意)』から名付けられたらしい城塞で、日本人に分かりやすく言えば『防人(さきもり)の砦』だ。
 だがカオスの穴が開いた時から、そこは辺境の僻地でなく国家、ひいてはアトランティス防衛の要となる超最前線となった。そして今、カオス勢力はこの砦を陥落させんと、徒党を組んで攻め寄せてくる。50名の防衛隊に対し、その数なんと――500!!
 急報にアリオ王は、素早く決断を下した。
「ゴーレム兵団2個軍を以て城塞に急行し、これを防衛せよ!」
 フロートシップ2隻と4騎のモナルコスを載せた『防人兵団』は、騎士と傭兵、そして冒険者を乗せ、絶望の戦地コングルストへ向かう――。

●今回の参加者

 ea0130 オリバー・マクラーン(44歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2730 フェイテル・ファウスト(28歳・♂・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4856 リィム・タイランツ(35歳・♀・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb7851 アルファ・ベーテフィル(36歳・♂・鎧騎士・パラ・メイの国)
 eb8367 ユーク・ケンプフェル(29歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8501 ミァ・ミァ(20歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

コングルスト砦の攻防

●必勝兵力
 通常、軍(群でも良い)が敵と相対した場合に必勝出来る兵力比は、3:1と言われる。これが城塞攻略となると、その比は5:1に跳ね上がる。
 損害計算というのも割と簡単で、一方がが全滅するまで戦った場合、

 √(多い方の兵力の2乗−少ない方の兵力の2乗)=残存兵力

 となる。つまり今回の場合に当てはめれば、

 √カオスニアンの兵力(500の2乗=250000)−城塞防衛兵力(50×5の2乗=62500)=約433

 コングルスト砦防衛隊は、敵に80名足らずの損害しか与えられず全滅する。この数字がどれほど絶望的かは、火を見るよりも明らかだ。
 急報から最速の決断と対応を行い、アリオ王の送り出した通称『防人(さきもり)兵団』。彼らは2隻のフロートシップと4騎のモナルコス級ゴーレムを与えられ、まさに昼夜を徹して砦へと急行した。
「時代は変わったと言えます」
 イギリス騎士、オリバー・マクラーン(ea0130)が地図を広げて言った。
「戦略拠点としての『城塞』の役割は、このアトランティスでは終わりを告げました。奇しくも我々が搭乗する、このフロートシップとゴーレムによってです。これらはまさに『動く城塞』であり『移動する戦略拠点』です」
 オリバーの熱弁に、方々がうなずく。
「あー、いいかい?」
 アトラス・サンセット(eb4590)が手を挙げた。
「ゴーレムは単体でも強いですが、弱点を補う生身の冒険者と組むことで、さらに強くなれると思うのですよ。コナン流奥義の一撃を2連続で耐えきる相手などほとんどいません。随伴兵の役割は、ゴーレムが多数の敵に囲まれないようすることでしょう」
 アトラスがさらに、戦闘シフトを補足した。彼は今回、大槌での参戦である。
「罠の敷設はどうしますか?」
 鎧騎士のアルファ・ベーテフィル(eb7851)が言った。彼は砦後背に流れる川をせき止め、一気に敵を押し流す腹案を持っていた。
「残念ながら、時間が足りません」
 オリバーが言う。時間を使った罠を仕掛けるのは、コングルストの防衛隊により多い出血を強いることになる。それではアリオ王が、防人兵団を最優先で急行させた意味が無い。
「つくづく、モナルコスの装備が『剣と盾のみ』であるのが悔やまれます」
 初陣の鎧騎士、ユーク・ケンプフェル(eb8367)が言った。モナルコスは対恐獣、あるいは対ゴーレムを主に想定されているため、まだ武器にバリエーションが少ないのだ。カオスニアンの雑兵を蹴散らすならば、彼の申請したグレイブなどのなぎ払う武器の方が向いている。
 実際、モナルコスの開発・生産に成功したとはいえ、メイの国はゴーレム後進国に他ならず、不備も多いのだ。今回の『防人兵団』についても、ゴーレムの配備で兵団戦闘能力は極めて高いが、蓋を開けてみると継戦能力に不安がある。つまり、短期決戦しか選択肢が無い。
 ウィルの国で多少なりとも実戦(?)経験のあるリィム・タイランツ(eb4856)も、その辺は痛感していた。燃える(外見は)美少女の鎧騎士は、モナルコスの『出来の良さ』に感嘆すると同時に『それ以外』の未整理具合にむしろ驚きを覚えた。平たく言えば、「よくモナルコスが実働運用出来ているなぁ」という、ある意味落胆に近いゴーレム環境である。
「結局は、やるべきことをやるしかないんですけどね〜♪」
 エルフのバードである、フェイテル・ファウスト(ea2730)が言った。いつも笑顔のこの青年が、外見とは裏腹に結構剣呑な月精霊魔法使いであることは、すでに兵団の中では周知である。
「『コングルストに真の防人在り』」
 山野田吾作(ea2019)ガ、重々しく言った。
「敵大将のみしるしを頂戴し、敵にそう言わしめるのが我等の役目と存ずる。この鬼山野、必ずや防人兵団の名をやつばらの心の臓に刻んでみせようぞ」
 言葉も立場も、種族さえも違う彼らであったが、心根は皆同じ思いであった。
「見えたぞ! コングルストの煙だ! 砦はなお継戦中!」
 見張りの報告を聞き、一同がそれぞれの配置についた。

●防人兵団奮戦す
 コングルストは、未だ持ちこたえていた。
 城塞はカオスの穴が開孔したときに、相当に手を加えられたのであろう。元々はカオス戦争激戦の地。それなりの防備は備えてあったのだ。
 ただ、兵馬だけはそうもいかない。城塞に常駐されていた50名という兵士の数が、この砦を維持できる兵站の限界だったのだろう。カオスの地は幅広くメイの国に面しており、すべてに十全の防備を敷くことなど不可能だからだ。
 例えばそれは、馬草や水、食料だけでも膨大な量になる。人間は一人当たり1日に約2リットルの水を消費し、少なくても1キログラムの食料を喰うのだ。それを毎日、50人分用意しなければならないのである。1日150キログラム。10日で1500キログラム。一ヶ月で約4.5トン。ちなみに馬はもっと喰う。
 そして輸送には馬車が使われるから、その輸送用の馬車のための馬草や水も用意しなければならない。そうして膨れあがった補給物資は、主都から離れるほど敵勢力の危機にさらされるのだ。
 ゴーレムシップやフロートシップがまさに『革新』なのは、その速度と機動力にある。多くの糧秣を必要とする長距離遠征を容易くし、兵站の負担を減らしてくれるからだ。各国がゴーレム兵器の開発に血道を開けるのは、それが強力だからだけではなく、軍につきものの『兵站』を著しく軽減してくれるからである。つまり、多少高価でもあっという間に採算が取れるのだ。
 そして早速、その採算に見合った戦果を挙げる時が来た。『防人兵団』の到着によってである。
 今回派遣された2隻のフロートシップは、船胴型の『アルテース級』と呼ばれるタイプである。要は平底のガレー船のような形のフロートシップで、側面にバリスタの弓溝がある。
「弓隊構え!」
 オリバーの声に、そのうちの1艦『カヴェーン』の甲板上で、10名ほどの弓兵が弓を引き絞った。もう一方の艦『ローイオス』では、田吾作が指揮を執り砦への進路を取っているはずである。
「放て!」
 調律の出来ていない弦楽器を一斉に鳴らしたような不協和音が鳴り響くと、矢の雨が弓なりに黒い兵団に吸い込まれていった。十数本の矢が直接与えるダメージはたかが知れているが、目的は奇襲による敵勢力の混乱である。当たればいいのだ。
「取り舵いっぱい! 右舷バリスタ水平位置――放て!!」
 今度は風を切る轟音と共に、黒い矢弾が一直線に空気を裂く。それに巻き込まれるように、飛行恐獣が何匹か墜落した。
「微速着底! モナルコス出撃位置へ!」
 『カヴェーン』が高度を下げ、速度を落とし地面に降り立った。恐獣やカオスニアンの群れを切り裂きながら、後部ハッチを開く。
『行くぞカオス二アン! 紅蓮の炎よりも熱い、ボクの怒りを受けてみろぉー!!』
 リィムのモナルコスが出撃。その後を追って、ユークのモナルコスも出撃した。
「行きますよ!」
 アトラスが愛馬に跨り、後部ハッチから飛び降りた。その他十数名の騎士や傭兵を下ろし、『カヴェーン』はそのまま上昇を開始する。
 ボン!
「火だ!」
「何っ!」
 朱色に染まった甲板を見て、オリバーが声を上げた。カオスニアンが、飛行恐獣に持たせた可燃性の樹液か何かの容器を、落下させたようだった。
「知恵の回る人たちですね!」
 城塞の火災がそれによるものだと気づくのに、それほど時間はかからなかった。ただ城塞と違い、このフロートシップは木製である。火災は沈没に繋がる。オリバーは飛行恐獣迎撃のため、弓隊の指揮に忙殺されることになる。

『たあああああああっ!!』
 《チャージング》でアロサウルスの胴をえぐり、リィナは深く刺さって抜けなくなった剣を放棄した。予備の短剣を抜き、中型の恐獣に斬りかかる。恐獣はすばやくその剣をかわし、尻尾でモナルコスを叩いた。受けきれなかったリィナのモナルコスが尻餅をつくと、それにカオスニアンが殺到した。ガツガツと鎧を叩く音が響き、スキマに剣をこじ入れて来る物もいる。
「でぇえええりゃっ!!」
 ゴン!
 アトラスのハンマーがそれを殴り伏せた。
「立ちなさい! 早く!」
『ありがとう!』
 リィナのモナルコスが立ち上がるまで、アトラスの援護は続いた。
『防人兵団は破られはしない! 勇者達よ、今こそ猛れ! 僕らの勝利は近いッ!!』
 ユークが、戦陣深く切り込む。東側のカオスニアン群は徐々に戦線を食い破られ、維持出来なくなっていった。

 また一方で。
「コングルスト砦の兵士達よ、待たせた! 我ら『防人兵団』! 王命により助太刀に参った!!」
 砦の門に殺到するカオスニアンの戦列を戦馬で縦横に切り裂きながら、山野田吾作たちは敵の先鋒を切り崩していった。『ローイオス』はすでに砦上空に陣取り、上空から弓による援護射撃を行っている。田吾作たちが切り崩した敵戦列を、アルファの乗るモナルコスがさらに壊乱させる。ゴーレムの場合は歩くだけで脅威になるから、歩兵や騎兵の進撃を止めるのは楽だ。
 アルファは閘門前にモナルコスを陣取らせ、まさに一歩も引かぬ構えを見せた。
 ――GAAAAAAAAA!!
 そのアルファの前に、大型の恐獣が突っ込んできた。アロサウルスと思えるが、速度が段違いで速い。《チャージング》に匹敵する突進を受けて、アルファのモナルコスは胸板をへこませ数歩後退した。
『こんのぉおおおおおおお!!』
 その首を掴み、アルファが恐獣を投げ飛ばす。怖気をもよおすような異音が響き、恐獣は首を折られて即死した。無論騎乗していたカオスニアンは、下敷きになって死んだ。
「敵将は! 敵将はいずこ!!」
 田吾作が疾(はし)る。彼が率いる騎兵隊は、少数ながら敵の中央深くまで切り込んでいた。
 その目前の敵騎兵――ヴェロキラプトルに乗っているのを『騎』兵と称していいかは分からないが――が、ばたばたと落獣してゆく。
「まあ、こんなところでしょうか〜」
 フェイテルの魔法だった。《ムーンアロー》を受けて、田吾作の進路上のカオスニアンが『掃除』されたのだ。
 その向こうには、やたら立派な飾り付けのついたヴェロキに乗る偉丈夫が居た。どうやら敵の大将のようだった。本来ならフェイテルが直接狙いたかったのだが、あいにく射程外だ。
「覚悟!」
 決着は、あっさりついた。蛮刀のような敵の剣を田吾作はあっさりへし折り、返す刀で相手の胴を両断したのだ。《スマッシュEX》級の必殺剣だった。
「敵将! 討ち取ったり〜〜!!」
 その瞬間、勝敗は決した。誰も、田吾作に向かう者は居なかった。

●コングルストの奇跡
 コングルスト城塞の防衛は成った。彼我の戦力差10:1という圧倒的不利を克服し、恐獣の脅威をはねのけ、必敗の戦場に勝利の凱歌を響かせたのである。
 敵兵損失数約200。恐獣は中型以上のものが5匹。飛行恐獣は未確認だが、20匹以上は墜としただろう。それに対し、城塞守備隊の損害は20余、『カヴェーン』小破、アルファのモナルコスが小破。あとは損害軽微である。まさに、大勝利だ。
 後に、この勝利は『コングルストの奇跡』と賞されることになる。

 だが、カオスの脅威は去ったわけではない。彼らは必ず、また戦を仕掛けてくるだろう。
 今はただ、備えるのみである。

【おわり】