究極のメニュー・カスベ――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月07日〜07月12日
リプレイ公開日:2004年07月15日
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●オープニング
ジャパンの東国『江戸』。
摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
そんな中でも、金持ちは美食にうつつを抜かしている。料亭に行けば、貴品珍品の料理を肴に美酒に溺れることも可能だ。
そして普通は獲(と)れない美食素材の需要は、冒険者という供給源が満たしているのが現状である。つまり冒険者には、モンスターを倒しそれを好事家に売って金に換えるという道も存在するのだ。
「というわけで、今日の獲物は巨大エイよ」
冒険者ギルドの女番頭は、艶やかしく冒険者たちに流し目をくれて言った。キセルをひと吸いくゆらせ、妖しく笑う。
巨大エイ――洋名はラージレイ。全長5メートル以上の巨大なエイだ。尻尾に毒があり、毒性は極めて強い。
「『カスベ』って知ってるでしょ? 煮付けにするとおいしいやつ。その素材であるカスベの注文が今日来たのよ。ある料亭から」
どうせ金持ちの道楽に消費されるのだろうが、冒険者にはそんなこと関係ない。要は修行なり小銭稼ぎができて、自身を研鑚できればいいのである。
「漁法は網。引き上げるときが一番危険ね。できるだけ傷をつけないで捕まえてちょうだい」
タン。女番頭が、キセルで火箱を叩いた。
「よろしくね」
●リプレイ本文
究極のメニュー・カスベ――ジャパン・江戸
●カスベの煮付け
「これが『カスベの煮付け』というものか。ジャパン人は変わったものを食うのだな」
慣れない箸を片手に言ったのは、ウィザードのデュラン・ハイアット(ea0042)である。その食膳には、醤油で煮付けられた白身魚のようなものが置かれている。カスベの煮付けである。
醤油とみりん、そして酒で作った煮汁にカスベを放り込んで煮込む。ただそれだけの料理なのだが、淡白で味わい深い。慣れないものには『エイだ』という理由で食わず嫌いをする者もいるが、基本的に美味い食材である。
「気に入ってもらえたようで何よりだ」
そう言ったのは、日に焼けた筋骨たくましい男であった。名前は長次。江戸湾の漁師である。
今回このカスベ漁のために動員された冒険者は、次の9名。
ビザンチン帝国出身。人間のウィザード、デュラン・ハイアット。
ジャパン出身。人間の女浪人、西方亜希奈(ea0332)。
ジャパン出身。人間の女浪人、神楽命(ea0501)。
ジャパン出身。人間の浪人、南天輝(ea2557)。
ジャパン出身。人間の忍者、十三代目九十九屋(ea2673)。
ジャパン出身。人間の浪人、氷川玲(ea2988)。
ロシア王国出身。エルフの女クレリック、エンジュ・ファレス(ea3913)。
ジャパン出身。人間の浪人、星不埒(ea4035)。
ジャパン出身。ジャイアントの女志士、鷹波穂狼(ea4141)。
特に穂狼は、志士ながら漁師の経験もあるということもあって、今回の『大カスベ』漁の、冒険者側の陣頭指揮を取っていた。
無意味に態度がでかいのは、デュランであるが。
冒険者一同が食べているのは、普通のカスベの煮付けである。これから漁に出るに当たって、一応どんなものなのかを見せてもらい、ついでに振舞ってもらったのだ。
「エイってのはだいたい毒の尾を持っていてな、この尾の中ほどを見てくれ」
普通のカスベを指して、長次が言う。カスベは色の黒いエイの仲間で、これにも強い毒針がある。
はたして、そのエイには尾の中ほどから二股に分かれるように、長さ一寸(3センチメートル)ほどの刺(とげ)が出ていた。
「これがカスベの毒針だ。刺されると――まあ、運が悪ければ死ぬかな」
物騒な事を、長次が言う。
「薬草とかで解毒できないの?」
そう問うたのは、神楽命である。
「ん‥‥まあ、昔から毒には土に埋めるのがいいと言われているが‥‥あまり助かったって話は聞かないな。もし指されたら、素早く傷口を刃物で切り開き、急いで口で吸うしかなかろう。あとは、体力勝負かな」
長次が言う。
「ふい〜。終わった終わった」
南天輝と氷川玲が、砂だらけの態で長次の家に入ってきた。漁師たちとの親睦を深めるため、相撲大会を開いていたのだ。その後から、顔を赤らめたエンジュ・ファレスが続く。怪我人の治療でもする事があればと相撲大会に随伴していたのだが、基本的に海の男たちはふんどし一丁である。年頃の娘が目にするには、いささか異常にアレな光景だ。
ちなみにエンジュはローブにメイスという装備だが、この出で立ちでは装備が重すぎで戦闘が出来ない。この冒険が終わったら、装備を軽いものに変更したほうがいいだろう。
ともあれ、漁師たちとの交渉に、カスベについての講習も済んだ。船の用意は漁師たちがしている。あとは船に乗り込み、漁をするだけだ。
「漁はどのくらいかかるの?」
西方亜希奈が、長次に問うた。
「夕刻から明け方にかけてかな。獲れるまでやるなら何日かかかるぞ」
先は長そうである。
●太平洋の荒波
漁を始めてから、2日経った。
江戸湾は肥沃な漁場で、様々な魚が獲れる。狙いは大カスベだが、漁民はごち、さわら、ぼら、あじと言った魚を獲り、その日の収穫を上げていた。
冒険者一行は船酔いの洗礼も抜けて、今はなんとか復調していた。網取りを手伝いながら、目的の大カスベの出現を待つ。これほどの大物になると、なかなか現れない。
西方亜希奈は、「夜の海じゃ泳げない」とご不満の様子で、なにやら終始ふてくされている。女っぽいしぐさや出で立ちのくせに、それを指摘するとむくれるのだから複雑である。
十三代目九十九屋は、実験を兼ねて大ガマを呼び出し、海で泳がせていた。結果、大丈夫なことが分かった。これは、獲物の追い込みに使えるだろう。
「今日の風は明日の風‥‥っと」
星不埒は、七夕にちなんでこの漁の間だけ『織姫』と名づけられた船の上で、カスベの出現を待っていた。脇差を胴巻きにぶっ込み、いつでも海に飛び込める体勢でいる。
「いつでも準備出来てるぜ!」
鷹波穂狼が、威勢の良い声を上げた。海の生まれのためか、心なしか声が弾んでいた。
「航海日誌、神聖暦999年7月10日。今日も漁に出る。カスベの出現する気配は無い――」
デュラン・ハイアットが、航海日誌を付けている。『後悔』日誌にならなければ良いが。
その時、仕事人の長次が動いた。投網を取り出し、黒い水面に向かって投げる。投網は芸術的な広がりを見せて、水面に着水した。
「出たのか!」
氷川玲が、声を荒げる。
「かかった! 引き上げるぞ!」
長次が言った。
●大物水揚げ
長次が放った投網は、正確に海の中の『何か』を捕らえていた。
「行くぞ!」
「「「応!!」」
鷹波穂狼が声をかけ、続けて星不埒、十三代目九十九屋、南天輝が海に飛び込んだ。星不埒が網元に手を貸す。洋上が、たいまつやランタンで照らされる。
――うお、でかいでござる!
不埒が、水の中に入って思った。
仕事人が放った投網は、黒い三角形の物体を捕らえていた。サイズは、幅5メートルほどで高さは2メートルほど。そして三角形の底辺から長い尾が伸びている。それは投網の隙間から飛び出していて、激しく打ち振るわれていた。
――これは大仕事ですね。
九十九屋が、思う。彼は<水遁の術>のお陰で水の中でもある程度自在が効く。しかし水中戦闘はカスベのほうが当然上である。今は仕事人の網にかかっているから有利なようなものだ。
輝は振り回される尾に、近づいていった。
――悪いが、その毒針、落とさせてもらうぜ。
輝が、尾の攻撃に合わせて<カウンターアタック>を仕掛ける。短刀の一撃は尾の中ほどを切り飛ばしたが、毒刺は残った。この辺りの攻撃を正確に行うには、コンバットオプション<ポイントアタック>が必要である。輝は危うく、毒針を受けそうになった。
一方こちらは洋上。
「男衆は手を貸せ!」
「「「「おうよ!!」」」
氷川玲の声に、船が数隻近づいてくる。手にモリやカギを持って、得物を引き上げる準備を整えていた。男たちが手にする得物は、長さが8メートルぐらい。つまり、そこまで引き上げてしまえばこちらの勝利である。
玲や長次、その他神楽命や西方亜希奈も、男衆に混じって網揚げを手伝った。一人、デュラン・ハイアットだけは、船上から応援するのみであった。荒事は苦手である。
「神よ! かの者に縛めを!!」
エンジュの<コアギュレイト>が、カスベの動きを止めた。これはかなり効果的である。引き上げは順調に進み、そしてついに、その姿が水面に浮かんだ。
「<アイスコフィン>!!」
ばしっ!
凍てつく音を立てて、穂狼の放った精霊魔法が発動した。カスベは凍りつき、完全に無抵抗になった。
が、しかし。
「モリが刺さんねーぞ!」
「カギがひっかからねー!!」
「網が凍り付いて絡まってるぞー!」
確かに完膚無きまでカスベを無力化したのだが、色々と問題があったようである。
結局一同は、網を下ろしたままカスベを港まで曳航し、そこで一斉に水揚げを行ったのであった。
作戦は、多少のトラブルはあったが大成功であった。
●宴会
さて、合計3日に渡る漁の成果は、カスベだけではない。冒険者たちの中には釣りなどを行って魚を手にしていた者もおり、それは冒険者たちの手で捌かれ料理として冒険者たちの腹に収まった。祝宴なども行われ、冒険者たちは意気揚々と帰路についたのである。
「どうだ、すげぇだろ!」
不埒が、カスベの魚拓を見せて言った。陸上に揚げてみると、その大きさがひときわ際立つ。
これはきっと、冒険者たちの良い記念になるだろう。
ともあれ、冒険者たちは任務を無事にこなした。帰りには温泉に寄る余裕もあり、混浴の露天風呂で汗と潮を流してさっぱりした。
なお、件の大カスベは江戸の料亭に卸され高値で取引されたそうだが、
「あんなもの、食えたもんじゃないんだがなぁ」
と、長次が言っていたので、実際に料理されたかどうかはわからない。大味で、普通のカスベのほうが数段美味いそうだ。まあ、料亭の料理人がなんとかするのだろうが、ご苦労な話である。
「またの何か入用の際は何なりとこの九十九屋にご一報を、万事暗躍いたしますので♪」
九十九屋が言う。
そして冒険者たちの、冒険は続くのであった。
【おわり】