新式ゴーレム開発計画裏

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月14日

リプレイ公開日:2006年11月15日

●オープニング

●ゴーレム開発
 ゴーレム兵器の開発と進化は、メイの国にとって急務である。
 西方ではすでに、素体素材から見直した新機軸のゴーレム開発が行われているという噂だ。だがメイの国は、その技術の流入を待っている余裕はない。つまり『モナルコス』をしゃにむに実用生産体制に持って行ったように、メイの国でも独自に強力なゴーレム兵器を開発し、生産体制に持って行かなければならない。
 天界人は自世界の『工業力』というものを知っているので誤解しがちだが、メイでは国力を総動員しても、ゴーレム生産は家内制手工業と何ら変わらない。技術開発もそうだが、工業体制の見直しから行わなければ、いずれ怒濤のようなカオスの侵攻に飲み込まれるであろう。そしてその背後には、おそらく『真の敵』がいるのだ。

    ◆◆◆

「ゴーレム開発の是非は、今は問わぬ。我々には『力』が必要であり、アリオ王も必要としているのが実情だ」
 メイの国のゴーレム開発責任者がカルロ・プレビシオンだとすると、『ゴーレム生産の責任者』はこのドワーフ技師ガンゴウトス・エメルセンという事になる。ゴーレムニストではなく生粋の技術者で、つまりは鍛冶師だ。
「天界人のもたらした考え方――つまり『分業による生産効率の向上』という考え方は、理解は出来る。徒弟制度を取っている多くの技術職で、同様の事が行われているからだ。つまり料理で言えば、下ごしらえを弟子に行わせ仕上げを師匠が行う。鍛冶職ではわりとある話しだ。だがそれをゴーレムに適用するとなると、話しは巨大化しすぎて想像もつかない‥‥いや、天界人を疑うわけではないが、あまりに希有壮大に聞こえて想像もつかんのだ」
 ゴーレム生産責任者が、えらくレベルの低い認識だな、とか思わないで欲しい。多くの天界人にとって『工業』というのはすでにマクロ化されたものであり分業の行き届いた『システム』であるのに対し、メイの国のゴーレム生産は刀匠が一本一本刀を打つのと同じなのだ。この辺りは、ウィルの国が断然進んでいる。少なくとも向こうは10年かけて現在の体制を作ってきたのだから、当然と言えよう。
 加えて、優秀な技術者であると同時に頑固者で凝り性のドワーフの発言である。職人気質という範を超える思想に、多少なりとも拒否反応を示してもやむを得まい。つまり保守的な彼にとってゴーレムとは、『開発の是非を問わない』――つまり、ある意味責任は持てない、という代物なのだ。
 さて、ここで議題から上がった『メイの国のゴーレム生産体制』に関する問題点を列挙してみよう。

 1.工房が分散している
 2.分業制度が確立されていない
 3.技術者不足
 4.『流れ作業』という概念が薄い
 5.ゴーレム製作に使用する寸法などの単位がウィルとメイの二つある
 6.基礎技術の蓄積が少ない
 7.ゴーレム製作方法のマニュアルが無い(!)

 簡単に思いつくだけでも、これだけある。今後も、増えてゆくだろう。ちなみにこれは現代人天界人から見た視点であって、ジ・アース人から見ても分からないことがある。
 ただこの状況を見ても、モナルコスの開発――生産にこぎ着けている現状は驚嘆に値すると言える。普通ここまで悪条件が重なったら、そもそも生産体制が立ちゆかない。ゆえに現状ではモナルコスの生産が精一杯で、行き詰まっているとも言えよう。カルロ工房長が天才でいくら新機軸のゴーレムを試作しようとも、国が国力を生産力に変換出来なければ意味がないのだ。
 君たちの任務は、長期的スパンにわたりこれらの状況を改善することである。つまり新式ゴーレムが完成した時に、それを生産出来るようにするのだ。
 根気が必要で地味な仕事だが、その能力を遺憾なく発揮してもらいたい。

●今回の参加者

 eb4099 レネウス・ロートリンゲン(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8297 ジャスティン・ディアブローニ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8405 長瀬 孝実(33歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8544 ガイアス・クレセイド(47歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

新式ゴーレム開発計画裏

●メイの『工業』の問題点
 先に挙げた、メイの国における『工業』の問題点を再整理しよう。

 1.工房が分散している。
 2.分業制度が確立されていない。
 3.技術者不足。
 4.『流れ作業』という概念が薄い。
 5.ゴーレム製作に使用する寸法などの単位がウィルとメイの二つある。
 6.基礎技術の蓄積が少ない。
 7.ゴーレム製作方法のマニュアルが無い。

 このうち、『6.基礎技術の蓄積が少ない。』については、今回新式ゴーレムの開発で多少の成果が見られた。つまりウッドゴーレムの試作によって、基礎技術を文字通り『蓄積』したのである。結果は来月ぐらいに出るだろう。
 ただこれらは、体制作りとはいささか趣の違う内容と言える。基本的には『いかに効率よく工業をシステム化するか』という命題に行き着くため、技師による『匠の業』を天界のマクロ化した『工業』にどのように底上げするかが問題であった。
「正直な話、想像もつかん」
 ドワーフ技師、ガンゴウトス・エメルセンが、長瀬孝実(eb8405)の表示した幻影を見て言った。それは産業革命を得て自動化された、自動車工場の風景である。ベルトコンベアを流れる巨大な機械。そしてそれの製作に従事する作業者。大量の物品がものすごい勢いで組み立てられてゆく。
 まあ、細部詳細までは知らないので、部分部分の継ぎ接ぎになるが、それでも「なんだかよくわからないがすごいもの」程度の認識を与えることはできたようである。
 ただ、それが受け入れられたかどうかというと、そうでもない。
「天界の『工業』というものがすごいのはわかった。しかしこのアトランティスで、これだけの労働力や鍛冶師をどうやって確保するのだ? カオスニアンを奴隷にしても足りないぞ? もちろん農民を従事させるのは問題外だ」
 ガンゴウトスが言う。彼自身も気づいていないが、労働力の前に『動力』の確保の問題が実はある。簡単な蒸気機関さえないこのアトランティスでは、ゴーレム製作の工業化に必要な重要な要素が、三つ足りない。つまり『技術』『労働力』『エネルギー』である。
 ロシアの試作航空機Su−47『ベルークト』をゴーレムで再現したい孝実としては、はなはだ不本意な反応だ。
 実際の話、産業革命が起きても労働者は、『労働奴隷』と言われてもおかしくないような劣悪な条件での労働が前提であった。ましてや、ファンタジーなアトランティス世界である。確かにカオスニアンなどを労働力として『狩る』という選択肢もあるが、『工業』を興す基盤にするには無理がある。
 孝実は他に『ハードポイント(兵器用語)』の付加によるゴーレムの規格化を提案したが、今回は保留となった。ゴーレムそのものの改造についてはカルロゴーレム工房長の分野になるからだ。ただゴーレムの規格化案はゴーレム開発側でも出ており、検討されてはいる。現状問題なのは、手作業のためどうしても大きな誤差の出るゴーレム生産手法そのものと言えるだろう。ある意味、天界の知識や常識がまったく通用しない世界だ。

 頼みの天界人が地に足のついた提案を出来なかったため、もっと身近な線からの提案がガイアス・クレセイド(eb8544)から出た。『ゴーレム生産作業の分業化』である。
 今回はその下地調査として、工房の実情調査を行った。本人は孝実の提示した『工業』をかなりのレベルで理解しており、実際の制作手法と現状とのすりあわせを考えた。
 工房の分散は効率の悪さに直接影響しているが、少なくとも『現状の』ゴーレム製造にはあまり影響が無いように見える。彼が考えたのはゴーレムのパーツ製造を分業するというものだったが、まずゴーレムの素体となる『パペット』が素材の一刀彫り(石像だから間違っていない)のため、『部品』という概念が薄いのだ。無論、手足をロボットのようにバラバラに作って組み立てるという発想も技術も無い(この辺はゴーレム先進国ウィルでも実装していない)。『素体』『制御胞』『鎧』『武装』の4つのカテゴリに製造は分類されるが、ひとまずガンゴウトスにその分業集中極化を提案し、工房の分散管理を集中化の方向に持ってゆくように提言した。後にこの提案は、大型専門工房の建設につながることになるのだが、それはまた別の話だ。
 レネウス・ロートリンゲン(eb4099)は、その案にさらに具体性を持たせた。現代で言う『問屋制手工業』への移行を進めたのである。つまり鎧や武器などは外注し、納品を受けて集中組み立てを行うという方式だ。全てがオーダーメイドというファンタジーな世界では、それだけで結構な革命になる。もっともいわゆる職人気質の者たちには不評で、容れられるまでかなりの弁と交渉努力を必要とされるのだが。
 ジャスティン・ディアブローニ(eb8297)は、民間からの技術者登用を提案した。鎧などはレネウスの働きで外部に発注することは可能になったが、ゴーレムニストはそうもいかない。ウィザードで才ある者ならば積極的に登用し、ゴーレム魔法を広める。理想論ではそうなる。
 だが、元来ウィザードという人種は協調性が少ない。国に仕官する『欲』というのもあまり無く、極端な話、社交という世界から自ら隔絶して、怪しいレシピの鍋をぐつぐつ煮込んでいるというのがステロなウィザードの姿だ。
 そこまで極端な者はそう多くないが、それはある意味真理であり、魔法方面の技術者不足を補うにはいささか不足がある。またゴーレム魔法はまだ『技術』のレベルにまで昇華されていないため、学んでも使えるかどうかはやってみなければ分からないという現状である。機密事項でもあるゆえ、なかなか微妙な問題だ。結局最終判断は『上』――つまりカルロ工房長かもしくはその上――にゆだねられることになった。

 なおゴーレム兵器の制作単位については、現状次のような形になっている。

1.ゴーレムシップ
 アトランティス共通の船舶製造単位。
2.フロートシップ
 アトランティス共通の船舶製造単位。
3.フロートチャリオット、ゴーレムグライダー
 ウィル寸法単位。
4.モナルコス
 メイ寸法単位。
5.バガン
 ウィル寸法単位。

 はっきり言ってばらんばらんである。さらに工房ごとで使用単位がウィルだったりメイだったりするから大変だ。
 ただ使用単位がウィル寄りなので、今後はウィル単位に統一する方向で進めることになりそうだ。モナルコスもウィル単位に置換して今後は製造されるだろう。改造や生産効率の向上が図られれば、『モナルコス改』ないし『モナルコス後期型』として世にリリースされるはずである。

    ◆◆◆

 今回スタッフが走り回って肌で感じたことは、『産業革命も楽じゃない』ということであった。現状で年間製造ゴーレムは20騎程度と思われるが、可能なら150パーセント。望みうるならば200パーセントに引き上げるのを目標とすべきという状況である。
 まあ、一朝一夕でなんとかなるものでもない。地道に積み上げてゆくしか無かろう。結果が出るのは、1年後とかそういう単位なのだ。

【おわり】