【月道】メイへの道行き
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月15日〜11月22日
リプレイ公開日:2006年11月23日
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●オープニング
●富のもたらすもの
アトランティスで『天界』と呼ばれる現代世界には、かつて『三角貿易』と呼ばれる貿易方法があった。
別に現在も無いわけではない。つまり二国間で貿易のバランスがあわないときに、もう一国を加えその三国間で貿易収支を均衡させる方式である。現在は交通や輸送手段が遙かに進み、三国にとどまらない『多角貿易』という方式になっている。
歴史上、有名なのは18世紀にみられたイギリスの綿織物、西インド諸島の原綿、西アフリカの奴隷を取り引きした三角貿易である。この結果イギリスは莫大な富を手にし、産業革命による『世界の工場』への素地をつくった。
では、アトランティスではどのような状況になっているのか?
ウィルの国は多数の月道で多くの国とつながる、貿易立国である。月道貿易はすでに三国どころか多角貿易の域に達しており、それがウィルの地勢価値を高め、国力の高さを維持する原動力になっているのだ。
もちろんゴーレム発祥の地、ジーザム ・トルクの運営する領もその恩恵に預かっている。国が豊かならその分国領主が豊かなのも当然だ。
そのトルク領にゴーレムニスト、オーブル ・プロフィットが来落したのは、果たして偶然であろうか? 結果的には、前王の善政と地勢により富の集中するウィルの国の領土であるがゆえに、ゴーレム兵器なる金食い虫が完成するに至ったとも言える。これが他の国なら、そもそも予算がつかずにゴーレム兵器そのものが発生しなかったであろう。あるいは、その完成と進化はもっと遅かったに違いない。
ウィルの国は、その月道貿易によって非常に潤沢な財務状況にある。トルク領において、近年次々と開発され実用化される新型ゴーレム兵器の様相を見ても、その実情がかいま見える。
ゆえに、月道貿易関連には非常に多くの『余録』がつく。政務に関する外交大使のようなVIPの移動から、技術や文化の流入に至るまで様々だ。
当然、冒険者ギルドにも声がかかる。仕事は、結構いろいろあるのだ。
●月道貿易隊商護衛
定例の、月道関連依頼の頒布時期が来た。
毎月この辺の時期になると、月道関連の依頼がちらほらと見えてくる。重要な任務であることが多いが、月道が月に一度しか開かない都合上、正規の兵士や騎士を送ると一ヶ月国を留守にされてしまう。ゆえに多数の正規兵が月道関連にかり出されることは少なく、その多くは冒険者におはちが回ってくるのが現状だ。
今回の依頼は、隊商の護衛である。ウィル国内での仕事は無いに等しいが、メイに移動したあと隊商について行って交易品の卸しなどまでを請け負う必要がある。つまりは、いざというときの用心棒のようなものだ。
月道の通行料は依頼主が持ってくれるので問題はない。むしろ不案内なメイの国での仕事の方が問題であろう。メイの国は言語が違う。ゆえにアトランティスの不思議パワーでも文字は読めないから、結局のところ道案内の看板などは結構手こずることになる。多少差があっても万国共通の宿屋の看板とは、勝手が違うのだ。
何もなければ何もない依頼だが、何かあっても盗賊程度の襲撃で済む予定である。間違っても、噂のカオスニアンや恐獣なんかとやりあうことにはならないはずだ。
それよりも、旅を楽しむべきであろう。
●リプレイ本文
【月道】メイへの道行き
●月道を抜けると‥‥
その場所には、蠱惑的なほの白い光が満ちていた。
ローマ建築風の、荘厳な神殿の内部。ただし神像の類は一切無く、逆にキリスト教では悪魔とされる『竜』を意匠したタペストリーが並んでいる。
正面には、これまた巨大な竜のレリーフ。この国、『メイの国』の紋章である。
「閣下、準備が整いました」
髪を油脂でなでつけた、目つきの鋭い参謀風の男が、この場所の責任者らしい老貴族に向かって言った。
「よし、『月』も頃合いだろう、バードに始めさせろ」
「はっ!」
老貴族の命令を受けて、男は堂の中央部、天井が吹き抜けになって、月光が緩やかに射す空間に居る女性に向かって、合図を出した。
「ルース・テイル・イル・アラメイル。精霊アルテイラの加護をたまわりし扉、今開かれん‥‥」
美しい声の、歌うような呪文の詠唱があり、それが繰り返しの旋律となって、堂の空気を震わせる。精霊力――この世界に満ちた自然の霊力――が圧力を増し、その女性を中心に集約していった。
「開きます」
参謀風の男が言う。呪文の詠唱が佳境に達した瞬間、常人にも分かる『霊圧』の開放があり、『それ』がその女性を中心に具現化した。
外見的には、光の固まりである。強い陽光ではなく、生白い月のそれ。直径3から5メートルほどの半球形で、数秒で安定した。
「成功です。『月道』は無事に開きました」
参謀風の男が言う。
「よし、歓待準備。総員整列。周囲の兵には、付近の警戒をもう一度確認させろ。今回の客は『特別』だからな。カオス勢力の妨害などは、絶対に許されん」
「『ウィルの国』のオーバル・ブロア子爵ですか?」
参謀風の男が、確認するように言う。
「ああ、ウィルの国で名うての評判の文官。会ってみたいものだ」
老貴族が、楽しそうに言う。それを見て参謀風の男は、やれやれという風にため息をついた。
「私はそれよりも、『ゴーレム兵器』が気になります。セトタ大陸で噂される新兵器がいかなるものか‥‥ウィルの分国領主ジーザム ・トルクが得た『力』がいったい何物なのか、この目で見定めねば気が済みません」
月道に並ぶ兵を見ながら、参謀風の男は言った。
「お前はまるで、これから戦争でも起きそうな言い方をするな」
老貴族の言葉に、参謀風の男は片眉を微妙に上げた。
「ゴーレム兵器が噂通りのものならば、それもありうると思います。少なくとも、『天界人』が関わっているのです。何が起きても、私は驚きません――おっと、どうやら来るようです」
参謀風の男が、月道を見た。すると何もない空間からにじみ出るように、『何か』がゆるゆると進んでくる。参謀役と老貴族が、『それ』を見やる。
「なんだあれは?」
老貴族が言った。
『それ』は、なんとも妙な物体であった。一見して見て取れるのは、『それ』が地面から数十センチ浮いて、滑るように床を進んでいることだ。全長五メートル、全幅三メートルほどの箱形の物体で、正面と両脇にはずらりと円形の盾が並んでいる。前半部に打輪のようなものを持つ人物が居るので、おそらく戦闘用の乗り物と思われた。あえて形を例に挙げるなら、馬と車輪の無い馬車だ。
それが、さらに鳥のような物体を積載している。現代で言う飛行機に似てなくもないが、小型で一人か二人乗るのがやっとというものだ。
――ずん、ずん、ずん。
鳥型器物を載せた車輪の無い馬車が4両通過した後、今度は足音を響かせて、武装した人型の物体が一騎、月道を通過してきた。身長は4メートル強で、寸胴で短足。しかし腕は指先が地に着くような長さがあり、体型は酒好きで知られる土妖精族(ドワーフ)を連想させた。頭部は角切りの扁平な兜状で、十字に切れ込みの入った面貌(めんぼう)が、どうやら顔のようだった。
何より老貴族が驚いたのは、それは生物ではなく『器物』であるということだった。胸の板金鎧がハッチのように開いていて、内部に人が乗っているのが見える。剣や盾、槍斧といった武具はどう控えめに見ても、一つ一つが屈強な巨人族(ジャイアント)が一〇人がかりではないと、持ち上げることも不可能そうだ。実際にそれらが振るわれるのならば、生半可な城塞の門など一撃で突き破られるだろう。
「おお‥‥これが『ゴーレム兵器』か! 人類は、こんな巨大な物を動かすことが出来るのか!!」
「閣下、あれを」
参謀役が、老貴族の視線を後方に促す。そこには先ほどのものと似た浮揚戦車があり、そこに青いゆったりした服を着た初老の男性がいた。
「オーバル・ブロア子爵です」
参謀役が言う。
初老といっても、若々しい。現代人に例えるなら、ちょっと老けたキ○ヌ・リーブスというところだろう。
「食えない人物と聞きます。ご注意を」
参謀役が言った。
●隊商護衛任務
月道を抜けると、そこはメイの国だった。
メイの国はメイの国でしかなく、メイの国以外の何者でもない。
などというトートロジーに逃避している場合ではない。
今回冒険者をつのった隊商の名は、『ゲール一家』と言った。悪役のような名前だが善人で有名な移動隊商である。
ちなみに親戚に、『ガンツ』『シュルツ』『ヤルタラ』『ドメル』という名の商人がいるらしい。もちろん家長は『デスラー』である。
旅はこの一家を、メイディア某所に連れて行くことである。月道貿易は高額商品が多いので、わりと危なかったりするのだ。
●バカップル現る
アレス・メルリード(ea0454)とサティー・タンヴィール(eb2503)は、共に天界人でウィルの国で知り合ったらしい。冒険を共にするうちに仲間から男と女の関係になり、現在バカップルぶりを発揮中である。
「これからは、『サティー』って呼んでもいい‥‥かな?」
「え‥‥ええ☆」
‥‥‥‥‥‥‥‥。
ええい、ヒュージドラゴン出して殲滅してやろうか(怒)。
●こっちもバカップル‥‥か?
「あら、ゼダルさんじゃありませんか」
ピキッ。
何か破滅の音がした、ような気がした。ゼタル・マグスレード(ea1798)の心の中で。
そこには『天真爛漫』を絵に描いたような美少女セラフィマ・レオーノフ(eb2554)が居る。
「え、ええ。ご一緒できるとは光栄です」
普段『だ・である』調で話すゼダルが丁寧語になっている。
「嬉しいです。メイに来たら知り合いなんか居ないんじゃないかと思って‥‥」
こう、薄幸の美少女然としてセラフィマが言う。
「は、まあ。ところで、セラフィマさんはもしかして『布教活動』に?」
おそるおそると言った態で、ゼダルが言う。
「いいえ、見識を深めようと思いまして。でもこちらにもなかなかの美形さんが揃っていて‥‥うふふふふふ‥‥」
目つきが怪しくなってきた。
セラフィマ嬢、実は結構妄想たくましいタイプの人物で、そして現代のごく一部のコアな人々に当てはめると、『や○い』とか『腐○子』とか‥‥あとは、書きたくない。ゆるして、ごめん。
●年寄りのなんとやら
「よいか、わしが若かったころはだな‥‥」
めちゃくちゃ筋肉質の禿げドワーフが、近在の兵士にうんちくをたれている。ローシュ・フラーム(ea3446)である。
古豪らしく歴戦の物語が聞けるのだが、ここでは割愛する。だって、年寄りの話は長いんだもん。約100年分ほどあるし(彼の年齢は108才)。
●戦う労働者
レオニール・グリューネバーグ(ea7211)は神聖騎士である。が、高額の月道料金を肩代わりしてもらえるのを大変ありがたく思っており、今回はその体躯を活かして人足まがいのことをやっていた。
「やー、にいちゃんよく働くねぇ」
「これぐらいは当然だ。むしろこちらが感謝したい」
アトランティスに来て、すっかり世間ずれしたようだ。まあ、人間がこなれたと解釈すれば宗教関係者としては良い方向に向いているのだろう。
神様の声が聞こえなくなっても知らないけどね。
●旋律のブルー
「俺はブルー、吟遊詩人だ。『旋律のブルー』と呼んでくれ。高貴なる貴族と清廉なるエルフの血を引く、高貴かつ清廉なる者だ」
ちょっとこれ以上は無いという尊大な態度でそう言ったのは、ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)である。吟遊詩人を生業にしているが、職能は騎士だ。確かに言っていることに嘘は無い。多分。
が、ツッコミどころ満載なのは否めない。ロシア出身なら英語の『ブルー』ではなくロシア語で『スィーニー(СИНИЙ)』ではないかと思うロシア語専攻。
「そこの下賤の者(こちらを見て)」
はい(びくっ!)。
「我が名に文句があるというのか?(レイピアを突き出して)」
いいえ、ありません。
「ならば良い(剣をしまう)」
‥‥疲れるお人だ。
●恋するOTOME
「へー、じゃあサクラは彼氏を追っかけて月道を渡ったんだ」
「ええ。でもフォーリィ様とご一緒できて良かったですわ。彼氏様からお付き合いのご返事いただいたので、いの一番にお知らせしたかったんです♪」
幸せそうな会話をしているのは、フォーリィ・クライト(eb0754)とサクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)である。サクラのほうは、話を聞く分には国を股にかけた恋愛らしい。
「しっかしその彼氏もバカよねぇ〜〜、せっかくなら一緒の依頼に入れば良かったのに」
――ぶぇーっくしょい!!
隊列の前方から、やけに派手なくしゃみの音が響いた。多分バカ呼ばわりされたほうであろう。
どっとはらい。
●マッドエンジニア現る
ちなみにこの依頼に参加していながら、すっかり上の空で出番の無い女性が一人。
天界人のディーナローゼ・メーベルナッハ(eb4107)である。名前からするとドイツ系っぽいが、職分は『技術者』ということになるだろうか。
ロボットオタクで、ロボットを作りたいらしい。つまり彼女は現在、輸送されてきたカッパーゴーレムを熱心に観察しているのである。
――必ず、必ず我が輩の手でカックイイロボットを完成させるのである!!
まあ、がんばってもらいたい。
●依頼完了
盗賊が出たけど、冒険者に蹴散らされたことだけは付記しておこう。
各冒険者諸賢の、これからの活躍に期待である。
【おわり】