奴の名はゼット
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月14日〜11月19日
リプレイ公開日:2006年11月20日
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●オープニング
●メイの国の冒険者
メイの国は、冒険者の国としては超新参である。
だが、それがバグばっかり超有名OSのように機能しないというものではなく、実は来落した天界人によって実にスマートかつスタイリッシュに構築された。ある意味、冒険者先進国である天界より進んでいるかもしれない。それは機能が優れているという訳ではなく、王宮内に作られた冒険者ギルドの在りようを見ても分かるだろう。
つまりメイの国では、冒険者は国家のお墨付きをもらった『有識者』なのだ。
だと思う。
だといいなぁ。
ま、ちょっとは覚悟しておこう。
まあともあれ、メイの国で冒険者は『国家』に組み込まれた。別に義務とか強制が入るわけではないが、国の全面的な支援を受けてその能力を遺憾なく発揮することになったのである。
もちろん、メイ王アリオ ・ステライドにも打算はある。探索のプロフェッショナルである冒険者を利用して、いくつかの目的を達しようというのだ。監督はしないが支援はする。そしてもらうものはもらう。
海賊に育てられたという、アリオならではの発想であろう。お堅い貴族に、こういうフレキシブルな対応は不可能だ。
そして実際に、成果を挙げているのが現状である。おそらくは、アリオ王が考えていた以上に。
成果が上がれば信用も増す。当然権限も増すし、重要な物品の貸し出しにも対応できるようになる。
場合によっては、それが国家軍略にとって大変貴重な、ゴーレム兵器でもだ。
文句を言う貴族も居るだろうが、成果を挙げ続けている限り黙らせるのは簡単だ。そしてカオスの力が増している現在、兵士や騎士たちを簡単に動かすことができないので、究極の遊撃兵である冒険者が重宝されるのである。
リスクを考えれば、冒険者に頼るのは順当な判断であろう。
◆◆◆
魔法使いという人種が居る。
別に汎ヒューマノイドの1種族を指す言葉ではなく、言うなれば『オタク』などと同義の言葉遊びだ。何か呪文を唱えて妙な現象を起こす彼らは、それが精霊魔法であれ神聖魔法であれ、『超常現象の行使者』ということになる。
魔法使いの特徴を挙げると、以下のようなものになる。
1.夏でもローブを着ている。
2.在る一定の方向の知識に偏っている。
3.やたら不遜で尊大。
大いに偏見が混じっているが、ステロな魔法使いとはだいたいこんな感じだ。頭に『悪い』と付くとさらにその度合いが増す。
が。
ここに一人、『頭の悪い』魔法使いが天界から来落してきた。
「が――――――――――――――――――――――――――――――――っはっはっは!!」
あなたたちの前に現れたのは、雲を突くような大男だった。真っ黒のローブは畳2枚分ほどもあり、前から見ると凧(たこ)のようにも見える。身長は2メートルを手のひら2枚分ほど上回っており、肉の総量は並大抵の人間の二人分はありそうだ。
「わははははは、我が名はゼット! ダイカン山の悪ダイカンを倒すため、貴様たちに正義の鉄槌を下しに来た!! さあ、わしの胸に飛び込んでこい!!」
――ハア?
話しの見えない展開だが、この魔法使い(?)は、どうやら悪人退治をしに君たちのところへ現れたらしい。問題はそのダイカン山なる場所と悪ダイカンなる人物である。どう考えてもアトランティスの言葉ではない。というか、ダイカンという山も無ければダイカンとおいう人物も聞いたことがない。宮廷図書館のヌシである眼鏡の彼女に聞いても、おそらくわからないだろう。
が、差し迫った問題はそんなことではない。あと〇・四秒後にはイニシアチブ判定が始まりそうなのだ。ゲーム的に言えば!!
さあ、なんとかしよう。
●リプレイ本文
奴の名はゼット
●奴の名はゼット
――ジャパンは一つの恐るべき噂がある。
エルフのクレリック、アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)は、時間が静止したような通りの中央で、黒い凧のように手を広げるジャイアントの男を見ながら、『たまたまそこに居合わせた不幸な冒険者たち』にそうぼそりとつぶやいた。(〇・二秒)
彼の故郷は、イギリスである。ジャパンを放浪中にこのアトランティスへと流れ、そして現在に至るという履歴の持ち主だ。
もちろんジャパン語を修得している。ゆえに『ダイカン』山の悪『ダイカン』というのを、彼は正確に意味まで把握していた。つまり彼には、『代官山の悪代官』と聞こえていたのである。
ちなみに代官山というのは江戸の一区画で、代官職の者の屋敷街があった場所とされる。現代で言うと渋谷の一部だ。現代『風』に言うと杉並の某庁舎街というところだろう。(〇・三秒)
「待ってください! ここ(〇・四秒)」
ぼぐっ!
「むっ? 何か言ったか?」
拳を突き出した姿勢のまま、ゼットが言った。普通こういうときは拳より先に言葉が出る物であるが、臨戦態勢のゼットに『話しかける行為』がいかに危険かをまず把握すべきであった。脊髄反射もかくやという速度で繰り出された拳はアルフレッドの顔面を直撃し、見事に昏倒させたのである。ちなみに、鼻血を出して倒れるエルフという珍しいものが見られる結果となった。
にこやかかつ平和的かつなあなあでその場を『何とか』しようとしていたティス・カマーラ(eb7898)とフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)は凝固した。脊髄反射で行動されては、彼の胸に飛び込んだ瞬間スクリューパイルドライバーで顔面で地面にドリルンルンと穴を掘ることになりかねない。そんな、かなり剣呑な雰囲気があった。
――う‥‥動けば殺(や)られる――。
アルフレッドの尊い犠牲によって他の者は事なきを得ていたが、それも『今は』という限定条件でである。というか、誰もが背中に冷たい汗をかいていた。魔法使いのくせに、ゼットの体さばきは並大抵のものでは無かったのだ。
数秒――あるいは数十秒だったかもしれない。時間が流れ不自然な沈黙が臨界に達したところで、ついにティスが我慢できなくなった。彼は好奇心たっぷりのパラなのだ。
「いあちょ〜〜〜〜!」
なんだかよく分からない怪鳥音を発しながら、ティスが《リトルフライ》で飛んだ。そして空中でくるくると回りゼットに向かって着地――。
べん!
しようとして、ティスは地面にバレーボールのスパイクのように叩きつけられた。そのまま気絶する。目が渦巻きになっている。
「むっ! 子供ではないかっ! 子供を戦に使うとはなんと卑劣なやつ!」
――おいおいおいおい。
叩きのめしたのが誰か、という思考は彼には無いらしい。
その均衡を破ったのは、先ほど機会を失したフィオレンティナだった。
「メイディアへようこそ〜〜☆」
にゅ、と、フィオレンティナがゼットの胸に飛び込んだ。
「むっ! これ小娘! 何をするっ!」
ゼットが困っている。どうやらゼットの弱点は、女性らしい。イギリス紳士(?)らしい弱点だ。
そこからは口八丁手八丁で、なし崩し的に酒場へゼットは連れて行かれた。
恐るべしフィオレンティナ、侮りがたし。
●状況把握
「むぅ‥‥つまりここは太古に滅んだとされるアトランティスで、ワシは今そこに居るというのか?」
「信じられないかもしれませんが、そういうことです」
復活したアルフレッドが言う。ジャパンの事情を知っているので、話が早かったからだ。
「ここには『代官山』も『悪代官』も居ないよ。ああ、『悪い役人』さんはいるかもしれないね」
ティスが、果実酒を呑みながら言った。彼の外見はR指定だが、年齢はその指定をダブルスコアぐらい行っている。
「図書館のお姉さんも、『ダイカン』というものについては知らないようだった。少なくともメイの国には無いんじゃないかな?」
天界人のマイケル・クリーブランド(eb4141)が言う。彼は王立図書館に行き、調べ物をしてきたのだ。得られた結果は『ダイカンなるものは無い』というものだったが、無いと確認できただけでもたいしたものである。なお、図書館の司書さんが可愛いので粉カケしておいたことを特記しておく。
「ただ、この世界に『悪』が無いわけではない」
メイの鎧騎士、ソーマ・ガブリエル(eb7907)が厨房から料理を出しながら言った。彼が作った、最近メイで流行の『地中海料理』というものだった。海産物をふんだんに使い、ブイヨンとトマト(に似た果実)のソースで味付けしたものだ。
ちなみに最近は、天界のジャパン人の来落で『魚醤』といった調味料も少々ではあるが出回りつつある。美食家の間では、このところの天界人の来落によってメニューが増えたと、喜ばしい悲鳴が上がっている。
「この世界は、『カオス』というものに浸食されている。それは年々拡大を続け、現在ではこのメイの国だけでさえ安全な地域など存在しないに等しい。ご老人、ここはひとつ、メイの国のために『冒険者』として働いてはもらえないだろうか?」
至極真っ当なことを、ソーマが言った。
「しかし悪代官退治も請け負っておったからの〜。元の世界に戻る方法は無いのか?」
その問いに、答えを持つ者は居なかった。
確かに探す努力をしている者はいるが、実際の話『役目を終えて天界に帰った天界人の伝説』以外のケースで天界人がこの世界を去ったという話を聞かないからだ。方法が見つかれば、必ず報告なり記録が残るはずである。
「あっら〜〜〜〜ん、お・じ・さ・ま〜ん☆」
そこに、めろめろに溶けたレイバンナ・ジェロン(eb8980)が入り込んできた。ゼットにしだれかかり、その胸をなで回す。彼女の望んでいたプニプニというよりゴツゴツという感触だったが、筋肉フェチの彼女には関係ない。
「表に面白いものを持ってきたわ」
一同が表に出ると、そこにはフロートチャリオットが止まっていた。それに、魔法使いらしくゼットが反応する。
「むむ? これは‥‥なるほど、ゴーレム魔法か」
ゼットが一発でその正体を見抜き、一同はむしろ驚いた。
「なるほど‥‥法術の組み方が多少違うが、確かにゴーレム魔法じゃ。これは『地のゴーレム魔法』を施してあるのう‥‥」
「わかるの? おじさま」
レイバンナが、さすがに驚いた様子で言う。
「ワシも魔法使いじゃからの。底面に変形した《レビテーション》の法印が組んである。これを重心に据えて、前後の重心移動で動かすワケじゃな? なるほどなるほど」
さりげなく書いたが、このおっさん、片手でチャリオットを持ち上げて底を覗いていることは特記すべきであろう。
「ねーねー、これ、作れる?」
ティスがゼットに問う。
「ふむ」
とゼットは答えると、ゼットはおもむろに建築中の建物の石材に黒炭で法印を描き始めた。書き終わるのに10分もかからなかった。
「ほれ、乗ってみろ」
「わーい!」
ティスが石の上に乗ると、石材がふわりと浮いた。
「「「「おおおおおおっ!!!」」」」
見本があったとは言え、ゴーレム器物をあっさり再現したゼットの手腕に、誰もが驚いた。特に鎧騎士のフィオレンティナとレイバンナは、まさに驚愕した。
が。
「うひゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(どがーん!! ばりーん! ぎゃー、わー!)」
石材はティスを載せたままものすごい速度ですっ飛んで行き、進路上の屋台を撃破し突き当たりの土塀に2メートルほどの穴を開けて、そのままどこかに行った。
ティスがどうなったか、誰も知らない。
●その後
性格に難があるが有能な魔法使いとして、ゼットは冒険者に登録された。ただし『ゴーレム魔法は使用するべからず』という注意書きが付いてである。なぜなら彼が使用したあの石材は、メイディア市街を直線上に貫通し、外壁まで粉砕して砂漠の方にまですっ飛んでいったのだ。魔法の失敗の度に町を破壊されては、冒険者の沽券に関わる。
ともあれ事態は収束したので、この話は終わろう。
◆◆◆
「あれ‥‥ここどこだろ‥‥」
ティスが目を覚まし、砂漠から帰ってきたのは、その4日後であった。
【おわり】