暗殺者ネイ・ネイ

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月28日

リプレイ公開日:2006年12月01日

●オープニング

●カオスの脅威
 『カオス』が何であるか?
 実は、多くのアトランティス人は把握していない。ただカオスニアンや『カオスの魔物』などの存在から、邪悪で『このアトランティスを冒(おか)すモノ』であると認識している。
 だが、その本質にまで迫った学者や魔法使いは居ない。それはこの50年変わらぬアトランティス各国の命題であり、そしてなんとか探りたい事物である。
 なぜか?
 話しは簡単だ。どうやって生きて(発生して)いるかが分かれば、滅ぼすことも不可能では無いからだ。
 生物のメカニズムは、かなり解明されている。まあ、天界の知識でアクチン・シトミンといったアミノ酸の集合体であるという人間の構成が、アトランティスやジ・アースでは『六大精霊』によって構成されているものであったりとその有り様は様々だが、モンスターも含めて、解明された現象はあまり脅威ではない。ウィルスの発見により免疫学が発展したように、正体が分かれば対処のしようがあるからである。
 だが、カオスだけは別である。現状その発生原因も分かっていないし、ある日突然『カオスの穴』が開口しサミアド砂漠が広がり、文字通り『世界が崩壊しかけた』この事象は、今だ謎のままだ。
 そして、バの国の台頭。
 基本的に『リーダー』という存在の無かったらしいカオスニアンたちは、バの国の『軍』というシステムを教えられ、『群体』から『軍隊』に変化した。それは身体能力にすぐれたカオスニアンに適合し、そもそもバイタリティあふれるカオスニアンを巨大な一個の『暴力』に作り上げたのである。
 そしてカオスニアンの多くはどん欲で、実に凶暴である。そしてしたたかで、認めなければならないのは『賢い』のだ。
 悪の賢人ほど始末の悪いものは無い。そして、彼らは虎視眈々と『何か』を狙っている。

    ◆◆◆

 カオスニアンには何人か、ひどく有名な者が居る。例えば『最大の悪女』マハ ・シャイ、あるいは『最強の暴力』ガズ・クド。
 そして『最悪の殺し屋』ネイ・ネイ。
 英雄ペンドラゴンの死因は確認されていない。そして彼を殺した者も知られてはいない。あるいは、阿修羅の剣を持ち無敵となった彼を殺すことが出来る『戦士』など、存在しないのかもしれない。
 だから、竜戦士ペンドラゴンは暗殺されたのでは――?
 それは『カオス戦争』最大の謎であり、あるいはそのペンドラゴンを殺害したと噂される稀代希有な暗殺者が、ネイ・ネイと呼ばれる者である。
 神出鬼没、正体不明。狡猾な老女とも言われるし、稚児のような美少年とも言われる。
 つまり年齢も外見も、性別すら分かっていない。そしてカオスの穴が開いてから約50年、その名は闇の中で書きつづられてきたのだ。
 そう、書きつづられてきた。つまりこの約半世紀、ネイ・ネイの名が歴史から消えることが無かったのである。それはある意味、長命な森人族のように超常的ですらある。
 その暗殺者が、メイ王アリオ ・ステライドを狙っているという噂が立った。戦域の王の暗殺など噂だけでもグロス単位で存在するが、ネイ・ネイの名だけは別格である。それだけは、限りなく現実に近い『危機』なのだ。
 王宮を舞台に、見えない魔手とのチェス・ゲームが始まる。

●今回の参加者

 ea0602 ローラン・グリム(31歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0605 カルル・ディスガスティン(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4099 レネウス・ロートリンゲン(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7851 アルファ・ベーテフィル(36歳・♂・鎧騎士・パラ・メイの国)

●リプレイ本文

暗殺者ネイ・ネイ

●噂に登ったら負け
 暗殺とは、主に政治的、宗教的または実利的な理由により、要人殺害を密かに計画・立案し、不意打ちを狙って実行する殺人行為のことである。いわゆるテロと重なる部分が多いが、無差別テロは特定要人の殺害が目的ではないので暗殺には含めない。
 つまり『密かに』というのが重要で、それが噂に登るようことがあれば、その暗殺は失敗したも同然だ。警備を固められてしまえば、そのほとんどは未然に防げる。現在の警察機構が暗殺の実行阻止よりその情報の収集に血道をあけるのは、そういう理由からである。
 ちなみに情報が漏洩した場合の暗殺やテロの成功率は、限りなく低い。時に『殺害予告』なるものが告知され実行されることがあるが、それを防げないのは日本の官僚機構が腐敗している警察ぐらいのものである。かつてオウム真理教の地下鉄サリン事件があったとき、警察は事前情報をある程度確保していたにもかかわらず『前例がない』という理由で案件を各部署にたらい回しにし、事件当日を迎えた。結果は――今もなお、人々に無惨な爪痕を残す結果となっている。この事実を警察はひた隠しにしているが、隠し通せていると思っているのは警察だけというのがイタイ話だ。
 アトランティスの冒険者は、官僚機構にも警察権力にも――そして常識にも囚われない自由人である。故に彼らは冒険者たりえるのであって、『究極の遊撃兵』たりえるのだ。
「このような時に頼みとなるのが冒険者とは、皮肉な話だ」
 謁見の間で、今回警備に付くこととなった冒険者たち6名、フランク騎士ローラン・グリム(ea0602)、ジャパン浪人の加藤武政(ea0914)、ビザンチンのウィザード、ルメリア・アドミナル(ea8594)ノルマンのレンジャー、カルル・ディスガスティン(eb0605)、メイの鎧騎士レネウス・ロートリンゲン(eb4099)と同じくパラのアルファ・ベーテフィル(eb7851)を前に、アリオ王は微妙な表情をしていた。
「王というのは、暗殺に極端に弱い。不安定な国ほどそうだ。人間である以上、死から逃れることなど出来ん。逆を言えば、殺せない人間など居ない。それがどのような者であってもだ。我が父、『竜戦士』ペンドラゴンでさえ例外ではなかった。死こそ確認されていないが、その行方が今もって不明となれば、それは死と同義だ。受け入れるしかない」
 顔も知らぬ父を思っているのか、アリオ王はいつになく饒舌だ。
「この国には、まだまだ私の力が必要だ。民草のため、いや、このアトランティスそのもののために、今斃れるわけにはいかない。我が身に降りかかる火の粉なれど、それを振り払うそぶりも見せられぬのが王というものだ。我が命、そなたたちに預ける。しかと頼んだぞ!」
「「「「御意!!」」」」
 決意の言葉に、冒険者たちは身の引き締まる思いだった。

●警備の手は‥‥
 配置の相談は、意外と早くついた。ローランとレネウス、武政が王の直近。ルメリアとカルルが外周防衛。アルファが武政の知恵を借りながら情報収集ということになった。
 警備の仕事は、地味で地道なものだ。絢爛豪華な衣装を着て王の側に立つ、というのも一つの手ではあるが(威嚇という意味で)、それも24時間そうやっているわけにもいかない。アリオ王とて食事は摂らねばならず、トイレにだって行くのである。もちろん眠るし、疲れたら多少午睡だって取ることもある。
「意外と――疲れるな」
 ローランが、肩の辺りを揉みほぐしながら言った。
「天界人というのは、もっとこう‥‥人間離れしたすごい人だと思っていましたが‥‥」
 レネウスの言葉に、ローランが苦笑する。
「天界人だって、丸一日寝る間も『天界人』やっていられるわけじゃない。それこそ王様と同じだ。伝説の『竜騎士』だって、恋もすれば女も抱く。だからアリオ王がいるのだろう?」
 英雄ペンドラゴンと、旧メイ王朝の王女との間に産まれたのがアリオ王である。ペンドラゴンがいかに超絶的な戦技を持っていたとしても、人間には違い無いのだ。そういうローランも、レネウスあたりから見たらかなり超絶的な戦技を持っている。彼に資格無し、というわけではない。
「おう、交代だ。というより、中止、かな」
 そこに、武政がやってきた。そしていきなりなことを言う。
「「中止!?」」
 誰もが、その言葉を疑った。

●ネイ・ネイに対する考察
「情報収集に当たって、正解でした」
 アルファが、レネウス以外の冒険者諸賢に向いて言う。ちなみに念のため、レネウスはアリオ王のそばで警備を続行中である。
「説明が欲しいですね」
 ルメリアが、詰め寄るように言った。黒装束のカルルも無言で抗議しているようだ。
「簡単な話です。『今度のネイ・ネイ』は、多分『新しいネイ・ネイ』だからです」
 言葉になっていないようなことを、アルファが言った。
「自分は武政殿の勧めでネイ・ネイに関して調査しました。噂の最後の出所は王国のある貴族で、その貴族はカオスニアンの間諜から情報を買っていました」
「そういうの、アリなのですか?」
 ルメリアが不思議そうに問う。カオスニアンはアトランティスの中の悪。つまり相容れぬものとして忌避されている。
 これには、カルルのほうが理解が早かった。
「‥‥敵側の人間を間諜に使うのは‥‥諜報戦の基本だ‥‥おそらくアリオ王も‥‥それなりにコネクションを持っているだろう‥‥」
 まあ、そういうことである。カオスニアンには金を積めば味方を売る者も居るので、その辺をうまく活用しているわけだ。
「つまり、わざと暗殺の情報を流したっていうのか? しかしなぜだ? 警備が強化されるだけだろう?」
 ローランの言葉に応じたのは、武政だった。
「つまりそれが『目的』よ」
 武政が言う。
「ネイ・ネイにとって、俺たち冒険者は不確定な要素として十分やっかいな部類に入るだろう。何せアトランティスの常識が通じない。それに腕の立つヤツもいる。さらにゴーレムやらなんやらで、分からんことだらけだ」
「そうか」
 得心がいったように、ローランが言った。
「藪をつついて、わざと蛇を出そうって言うのか! なるほど」
 その例えに、ルメリアが納得顔になった。
 諜報戦は、相手に知られずに情報を収集するという方法の他に、わざと相手に知らせて情報を収集するという方法がある。今回ネイ・ネイが取ったのは、後者の方法だ。天界人を含めた冒険者がどのような警備方法を取るか、検分していたのである。
「なら、すぐにでも警備を解かないと」
 ルメリアの言葉に、カルルが否を唱えた。
「‥‥警備を緩めれば、アリオ王が本当に狙われるかもしれない‥‥警備を解くのは、得策ではない‥‥」
 そう、この方法に関しては、対処法が極端に少ないのだ。すでに敷いた警備網は感知されていると見るべきだし、新しい方法を取ればそれも記録される。
 そして最終的には、対処法を編み出され実行に移されるのである。依頼が頒布された時点で、この戦いに『勝ち』は無いのだ。
「ですが、負けっ放しというわけでもありません」
 ルメリアが言う。
「ネイ・ネイがどんなヤツかは分かりませんが、少なくとも50年現役っていうのは嘘ですね。世襲制か一子相伝かは知りませんが、代替わりしていると見るべきでしょう。そして今回のヤツは、まだ代替わりしてそんなに経っていません」
「なぜそんなことが分かる?」
 ローランが問う。
「噂の流し方です」
 ルメリアが即答した。
「噂を流すというのは、いかにも回りくどいです。一見有用に見えて、無駄が多い。つまり今回のネイ・ネイはその『無駄』も必要なほど、情報の蓄積が無いということです」
 理知的なウィザードの貌を見せて、ルメリアが言った。それに全員が、得心のいったような顔をする。
「‥‥対処法は?」
「予定通りの警備を続けて、観察者を確保する。この方法が一番確実です。最悪でも痛み分けで済むでしょう」
 ルメリアの言葉は、忠実に実行された。

●暗殺ならず
 警備については、予定通り実行された。隙のない警備に相手の動きは見て取れず、最終的に無事警備期間を終了した。
 王は暗殺の噂に怯えることなく公務をこなしたと株を上げ、万民の喝采を浴びた。
「引き分け‥‥かな」
 カルルの言葉に、冒険者がうなずいた。結局観察者を発見することは出来なかったのである。
 だが過去例が無かったように、ネイ・ネイに狙われて生き延びた者は居ない。必ず動きがあるはずだ。

 闘いは、これからである。

【おわり】