ゴーレム開発計画裏2
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月29日〜12月04日
リプレイ公開日:2006年12月07日
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●オープニング
●ゴーレム開発
ゴーレム兵器の開発と進化は、メイの国にとって急務である。
西方ではすでに、素体素材から見直した新機軸のゴーレム開発が行われているという噂だ。だがメイの国は、その技術の流入を待っている余裕はない。つまり『モナルコス』をしゃにむに実用生産体制に持って行ったように、メイの国でも独自に強力なゴーレム兵器を開発し、生産体制に持って行かなければならない。
天界人は自世界の『工業力』というものを知っているので誤解しがちだが、メイでは国力を総動員しても、ゴーレム生産は家内制手工業と何ら変わらない。技術開発もそうだが、工業体制の見直しから行わなければ、いずれ怒濤のようなカオスの侵攻に飲み込まれるであろう。そしてその背後には、おそらく『真の敵』がいるのだ。
◆◆◆
「ゴーレム開発の是非は、今は問わぬ。我々には『力』が必要であり、アリオ王も必要としているのが実情だ」
メイの国のゴーレム開発責任者がカルロ・プレビシオンだとすると、『ゴーレム生産の責任者』はこのドワーフ技師ガンゴウトス・エメルセンという事になる。ゴーレムニストではなく生粋の技術者で、つまりは鍛冶師だ。
先月の『工業開発』(むしろ開拓と呼んだ方が良いか)によって、二つの大きな成果が出ていた。まずは問屋制手工業の導入によって、様々な『誰が作っても良い部品』が外注に出せるようになったのである。具体的には鎧や武器だ。これによってゴーレム工房では、『パペット(素体)』と『制御胞』のみの制作に集中できるようになったのである。
外部の鍛冶師たちには、設備拡充のためにメイの国国庫からかなりの予算が配分されたという話だ。
ただし、これはメイの国のゴーレム生産数を外部に知られやすくなるという弱点を持つ。バの国という敵がいる現状では、諸刃の剣ということを承知置きいただこう。
そしてもう一つは、ゴーレム生産工房の分業化のための再整理である。現代の工場のように大型建築物内で流れ作業が出来ないのなら、当座は工房ごとに『生産役割』を割り振り、工房群を一つの工場と見立てて機能させるというものだ。つまり作業を工房ごとに分けたのである。
具体的には『パペット製作工房』『制御胞製作工房』『ゴーレム魔法付与工房』『素体組み立て工房』『最終組み立て(武具装備)工房』の6カテゴリに分けられた。技術者や職人、魔法使いも工房ごとに極化させたのである。
これは、思わぬ効果をもたらした。
どこの工房でも『我が家の秘訣』みたいな裏テクがあるものである。それを交換させることで裏技が多数発生し、所々で生産効果が抜群に伸張したのだ。特に『素体組み立て工房』は早々と生産効率200パーセントに達し、基礎技術さえ蓄積できれば十全に能力を発揮できるようになっていた。
君たちの任務は、長期的スパンにわたりゴーレム生産環境を改善することである。つまり新式ゴーレムが完成した時に、それを生産出来るようにするのだ。
根気が必要で地味な仕事だが、その能力を遺憾なく発揮してもらいたい。
●リプレイ本文
ゴーレム開発計画裏2
●工房改革
ゴーレム魔法とその使用法、そしてゴーレムの製法やその能力は、冒険者などにはかなり知れ渡っているが、実は特秘情報である。
今までメイの国では、その工房管理や製法管理、その他さまざまなことが『立ち後れすぎて』その把握はメイの国そのものでもかなりあやふやだった。
情報の集中する国の中枢すら正しく把握していない物を、外国の――いわゆる諜報員や諜報機関が把握するのは、それはもう大変である。実質、ドワーフ鍛冶職人ガンゴウトウス・エメルセン工房管理官やゴーレム工房長のカルロ・プレビシオンの、尽力ならぬ『人力(じんりょく)』で保っていたと言ってもいい。
それが急展開を見せたのは、先月の『第1次ゴーレム生産ライン再整備計画(通称1計画)』と名付けられた、工房の再編成である。『パペット製作工房』『制御胞製作工房』『ゴーレム魔法付与工房』『素体組み立て工房』『最終組み立て(武具装備)工房』の6カテゴリに分けられた工房は、導入されたばかりの問屋制手工業の支援を得て今月には早速回転を始めたのだ。
が、ゆえに発生する不具合もある。
最近メイディア市内でカオスニアンと思しき間諜の跳梁が目立つと思ったら、ゴーレム工房の整備の成果によって集めやすくなったメイのゴーレム情報を、熱心にかすめ取っていたのだ。むしろ今までやたらと人手を割いていた分、手が余っているぐらい楽な仕事に変革してしまったらしいのである。国家機密のゴーレム情報収集が、だ。
由々しき事態ではあったが、対処出来る者などメイには居ない。なぜなら工房をこの形態に変革したのは天界人であり、天界のメタ情報が用いられているからである。当然対処法を知っているのも、天界人に限られる。いや、メイ人も考えられないことは無いだろうが、いかにも手遅れくさい。
「ゆえに今回、私の出番となったわけだ」
と、なにやら不遜とも取れる態度でそう言ったのは、ジャパンの忍者、竜胆零(eb0953)である。
「しかしリンドウ、猟犬をこんなに集めて何をするつもりなのだ?」
工房管理官のガンゴントウスが、不思議そうに言った。
「『羊飼いの一番優秀な友は牧羊犬』と聞いたことがある。我が祖国ジャパンでも『忍犬』という訓練された犬を使って任務をこなすことがある。もちろん『猟犬』も『訓練された犬』だ」
まあ、正確にはアトランティスの生物も微妙に違うのだろうが(例えば遺伝子構造が0.03パーセント違うとか)、いずれにせよ『忠犬』という概念も単語もあり、犬に相当する生物も存在する。犬鬼(コボルド)も居るが、彼等は鬼種(オーガ)なので含めない。
「で、つまり『番犬』か」
「そうだ」
こう、25歳なのに童顔で顔に似合わないぱっつんぱっつんの肢体(体躯とは言わない)をさらしながら、零は言った。
さらに彼女は、『資材部』という部門を設立しそこで装備・材料・資材の調達と配分を一元管理するシステムを提案した。彼女の故郷にそういうのがあったのだそうだ。
利点は明白である。一元管理はそこを暴露されるとすべての事情が発覚するが、逆に1ヶ所だけがっちりガードすれば良いのだ。
提案内容は合理的だったので、すぐに『ガンゴントウス視点』に翻訳され施行された。効果が現れるのは時間が必要である。
レネウス・ロートリンゲン(eb4099)は度量衝(単位)の統一を進言。元々アトランティス人なので文字の壁は薄く、わりとあっさり作業は済んだ。
まあ、それまで工房ごとに使用単位が違ったのだから、工房の部門ごとにくくりなおした現在それをしなければ、二進も三進も行かないのは明白である。
そして彼がもっとも注力したのは、マニュアル作りであった。これはウィザードのエル・カルデア(eb8542)との共同作業になった(別に結婚するわけではない)。
「絵を多用して文章も平易なものに‥‥ですが、ウィル単位に統一したのがここで仇になっていますね」
と、レネウス。そう、識字率の低い徒弟制度バリバリの、家内制手工業出身の職人たちは、単位の意味すら読み取れない場合が多かったのだ。なぜなら‥‥こんな場面を見たことは無いだろうか? 刀を打つ職人が熱した鉄を水に入れるときに、その水の温度を手で確認する――つまり、多くは『身体で覚える』という、伝統の蓄積の中に立脚していたのである。
前回の本件依頼でマニュアルまで手が回らなかったのは、具体的にそこにまでたどり着けなかったからだ。
「こちらが立てばこちらが成らず‥‥難しいですね‥‥」
エルがさすがに参ったような表情をする。智賢あるエルフでも、無知は罪ではないが、バカ(失礼)に付ける薬は無いのである。
ひとまずマニュアルの件は置いておき、レネウスはガンゴントウス工房管理官と『工房規則』の成文化の作業にかかった。と言ってもこれも識字率の壁が立ちはだかる。魔術師たちはほぼ問題無いが、職人たちが殺人的に識字率が悪い。これは、別に文字が読めなくても生活に困らないからである。多くの一般職の者が、自分の名前さえ書けないのだ。
レネウスが実状を確認し、がっくりと膝を落としたことは言うまでもない。
まあそういうレネウスも、セトタ文字しか読めないのだが。多分彼がメイ語のマニュアルを作ると、現代の日本企業が外国向けに作った商品のマニュアルを『ガイジン』と呼ばれる人種に翻訳を頼み、そしてご丁寧に日本人が英語の更正を入れるという、米国では悪評高き『メイド・イン・ジャパン・マニュアル』のようになっていたことだろう。ちなみに米国人はメイド・イン・ジャパンの商品を喜んで買うが、マニュアルは一切見ないそうである。
話が逸れた。
他にもエルは資材調達にフロートシップを使う案を出していたが、これはフロートシップの絶対数が足りないので不発。ただ大量発注の見返りに価格を下げるよう交渉するのはそこそこうまくいった。しかしこれ以上は、天界の『入札制度』などをきっちり導入しなければなるまい。
まあ、入札制度はメイにもあるにはある。が、ゴーレムの部品を作れる設備を持っている職人の絶対数が不足している。この辺はもう、現代旧ソビエト連邦のコルホーズとかソフホーズとかを参考にした方が早そうである。
さて、その中で黙々と自分の作業をしていた者が居る。エルフのウィザード、レイジ・ヘイトブリード(eb9404)である。
彼は工房設備の拡充よりも、開発現場の急務を今回担当した。具体的には新式ウッドゴーレム用の武器や装備の製作である。
とりあえず期間内に用意できたのは、シールドソードとパリーイングダガー、そしてフック付きチェーンである。最優先で行ったものだ。
そして、飛び道具の弦に使用する針金――つまり鋼線を作れないかガンゴントウス工房管理官と相談していた。
「伸ばす方法じゃだめだな」
ガンゴントウスは、すぱっと言った。
「伸ばして作る銅線類は、当然伸びに弱い。力をかけて伸ばしたものは、結局同じかそれ以上の力をかけると伸びるものだ。それに銅線は鉄で出来た伸張機械を使って作るが、鉄の線は何の素材で作った伸張機械を使うんだ? そう簡単にはいかんよ」
メイの技術と知識では、今のところ解決は難しそうである。現代人ならば「せめて鋼鉄があれば」などと思うかもしれないが、無いものは無い。
●成果
成果はあったり無かったり。まあ少人数ではやはり難しいものが多いのは確かだ。番犬についてはきっちり成果は上がっているようだが、それ以外はなかなか進捗しない。
そんな中、デク?が名称『ユニコーン』と名付けられ正式採用になった。またモナルコスの生産方法が見直され、同性能を維持しつつ生産性を良くし価格を抑えた、『モナルコス改』あるいは『モナルコス後期型』が生産ラインにのることになる。
さっそく、工房体制変革の威力を、見せる時である。
【おわり】