隊商護衛、ただし危険

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2006年12月10日

●オープニング

●メイの国の冒険者
 メイの国は、冒険者の国としては超新参である。
 だが、それがバグばっかり超有名OSのように機能しないというものではなく、実は来落した天界人によって実にスマートかつスタイリッシュに構築された。ある意味、冒険者先進国である天界より進んでいるかもしれない。それは機能が優れているという訳ではなく、王宮内に作られた冒険者ギルドの在りようを見ても分かるだろう。
 つまりメイの国では、冒険者は国家のお墨付きをもらった『有識者』なのだ。
 だと思う。
 だといいなぁ。
 ま、ちょっとは覚悟しておこう。
 まあともあれ、メイの国で冒険者は『国家』に組み込まれた。別に義務とか強制が入るわけではないが、国の全面的な支援を受けてその能力を遺憾なく発揮することになったのである。
 もちろん、メイ王アリオ ・ステライドにも打算はある。探索のプロフェッショナルである冒険者を利用して、いくつかの目的を達しようというのだ。監督はしないが支援はする。そしてもらうものはもらう。
 海賊に育てられたという、アリオならではの発想であろう。お堅い貴族に、こういうフレキシブルな対応は不可能だ。
 そして実際に、成果を挙げているのが現状である。おそらくは、アリオ王が考えていた以上に。
 成果が上がれば信用も増す。当然権限も増すし、重要な物品の貸し出しにも対応できるようになる。
 場合によっては、それが国家軍略にとって大変貴重な、ゴーレム兵器でもだ。
 文句を言う貴族も居るだろうが、成果を挙げ続けている限り黙らせるのは簡単だ。そしてカオスの力が増している現在、兵士や騎士たちを簡単に動かすことができないので、究極の遊撃兵である冒険者が重宝されるのである。
 リスクを考えれば、冒険者に頼るのは順当な判断であろう。

    ◆◆◆

 ゴーレムの戦地への配備は、割と大変である。
 工房から完成したゴーレムを搬出するのは、本当はフロートシップを使用するのが望ましい。しかし現実問題として、羅針盤も無く昼間は太陽で方向を知ることの出来ない(なぜなら太陽が無い)アトランティスの現状では、フロートシップで空路輸送するのは実は大変なことなのだ。空を飛べるようになったのはいいが、空からの地形把握――つまり道案内の出来る者から養成しなければならないのである。
 せっかくの空路手段ではあるが、これは飛行機械が開発された天界でも同様の事が起こっているのでやむを得ないであろう。空はまだまだ、アトランティス人にとって黎明の地なのだ。
 ゆえに今回、完成したモナルコス級ゴーレムを一騎、陸路輸送することになった。もちろん街道を通って云々ということになり、時間も人材もかかる。しかし必要なことだ。
 そしてこれも通例だが、この手の『警備のしっかりした輸送隊』には同伴を願う者も多い。旅は危険なところが多く、つまり『群れ』になって身を守るという知恵が働くわけだ。
 そして今回、この隊商には冒険者が雇われた。
 モナルコスは艤装されておらず、鎧などは装備されていない。緊急の場合『現場の判断』で使用は不可能でないと思われるが、大型恐獣などが相手だとあっという間に破壊されるかもしれないので注意が必要である。
 健闘を祈る。

●今回の参加者

 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb3526 アルフレッド・ラグナーソン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8988 篝 凛(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

隊商護衛、ただし危険

●ガ○ダム大地に立つ!!
 自分が精霊力の回路になったことを知覚し、エルフの鎧騎士シャノン・マルパス(eb8162)はその流れの制御に努めた。
 低い耳鳴りのような起動音はゴーレム操縦のときに起こる幻聴のようなものだが、その回転音が力の波動になるときゴーレムはその能力を発揮する。
 ずしん!
 ゴーレムの左足が、馬車の架台からはみ出して地に足をつけた。上体を起こすと、かけられていた布がはがれ頭部から胸部、そして制御胞が露わになってくる。
 日差しが、目に痛い。
 ばしっ! ばしっ! と、固定用の縄が千切れてゆく。そしてゴーレム――モナルコスは、立ち上がった。
「‥‥あんまり、かっこよくないなぁ‥‥」
 天界人の、篝凛(eb8988)が言う。
 ガ○ダムみたいなシチュエーションの割りには、艤装していないモナルコスは、丸っこいぷくぷくした、のどかな造形をしていた。

 ‥‥Vアンテナぐらいは欲しかったかなー。

●ゴーレム輸送任務
 ゴーレムの配備は、重要な任務である。本当はフロートシップを使いたいのが本音なのだが、あいにく手配が回らないのが現状だ。
 それでもゴーレムシップなら手配できるので、だいたいは海路→陸路という流れになる。
 今回の任務も、同様の手続きを取った。行き先はリザベ領だったのでほとんどを海路に頼り、最後の1日の行程を陸路で行く。それではいおしまい。まず間違いなく、何も無いはず――であった。
 ただゴーレム輸送となると、このところカオス勢力の襲撃を受けることが多い。カオスもゴーレムの脅威は知っているので、それに関する情報収集がかなり進んでいるのだ。首都メイディアで『防諜対策』なるものがシステマティックに稼働し始めたのはごく最近のことだし、それも天界人の指導あってのことである。
 いずれにせよこの情報も漏れていたらしく、輸送隊は賊の襲撃を受けた。ただちょっと違ったのは、ガリミムス型騎乗恐獣に乗っているのはカオスニアンだけではなかったことである。
 どこにでも脱走兵とか、そういうのは居る。そのような輩が野盗を働くことは無い話ではないが、勢い余ってカオスニアンに与することもあるのだ。
 そして輸送隊は、隘路を横から狙い打たれた。動物でもなんでもそうだが、脇腹は柔らかくて弱い物だ。
「円陣! シャノンはゴーレムに乗れ! 非戦闘員は馬車の中に待避!」
 マグナ・アドミラル(ea4868)の号令で、戦闘状況が開始された。こちらの手勢は、浪人の陸奥勇人(ea3329)にウィザードのルメリア・アドミナル(ea8594)、クレリックのアルフレッド・ラグナーソン(eb3526)と凛、そして10名ほどの兵士である。ただし凛は決して攻性な戦力とは言えず、二線を維持する役割を担った。
 初撃はルメリアの《ライトニングサンダーボルト》2連発であった。高速詠唱で放たれたそれは敵の2割ほどを焼きその半分を戦闘不能にさせた。
 アルフレッドは凛の援護を受けながら、《コアギュレイト》で恐獣を中心に凝固させてゆく。恐獣は魔法耐性が低いのか、いつもより効きが良く感じる。
 勇人、マグナの達人コンビも、まさに獅子奮迅の活躍を見せた。巧みに戦技を操り、確実に一撃で相手を屠る。生半可な敵では、まったく相手にならない。
 が、状況の不利を悟った野盗たちは弓矢での攻撃に切り替えてきた。弓に対する防御の薄い戦士たちに、次々に矢が当たる。
「こりゃたまんねぇ!」
 勇人ですら、一端物陰に隠れた。そして相手に時間を与えたために、今度は敵は火矢を射掛けて来た。荷物が燃えたら野盗の意味は無いが、カオスニアンのほうは破壊工作員である。そしてここはカオスの隣地リザベ領。野盗内部でも発言権はカオスニアンのほうが高いはずだ。『奪えなくば殺し壊せ』。そう指示されているに違いあるまい。
 ――ゴンゴンゴンゴンゴン。
 そこに、ゴーレムが起き上がった。
「意外と手間取ったな」
 マグナが言う。これで決着はついたも同然――と思ったが、そうは問屋が卸さない。
 GUAAAAAAAAA!!
「「「!!」」」
 鳴り響く恐獣の怒声。そう、ここはカオスの隣地リザベなのである。
「こいつは予定外だ」
 矢をものともせず、マグナが出る。勇人が続いた。ルメリアとアルフレッドは魔法で援護し、魔力がほぼ尽きたところで相手の正体が明らかになった。
 それはまさに『暴君』あるいは『暴竜』だった。
 ティラノサウルス。全長15メートルほどもある、確認史上最強の恐獣である。持久力に欠けるためメイ深部まではめったに来ないが、カオスの隣地ならば確かに現れる可能性は考えられる。
「おっさん! どうする!?」
 勇人がマグナに問う。
「俺たちで足止めして、ゴーレムでとどめを刺そう」
 シンプルな作戦である。つまりは正面からガチで戦(や)りあうのだ。
「当たれよ。『斬獣切り』!」
 マグナが戦技《スマッシュ》《シュライク》《ポイントアタック》を組み合わせた一撃を見舞う。狙うは脚である。
 ぞん!
 確かに痛打は与えたようだ。足を潰せば、大抵の敵は脅威ではない。
 が、ティラノも暴君と言われるだけのことはある。尻尾を振り回した攻撃でマグナを叩き伏せ、そして踏みつけたのだ。さすがにこれはマグナもたまらない。
「ぐおおおおおおおっ!!」
 マグナの叫び。かろうじて生きているようだが、それもどのぐらい保つか。東方に名の知れる英傑が二人がかりでも、ティラノはまさに強敵であった。
「てめぇこのトカゲ野郎!」
 勇人が《スマッシュEX》で槍を突き込む。確かに打撃は与えているが、人間で言えば拳でぶん殴った程度の痛打しか与えているまい。
『やります!』
 シャノンがゴーレムを突撃させた。手にはマグナから借りた、ギガントスピアが握られている。
 ばひっ! ずばっしゃーん!!
 しかし尻尾の一撃で跳ねとばされ、モナルコスは隘路の路側に吹っ飛ばされた。シャノンの身体が制御胞の中でピンボールの玉のように踊り、あちこちをぶつけて負傷する。非力なエルフゆえ、踏ん張れなかったのだ。
 GUAAAAAAAAA!!
 ティラノがゴーレムに迫る。あと一撃でも受ければ、腕の一本ぐらいもげるかもしれない。
 ――ぐわっ。
 ティラノが口を開き、ゴーレムに噛みつこうとした。
 が、ガキン! と、その動きが急に止まった。
「き‥‥効いた‥‥」
 アルフレッドの、なけなしの《コアギュレイト》だった。それも最少魔力でかけた確実性の非常に薄いものである。だが、まさに『奇跡』が起こったのだ。アルフレッドは神に感謝の祈りを捧げた。
 ティラノはシャノンの槍を受け、死んだ。主力を失った野盗は、逃走した。

●教訓
「これは俺のおごりだ。飲め」
「これもな、自分の酒が飲めないとは言わせないぞ」
 アルフレッドは戦士二人の歓待を絶賛享受中だった。酒場で酒を勧められ、そろそろ目つきが怪しい。
 ――名うての冒険者でも、手こずる敵がいる。
 今回の件は、久しく強敵に出会っていなかった戦士たちにたいへんな教訓となった。上には上がいる。それがこのアトランティスなのだ。
「ところで、ルメリアさんは?」
 凛が言った。

    ◆◆◆

「これが素体の呪紋‥‥かならずモノにしてみせますわ」
 一人ゴーレム工房で、熱心にゴーレムオタク道を邁進中だった。

 どっとはらい。

【おわり】