カオスの跳梁を阻止せよ
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月01日〜12月08日
リプレイ公開日:2006年12月10日
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●オープニング
●一般人と冒険者の関わり
現在の冒険の依頼人は、その半分は一般人である。
王宮に足を運ぶのは気が引けるから、多くはその領地の領主(騎士領主から分国領主まで)を介して、依頼は発せられる。
もちろん最初は、理解の範疇に無いので依頼そのものが無かった。だが口コミでその威力(?)が広まり、認知され、そして「もしかしたら‥‥」と思って足を運ぶ者が出始めたのである。
そして成果と依頼は雪だるま式に増えて行き、このごく短期間で冒険者ギルドは、メイの国全土に至るほどの認知を受けた。
まさに、『口コミ戦略』である。
もっとも、悪評も無いではない。天界人は、アトランティス人のタブーである『地面に穴を掘る』を平気で行うし、強力なパートナーであるペットを連れている場合もある。いろんな意欲が高まりすぎて、何かと『やりすぎて』しまう事もある。
まあ何でも『ほどほどに』、がいいのだが、世界の違いから来るメンタリティの違いはしょうがない。すまない、許せ、ゴメンだ。
しかし冒険者は、真実優秀な守護者である。特に弱い者たちにとっては、まさに『英雄』なのだ。それが天界人ならば、それは伝説の『竜戦士』ペンドラゴンと同義と言ってもいい。
また天界人は、異世界から知識や技術、文化を持ち込んでくれるありがたい存在である。お陰でアトランティスの文化は煮詰まることがなく、かなりフランクに新しいものを取り入れてきた。かつてカオス戦争の折、メイ軍の編成で役を果たしたのはペンドラゴンだし、最近は『弾み車式脱穀機』といった農機具や様々な農法が取り入れられ、収穫量が増している現実もある。まあ電気やガス、石油といったものが実用化されるのはおそらく相当後になるだろうが、変わり者のある天界人は『蒸気機関』の開発にいそしんでいるらしい。ちなみに燃料は、無尽蔵の火力を持つ火の精霊だそうである。
いずれにせよ、冒険者は国レベルという枠を離れ、地域密着型の依頼も受けるようになった。報酬の無い依頼を受ける非常に善良な冒険者もいるぐらいで、まさに『人々の味方』となりつつあるのである。
◆◆◆
辺境になると、さすがに王の目も届かなくなる場合がある。特にメイのような大国ならなおさらだ。諸侯一丸となってカオスに対抗しようとしていても、必ずしも一枚岩には成り得ない。なぜなら自分の命が大切な者は、それを優先させるためにならなんでもするからだ。特に辺境ともなれば、カオス勢力の脅威の前に立つストレスはいかばかりであろう。
中原のある地方領主が、その状況に陥ったかもしれない、という報告が入ったのは、先週の事だった。しかし公式に使節を派遣して、『藪をつついて〜』となるのも問題がある。なにより、メイ内部にほころびがあることを公知されるのは、それだけで全体の士気をくじき第二第三の事件を起こしかねない。
つまり、それで白羽の矢が当たったのが冒険者である。彼らはいわゆるフリーの存在で、誰にも依らない人たちだ。彼らが事件を起こしても、メイの国は関せずと知らぬ顔が出来る。
その領主は、現在築城を行っているという。農閑期に戦争や築城工事をするのはごく普通だが、それが題目通りであれば問題が無い、という条件がつく。
はてさて。
●リプレイ本文
カオスの跳梁を阻止せよ
●迫害と弾圧の歴史
封建社会制度が打倒される話は、わりと色んなメディアで公開されることが多い。それは中世から近世に移行するときに、腐敗した宮廷に対して立ち上がった民衆によって打ち立てられたのが民主主義社会であり、つまり現代の原風景だからだ。
現代の西洋世界が製作した、中世ファンタジーを含む『その手』のドラマでは、悪は民衆に『弾圧と迫害』をもたらす権力者であり、かれらは横暴と暴虐の限りを尽くしたあとに英雄によって倒される。それは当時の多くの民衆が望んでいた幻想であり、つまり願望が具現化したものが『ヒーロー』なのだ。
◆◆◆
前振りはさておいて、件の地方領である。中原と言えば多くはリザベ領のことを指すが、現在もっとも危険な領土でありここでの対カオス戦闘依頼が発生する頻度は最近富に増えている。領主の精神的負担はいかばかりか。ある意味国王アリオ ・ステライドよりも危険な立場に居るのだ。
「ひどいもんだ」
レオニール・グリューネバーグ(ea7211)は築城現場を見ながら、そうつぶやいた。彼とは龍堂光太(eb4257)が行動を共にしている。
築城現場は、まるで奴隷のように使役される農民たちの死地のようだった。光太は故郷の映画で、過度に演出されたこのような風景を見たことがあるが、現実はさらに残酷である。現実的、ではなく、それはまさに目の前にある『現実』であった。築城監督らしい人物はムチを振り回し、疲労し倒れた農民を打ち据えている。鞭打たれれば食事抜き、そして死ぬまで働け。そんなかけ声が響いてきていた。
光太は、自分の鼓動が早くなるのを抑えられなかった。それが怒りなのか恐怖なのかも分からない。ただこの世界に来てもうすぐ1年になるが、これほどの衝撃を受けたことはかつて無かった。
「抑えろ」
レオニールが、血圧が上がってきたらしい光太の機先を制して言う。
「築城工事は新規築城ではなく、城塞の堅牢化を目的に建てているようだ。ごく当たり前の増築工事にしか見えないが、農民の扱いが異常だ。それと内部でも意思統一はされておらんらしい」
「?」
レオニールの言葉に光太が顔に疑問符を浮かべるが、レオニールが指さした先を見て納得した。奴隷の管理官と板金鎧を着た騎士らしき人物が言い合っているのだ。騎士は農民をかばい管理官に詰め寄っているが、管理官が何か一言二言言うと、騎士は唇を噛んで引き下がる。不服そのものという感じだ。
「あの騎士に接触しよう」
レオニールが言った。
◆◆◆
「何か聞こえる」
ランディ・マクファーレン(ea1702)が言った。対面のソファーにはアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)が居る。
「何であるか?」
「怒鳴り声‥‥というか、ほとんど言い合いだな」
アルフォンスが耳をそばだててみるが、あいにく何も聞き取れない。耳はランディのほうが良いようである。
二人はこの地方領主――アルフレッド・コモディン男爵領に、傭兵志願として来たことになっている。内部に入り、内情を探ろうというのだ。
「ちょっと出てみよう」
ランディが席を立ち、アルフォンスが続いた。声の方向を探ると、どうも会見室のほうのようだった。
「‥‥‥‥が君はどうかしています! 確かに軍備の増強も砦の築城も、急務には違いありません! しかし我が君、民をあれほど搾取しそれでもなお奴隷として働かせるなど、まさにカオスの所行!」
「口が過ぎるぞグレブニール! 我が君は王国に対して忠義を尽くしているだけだ! それ以上は不敬罪になるぞ!」
「黙れサクソン! 文官風情が何を言うか! 我が君! どうかお考え直しを!」
「‥‥下がれ」
「我が君!」
「下がれと言った!」
怒雷のような大喝が響いた。それで部屋は静かになった。
バムっ!
ドアが乱暴に開け放たれ、ランディとアルフォンスを突き飛ばすように、一人の騎士が去ってゆく。憤慨や怒りと言った表情を隠しもせず、二人のことも目に入っていないようだった。
後に、その騎士がレオニールと光太が見た騎士と同一人物であることを、二人は知る。
●酒場にて
「状況的にはひどいよね」
フォーレ・ネーヴ(eb2093)が、エールを飲みながら言った。
酒場で落ち合った冒険者たちは、フォーレとティス・カマーラ(eb7898)の報告を聞いて色々と考えることになった。
フォーレとティスは民衆方面の情報を集めていたのだが、総合すると『急に領主の人となりが変わった』ということだった。
「農民はほとんど築城にかり出されているみたいだよ。それと今年は税が高くて、収穫の8割も持って行かれたんだって」
ティスが、ご当地名産の『マゲラ』というハーブティーを飲みながら言う。ちなみにお子様には不評な健康茶である。
口をするのははばかれるが、『コモディン男爵はカオスに取り憑かれた』という噂をする者もいるらしい。
「カオスは幽霊みたいなものではない。そんなのは迷信だ。何か合理的な理由があるはずだ」
ランディが言う。彼は割と現実主義者である。
「怪しいのは、あのサクソンっていう文官かな」
「同意である」
ランディとアルフォンスが、声を揃えて言う。
「そのグレブニールっていう人から情報得られないかな」
光太が言った。確かに有力な情報源になりそうだった。
「私の知っていることならば、すべて話そう」
「「「「!?」」」」
そこに、フードを被った男が割って入ってきた。声に聞き覚えがあるのは間違いない。あのグレブニールという名の騎士だ。今は変装している。
◆◆◆
「お前たちを傭兵と見込んで、頼みがある」
グレブニールは、ずっしりと重い金貨の袋を差し出して言った。
「私はこれから我が君を諫めるため、ある文官と我が君を斬る」
「「「!!」」」
君主殺しをする、と、この騎士は言っているのだ。それがこの封建社会でどのような意味を持つか、分からないわけではあるまい。不名誉の誹りを受け、一族すべて路頭に迷うのである。下手をすれば、全員縛り首だ。
「そして‥‥その後、貴様たちの手で私を討ち、それをメイ王に報告してくれ。さすれば王は、幼少ながらマーネルさまを跡取りとして、この地を相続させてくださるだろう」
マーネルというのは、君主アルフレッドの孫娘に当たる。ちなみに両親はカオス勢力の襲撃を受けて他界している。
「なぜそこまで‥‥」
光太が言いかけた言葉を、アルフォンスが手で制した。意味を理解している彼等には、問うべき言葉はない。グレブニールはこの男爵領の未来を憂い、行動に出ようというのだ。その覚悟に水を差すのは、無粋というものである。
が、そんな空気を読まない者も居る。パラのティスである。
「そのお孫さんは今どうしているの?」
「『楓の塔』に引きこもって、この半年ほど姿をお見せ下さらない‥‥我が君の変貌を見れば、無理も無かろう‥‥」
「それって違うんじゃないかな?」
ティスが言った。
「どういうことだ?」
ランディが、問いかける。
●どろぼ〜〜〜です
風を受けて、ティスは空から男爵の城塞に侵入した。《リトルフライ》程度の魔法でも、覚えていればこの手の侵入行動はわりと楽である。
ティスは『楓の塔』に取りつき、その小さな身体を換気口に突っ込んで中に侵入した。
ぽてん、と換気口を抜けて部屋に落ちると、そこは天蓋付きのベッドと――こればかりは異常な数の刺繍の道具だった。止め輪に布が張られたものが、10や20では済まない数が散らばっている。
「誰?」
「どろぼ〜〜〜です」
天界人から教わった『定型句(らしい)』を言って、ティスが立ち上がった。天蓋付きベッドの上に、女の子が座っていた。
◆◆◆
「つまり、マーネルちゃんはカオスニアンの人質になっているんだよ」
帰ってきたティスが報告した。
マーネルはカオスニアンによって、塔に幽閉されていたのだ。おしゃべりが過ぎて途中で警備のカオスニアンが入ってきたが、ティスはまだ《リトルフライ》の効果が効いていたのでベッドの天蓋の裏に隠れてやりすごした。
まあ、君主の娘を『ちゃん付け』については問わないでおこう。
マーネルの話によると、サクソンはカオスニアンに買収(実は籠絡)されているらしい。交換条件が何かは知らないが、つまり人質を取られて男爵も身動きが取れないのだ。
「まさかそんなことに‥‥」
「あなたは動かなくていい」
今にも剣を持って飛び出しそうなグレブニールを、ランディが制した。
「ここからは、自分たちの仕事だ」
レオニールが言った。
●事件解決
ティスの《リトルフライ》によって内側、あるいは内部からかんぬきなどを外し、冒険者たちは『楓の塔』に侵入した。そして見張りのカオスニアンを奇襲で倒すと、マーネルを塔から救出した。
そしてその足で、男爵の寝室を訪れたのである。
「お爺さま!!」
「おお‥‥おお! マーネル!! 無事だったか!!」
感動の再会だった。
「誰かは知らぬが、感謝する」
「我々は何もしていないのである。ここでの事件も無かった。ただちょっと風来坊が暴れただけなのだ」
アルフォンスが言った。つまりすべて飲み込んで口外しないというのだ。まあ、元より穏便にコトを済ませれば是非も無しという依頼である。妥当なところだろう。
「礼ならあの騎士に言ってくれ。あれこそ真の騎士だ」
ランディが、同伴していたグレブニールを指して言った。
が、それでは済まない者も居る。
「賊め! 生きて帰れると思うな!」
例の文官、サクソンが兵士を連れてやってきた。ただし兵の顔や手は例外なく黒い。
――あー、こういうの、時代劇で見たよな――。
光太が漠然と思った。
そして時代劇では、悪は倒される運命にある。サクソンも、例外ではない。きっちり放送時間枠内にやられる悪役のように、ばっさり斬られてしまった。
背後関係がまだありそうだが、当面はこれでも良いだろう。
●その後
ほどなく、アルフレッド・コモディン男爵は病死した。政務は正常に戻り、過剰に取り立てられた税は返却され街は元の活気を取り戻した。築城は継続されたが、急務というような状況ではなくなったようである。
名跡は孫娘のマーネルが継ぎ、その後見人としてグレブニールが就くことになった。今はどうか分からないが、10年後はグレブニールがこの男爵領の領主になっている可能性が高い。
だが報告書にも記載されていないが、冒険者たちだけは知っている。アルフレッドが、理由があるとはいえカオスニアンに与した責を負うために、自刃して果てたことを。これは、他の諸侯に対する『示し』である。
そしてメイ王も、それを承知しているからコモディン家の名跡を預けたままなのだ。
嘘は、時に人に優しいこともあるのである。
【おわり】