謎の仮面の騎士の依頼
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2006年12月30日
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●オープニング
●やって来たバカ
「我が名は謎の仮面の騎士、魔法使いゼットである」
依頼人は、いきなりそう切り出した。
ちなみに依頼人の風体は、種族ジャイアントで畳二枚分も面積がありそうなまっ黒なローブ姿である。顔には白い鳥獣を思わせる目隠し――もとい仮面のようなものを装備しているが、このメイの国に該当する外見の『バカ』は先日ジ・アースより来落していきなり冒険者を殴り倒し、魔法の不正使用で街を破壊し城壁に穴を明けた、『ある意味有名な』天界人しか居ない。
周囲の人間は、ひそひそ話をしていた。それもこう、何かかわいそうな人を見るような感じである。だいたい自己紹介からして破綻しているが、誰も突っ込むことが出来なかった。あまりにバカすぎてである。
そもそも「てめえは騎士なのか魔法使いなのか?」とツッコみたいところだが、ここはぐっと我慢だ。
「さて、依頼の話をさせてもらおうかしら」
同じく天界から来落し、冒険者ギルドのスタッフに収まった女性、烏丸京子(からすま・きょうこ)が言った。妖艶な妙齢の女性で、ギルドのスタッフとしては有能なようである。
「依頼内容は、領民を搾取しているある悪徳領主を打倒し、領土に平和をもたらすこと。その領主は高額な税や労働を領民に強いて、ひどい悪政をしているらしいのよね。ただしここまでなら領主の権限の範囲なので、冒険者ギルドも王宮も出番は無し。問題はその領主がバの国に金で通じて、メイの国の情報を売っているらしいってことなのよ」
内情がどのようなものであるかは分からないが、事実関係だけを切り出せばかなり深刻な話である。内通者の発生は、メイの国がもっとも怖れる事態のうちの一つだ。一枚岩は硬いがもろい。アリの一穴の例えもあるように、思わぬほころびが岩そのものを砕く可能性もある。
「このゼットさんは、来落して以来メイの事情を把握するため、旅をしているの。で、その情報を偶然つかんでしまったというわけね」
なにげにものすごい確率だが、掴んでしまったものはしょうがない。
「いずれにせよ王宮が動くのは、事実関係がはっきりしてから。それまでは『一冒険者の暴走』ということで事態を丸く収めたいわけよ。この意味、分かるわよね?」
あー、つまり『水○黄門』や『暴れん○将軍』で大名が斬られると、その死は表向き『病死』とされるアレですか。
◆◆◆
まあ、面倒な話はさておき、問題はこのゼットである。正義の味方を標榜するこのバカがこういう話を見逃すはずがない。むしろ冒険者ギルドまで情報を持ち帰ったこと自体が奇跡であろう。
というわけで。
烏丸の姐御はこのバカのお目付役もコミで、冒険者に依頼を発効したいようである。
さてさてどうなることやら。
●リプレイ本文
謎の仮面の騎士の依頼
●結果発表!!
「やっちゃった‥‥」
ティス・カマーラ(eb7898)は、何かこう、諦観めいた表情を顔に浮かべてつぶやいた。
今回の、8人+1名の『冒険者の義勇行動』の結果が、目の前にある。それは廃墟――などという生やさしい物ではなく、石材やら木材やらが山積みになった、文字通り『がれきの山』であった。
元は、さる貴族の屋敷『だった』ものである。石造りの立派な建物で、堅牢さもひとしお。並大抵ではこのような破壊は出来ない。
しかし、『石造り』というのが実は弱点であった。石材は圧縮に強いが引っ張りには弱い。ましてや横にずれないように積み上げただけのものが丸ごと上に引き上げられたら、このようなことにもなるのである。
それを可能にする魔法が、一つある。地系精霊魔法の《ローリンググラビティー》である。重力を反転され上に持ち上げられた建材は、そこから崩壊し陥没するように『崩落』したのだ。現代のアメリカ人がビルなどでやる解体爆破の光景に似ていた。
「見事だ。見事すぎて何も言えないねぇ」
と、パトリアンナ・ケイジ(ea0353)。
「まあ、予想の範囲内ではないでしょうか」
とこれは、顔をぼこぼこに腫らしたルイス・マリスカル(ea3063)。
「‥‥‥‥‥‥」
無言で滂沱のごとく涙を流しているのは、イェーガー・ラタイン(ea6382)だ。何かそうとうひどい目にあったようだ。
「とりあえず『証拠』は確保したから良いのではないでしょうか?」
と、これはルメリア・アドミナル(ea8594)。その傍らには《アイスコフィン》で凍りづけにされた『犯人』が転がっている。クレブス・ヴィロー男爵(45)である。
「ゼット‥‥あんたの事は忘れない‥‥さらば、そしてありがとう‥‥」
マイケル・クリーブランド(eb4141)が、こう何か、少年週間雑誌でキャラクターが死ぬ時のようなモノローグをつけている。
「いやぁ〜ん、予想通りっていうのかしら〜ん」
オネエ言葉で身をくねらせているのは、パラのフォンブ・リン(eb7863)だ。
「決まりすぎだ‥‥あきれて物も言えん」
シルヴァ・クロイツ(eb9812)が、やはりこう、何か冷めたピザを食べたような表情で言った。
ちなみにこの場に、その話題になっているゼットは居ない。
ゼットは、崩落のど真ん中に居たはずなのである。並み居る敵と渡り合い、文字通りちぎっては投げちぎっては投げしていたのだ。
その間に屋敷を抜け出すよう提案したのは、ティスである。彼は以前に一度、ゼットの魔法でひどい目に遭っている。ゆえに、このような結果が予想できたわけだ。他の者もうすうす感づいていたらしく、嬉々として戦うゼットを放置し『証拠』を確保して屋敷を抜け出したのだ。
屋敷が崩落したのは、その直後である。
「死んだ‥‥よな‥‥?」
シルヴァが、確認するよに言った。多分ゼットの事であろうが、まあ、普通じゃなくても死んでいるレベルである。死体が残っているかどうかも怪し‥‥。
「ぐわ〜〜〜〜〜〜〜〜っはっはっはっは!!」
を?
「いやぁ、死ぬかと思ったワイ!」
がらがらと建材を突き崩して、仮面騎士魔法使いのゼットが、何事も無かった――わけではなかったようだが、とにかく出てきた。 屋敷のど真ん中から。ちなみに崩落の中心で、一番建材の荷重がかかる場所である。
――こ、このオッサン人間じゃねぇ!
シルヴァが思う。装備一切を失い血をドクドク流しながらも、ゼット呵々と笑っていた。
「‥‥じゃあ、帰りましょうか」
「賛成」
ルメリアが言い、パトリアンナが承認した。
一同は何事もなかったかのように、ギルドへの帰路についた。
ゼットは、ひたすら元気だった。
●依頼の遂行に当たって
今回の依頼遂行に当たって、冒険者は『ゼット対策』を怠らなかった。
まあ、具体的には(殴り合いで)親睦を深めたり(おだてて)出番に関する順番を決めたり(釘を刺して)魔法の使用を控えるように言ったり。
ゼット氏はかなり素直なタイプ(というよりバカ)なので、その提案を丸ごと飲み込んだ。冒険者諸賢の意図は、ほぼ100パーセント達成されたのである。
例えば。
パトリアンナはゼットから情報収集を行い、かなり具体的な敵の正体を把握した。クレブス・ヴィロー男爵とその配下が、どうやらバに通じているらしいこと。その代価が金品であること。
ヴィロー家が過去の名家で、メイの中では分不相応に気位が高く浪費癖があることまで掴んでいたのは、ゼットの底の知れなさである。
ルイスは、ゼットと殴り合いで親睦を深めたクチだ。美形の彼からすると美学に反しそうなものだが、そういうものでもないらしい。実にさわやかな殴り合いを行い(何せ太陽の無いアトランティスに、夕日を幻視したほどだ)、ゼットを完璧に手なずけた(言い方悪いけど)。
イェーガーは、ゼットのお守り役になった。どうも気苦労の絶えないタイプらしいが、ゼットはわりと落ち着いており、想像以上に手間がかからなかった。彼はゼットのことを、イギリスの一部で有名なジャイアントの魔法使いジルマ・アンテップと思っていたのだが、どうも聞いていたのと雰囲気が違う。謎は深まるばかりである。
ルメリアも情報収集をしていたクチである。パトリアンナとゼットのやりとりを聞き、後ほどパトリアンナと話し合ってパトリアンナが見落としていた点――身を隠していた子供の存在――を確認した。ちなみにヴィロー家に子供はいない。不自然だった。
「つなぎのカオスニアンと考えた方がいいでしょう」
とはルメリアの意見である。
マイケルは、ゼットに説教をした。まあ、効いたかどうかわからないが、結果的に効果はあったようである。確かにゼットは、『無闇に魔法を使用することは無かった』からだ。
『使ったときが、凄かった』だけである。
フォンブはゼットと熱心に語らい、十年来の知己のような間柄まで親睦を深めた。結果的にゼットのコントロールに成功するのだが、《ダズリングアーマー》が魔法詠唱に効果があるかどーうかは未確認のままに終わった。
ティスはゼットから聞いた情報で、屋敷の下調べを行った。確認したのは、ゼットの情報の精度がやたらと高かったことである。はっきり言って、絵図面でも入手したのかという精度であった。隠し部屋や隠し通路まで暴露されている。
理由は簡単である。《ウォールホール》で塀や壁に穴を開けて調べたらしいのだ。あの図体でも、忍び込む方法がきちんとあったのである。
ちなみに地下は、《アースダイブ》で調べたらしい。
シルヴァはゼットの登場手順を整えた。見本は水戸黄門であるが、段取りを取ってみると意外と楽しい作業であった。
さて、侵入である。
●屋敷侵入〜大立ち回り
いくらゼットでも、バの国の『つなぎ』がいつ来るかまでは分からない。ゆえに男爵とその配下を押さえることになるのだが、ティスの下調べに従ってパトリアンナが侵入し、証拠物件の確保に動いた。シルヴァがスタンガンで見張りを行動不能にしてふん縛り、ティスが《リトルフライ》で状況を確認しながらその侵入を助ける。件の『隠し部屋』についてはゼットから聞いていたので、あっさり侵入できた。証拠物件を漁ると、ゴーレムの配備状況などの、軍事情報に関する書類が多数発見された。
「これは『当たり』だねぇ‥‥証人はいらないかもしれないね」
パトリアンナが独りごちる。
「誰だ!」
そこに、人が入ってきた。身なりが過度に良い(人、それを悪趣味と言う)ところを見ると、どうやらここの家主のようである。
「ちっ!」
パトリアンナが動いた。その人物につかみかかり《ホールド》を仕掛ける。が、家主はそれをなんとか受けたのである。これは予想外だ。
――ちっ、腕の立つヤツだったかい!
格下に見ていた相手の思わぬ抵抗で、パトリアンナに隙が出来た。家主はその場を離れると、「くせ者だ! 出会え! 出会え!」とお約束の対応をしたのである。すぐに武装した騎士がやってきて、パトリアンナは屋敷を逃げ回ることになった。
イェーガーも、その時実は潜入していた。パトリアンナの援護は機を逸したが、兵士や騎士がパトリアンナに気を取られている隙に証拠物件を押さえたのである。風車の手裏剣を置いておくのを忘れなかったのは、お約束であろう。
◆◆◆
屋敷の異変は、すぐにティスを通じて冒険者たちに伝えられた。そこからの冒険者の行動は早かった。
まずルイスが木扉を《バーストアタック》《スマッシュ》《ブラインドアタック》で一瞬にして切り開き(美しい‥‥)、ルイスとマイケル、シルヴァ、フォンブの順に内部に入る。すでにくせ者騒ぎで屋敷は騒然となっており、侵入によって容易く敵を分裂させることに成功した。
「何やつ!」
「正義の味方だ!」
マイケルが口上を垂れる。
「領民に愛国心を語り、戦時下の国を支援するためだと過酷な労働を強制しておきながらこの国を売る準備をする領主に、お前たちは仕えられるのか!」
その言葉に、反応の鈍った兵士が何名か居た。その兵士が瞬時に凍り付く。ルメリアの高速詠唱による《アイスコフィン》である。証拠固めであった。
余談だがこの後、秘密の地下通路で彼女の仕掛けた《ライトニングトラップ》に引っかかってコゲた者が居たことを、付け加えておこう。機を見て逃げる判断の良さは買えるが、そう言う人間を逃がすほど冒険者は甘くない。
シルヴァは《ダズリングアーマー》で敵を牽制。シルヴァもスタンガンで敵兵士を無力化してゆく。
あまり大きな屋敷だが部下には恵まれていないらしく、クレブス・ヴィロー男爵一派は崩壊寸前だった。
「ゼット様、出番ですわよ!」
「ど〜れ」
フォンブが言うと、入り口から悠然とゼットが進み出てきた。
略。
●結果発表
最終的に男爵一派は捕らえられ、証人も多数確保された。潰れた屋敷の下敷きになっても、《アイスコフィン》で凍り漬けにされた者は死ななくて済んだのである。
ゼットも死ななかったし、善良と思われる配下の者も避難が終わっていたので、犠牲者は男爵の部下のみというほぼ100点満点に近い成績であった。男爵領はアリオ王の直轄地となり、圧政と搾取からは解放された。後々は、勲功を挙げた騎士などに下賜されることになるだろう。まあ、めでたしめでたしである。
ただ忘れる事なかれ。これは氷山の一角である。カオスの跳梁は、未だ健在なのだ。
【おわり】