間諜組織撲滅作戦
 |
■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2006年12月30日
|
●オープニング
●間諜
間諜というのは、平たく言うとスパイである。
彼等は光照らす華々しい晴れ舞台ではなく、闇に生き闇に死す運命を自ら望んで受け入れた、ある意味覚悟の人だ。戦場では汚れ仕事を請け負い、町中では諜報戦と称して様々な暗闘を繰り広げる。暗殺、洗脳、破壊工作、その他様々な『裏技』を駆使して目的を達成するその姿は、時に騎士にすら見られない忠勇を発揮することがある。もっと簡単に言えば、彼等は精密な任務遂行マシーンであり、目的の達成のためには手段を選ばないということだ。つまり君主の求める『理想の兵士』なのである。
彼等は死を恐れない。魂の尊厳さえ切り売りしてしまう彼等には、文字通り恐い物など無い。ただただ目的を達するために、ありとあらゆるモラルをねじ伏せ行動する。躊躇いも頓着も無く、もはや『人間』と定義できるかどうかも怪しいものだ。
そして一番重要なことでもあるが、アリオ王もそれらの組織を所持し、活用しているのである。ただ表に現れないだけの話で。
●秘密結社『黒の手紙』
『精霊碑文会』という結社があった。
別に結社と言っても、非公然な怪しい物とは限らない。結社を簡単に言うと『同人サークル(天界用語)』のようなもので、趣味人が己の趣味のために活動する有志と同志を集めた、単なる『集団』だ。
ただこれには、何らかの成果を期待してパトロンがついたりスポンサーがついたりすることがある。例えば今回の『精霊碑文会』は、「精霊魔法によって天界への扉を開く」という目的の下に集まった有志の集団で、館に集まり魔法陣を囲んで呪文を唱えたりしていた、まあ金はあるが無害な方の結社である。
天界に対する憧憬のようなものはメイの人々なら誰でも持つものであり、それだけ英雄ペンドラゴンの影響が強いということだ。
それが消滅したのは、少し前の話だ。別に誰も気を留めることなど無かったが、それが再編され『黒の手紙』という秘密結社になっていたことが判明したのは、ごく最近である。
問題は、この秘密結社がいつの間にか強固な規律で縛られた武闘派の集団と化していたことだ。どうやら『粛正』と称して、内部規律の維持のために人死にも出しているらしい。
幹部は顔を隠して、ナンバーで呼ばれる。ス○クターごっこみたいだが、とにかく空席も含めて12人の幹部がいるらしい。そして一番問題なのは、彼等がどうやら、バの間諜組織に利用されているらしいことだ。
「この発案は、アトランティス人のものじゃないねぇ」
キセルをくゆらせながらそう言ったのは、妙齢の色っぽい女性、冒険者ギルドのスタッフである烏丸京子(からすま・きょうこ)である。最近タバコの在庫が切れかけている彼女としては、しばらくぶりの一服らしい。
「もちろんアタシの故郷とも違うわ。もっと異質なものを感じるね。なんていうか、相手も『天界人』なんじゃないかしら?」
天界人の来落は、メイの国に限ったことではない。バの国や、もしかしたらカオスニアンの元にだって出現している可能性がある。
「資金は潤沢。死体を始末するぐらいの金はあるようだから大抵の悪さはできると思うけど、金の元と幹部を洗ってみないとなんとも言えない部分があるのよ」
台帳らしき物をみながら、京子は言った。
「今回の依頼は、秘密結社『黒の手紙』の背後関係を洗ってその元締めを押さえること。抵抗しなければ殺す必要は無いわ。まあ、向こうが『その気』ならどうしようも無いけど、出来るだけ『身柄確保』の方向でお願い」
めずらしく歯切れの悪い京子である。
「なに、理由は簡単さね」
と言って京子が説明したのは、メイの裏事情である。メイの国は対カオス戦線を構築することで全領一丸となって協調路線を敷いているが、それにほころびが出ていることを表沙汰にしたくないのだ。悪しき前例を作りたくない――というのが王宮の見解である。
まあこの場合、有力貴族が捕まっても自殺や病死として『処理』されるのだろう。
秘密結社『黒の手紙』の幹部と見られる人物のプロファイルは、現在2名判明している。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●レオニウス・マウストス准爵
メイの国きっての愛国者で知られる人物。過激な発言が多く、『カオス打倒』『バの撲滅』を公言してはばからない。ただし『阿修羅の剣不要論(※)』を展開しており、現在のメイ王に対する発言もやや攻撃的である。
※阿修羅の剣があるがゆえに、メイはバを駆逐できなかったとする極論。現在も剣一本に頼るメイ王に対し、惰弱、軟弱とそしる声は無いわけではない。
●騎士クルスガーラ・ムンタース
封建騎士の一人でメイディアの警吏(けいり)をしている人物。一部で知られるアーケチの部下の中では、めずらしく天界人を毛嫌いしている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「『金』に『女』。まあどんな切り口で攻めるかは任せるけど、目的はあくまで『背後の人物』だから、うまくやってちょうだいな」
京子はそう言って、場を締めた。
●リプレイ本文
間諜組織撲滅作戦
●調査難航
貴族やそれに準ずる者の身辺調査は、なかなか難しいものがある。それはもちろん、相手が『防諜対策』を講じて当然の立場だからだ。今回で言えば、レオニウス・マウストス准爵もクルスガーラ・ムンタースも禄を食(は)む封建領主で、国事に携わる立場である。つまり彼等は対スパイ対策を行っているはずなのだ。程度の差はあるだろうが。
そして一番重要な事なのだが、今回冒険者たちは一つ勘違いをしていた。目的が『背後関係の洗い出し』なのは、目標の秘密結社『黒の手紙』そのものがメイに悪意を持っているのではなく、それを操っている『何か』ないし『何者か』が、メイの国益を損なう目的で動いていると思われる、という事態の解決が第一義だったのである。
ゆえに本来ならば、『黒の手紙』はさっさと通過してその背後関係の調査に及ぶべきだったのだが、冒険者たちは『黒の手紙』の解明を第一義とし、結果的に『相手』に時間を与えることになってしまった。情報の少ない部分は『冒険者特有の行動力』で補うべき所だったのだが、結果的に後手に回ってしまったのである。
結果、レオニウス・マウストス准爵は『事故死』し、クルスガーラ・ムンタースは『失踪』した。レオニウスは建築中の建物が倒壊し、馬車ごと潰されて即死した。クルスガーラは書き置きも残さずに姿を消した。死体は上がっていない。
◆◆◆
「誤算だったな」
マグナ・アドミラル(ea4868)はその急報を聞いて、落胆と驚きを隠せなかった。
「まさか、偶然と言うことは無いでしょう。何かの力が働いたと考えるべきです」
イレイズ・アーレイノース(ea5934)が言う。
二人は共々、クルスガーラの動向を探っていた。マグナは尾行してその行動範囲と交友関係を洗い、イレイズは賄賂を使用して彼の交友関係から、彼自身の情報を集めていた。
つまり、『焦点』がクルスガーラに向いていたのである。
当面の目標としての判断は、正しかったと思われる。しかし『待ち戦』に近いシフトを敷いたために、相手に『時間』を与えてしまった感は否めない。マグナは敵から手を出してくることを期待していたし、イレイズも結社『黒の手紙』が手を出してくることを待っていた。
が、その結果相手は、あっさりとクルスガーラを『切り捨てた』のである。
――秘密結社『黒の手紙』はいつの間にか強固な規律で縛られた武闘派の集団と化してて、どうやら『粛正』と称して内部規律の維持のために人死にも出しているらしい。
依頼の説明を受けた時に聞いた話が、今なら実感できる。つまり『黒の手紙』は、狂信者の集団と化しているのだ。それも、上層部には絶対の忠誠を強要するような、異常集団である。
「だが、これではっきりした。このやり方は、カオスでもバの国でも、そしてジ・アース人でもない。別の世界――『ゲンダイジン』という奴だろう。それほどの異質さを感じる」
マグナが言った。直感から出た言葉だが、イレイズも同意せざるを得なかった。それほど今回の件は、『異質』なのだ。
『狂信者』というものは、宗教の無いアトランティスには縁遠いものである。そしてジ・アースでは、まだあまり顕在化したことが無い。せいぜい神聖ローマ帝国ぐらいだろうが、差別と狂信は違う。
つまり、アトランティスで『神の使徒』に相当する『天界人』。その中でも、『新興宗教で自らを神格化させるような組織運営に長けた者』というプロファイルが成立する。カオスも薬などを使って洗脳などをするようだが、自分を神にするのは現代にしか無い感覚だ。
◆◆◆
一方、レオニウスの調査に当たっていたスニア・ロランド(ea5929)とカルル・ディスガスティン(eb0605)も、同じような状況にぶち当たって当惑していた。今まで自分が信じてきたものが、根底から突き崩される感覚とでも言おうか。つまり『状況の異質さ』に触れて、反応が鈍っていたのだ。
「まさか死んでしまうなんて‥‥」
スニアが、当惑を隠せない声で言う。彼女は先日、アリオ王を批判するような話をするために、レオニウスに会うアポイントを取ったばかりであった。
「行動と反応が早すぎる‥‥『相手』は近くに居ると考えたほうがいいな‥‥」
カルルの言葉に、スニアは同意する。尾行に入ってたった数日。相手の情報を掴む前に、行動に出られてカルルも動きを封じられたのだ。
仮に敵が、バの国の間諜組織としよう。スニアやカルルがレオニウスの動向を探り初めてたかだか一週間足らず、その間に『敵』は『状況を判断』し『決断』し『実行』したのである。『相手』がバの国に居るなら、とてもではないがそんな時間で『実行』までこぎ着けられるはずが無い。
「‥‥『敵』は、メイの国に深く食い込んでいると考えるべきだろうな‥‥」
「同感だわ」
カルルの言葉に、スニアは同意した。
だがそれは、恐ろしい意味を持つ。カオスどころかバの国の跳梁が現実となっているとして、それがここまでの浸透を見せているとなると、バの国はかなりの早期から『準備』をしていたことになる。
それはバの国に天界人が来落し、そして間を置かずにその天界人が行動に出たということだ。
そしてその天界人は、おそらくメイの国に居る。もしかしたら、冒険者ギルドに登録している冒険者かもしれないのである。
「問題よねぇ‥‥」
この話は、伏せておかなければならない。
メイの国が内憂を抱えるのは、ある程度やむを得ない事態である。しかし冒険者が仲間を信用できない事態は、冒険者の定義の根底を揺るがす状況だ。
あるいは、その『敵』の目的はそこまで考えてのことかもしれない。たった一本の楔が大樹を裂くように、冒険者の間に致命的な亀裂を入れる――そこまでの効果を狙っているのなら、相手は相当な権謀術数に長けた人物であろう。代価が何かは知らないが、かなりの報酬が約束されているに違いあるまい。
●状況分析
集められた情報は、篝凛(eb8988)の元に届けられた。正確にはスタッフ丸ごとであるが。
情報分析にはアデル・モーブリッジ(eb9636)も加わった。当初の予定である『床技による相手の籠絡』をする相手が居なくなったので、『アトランティス人』としての状況判断を任されたのである。
「確かに、故郷(現代)の『新興宗教』に雰囲気が似ています」
凛が、状況分析をしながら言う。
「話に聞いていたアトランティス像やアトランティス人の発想には見えませんね。むしろ私たちの‥‥なんていうか、『やり口』に似ています。それも、スパイ映画とかそういうもので聞くような。アデルさんはどう思います?」
「そうね‥‥」
アデルが、小首をかしげた。なまめかしい衣装と相まって、絵になる。
「私たちには、理解出来ない世界ね。『エイガ』っていうのが分からないけど、自分を竜のように信奉させるなんて、ばかげているわ。私たちにとって精霊は、『世界を維持し平衡を司るもの』であって、支配するものではないの。だからそんな、『カミサマ』みたいなのは分からないわ。想像できるのは、例えばマトモな騎士が、得難い君主を得て忠誠を誓う‥‥とかかしら。でもそれって人間レベルの話であって、超絶的な能力を持つ『何か』とは違うわけでしょ? なら、そんなものに心酔する感情がわからないわね。結局人間は人間でしかないから、人間同士の話しか出来ないもの。例外があるとすれば‥‥それこそロード・ガイやペンドラゴンのような『英雄』よね」
そこでアデルは、言葉を切りワインで喉を潤した。
「つまり『天界人』以外に、そんな非常識なカリスマを集められる人間は、このアトランティスには居ないってこと。これは断言できるわ」
「結論は、そこか」
マグナが、苦々しい表情で言った。
「やむを得ん。ひとまず現在の状況を報告しよう。手がかりが途絶えた以上、これ以上は我等の判断では進められん。カラスマどのに話して、今後の相談をするべきだろう」
マグナの発言は、全員の総意だった。
●烏丸京子の判断
「なる‥‥ほどね‥‥」
冒険者ギルドで、烏丸京子は報告を聞き神妙な顔をしていた。
「ウチのギルドに裏切り者がいるかもしれないっていうのは、穏やかじゃないねぇ‥‥。それも敵対するバの国につながっている者‥‥か」
そこで京子は、しばらく考えるように、火のついていないキセルをくゆらせていた。
「よしっ! この依頼、終了するわ。それも任務完了ということで」
と、京子は言った。状況的には、失敗と取られてもおかしくない状況である。
が、報酬は満額出た。
「ウチの『若旦那』に話して、ちょっと洗い出しをしてみるわ。あたしの想像だけど、多分『黒の手紙』を追っていても、その『天界人』にはぶち当たったと思うのよ。いつかは、ね。つまり中間をすっ飛ばして、あなたたちは『本丸』に詰め寄った形になるわ。『黒の手紙』を放置して『敵』の外堀を残しておくのはシャクだけど、結局はヘビの頭を叩けばいい話。あなたたちの行動は、つまりこれから発生したであろう結社関係の洗い出し依頼で発生する、『相手の使える時間』を潰したのよ。これは、決して失敗じゃないわ」
京子が言う。確かに、そうとも取れる。
「だから今後は、結社関係の依頼を出さずにその『天界人の手足』――つまり実行部隊とかそういうの、を探るような依頼を出すわ。相手がアリオ王に食いつくのが早いか、それともこちらがヘビの頭を潰すのが早いか、競争になるわよ」
京子が言う。つまり、状況はよりスリリングな方向へ動いた、ということである。まさに刺し違えも視野に入れた、危険な手だ。
だが、ちんたらやっていてもらちがあかないのも事実。ならば、やるべきことは決まっている。
「じゃあ報酬もらって、解散。依頼については、吟味してちょうだいね。よろしく」
さばさばした表情で、京子が言った。
後に『ギルド戦争』と呼ばれる暗闘が始まったのは、まさにこの瞬間であった。
【おわり】