素材収集/人食樹

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 99 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜12月26日

リプレイ公開日:2007年01月03日

●オープニング

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・ガヴィッドウッド(人喰樹)
【外見】
 樹齢百年を越えるような立派な木。表面に沢山のつたが絡んでいる。
【解説】
 トレントに似ているが、こちらは食欲しかない食肉植物。獲物を捕らえて木のうろの様な口に放り込んでしまう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「天界人の考えることは、時々分かりませんね」
 メイの国ゴーレム工房長であるカルロ・プレビシオンは申請書を見て思わずため息をついた。
 それはゴーレム素材にガヴィッドウッド(人喰樹)を使用したいという申請書だった。生命力の強い樹を使えば、ウッドゴーレムのさらなる強化が望めるのではないか、という仮説に基づいたものである。
 確かに、ゴーレムは生物に似ている。生命が酸素と糖分を消費してエネルギーに変えるように、ゴーレムは精霊力をその駆動エネルギーにしている。通称『エレメンタルフィールド』と呼ばれる、謎の防御障壁についてもそうだ。どうして構築されるのかは分からないが、モナルコスにも通常の弓矢程度ならば鎧に届く前に弾いてしまう力場が構築されるのだ。
 試す価値はありそうである。だがカッパーゴーレムの調査が進んでいる現在、ウッドゴーレムは使用用途が特殊すぎて開発予算をかけるのも微妙なところだ。ユニコーンを上回るさらに高性能のウッドゴーレムを開発したとして、その使用目的は何なのであろう?
 結局、カルロ工房長がその書類に『許可』のサインをしたのは、『ゴーレム魔法の研究のためのサンプルとして興味がある』という曖昧な理由であった。技術の蓄積が圧倒的に足りないメイの国では、何でもやってみないと話にならないのだ。
「そうそうガヴィッドウッドがあるわけではありませんが‥‥何かの応用技術に発展すればあるいは‥‥」
 独り言のようにつぶやくカルロはこの時、彼の経歴に大きな揺らぎを発生させる書類にサインしたことに、まだ気づいていない。

●ごく短期の依頼
 依頼日数3日――。
 多分冒険者ギルドでは、最短の任務期間である。これは、いろいろな要件が重なって実現した。ガヴィッドウッドの駆除依頼が、たまたまあったこと。それがごく近在であったこと。依頼を探してほしいと要請していた冒険者が急いでいたこと――。
 まあ、いろいろである。
 ともあれメイディア近在の森の中に、ガヴィッドウッドが1本(?)存在するらしい。それをウッドパペットが作れるぐらいの状態で確保するのが、今回の任務である。

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9974 ギヨーム・カペー(35歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb4368 験持 鋼斗(26歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7854 アルミラ・ラフォーレイ(33歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9017 結城 マリ(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

素材収集/人食樹

●モンスター退治と冒険者
 メイの国で冒険者にモンスター退治の話が舞い込むのは、ジ・アースに比べて少ない。
 ただしそれは『比率』の問題であって、日常的にゴブリン退治などの依頼は多数発生している。ただその他に、カオス関係や王宮関係の仕事が舞い込む比率が高いのだ。この辺は天界――ジ・アースとは事情が違う。何せ冒険者ギルドに登録するだけで、騎士待遇が受けられるのである。メイの国に限らずアトランティスでの冒険者は、何かと優遇されているのだ。
 それが過去の偉人の遺産であることは明白だが、天界型冒険者ギルドの設立によってそれは明文化され『制度』になった。ゆえにメイ出身の冒険者たちも、その恩恵を受けることになったのである。
 が、それでも怪物退治の依頼は舞い込んでくる。ただ今回のは、依頼主が『ゴーレム工房』という目立つ場所だっただけだ。
「それで、どのぐらいの大きさの塊がどれぐらいの量いるのかな?」
 パトリアンナ・ケイジ(ea0353)が、依頼主代表のカルロ・プレビシオン工房長に問いかけた。
「塊としてのサイズは、成人男性のジャイアント一人分を1単位としてください。試作用も合わせて3単位あるのが望ましいですが、1単位あれば依頼の成果として充分です」
「なるほど。つまりわしと同じ肩幅ぐらいで、高さはジャイアント。厚みは肘から指先までの分厚い板が3枚取れればいいのだな?」
 ギヨーム・カペー(ea9974)が、具体的なサイズを提示した。カルロはそれに同意した。
「その人食い樹の蔦にゴーレム魔法付与して、
制御球を小型化した『制御柄』でも取り付ければ、鎧騎士が操れる鞭みたいになるか?」
 験持鋼斗(eb4368)が、カルロに問いかけた。
「分かりません。それ以前に、制御球を小型化するというのがまだ現実的ではありません。ゴーレム魔法で動かすゴーレム制御システムは、人が乗る制御胞全体で一つの機能を発揮します。そのような携帯可能なゴーレム兵器は、今後十年かかって開発するものでしょう」
 カルロの言葉に、鋼斗はがっくりと肩を落とした。何事も、重厚長大から軽薄短小になるのである。例えばコンピューター。アポロ計画で使用されたモノと同じ演算を、最近のノートパソコンは5パーセント程度の処理能力で出来るまでになってはいるが、アポロが月へ行ったのは1968年の話である(しかも当時は、10桁ぐらいの計算なら計算尺を使ってフライトスタッフが計算したほうが早かった)。ちなみに世界最初のコンピューターは、第二次大戦中に弾道計算用に製作された『ABC(1943年)』や『ENIAC(1946年)』と言われる。その後の冷戦や核開発競争、宇宙開発競争などの加速期を得ても、携帯可能なノートパソコンが出来たのは1991年の話だ。
 つまりゴーレムも本来は、それぐらいの歴史を積まなければならないのだ。鋼斗の願望が、彼が現役の冒険者である間に達成される可能性は皆無に近い。もちろん希望を持つのは大事だが。

●人喰い樹を探して
「場所が分かっているのは楽でいいな」
 陸奥勇人(ea3329)が、軽口を叩いた。問題の森は、特に鬱蒼とか迷いそうとかそういう危険な森ではなく、ごくごくありふれた森だった。依頼内容も『駆除』とされているあたり、あまり深刻さを感じさせない。
「まあ、ガヴィッドウッドは移動しませんから」
 イェーガー・ラタイン(ea6382)が言う。レンジャーとしての経験から言えば、ガヴィッドウッドは伸ばした枝葉の分その攻撃範囲こそ広いが、タフなだけの文字通り『木偶の坊』である。むしろ狼の群れとかのほうが恐いぐらいだ。
「怪物は邪悪。邪悪なる者を討つのは我ら神の使徒の使命です。もっと深刻になってください」
 アタナシウス・コムネノス(eb3445)が言う。言っている内容は『油断せず注意しましょう』なのだが、出身のビザンチンフィルターがかかるとこんな感じだ。宗教人も、それはそれで大変である。まあ、それぐらいの信念が無ければ神に仕える事など出来ないのだが。
 やがて、問題の人食い樹の在る場所が見えてきた。目印の布と簡素な地図を確認し、『そこ』が目的地であることを確認する。
「こりゃ、想像以上じゃな‥‥」
 カロ・カイリ・コートン(eb8962)がつぶやいた。
 邪悪なオーラのようなものが漂ってくる――と言っても語弊はあるまい。他の植物を寄せ付けないぽっかりと開いた空間の中央に、問題の樹が生えている。根元やその辺には小動物や大型動物の骨が転がり、太い幹の中央には口のような巨大な『うろ』が空いていた。そこから何かの頭蓋骨が覗いているのは、もはや邪悪とかそう言うのを通り越して、完全にキマってる。
「あれ、やるの?」
 アルミラ・ラフォーレイ(eb7854)が、ちょっと引いて言った。
「なんか出番無さそう‥‥」
 ルシール・アッシュモア(eb9356)も、多少及び腰になっている。練達の冒険者と違って、彼等新参には充分脅威な相手である。
「ふむ‥‥これなら多少傷を付けても、オーダーの3単位は簡単に取れそうじゃ」
 ギヨームが手で枠を作りながら言った。
「幹の根元からうろまで3メートルはある。幹の太さは2メートル以上。上手に斬れば5〜6単位は取れるじゃろう」
「んじゃ、さっさと始めようか」
 パトリアンナが言い、装具を始める。他の者も荷を降ろし、武器や盾などを構えた。
「魔法攻撃で、先に露払いをしておかないか?」
 勇人が言った。確かに高速詠唱を使用しない場合、敵の行動から対処まで約10秒程度のタイムラグが発生する。魔法を使える者はわりと居るが、実用レベルに達している者は少ない。
 結局ルシールと鋼斗が使用できる魔法を全て使い、アタナシウスが防御魔法を使用して、ダメージを与えるだけ与えてから殴り合いになった。

●伐採作業
「よーし、引けー!」
 勇人のかけ声で、一同は縄を引いた。その先には、うろの部分から上が無くなったガヴィッドウッドがつながっている。
 伐採作業は、ことのほか骨の折れる作業になった。相手を動けなくしたは良いが、根や枝葉の数は多い。切り取って馬車に乗せられるようにするだけで、半日以上かかったのだ。
 また開発関係に携わっている他の冒険者から、枝葉や根を採取してきてくれと頼まれた者も居る。そのためその作業にも手が割かれ、結果的に作業が完了したのは夜半になった。
 依頼を持ち込んだ村に冒険者たちが帰ると、村人たちは文字通り頓狂な顔をした。なぜなら巨大な樹の塊を冒険者が持ち帰ったからである。
「あの〜、それをどうなさるんですか?」
 村長が、おそるおそる聞いてきた。
「実験材料として買いたいという者が居るんだ。安心してくれ、あの場所に二度と人喰い樹は生えない」
 パトリアンナが言う。と言っても、コリコリ微妙に動いているのだから、安心など出来ようはずもない。
「安心するっちゃ! 根も葉も始末したけんのぉ」
 カロが言うが、それでも村人は安心できないようだった。
 かくて今回の冒険者たちは、依頼主から過去最悪の冷遇を受けた冒険者となったのである。本来ならモンスターを倒して大歓迎のはずが、なまじっか持ち帰ったために追い出されるように村を離れることになったのだ。
「まあ、しょうがないかもね〜」
 ルシールが、慰めのように言う。
 だがこれが、メイのゴーレム工房過去最悪の事故の発端となることなど、冒険者達は知るよしもなかった。

【おわり】