ゴーレム開発計画裏3
|
■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月27日〜01月03日
リプレイ公開日:2007年01月05日
|
●オープニング
●ゴーレム開発
ゴーレム兵器の開発と進化は、メイの国にとって急務である。
西方ではすでに、素体素材から見直した新機軸のゴーレム開発が行われているという噂だ。だがメイの国は、その技術の流入を待っている余裕はない。つまり『モナルコス』をしゃにむに実用生産体制に持って行ったように、メイの国でも独自に強力なゴーレム兵器を開発し、生産体制に持って行かなければならない。
天界人は自世界の『工業力』というものを知っているので誤解しがちだが、メイでは国力を総動員しても、ゴーレム生産は家内制手工業と何ら変わらない。技術開発もそうだが、工業体制の見直しから行わなければ、いずれ怒濤のようなカオスの侵攻に飲み込まれるであろう。そしてその背後には、おそらく『真の敵』がいるのだ。
◆◆◆
「ゴーレム開発の是非は、今は問わぬ。我々には『力』が必要であり、アリオ王も必要としているのが実情だ」
メイの国のゴーレム開発責任者がカルロ・プレビシオンだとすると、『ゴーレム生産の責任者』はこのドワーフ技師ガンゴウトス・エメルセンという事になる。ゴーレムニストではなく生粋の技術者で、つまりは鍛冶師だ。
先月の『工業開発』(むしろ開拓と呼んだ方が良いか)によって、二つの大きな成果が出ていた。まずは問屋制手工業の導入によって、様々な『誰が作っても良い部品』が外注に出せるようになったのである。具体的には鎧や武器だ。これによってゴーレム工房では、『パペット(素体)』と『制御胞』のみの制作に集中できるようになったのである。
外部の鍛冶師たちには、設備拡充のためにメイの国国庫からかなりの予算が配分されたという話だ。
ただし、これはメイの国のゴーレム生産数を外部に知られやすくなるという弱点を持つ。しかしそれに対する『防諜対策』が敷かれ、一応の体裁は整えられるようになった。また『資材部(資材府)』という部署の設立により、装備資材がうまく回転するように取りはからわれ、それも回転し始めている。
現在はモナルコス後期型への生産体制に移行しつつあるが、新式ゴーレム――つまりカッパー以上のゴーレムの生産には対応していない。施設の拡充にはそろそろ限界が発生してきているので、新施設の建設を視野にいれた更新を行わなければならないだろう。
君たちの任務は、長期的スパンにわたりゴーレム生産環境を改善することである。つまり新式ゴーレムが完成した時に、それを生産出来るようにするのだ。
根気が必要で地味な仕事だが、その能力を遺憾なく発揮してもらいたい。
●リプレイ本文
ゴーレム開発計画裏3
●工房『建設』計画
「ゴーレム工房『移転計画』は、いったん白紙に戻す」
いきなり集まった冒険者たちに向かってそう言ったのは、ガンゴントウス工房管理官である。まさにサプライズだ。
「それはどういうことか」
感情を押し殺した声で言ったのは、竜胆零(eb0953)だ。このドワーフが保守的で新しい物嫌いで、ついでにゴーレムも心の底では嫌っているのは知っている。むしろ誰でも知っている有名な話だ。彼は『職人』であって『管理者』では無いのだ。
「まあ、そう恐い顔をするでない」
ガンゴントウスは、居住まいを正して応じた。
「ステライド王より勅命が下った。我々ゴーレム工房担当官は、可及的速やかに現在のゴーレム工房を閉鎖し、新工房の建設を行う。金属ゴーレム生産を視野に入れた生産体制を整え、精霊歴1040年内にモナルコス(後期型)40騎以上、金属ゴーレム10騎以上の生産を達成せよ――つまり『移転』などという生やさしいものではなく、新工房『設立』ということだ。天界でいう『コウジョウ』を造れと言うご下命だよ」
やれやれという口調で、ガンゴントウスは首を振った。
「人間は急ぎすぎだ。まあ、寿命が短いのだから生き急ぐのも理解できないわけではないが」
髭をがりがりと掻きながら、ガンゴントウスはぼやいた。だがメイの国がゴーレム生産に対して『本気』になったことは間違い有るまい。
メイの国の総人口は450万人ぐらい。国土は広く、カオスの跳梁はあっても国は豊かだ。天界人の来落による農耕技術の導入で、石高もかなり上昇している。つまり余剰分の『金』を、ゴーレムにつぎ込む事も可能だ。多少ロスが出ても、将来元は取れるだろうという見込みである。
早速城下に建設予定地が決められ、そこに防諜用の覆い(屋根と壁だけの倉庫のようなハリボテ)が作られた。総面積が都市2区画もある巨大な工房の外枠は決まった形である。
ひとまず零と海龍院桜(eb3352)の手ほどきで、従来の工房から人員と設備が運び込まれた。幸いなのは、メイではまだ金属ゴーレムの生産が行われていなかったことである。炉は止めても再利用が効かない。金属ゴーレムを製作するような巨大な炉を止めるようなことになれば、それはほぼ再利用不可能なのだ。
同時に零と桜は、故国の仕掛けを使用した『プレス装置』の製作に取りかかった。仕掛けとは『吊り天井』である。
「荷重をかけて圧延するのならば、このような仕掛けでも良いと思うのだが」
と零。まあ、基本的には間違っていない。
物は試しで作られたプレス機は、水車を動力とし滑車で型枠を引き上げ落とすという、原始的なハンマーになった。ただし最初からうまくいったわけではない。
最初は型に合わせてドーンと落とせばその通りに形に鎧などを製作出来ると思われたのだが、実際やってみると、その方法で鉄板を型枠のように型抜き出来る可能性は10パーセントに満たなかった。伸びたり変形したりする過程でどうしても素材に薄い部分が発生し、そこから千切れたり穴が開いたりするのである。
これは、実は初期のキッチンシンク製作でも問題になった話だ(実話)。つまり現代のキッチンにある継ぎ目の無いシンクは、最初プレス機を使用した圧延方法で製作していたのだが、それがきちんと型抜きできたのは『深絞り』という回転する金属棒で段階的に圧延する方法が確立されてかれである。この方法は日本の町工場のあるおじさんが発明したのだが、特許申請をしなかったので無料で世界に広まった。その後その『深絞り』技術は進化を重ね、現在は携帯電話やガム型電池のケースの型抜きに使用されている(電池は継ぎ目が多いと、そこから腐食するからである)。
まあ現代技術はともあれ、現状の『平面プレス』ではまともな製品が出来ないことが判明したので、今度は先端をハンマーに置き換えた。つまり『打ち出し機』に転用したのである。
これは分厚いモナルコス用鎧の製作で、非常に役に立った。今まで鋳造だったモナルコスの鎧の主要部分が、打ち出しで製作できるようになったのである。これはかなりの成果だ。
ただし『騒音公害』というものを初めてメイディアの人たちは体験することになるのだが。
レネウス・ロートリンゲン(eb4099)が提唱したのは、『教育』である。
実のところ言葉があまりに通じる世界なので、アトランティス人の文盲率は高い。都市ならまだそうでもないが、農民はほとんど読み書き出来ないと考えていい。
それは鍛冶師も同じで、若い鍛冶職人でで数字が読める者も稀だ。だいたいは『経験と勘』で物を作る商売なのである。
さりとて、『コウジョウ』で働く以上は『規格』というものに習熟しなければならないため、せめて数字と計算程度は嗜んでおかなければならない。メイの国にはムナイ・モーンロという天界人によって設立された『教育府』があるが、鍛冶関係となると話は別である。だがガンゴントウスを見ても分かるとおり、鍛冶職人に他人に物を教えられる才能を持った者は少ない。
ゆえに現実的な手段として、レネウスは基礎学力を教会の『学童府』に委任し、専門用語などを職能組合からの有志による教育という方法でそれを達成することになった。
ただし、いい大人が子供に交じってアーベーツェーしている姿は、涙を誘うものがある。
中島沙織(eb9402)はパペット鋳造工房の建設を提案していたが、それはほぼ十全に容れられた。予想外だったのは、石型による鋳造が別の手段で可能になったことである(『新式ゴーレム開発計画3』参照)。松脂で型を取りそれを精霊魔法《ストーン》で石化させ、そして間隙を砂で埋めて鋳造する。この方法でかなりの高精度の銅ゴーレムパペットの製作に成功していた。
「しゃくだけど、こっちのほうが出来がいいわね」
現実主義者である彼女にしてみれば、最大の賛辞であろう。
なお防諜対策について、付記しておかなければならないことがある。特に沙織が心を砕いた事だが、人員の増強と防諜能力は反比例する。ゆえに人材の登用には身元確認のためにかなりの人材を投入しなければならないのだが、それが爆発的に増加しつつあった。そしてあっという間にその処理能力を超えてしまったのである。
沙織は騎士を投入しようと考えていたみたいだが、そのような汚れ仕事を騎士が受けたがるはずもなく、そして騎士は人数が少ない。
つまり、人員に関する防諜対策が破綻しかけているのである。これは、王宮では処理が難しい問題だ。
また桜がツッコミを入れたのは、ゴーレムニストの不足である。パペットが出来ても、ゴーレムニストがいなければ生産能力は向上しない。装備は人の手でなんとかなるが、魔法関係は魔法使いにしかどうにも出来ないのである。
これは暗にゴーレム魔法の解放を示唆するのであろうが、それは諸刃の剣である。メイのゴーレム技術が、外部に駄々漏れになる可能性も否定できない。
いずれにせよ、金属ゴーレムの試作がうまく行くかどうかでその辺の動向も決まるであろう。問題は、そこからの進み方である。
まず、『コウジョウ』らしきものは出来つつある。あとは最適化しつつ新たな要素を導入してゆく。それによって状況は変わってゆくだろう。
【おわり】