【月道】ゴーレム技術の購入
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月20日
リプレイ公開日:2007年01月19日
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●オープニング
●富のもたらすもの
アトランティスで『天界』と呼ばれる現代世界には、かつて『三角貿易』と呼ばれる貿易方法があった。
別に現在も無いわけではない。つまり二国間で貿易のバランスがあわないときに、もう一国を加えその三国間で貿易収支を均衡させる方式である。現在は交通や輸送手段が遙かに進み、三国にとどまらない『多角貿易』という方式になっている。
歴史上、有名なのは18世紀にみられたイギリスの綿織物、西インド諸島の原綿、西アフリカの奴隷を取り引きした三角貿易である。この結果イギリスは莫大な富を手にし、産業革命による『世界の工場』への素地をつくった。
では、アトランティスではどのような状況になっているのか?
ウィルの国は多数の月道で多くの国とつながる、貿易立国である。月道貿易はすでに三国どころか多角貿易の域に達しており、それがウィルの地勢価値を高め、国力の高さを維持する原動力になっているのだ。
もちろんゴーレム発祥の地、ジーザム ・トルクの運営する領もその恩恵に預かっている。国が豊かならその分国領主が豊かなのも当然だ。
そのトルク領にゴーレムニスト、オーブル ・プロフィットが来落したのは、果たして偶然であろうか? 結果的には、前王の善政と地勢により富の集中するウィルの国の領土であるがゆえに、ゴーレム兵器なる金食い虫が完成するに至ったとも言える。これが他の国なら、そもそも予算がつかずにゴーレム兵器そのものが発生しなかったであろう。あるいは、その完成と進化はもっと遅かったに違いない。
ウィルの国は、その月道貿易によって非常に潤沢な財務状況にある。トルク領において、近年次々と開発され実用化される新型ゴーレム兵器の様相を見ても、その実情がかいま見える。
ゆえに、月道貿易関連には非常に多くの『余録』がつく。政務に関する外交大使のようなVIPの移動から、技術や文化の流入に至るまで様々だ。
当然、冒険者ギルドにも声がかかる。仕事は、結構いろいろあるのだ。
●ゴーレム技術の購入
定例の、月道関連依頼の頒布時期が来た。
毎月この辺の時期になると、月道関連の依頼がちらほらと見えてくる。重要な任務であることが多いが、月道が月に一度しか開かない都合上、正規の兵士や騎士を送ると一ヶ月国を留守にされてしまう。ゆえに多数の正規兵が月道関連にかり出されることは少なく、その多くは冒険者におはちが回ってくるのが現状だ。
今回の依頼は、ゴーレム技術輸送の任務である。かなりレアな依頼だ。
ウィルの国は、最近ゴーレム技術やゴーレムそのものを交易品として輸出し始めた。今回のネタは金属製ゴーレムの製法である。ウィルではすでに既知技術になるが、交易品としては十分な価値がある。なにせメイの国には、未だにストーンゴーレムしか無いのだ。まあ、それ以上のゴーレムを持っている国自体がまれなのだが。
ともあれ、非常に重要な機密である。下手な対応は取れないだろう。
●リプレイ本文
【月道】ゴーレム技術の購入
●月道を抜けると‥‥
その場所には、蠱惑的なほの白い光が満ちていた。
ローマ建築風の、荘厳な神殿の内部。ただし神像の類は一切無く、逆にキリスト教では悪魔とされる『竜』を意匠したタペストリーが並んでいる。
正面には、これまた巨大な竜のレリーフ。この国、『メイの国』の紋章である。
「閣下、準備が整いました」
髪を油脂でなでつけた、目つきの鋭い参謀風の男が、この場所の責任者らしい老貴族に向かって言った。
「よし、『月』も頃合いだろう、バードに始めさせろ」
「はっ!」
老貴族の命令を受けて、男は堂の中央部、天井が吹き抜けになって、月光が緩やかに射す空間に居る女性に向かって、合図を出した。
「ルース・テイル・イル・アラメイル。精霊アルテイラの加護をたまわりし扉、今開かれん‥‥」
美しい声の、歌うような呪文の詠唱があり、それが繰り返しの旋律となって、堂の空気を震わせる。精霊力――この世界に満ちた自然の霊力――が圧力を増し、その女性を中心に集約していった。
「開きます」
参謀風の男が言う。呪文の詠唱が佳境に達した瞬間、常人にも分かる『霊圧』の開放があり、『それ』がその女性を中心に具現化した。
外見的には、光の固まりである。強い陽光ではなく、生白い月のそれ。直径3から5メートルほどの半球形で、数秒で安定した。
「成功です。『月道』は無事に開きました」
参謀風の男が言う。
「よし、歓待準備。総員整列。周囲の兵には、付近の警戒をもう一度確認させろ。手続きは通常の通りに」
「かしこまりました」
参謀風の男が、さくさくと動き出した。
「今回はゴーレムニストの来訪か‥‥確かバガンを購入した時以来となるな。あのときはゴーレムを見ることが出来なかったのだよな」
「超秘匿兵器でしたからね。輸送も人目に触れずに行いましたから。事実上、あのときの月道貿易の交易品はあれだけです」
べらぼうな話ということがご理解いただけるだろうか? 国家間の貿易手段として月道が利用されているのはご存じの通りだが、その利用によって得られる利益は何百何十万ゴールドという規模になる。それを数機のストーンゴーレムの輸送だけに費やしたというのだ。
いまでこそゴーレム兵器は公に認知されているが、それまでの道のりにはかなりの金がかかっているのである。もっとも、ウィルの国のように超多数の月道を持つ貿易国家ではないメイの国にそれを可能たらしめているのは、広大な国土と農地による『国そのものの財務能力』の高さによる部分が大きい。ウィルの国は農地が少なくとも大国なのは貿易立国だからだが、メイの国は正々堂々大国なのである。
「さて、今回はどのようなゴーレムが見られるやら‥‥」
メイの国で一番最初に貴品奇品を見ることの出来る貴族は、その仕事をおおいに楽しんでいた。
●鋼鉄の冒険者
グラン・バク(ea5229)はノルマンの騎士である。
彼にとってアトランティスは、ある意味夢の世界である。なぜなら彼は、竜と仲良くなりたいのだ。その中にはナーガ族も含まれるが、あいにくウィルではそれほどの知己は得られなかった。
それでも世間から、竜にかかわる二つ名をもらうほどには知られた竜フェチ――もとい、竜の信奉者である。
今回はゴーレム技術の輸送ということで、実は密かに楽しみにしていたことがあった。それはもちろん、モノホンのゴーレムを見聞することである。
が、今回ゴーレム関連は、技術者を数名送り届けるだけで現物は輸送しないらしい。密かにシルバーゴーレムを見られると思っていたグランは、多少落胆を隠せなかった。
「ま、そんなこともあるだろう」
つつがなく任務を終了し、グランは冒険者酒場へと向かった。少なくとも、向こう1ヶ月はメイを動けないのである。退屈しないことのほうが重要だった。
●ザ・バカップル
「いいですかミリィ、ここは厳粛な今は場所で重要な任務の最中です。ですから‥‥わかっていますね?」
「わかっているのですカイさん。でもメイに着いたら、まずはあの子の面倒をみてあげてほしいのですよ?」
カイ・ミスト(ea1911)とミルフィー・アクエリ(ea6089)は夫婦である。子供もいる。今回は子供を知人に預けて、別行動で月道を渡ってもらう予定になっている。もしかしたら血なまぐさい現場になるかもしれない状況で、子供の世話など出来ないからだ。
が、口調を見ても分かるとおり、ミルフィーは子供子供していてしかも天然、おっちょこちょいで何もないところですっ転ぶ、ある種の才能の持ち主である。これで二人の出会いが、冒険に遅刻しそうになって朝食のパンをかじりながら全力疾走しているところを、ちょっとわざとらしく通りの角でぶつかってあざとく純白の下着を晒した――などというような状況なら、天許しても人が許しても神が許してもこの私が許さない。もしそうなら、メィディアには明日の日の出と共にヒュージドラゴン一個軍団が炎とかイカヅチとか吐きならが襲来する――かもしれない(ちょっと弱気)。
ちなみにカイもミルフィーも、イギリスの騎士である。いわゆる『広義の』円卓に座る資格を持つ一員なのだ。
アーサー王も大変だなぁ‥‥。
●鉄塊
「おお、これが新しいゴーレムか。今度は鉄製と見えるが、ずいぶん小さいな」
『違う、俺は冒険者だ』
うわっ。
その場に居た数人の貴族や取り巻きが、驚いて3歩足を引いた。鎧がしゃべったからである。
ちなみにこの鎧は、身長250センチ近く。実際『デク』級のウッドゴーレムに比肩できるほどの大きさとボリュームである。
名前はコロス・ロフキシモ(ea9515)。ジャイアントの冒険者である。義兄にエルフの戦士がいるらしい。ちなみにその人物もメイにいる。
ただ最大の問題は、あまりの威容にギャグでフォローできないことである。
つーか、でかいぞコロス。
●筋肉占い師、来たる。
山吹葵(eb2002)は陰陽師なのだが、『筋肉占い師』を自称している。これまたジャイアントだ。確かに見事な筋肉を持っており、それを誇示するようにしている。
えーと。
以下略。
●真面目で気の利くあんちくしょう
ルーク・マクレイ(eb3527)はイギリス出身のファイターである。
今回、彼はよく働いた。ウィルの国での経験を活かして、ひたすら防諜対策に奔走したのである(別に他の者がなまけていたわけではない。彼が特別熱心だったのだ)。
ただちょっとせっかちなので、落ち着きが無いとも見ることが出来る。まあこれは人それぞれだし、真面目は基本的に美徳である。
また彼にはどうやら、野望もありそうだった。つまりウィル流の『防諜対策』である。
メイの国はゴーレム後進国のである。ゆえに様々な面が行き届いていない。防諜対策はその一つであり、他にも多数の問題が内在しているはずである。
それが、ウィルの国に居た彼の知識のよって変わる――。
これは一種の快感である。
いずれにせよ仕事はしっかりこなした。任務を解かれれば、あとは彼の自由だ。
「まずは冒険者ギルドを探しますか」
期待に胸はふくらみっぱなしである。
●元気はつらつ娘
「メイの国かぁ‥‥どんなところだろう‥‥。よーし、頑張るぞ♪」
明るくそう言ったのは、エルフの鎧騎士ディーナ・ヘイワード(eb4209)だ。元気印のエルフ娘で、わりと愛らしい女性である。
が。
彼女には奇癖がある。
『特訓癖』
彼女は特訓が大好きなのだ。それも特訓するほうではなくて、特訓『させる』ほうである。
餌食になるのは『弱い人』なのだが‥‥彼女の毒牙にかかるのは果たして誰なのだろうか‥‥。
「(こっちを向いて)じゃ、漢字の書き取り2万文字いってみようか♪」
俺かよ。
●心機一転
エルシード・カペアドール(eb4395)はウィルの国の鎧騎士で、元ウィルの国のセレ家従騎士である。
『元』というのは、セレ家に暇乞いをし封建契約を切ったからだ。
理由は、「もうウィルの国でやりたいことはないし、私の力を必要としてくれそうな国へ行く良い機会だから」だそうである。
実際ウィルの国ではゴーレムを使用した戦争という局面はまだほとんど無く、『紳士的に』ゴーレムを使用したスポーツなどでゴーレムの評価をしている状態である。新型がばんばん出ているらしいが、そういうのに乗れるのは『特別な身分の鎧騎士』に限られる。
もっとも、ゴーレム後進国のメイは主力ゴーレムがストーン級であり、確かに防御力と耐久力はウィルの格上ゴーレムに比肩するが鈍重だ。
が、メイの国はゴーレムの戦闘稼働率が異常に高いのは事実で、内紛でどうのこうのやっているウィルより、ゴーレムに搭乗出来る機会は多い。ゆえに彼女は決心したとも言える。
――もしかしたら、憧れのシルバーゴーレムに乗れるかも。
夢はふくらむばかりである。
●ナンバ生まれの矜持
難波幸助(eb4565)はチキュウから来た天界人である。
ちなみに名字と関係あるかどうかは分からないが、彼の出身は日本の大阪の中心街の難波である。
大阪市の中央区と浪速区にまたがる南海電鉄難波駅周辺一帯の地区で、梅田周辺の『キタ』に対し、心斎橋筋、道頓堀、千日前などとともに『ミナミ』とよばれる繁華街の中心だ。
きっちり仕事をこなす人物で、コテコテの関西人というイメージは薄いが、やはり『ナニワのアキンド』なわけである。
これからのメイは、町区管理も重要になってくる。彼の活躍に期待しよう。
●ゴーレム職人を目指せ!!
ここにゴーレムオタクになりつつある人物が一人。天界人の門見雨霧(eb4637)である。
職人気質で好奇心旺盛。メイの国に来たのも『ゴーレム整備技術に携われるかも知れない』という理由で、とにかく学べる機会に飢えているのだ。
といっても、オタク特有の狭い見識で偏った知識を披露するときだけ得意満面になるダメオタクというわけではない。彼のレーゾンテートルは『役に立つ人間になる』ことにある。
彼が紹介されたのはメイのゴーレム工房である。そこにいる工房長に会え、というのが、彼の望みを叶える早道らしい。
ともあれ、面白くなるのは確かであろう。
◆◆◆
というわけで、任務はつつがなく終了した。まあ子供がちょっと泣いたとか細々としたトラブルはあったが、無事に任務完了である。
さて、冒険者のこれからの活躍に期待しよう。
【おわり】