たった一人のサムライ
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月21日〜01月26日
リプレイ公開日:2007年01月22日
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●オープニング
●発端
『カオスニアンの襲撃を、自力で退けている村がある』
そんな噂が立ったのは、去年の暮れである。
ただそんなに注目を集めなかったのは、カオスの侵攻による被害報告が多々あり、その中に埋もれてしまっていたからだ。悲報が続き王国も対応を追われるなか、その噂もただ埋没するだけのもののはずだった。なぜなら自力でなんとか出来るならば、王国もそうして欲しいからである。
だがその抗戦が、およそ一ヶ月以上に渡り続いているというと話は変わってくる。その内容も、カオスニアン、野盗、凶賊と変わって行き、人々も『あれ? おかしいな?』と思い始めていた。なぜなら、そんな都合の良い話が、話題に上らないはずが無いからだ。
噂が錯綜し始めた頃、冒険者酒場に一人の吟遊詩人がやってきた。そしてその件の村――タム村という名だそうである――の話を持ち帰ったのである。
その吟遊詩人の話によると、タム村には一人の剣士がおり、その人物が20名ほどの村人を率いて、カオスニアン約10名と恐獣5匹、野盗を約20人、そして30名ほどの凶賊を、『全て壊滅させた』というのだ。
もちろん村人は、ほとんどが農民である。毎年農閑期になると賊が押し寄せ、今まではただ奪われるだけだったのだが、今年はその人物のお陰で餓死者の無い潤沢な冬を過ごせそうであった。しかもその剣士は金品による報酬を受け取らず、ただ食事と軒と鍛錬の場所だけを代価に、その村を守り続けているという。
瞠目すべきは、素人以下の村人を率いてそこまでの『戦』をやってのけ、完遂した能力であろう。
誰かが思った。
――『戦争』の出来る人材なら、仲間に迎えたい。
この冬までのカオスニアンとの攻防は、文字通り一進一退であった。だが『東方最大の暴力』ガス・クドに手痛い敗退を喫したばかりでもあり、冒険者たちは『個体戦闘能力ではない才能』の必要性を感じていた。強力な戦技とパワーだけでは、勝てない相手が出てきたのである。
吟遊詩人の話によると、タム村の安全保障はほぼ確立されつつあるという。今戦っている約30名の盗賊団を退ければ、今後タム村を襲おうと考える者は現れるまい、という話だ。
本依頼は、冒険者有志の参加になる。報酬は無い。しかしその剣士に会ってみたい、あるいは仲間に引き入れたいと思う者は、参加を検討されたい。
【タム村概略図】
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『侖』=家
●リプレイ本文
たった一人のサムライ
●その男、侍につき
静かな板の間に、多数の人間が身じろぎするだけの音が響いていた。
一方に座っているのは、10人の冒険者と一人の吟遊詩人。そして向かい側に座るのは、髷を結った異国人だった。
日ノ本一之助(ひのもと・いちのすけ)というのが名前である。元ジャパン小田原藩藩士で、箱根という温泉町と東海道の主要な宿場を守る職務に就いていたという。年齢は30前後に見えた。若いかどうかは微妙なとこであろう。精悍な顔立ちで、ストイックないかにも『武人』的な印象を受ける。
まあつまり、『天界人』だ。
冒険者たちは、この男をスカウトに来たのである。対カオス戦線の――強いて挙げれば『軍師』という職務になるだろうか。現代風に言うなら『戦略研究室室長』というところだろう。
彼は2ヶ月ほど前にこの世界『アトランティス』に来落したという。自ら望んでではなかったらしいが、とりあえず彼が身を寄せた村が彼を必要としていたのは確かだ。実りの秋を迎えまたも盗賊類の略奪者が横行しようとした矢先、彼は村人を指揮して簡素な砦を作らせ、そして農民に武装させた。そしてごく単純な命令を与えそれを実行させたのである。
彼自身は、最前線にたった一人で立ったという話だ。『主戦場』と呼ばれている場所に降りるのは彼一人で、他の村人は弓や槍で盗賊たちを攻撃した。そしてそのことごとくを壊滅させてきたのである。
話だけ聞くと、まさに彼は『義侠の人』である。報酬を受け取らないのも、見ず知らずの自分を容れてくれた村への恩返しであるらしく、この『道場』も村人が厚意で建ててくれたものだ。彼自身は、ほとんど何も望んでいない。
「なるほど」
と、一之助は言った。目を通していたのはツヴァイ・イクス(eb7879)が持ってきていた、ガス・クド関連依頼のギルド報告書だ。
「それで、私に何をさせたいのですか?」
「力を貸して欲しい」
即答したのはマグナ・アドミラル(ea4868)である。
「今メイでは、カオスニアンに対し、多くの戦いが行なわれている。村を守る戦いとギルドの戦いは、等しく分けられないものだが、英雄と戦うには多くの人の想いと率いる才を持つ方の力が必要だ。『東方の暴力』との戦いだけでも良い、力を貸して欲しい」
一之助は考える顔になった。
「その前に、皆さんはしなければならないことがあります」
――来たか? と誰もが思った。金、名誉、なんでもいい。『条件を揃えろ』という言葉が来るものと思われた。
「このディアネー・ベノン女史を、早急に救出すべきです」
「「「はぁ?」」」
思いも掛けない名前と選択肢が出てきて、冒険者たちはあっけにとられた。誰も予想していなかった返答だったからだ。
「いえ‥‥それはもちろんですが、今はそれよりもガス・クドをなんとかしなければならないのです。これ以上の被害が出る前に」
クウェル・グッドウェザー(ea0447)が言う。
「私と皆さんでは、想定している被害が違います」
一之助は譲らない。
「仮に‥‥そうですね。例えば皆さんが、一匹の子犬を飼っていたとしましょう」
「今はそんな話をしている場合じゃないんだが‥‥」
リューグ・ランサー(ea0266)が言いかけたのを、オリバー・マクラーン(ea0130)が制した。リューグの言葉には刺どころか、火矢が混じっていた。
「まあ、話を最後まで聞いてください。可愛い子犬ですが、それが荒れ地のボス犬に連れ去られてしまいました。当然飼い主であるあなたたちは怒ります。そしてそのボス犬から子犬を助けるため、武装して全員で荒れ地へ行きました。しかしボス犬と子犬を見つけたあなたたちは驚きました。ボス犬と子犬が夫婦のように仲良くしていたのです。この意味、分かりますか?」
全員が、あっという顔になった。ガス・クドがわざわざディアネー・ベノンをさらっていった理由を理解したからである。
「奴の目的は、メイの国の戦意を削ぐことにあるということですか?」
ルイス・マリスカル(ea3063)が、代表して言った。
「情報が少ないので確定ではありませんが、手段の一つとして確保しているとは思います。人間は苦痛には耐えられますが、快楽には弱いものです。またディアネー嬢は『人質交換に応じる』という弱みを見せています。カオスニアンが麻薬を扱いそれらの弱みを握っているのならば、すでに200名以上の人質を抱えているディアネー嬢に選択肢はありません。ましてやディアネー嬢は、人質になった者達にとって『家族を助けてくれた恩義ある人』です。そのような目で見られて、彼等を見捨てることは、この女性には難しいでしょう。おそらく彼女の知っている並大抵の情報はすでに敵に筒抜けで、彼女自身も肉体的・精神的に侵食されていると思います。その目的は――」
「メイの国への大反抗――ですか?」
イェーガー・ラタイン(ea6382)の言葉に、一之助はうなずいた。
「最初の一撃は、おそらくディアネー嬢によってもたらされるでしょうね。それは武力ではなく精神的なものです。この女性が歌になって有名になればなるほど、その衝撃は大きいでしょう。むしろ有名にしているのは、敵勢力の陰謀と考えても良いのではないでしょうか? 例えばそこの吟遊詩人がタム村のことを調べるて動くのに、一ヶ月以上かかっています。しかしディアネー嬢の話は、ほぼ即日にこの国の主都全域に広まったように私からは見えます。世間が美談に飢えていたとは言え、その速度は異常の一言に尽きます。おそらくこの国やこの世界、そして私の世界の考え方ではないですね。カオスニアン特有のものでしょうか‥‥」
――すげぇ、こいつは本物だ。
陸奥勇人(ea3329)が、心の中で舌を巻いた。一之助は報告書数枚と冒険者の話から、かなり具体的な敵の作戦を見抜いている。視点が、冒険者たちとは最初から違うのだ。冒険者の視点はせいぜい戦術レベルだが、この男は戦略レベルでものを考えている。
そしてまた、メイディアにおける敵の諜報活動が、秘匿情報を看破する方向ではなく、宣伝――つまり現代風に言うならメディア戦略に方向が向いていることまで指摘していた。そしてそれが、敵に『ゲンダイジン』天界人がいる可能性まで示唆している。一之助は、ゲンダイジンの存在を知らないのに、だ。
「なあ、イチノスケさん。俺たちに力を貸してくれないか? 俺たちは個々には強いが、策に弱い。あんたが居れば、俺たちは何倍も強くなれる。あんたも武侠なら分かるだろう?」
風烈(ea1587)が言った。
「僕からもお願いだ」
エイジス・レーヴァティン(ea9907)が言った。
「僕は多少剣が使えるってだけで、その弱さ、歪さはいやというほど知っている。でも、自分より強い相手と戦うことは何度もあった。仲間が協力しあい、それぞれの個性を生かせばどんな敵にも勝てるはずだ。ドレスタットでロキを倒したときも、そうだった。仲間が僕を送り出し、最後の一撃を与える剣に魔法を掛けてくれたおかげで止めを刺すことができた。今度だって諦めなければ必ず光はあるはず。そして僕は諦めるつもりはない。すでに掛かっているのは僕の命だけじゃないのだから。そのためにも――力を貸して欲しい」
「それは困ります!!」
と、道場の入り口から声が響いてきた。農民の一人が、土間にはいつくばってこちらを見ていた。
「ヒノモトさま無しでは、この村は立ちゆかねぇです! オラたちをみすてねぇでくだせぇ!!」
ここに来て、冒険者たちは最大の敵を見誤っていた。日ノ本を必要としているのは、冒険者たちだけではなかったのである。
農民達のほうが、遙かに切実なのだ。略奪を受けて餓死者まで出していた村が、文字通り救われたのである。村人が日ノ本を頼る気持ちを、計り損ねていたとしか言いようが無い。
気がつくと、道場の周りには村人達が全員集まっていた。老若男女、皆冒険者達に懇願するようなまなざしを向けている。
それは弱者が救済を求める目であり、冒険者達の多くはその目を救うために戦ってきたのだ。そして日ノ本をこの村から連れ出すことは、その目を曇らせることになる。
冒険者たちは、困り果てた。金や物で解決できそうな話ではなさそうだったからだ。
●日ノ本の戦い
『一ヶ月待ってください。一ヶ月後、私はメィディアに向かいます』
譲歩に譲歩を重ねて得られた結果は、1ヶ月という日数だった。整理する身辺など無いに等しいが、それでも村人の不安を解消し状況を整えるのに1ヶ月欲しい、というのが日ノ本の要望である。さすがに、これは呑まないわけにはいかない。
それに、冒険者には直近の大事な任務が示唆されている。ディアネー・ベノン嬢の早急な救出である。今後敵がどのような奇手を打ってくるか分からないが、分かっている危機は早急に回避すべきなのだ。
また城下の敵諜報活動への牽制など、やらなければならないことはあまりにも多い。ギルドスタッフの烏丸京子に話をすれば、それこそ依頼が百出することになるだろう。
また他にも、日ノ本から頼まれたことがある。
『それと、人を一人捜していただけませんか? 種族はハーフエルフで、銀髪碧眼のクレリックの少年です。名前はケーファー・チェンバレン。20年以上神学と神聖魔法を学び、その筋ではかなりの腕前を持っています。ちょっとワケありなので深く頼るのは大変なのですが、麻薬治療に造詣がありディアネー嬢救出に関しても一役買ってくれるはずです。戦地での治療活動のため、西方に向かったはずです』
『この問題』に限り、日ノ本一人では手が足りないというのである。麻薬は依存症というものがあり、解毒などでは治療できないらしい。だがその少年は、麻薬治療で一定の成果を挙げているという。ディアネー嬢を助けても、麻薬漬けでは結果は変わらないのだ。最悪狂死し、日ノ本曰く『カオスニアンの虜囚となれば、魂の尊厳さえ維持することは出来ない』という話まで流布されかねない。アトランティスにも信仰はあり、死後精霊界に昇ることがアトランティス人の願いなのだ。
「始まるぞ」
マグナが、眼下を見据えて言った。
冒険者達は、村を一望できる裏山に居た。日ノ本の指示である。というのも、村人がだんだん険悪な雰囲気になってきたためだ。自分たちの救世主をかっさらおうという者たちを、歓迎できる者は確かに少ないだろう。
ただ、冒険者達も日ノ本の腕前は確認しなければならない。戦略家・戦術家としての智賢は確認したが、剣の腕はどうだろうか?
盗賊の村への侵攻は、想定通り入り口から来た。丸太で扉を突き、中へと侵入しようとする。
ばくん、と、扉はあっさり開いた。内側に。
「む?」
と、そこで声を上げたのは、リューグとオリバーである。
「あの砦は設計ミスじゃないか?」
というリューグ。それもそのはず。城塞の扉は外部からの侵入に抗じるため、外向きに開くように作られるものだからである。内向きに作ると、今のように破られやすくなる。
「いや、あれはわざとですよ」
オリバーが言った。
「わざと中に招き寄せているんです。ほら、砦の部分から矢や石が飛んでます。村人の素人腕でも、あれだけの距離を回り込む時間をもらえれば、かなりの成果があげられます」
通路は、砦部分をぐるりと回るように配置されていた。それでいて砦には入り口が全く無いのだ。これでは、敵は進むしかない。
そして主戦場では、日ノ本一人が刀を持って待っていた。
「さて、どれほどの腕か‥‥」
エイジスが言う。戦いが始まり――そして、日ノ本はほとんど攻撃するそぶりを見せなかった。逃げてばかりなのである。
「やる気無いのか?」
勇人が、心配そうに言う。
「いや、あれは『囮』だ。あそこにいる限り、敵はイチノスケを攻撃するしかない。しかしイチノスケが攻撃しなくても、村人の矢弾が降ってくる」
烈が言った。確かに日ノ本はほとんど攻撃していないが、盗賊たちはバタバタと倒れてゆく。たまらず、盗賊達が逃げにかかった。
「盗賊だけに、撤退の手際はいいな」
ツヴァイが言う。二つある逃げ道に、生き残った盗賊が約半分ずつ別れて逃げた。日ノ本は、先が藪になって奈落の底に落ちているほうに走った。
入り口の門扉は、すでに閉じていた。やはり策だったのである。そして入り口側には、苛酷な罠が待っていた。
馬防柵のように積まれていた丸太の一本が抜けて、横にスリット状のスキマが出来た。そしてそこから、槍が突き出てきたのだ。傷ついていた盗賊達は、悲鳴を上げながら逃げ回った。しかし上からは矢が射かけられ、逃げ場など無い。
入り口側に逃げた盗賊はほとんど全滅し、5名ほどが降伏した。
藪の方に逃げた盗賊達は、日ノ本に斬りかかろうとして逆襲を受けていた。
「1、2、3‥‥4回? 今、一度に4回攻撃しなかったか?」
エイジスが言う。日本刀を持って4回攻撃出来る者など、この世に居ただろうか?
「《オーラマックス》です」
オリバーが言った。同じオーラ魔法使いだから分かったと言えよう。
「剣の腕は――お世辞にも達人級とは言えませんが、手数で圧倒しています。それより、20名近い攻撃をしのいで現在に至る過程を評価すべきでしょう」
確かに、数倍の敵に対し日ノ本は一歩も引かない。やがて数名が藪に突入して、そのまま落ちていった。状況を把握した野盗は、そこで降伏した。
「ここまで敵をコントロール出来るものなのですか?」
イェーガーが、当然の疑問を差し挟む。
「やっている以上は、認めるしかありませんね」
バラの背景を背負いながら、ルイスが言った。正直感嘆している。
その後の盗賊の処分については、日ノ本から話を聞いている。捕縛した盗賊は役人に引き渡すのだ。役人は楽に点数稼ぎが出来て、なおかつ捕らえた盗賊を尋問すれば、その仲間や別の盗賊を捕縛するチャンスが得られる。そして村は、報奨金を得るわけである。
日ノ本の組んだこの『食物連鎖』は、かなり秀逸に見えた。
――確かに、本物だ。
一同は、再確認することになった。
ひとまず一ヶ月。その間に、日ノ本は自分の役割を役人などに委譲するつもりらしい。武勲を楽に挙げられるとなれば、役人も腰を上げやすいだろう。
ひとまず成果は得られた。そして、やることは増えた。
まずは、動くべきであろう。
【おわり】