ゴーレム開発計画裏4
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月23日〜01月30日
リプレイ公開日:2007年02月02日
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●オープニング
●ゴーレム開発
ゴーレム兵器の開発と進化は、メイの国にとって急務である。
西方ではすでに、素体素材から見直した新機軸のゴーレム開発が行われているという噂だ。だがメイの国は、その技術の流入を待っている余裕はない。つまり『モナルコス』をしゃにむに実用生産体制に持って行ったように、メイの国でも独自に強力なゴーレム兵器を開発し、生産体制に持って行かなければならない。
天界人は自世界の『工業力』というものを知っているので誤解しがちだが、メイでは国力を総動員しても、ゴーレム生産は手工業と何ら変わらない。技術開発もそうだが、工業体制の見直しから行わなければ、いずれ怒濤のようなカオスの侵攻に飲み込まれるであろう。そしてその背後には、おそらく『真の敵』がいるのだ。
◆◆◆
「新工房は、現在急速にその形を整えつつある。現在同様の構造を持つ第2工房の建設が進められており、人員も大幅に増員した。もっとも身元確認などは追いついていないのが現状だが、そもそも『生産力』を探ろうにも主力となる次期金属ゴーレムの開発がまだだから、今は探られてもあまり痛くはないな」
ガンゴントウス・エメルセン工房管理官が、豪快に笑った。
「とはいえ、モナルコス後期型の生産がしっかりした『ライン』に乗るには多少問題が残っている。素体生産が追いつかない。これは鉄ゴーレムのほうがもしかしたら楽かもしれんな。『ローシュ法』で鋳型はわりと簡単に作れるが、石は削りだしだからなぁ‥‥」
モナルコス後期型が生産ラインに乗り現在も重宝されているのは、不足しているゴーレムニストの都合がほとんどである。レベルの低いゴーレム魔法で生産できるモナルコスのほうが、鉄ゴーレムや銅ゴーレムより『数』が作れるのだ。
「それと、今回深刻な問題が一つある。『騒音公害』というやつだ。モナルコスの鎧を打ち出しで製作できるようになったのはいいのだが、その音がうるさくて近隣住民や王宮から苦情が来ている。あの巨大ハンマーは再検討の必要があるだろう」
ガンゴントウス工房管理官は苦笑いした。もとより鍛冶というのは音のうるさいものである。それがモナルコスの鎧となれば――であった。
君たちの任務は、長期的スパンにわたりゴーレム生産環境を改善することである。つまり新式ゴーレムが完成した時に、それを生産出来るようにするのだ。特に来月期からは、うまくゆけば銀素材ゴーレムの生産が始まるだろう。その時工房がまとまっていなければどうにもならない。
根気が必要で地味な仕事だが、その能力を遺憾なく発揮してもらいたい。
●リプレイ本文
ゴーレム開発計画裏4
●あなたのお名前なんてーの?
「これは予想外だったな〜、あははははは」
お気楽に笑っているのはティス・カマーラ(eb7898)である。パラの魔法使いである彼はインテリ(笑)らしく、文字を覚えた職人に『文字を使って作業することの楽しさ』を布教しようとして――失敗した。
いや、考え方は間違っていない。彼の提示した『棚管理法』というのは、古典的ながら確実でそして覚えやすい方法であり、管理も楽な部類に入る。つまり手段は間違っていなかったのである。
棚管理によって物品や工具、資材の管理が出来れば、仕事が効率よく進むのは間違いない。そして現状、自分の知らない工具を手にして感動に浸る職人も多く、知的好奇心を育てるには、ゴーレム工房はまさにうってつけの場所だった。
ただ棚管理法は、磁気カードやコンピューター管理が出来ないならば、名前を書かなければならない。そして文字を覚えたばかりの職人たちは、まだ自分の名前を書けなかったのである。ほとんどの職人は、何か契約書を作るとき、自分の名前の欄に『×』印を書くような状況だったのだ。
まあ、最低でも1ヶ月は早かったと言えるだろう。これにめげず、出来れば次回も頑張ってもらいたい。
●騒音対策
「まあ、上出来じゃないかな?」
物輪試(eb4163)が、工房周囲に建てられた防音壁を見て言った。もちろん騒音対策のために建てられたものである。
防音壁は意外と役に立つ物で、だいたい騒音を半減できる(計算が乱暴で恐縮だが)。ただ垂直に立てては防音壁が振動して外部に直接音を伝えるので、試の天界での経験を活かして、すり鉢のように斜めになるよう作ったのだ。このタイプの防音壁は、現代の高速道路などで見られる。こうすると、音が上に逃げるのである。
これについては、ガンゴントウス工房管理官が「たいしたものだ」と驚いていた。些細な工夫なのだが、効果は絶大。この辺り、天界のちょっとしたアイデアというものはバカに出来ない。
ローシュ・フラーム(ea3446)は、ハンマー装置の改良に手をつけていた。経験から言えば、騒音の原因は力の拡散による振動の放射なのだが、つまるところ打ち付ける鎧用の鉄板が鳴っているのである。
さて、ここで問題にぶち当たるのは、仕事の効率を優先するか騒音問題を優先するかである。つまり鉄板を固定すれば騒音は軽減できるが、ゴーレムサイズのものを固定する装置を用意し、固定して打つのはいかにも効率が悪い。さりとて騒音問題は外部だけの問題ではなく、工房内部の問題でもある。あまりの騒音に晒されると、耳が難聴を起こすのだ。
そこでローシュは、他の発明で使用しようと思っていた、シリンダー状部品の転用を試みた。つまりハンマー部を筒状にして打突部を集約し、それを一回り大きなシリンダーに入れる。そして外側のシリンダーを金属板に押しつけて、内部のハンマーを落とすという構造にしたのである。
これは、意外と効果があった。打突部の調整と実用品の製作に少々時間がかかりそうだが、この改良ハンマーは、完成すればそれなりに有用な工作機になると思われた。もしかしたら、後に『ローシュ式ハンマー』などと名がつくかもしれない。
ちなみにパスカルの原理を利用した、『油圧ジャッキ』の製作は失敗している。頑丈なゴムホースやら密閉されたシリンダーなど、工作技術の限界を第1宇宙速度ぐらいでブッチしていたためである。
さて、レネウス・ロートリンゲン(eb4099)は騒音対策に対し、開口部の閉鎖を試みた。もっとも準備無くそんなことをすれば、何か事故が起こるかもしれない。ゆえにレネウスは、家電製品の母と呼ばれる扇風機を使用した換気装置、『換気扇』の製作を試みた。
が、結論から言うと試みは失敗であった。動力を水車にしたのはいいが、それを換気扇まで伝える機構が解決できなかったのである(何せ川の水車から塀を超えて工房の壁や天井まで動力を伝達するのである。位置エネルギーを蓄積すればいいハンマーと同じというわけにはいかない)。他の動力は、あとはゴーレム動力器物とかになるが、そんなことに鎧騎士を用いるわけにはいかない(ローシュも動力器物を使用した作業の導入を検討していたが、割ける鎧騎士が居なかったため断念せざるを得なかった)。防諜対策に外部の人間を頼るという案も本末転倒していたし、今回彼の行動は、残念ながら実を結ばなかった。
まあ、めげずに頑張っていただきたい。失敗は成功の母とも言うからである。
●ネジ式
南雲康一(eb8704)は、ネジの製作にご執心だった。確かにネジは有用な発明だが、問題が山積している。
康一はタップを製作し、それから雌ねじの鋳型を作成するつもりだった。タップというのは、固い金属で出来たネジ山彫りの道具である。
だが、タップを作る段階でまず挫折が一つ。タップを削り出せる、加工用の鋼鉄の切り刃が入手出来なかったのである。これは以前から指摘されていたことだが、天界人は工具を知っていても工具の作り方を知らない場合が多い。便利な道具が最初からある世界にいるため、その工具の作り方や発明された経緯を知らないのである。
またサン鉄を使用すれば容易に鉄加工が可能という認識も甘い。サン鉄は固いが、もろいのである。また一度溶融したサン鉄は硬度が無く、そして加熱すればするほど柔らかくなるのだ。
この他、ドリルなどの工具を試案してみたものの、『固い金属を加工できるさらに固い金属』の問題が解決できず、彼の試案はすべて頓挫してしまった。
実はこの先の話は、冶金学の領域になるのであるが、玉鉄(たまがね)数百年の歴史に迫るには、彼はまだ若い。
●新型鎧
御多々良岩鉄斎(eb4598)は、ジャパンの製鉄技術を持つ鍛冶の達人である。製鉄技術についてはメイの国も急速に進歩しているが、結局自国の民間レベルと大差が無い(包丁職人などを除く)。ただ玉鉄を作る方法は彼の知る方法となんら変わりなかったので、彼の主な仕事は新式シルバーゴーレムに装備させる武器防具の製作になった。
要望の中で彼が悩んだのは、鎧である。立体的な断面になるシェル構造の打ち出し鎧を要望されて、彼は工具の開発から行わなければならなかった。まあ、基本的に打ち出しだからハンマーと板金加工用のたがねや金属ノミなどなのだが、問題はゴーレムサイズの板金を加工するパワーである。もちろん彼が力自慢でも、自力では難しい。
そこで彼はローシュに相談して、試作の防音ハンマー模型を使用させてもらった。模型なので、サイズは実物の2分の1というところである。
が、細かい作業には十分だった。結果的にその一品を作るのにすべての期間を費やしてしまったが、胴部の鎧の主部品についてはほぼ十全の成果物を作ることが出来たと言えるだろう。
ただし、量産は不可能というのが彼の見解だ。
●十人組計画
今回一番の活躍をしたのは、リアレス・アルシェル(eb9700)という女性の鎧騎士である。
彼女は十人一組の職人組を作り、組単位での管理を行う『十人組制度』を作ったのだ。そして精霊時計を王宮から借り受け、鐘を鳴らして時間を知らせたのである。
時間管理は、実は職人の一番嫌うところだ。なぜなら、職人というのは頑固だから職人なのであり、管理を他に任せるのはわりと嫌われるのである。
が、先に十人組を組織していたのがこの失敗を回避した。なぜなら十人組同士でライバル意識のようなものが芽生え、組ごとに競争するように作業が進み始めたのである。
過去このような例は、豊臣秀吉が若かりし頃、織田信長に普請奉行に取り立てられたときにあった。組ごとに、先に工事を仕上げた者に報酬を与えたのである。
今回報酬も無いのに作業が進むようになったのは、工房内の地位が上がればもっと重要な仕事が出来るという、職人ならではの『欲』だ。実際、冒険者たちは様々な形で『いい仕事』をしている。そう、彼らは冒険者を見ていたのである。
自分のした仕事が、メイの国に対して目に見える形で貢献する。それは、職人にとっては名誉なことだ。
また食堂の設営や医療所の設置など、細かい設備の設営が行われた。冬場はともかく、夏場は食中毒の危険もある。結構侮れない話である。
●総括
総じてうまくいったりいかなかったりだが、中世レベルでの工房の更新は進んでいる。残念ながら未だ大型溶融炉の建設には至らないが、ウィルから来た試によって石組みの製鉄炉の図面がもたらされた。金属ゴーレム生産のさいに活躍するだろうが、それはまた次の機会になるだろう。
【おわり】