DRAG! DRAG! DRAG!
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月01日〜02月04日
リプレイ公開日:2007年02月09日
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●オープニング
●知っているようで知らない『麻薬』
麻薬という言葉を聞くと、皆さんはどういうイメージを持つだろうか?
犯罪、中毒、金、金、金。おそらく『恐ろしい毒物』という認識が普通であろう。
しかし、実は麻薬も適量ならば、かなりの良薬であるという事実は意外と知られていない。例えば精神を病んでいる人に、緊張緩和のためにその類の薬が処方されることは結構ある。現代日本でも、医師が重度の精神病患者(正確な単語ではないが)に対して、『抗うつ剤』という名で処方される『覚 醒剤』というものもあるのだ。ガン治療にも使われていることをご存じの方もいるだろう。正確には、治療ではなく苦痛緩和のための処方だが。だが戦場で負傷した兵士にモルヒネを投与するのは、麻酔薬代わりの意味もある。
つまりは、使われ方次第なのだ。国際赤十字でも、『モルヒネはタバコより安全で害毒性は少ない』とまで言わしめている。
ただ、人間は快楽に弱い。
禁煙が大変なように、麻薬中毒というものは身体よりも精神に傷跡を残す。ハイになった快楽の記憶と、醒(さ)めたときの気分の落差に心が耐えられなくなり、次の麻薬、強い麻薬へと状態がエスカレートしてゆくのだ。やがて『本当に薬が体内に無ければ異常をきたす身体』になってしまう。こうなると、麻薬から脱するのは絶望的である。
ジ・アースでは、麻薬治療では僧侶の魔法《アンチドート》で、一定の成果を挙げている。ただこれは肉体的な話であって、精神までは治せない。異常な精神状態を安定させる《メンタルリカバー》などの魔法があっても、『快楽の記憶』までは消せないからだ。
唯一の治療法――いや、武器はまさに『強靱な精神のみ』である。
僧侶魔法の無いアトランティスでは、麻薬の横行は激しいものがある。下層階級の蔓延状態は深刻で、麻薬様成分を保持した野生の草木はわりと多い。カオスニアンはその道のプロが多く、香料と毒草と麻薬を使用した秘伝の調合術で、ほぼありとあらゆる恐獣を調教している。そして、これは認めるしか無いのだが――カオスニアンの調合した麻薬はかなりの高額で取引されているのが現状だ。正直な話、効きが違う。
麻薬には麻酔効果もあるから、ケガの治療などで使用される場合もある。外科手術はアトランティスではタブーだが、壊疽(えそ)などを起こした組織を切断する必要がある場合、カオスニアンが調合した麻薬を使用するのは、実は医師や薬師の中ではある程度暗黙の了解だ。先だって報告のあった、瀕死の恐獣を蘇らせた何かも、その辺の関連物品ではないかと思われる。
●ギルド戦争――その口火
麻薬が下層階級に横行するのは、理由がある。それは下層階級の者たちの多くが、『虐げられた者たち』だからだ。陰鬱な毎日から少しでも逃れたくて、麻薬に手を出す。最初は数カッパーの薬がやがて桁があがり、そしてさらなる快楽を求め禁断症状に怯えるようになり、その人物の『人間性』までも売り渡してしまう。
その先に待つのは、破滅である。
その温床は、城壁の外に広がる貧民街である。貧民窟と言った方がいいだろうか。ありとあらゆるものの掃き溜めで、ありとあらゆる犯罪と悪の温床である。最近はカオスの跳梁によって難民が増え、貧民街も拡大する一方だ。市域と違い官憲の手も及ばないので、治安維持などされていない。
「だけど、そこに『妙な組織』が出来はじめているらしいのよね」
と、キセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドスタッフの烏丸京子(からすま・きょうこ)である。
「言葉を選んで言うなら、『裏の冒険者ギルド』ということになるのかしら? つまり合法非合法を問わず、金でありとあらゆる『仕事』を請け負う口入れ屋(労働斡旋業者)みたいなもの。元からあったのか最近出来たのかは分からないけど、結束とガードはやたら固いのよね。理由は簡単。どうやら、麻薬を通貨代りにしているらしいのよ。自分で使うなら絶対足抜けできないし、売ったらぼろもうけ。手段を選ばないなら、これほど効率の良い金儲けは無いわね」
そこで京子は、言葉を切った。
「ただ、『表』に出てきたのはきちんと理由があると思うわ。今は農閑期で、国庫も農民も市民も結構懐が温かい時期になるから、『ちょっと一杯』のつもりで麻薬を引っかけるバカも、まあいるわけよ。そしてその活動が、現状で目に見えるほど活発なワケ。相手の目的は、市域への侵食にあると思うわ。つまりアタシたち冒険者ギルドの、シマ荒らしね。その効果は、数多くの天界人を擁する冒険者ギルドの活動を牽制して、対カオス戦線への刃を鈍らせること。春まで放っておいたら、当然冒険者は背中を気にしながら戦わなきゃならないわけ。そして最大の問題は、ここまで相手の目的と手段が分かっていながら、潜入調査がほぼ不可能なこと。裏ギルドに入るには、薬か何かで束縛を受けなきゃならないらしいわ。つまり構成員は、多かれ少なかれ麻薬の常習者ってこと。それ以外の方法も無いわけではないんだけど――例えば黒僧侶の《カース》とかね。もし相手の構成員に黒僧侶が居れば、の話だけど」
そこで京子は、珍しく陰鬱な表情になった。
「これから依頼することは、相手の麻薬の供給源を叩く戦闘任務よ。2頭引きの荷馬車3台で、ほとんど堂々と言っていい状態で貧民街に入ろうとするはず。時刻も道も分かっているわ。ただし、護衛に付いているのは薬漬けになった難民や市民で、男も女も、年寄りも子供もいるわ。そして忘れていけないのは、彼等は薬のために、文字通り死にもの狂いで抵抗してくるってこと。殺すのがためらわれるような相手を20人以上殺して取引の『品物』を奪い、そして相手の首領格は『生きて捕らえる』のが条件。あたしも結構この仕事しているけど、ここまで酷い汚れ仕事は初めてだわ。だけど、これが『戦争』なのね。初めて実感できたような気がするわ」
そして、京子は表情を改めた。
「受けるも受けないも自由よ。ただし依頼の達成感や名誉とは、無縁と思ってちょうだい。これがアタシたちの『敵』のやりかたってことだから。そして屍を積み上げてたどった先に、『何か』があるはず。それが何に繋がっているのかを見極めるのも、あたしたちの仕事ってこと。よろし?」
【ルート地図】
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門∴∴∴∴┗━━━━┓仝仝仝仝仝仝∴∴∴∴∴∴∴
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1マス=5メートル
仝:貧民街の建物類
Å:貧民街でも大きな建物
A:市域の外れ。自分たちは動きやすいが、敵も動きやすい。物資はともかく『目標』に逃げられる可能性大。
B:貧民街の外縁。待ち伏せには最適だが、貧民街の大きな建物が多い。最悪『逆待ち伏せ』も想定される。
C:貧民街の内奥。ここより城壁側には来ないと思われる。物資を強奪し『目標』を確保して市域に逃げ込むには最適。ただし貧民街の住民の動きが気になるところ。
●リプレイ本文
DRAG! DRAG! DRAG!
●スラム街の悪夢
情報が真実であることを、冒険者たちは確認した。
が、敵の目的が単なるシマ荒らし、つまり『示威行動』であるという読みは、いささか浅薄な考えだったかもしれない。
――この混乱は何だ!!
リューグ・ランサー(ea0266)は状況の推移に、ついて行けずにいた。周囲100メートル四方は今、阿鼻叫喚のちまたと化している。混乱、混乱、混乱。何が起きているのかさえ把握できない。
そして目的を持った冒険者たちにとって、この混乱は『予定』のはずだった。待ち伏せ――急襲――目標の確保という手順を踏んで、最後は混乱化する状況を利用して市域に逃げ込む。その時には、『目標』と『荷物』はともに確保されているはずだった。
が、『荷物』の荷馬車は略奪を受けている最中であり、『目標』の首領格の者の姿も、この混乱の中に埋没している。そもそも馬では、無辜の民を踏みつぶしかねない。馬を用いた戦術構築をしたリューグは、文字通り『足』を封じられていた。
――この混乱は何だ!!
状況を把握できぬまま、時間が過ぎ混乱が広まっていた。
●待ち伏せ作戦
「待ち伏せの手順を確認したい」
マグナ・アドミラル(ea4868)が、冒険者ギルドの一室で皆を前に言った。場所を選んだのは、防諜対策である。
「ルイスとギーン、美幸、カロ、エルシード、そしてわしは、城壁近くの襲撃ポイントに『陣』を敷く。まあ、皆分かっていると思うが、ボロを着て変装ということになる」
「私の美学に反しますが、やむを得ないでしょう」
ルイス・マリスカル(ea3063)が、前髪をかきあげながら言った。ボロを着ても『そこの人』になれるかどうか、結構微妙である。
「しかしこの臭いはたまらんのぉ‥‥」
ギーン・コーイン(ea3443)が、ボロを手に取りながら言った。ノミやシラミが付いていそうな布の束である。ギルドスタッフの京子が、闇市でまとめて買ってきたのだ。一応洗濯はしたが、あまり綺麗すぎても『浮く』ので適度に汚れを残してある。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
エルシード・カペアドール(eb4395)が、さすがに閉口していた。自分から言い出したことだが、いざとなると抵抗が無いわけではない。
「ま、しょうがないっちゅうわけじゃな」
カロ・カイリ・コートン(eb8962)が、早々に着込んでいる。こちらも女性なのだが、さばさばしたものだ。
「‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥」
香坂美幸(eb9701)が、ため息をついていた。練達の冒険者の中にあって新米同然の力量なのだが、自分はともかく他の名を馳せる冒険者たちがこのような汚れ仕事をしなければならないメイの状況と自分の運命に、挫けかけているのだ。
「リューグとコロスは、城門から駆け込んでの合流になる。あいにく、馬を隠せるような場所が無い」
「やむをえんな」
と、これはリューグ。
「面倒な話だ」
コロス・ロフキシモ(ea9515)が、重そうな鎧を装備したまま言った。
「調査役はカルルでいいのね?」
エルシードが問う。
「俺は予定通り『ブツ』と『目標』の確認をする。その後は城壁から援護する」
カルル・ディスガスティン(eb0605)が言った。すでに弓などの装備は準備済みだ。
「手順は、カルルが『品物』と『目標』を確認し、わしが襲撃予定地点で『目標』と接触。合図とともに全員で包囲し『目標』を確保。あとは『品物』の一部を奪取し、残りはばらまいて全員で城壁内に脱出する。行く手を阻む物は、『なんであれ』すべて斬れ。この『戦争』は、逡巡したほうが負ける」
「マグナ様、もし敵の首領を捕らえられぬ場合はいかがいたすので?」
美幸が問うた。
「その場合は、斬る」
マグナが言った。
「禍根は残さずに、敵戦力を減らす。敵の収入源を断ち、打撃を与えるものとする」
「カラスマ、例の『公式発表』の件は大丈夫じゃろうか?」
カロが京子に問いかけた。
「予定通りいくなら、今日のうちに発表になるわよ。敵にも『切れる』のがいるみたいだから、先に手を打っておいたわ」
ここで言う『公式発表』というのは、今回の麻薬密輸襲撃を、公的で正当な行為として公知させる話である。KBC(瓦版クラブ)やその他の情報伝達手段で、頒布されることになっている。
なぜなら、少なくとも20名前後の、死にものぐるいの老若男女を斬るはめになるからだ。ある意味麻薬に縛られた被害者だが、躊躇しては大事に障る。ゆえに冒険者たちは、今回彼らを『敵』とみなし、必要なら排除することに決めていた。
とにかく、敵の『頭』を逃がさなければいいのだ。そこからたどれるモノは、おそらく裏ギルドか麻薬の精製元である。これは、メイの国にとって計り知れない国益になる。
「ま、アンタたちがうまくやってくれたら、あとはこっち(冒険者ギルド)の『諜報戦』になるから、大船に乗った気でいてちょうだい」
京子が、バックアップを全面的に請け負った。こういう時の彼女は、大変頼りに出来る。
――ただし――。
京子は言葉には出さなかったが、『相手と思われる天界人』の事を心に仕舞っていた。敵は状況を構築し、国内の冒険者ギルドネットワークを食散しようとしている。その人物の目的が何なのか、さすがに彼女にも読めない。
「カラスマ」
カロが、考え込んでいる京子に声をかけた。
「あまり気にするちゅうと老けるぞい」
京子はそれに、ほろ苦い表情を浮かべた。ともあれ彼らに頼むしか無いのである。ギルドスタッフである彼女に出来ることは、万全の状態で彼らを送り出すことなのだ。
●襲撃――壊乱
準備を整え、彼らは配置についた。
予定通り、カルルがボロをまとって荷駄隊に近寄り、銀貨で薬を売ってもらった。麻薬の知識は無いが、樹脂状に固められたそれはアヘンという話だった。
荷駄には、大袋いっぱいのアヘン樹脂が積まれていた。もちろん食料や衣料品、燃料など、闇市に出せるものも多数積んである。つまり彼らは、難民街の裏経済を支えているのだ。
これは『必要悪』ともカルルには思えたが、私情と任務を混同したりはしない。それにこれらの品物が、正当なルートで入手しているとは限らない。やるべき事はやり、その上で考えるべきだろう。
カルルの報告によって麻薬の存在が確認され、一同は襲撃体制に入った。
敵のリーダーは、先頭の馬車に座る、でっぷりと太った男のようだった。人相も悪くいかにもな感じだが、つまりいわゆる『悪徳商人』という奴である。衣服の仕立ても良く、つまりあくどい儲けをしている証左でもあろう。
敵としては与し易し、とマグナは見た。予想より楽な展開だ。カオスニアンの登場も視野に入れていたので、敵が(少なくとも見かけは)素人の悪党なら、たたき伏せて連れ出せばいい。周囲に居る武器を持った、生気の薄い人たちも、素人が武装している以上のものは見いだせない。確かに殺すのがためらわれるような年齢や性別の者も多くいたが、つまるところ『そういう外道』ということである。情報収集という目的が無ければ、叩き斬って余りある相手であろう。
あとは、『機』を見るだけである。
――わっ。
「むぅっ!?」
いきなり。
荷駄隊の後方から騒ぎが起こった。剣戟のような音が響き、悲鳴や怒号が錯綜している。
「誰か先走ったのか!?」
チームワークを乱されては、マグナにも対処は不可能である。そして最善の方法は、遅れることなくフォローすることだ。
ピュ――――ッ!!
マグナは合図の指笛を鳴らすと、混乱し始めた戦域に突貫した。
――マグナ、出るな!!
その中で、状況を正しく把握していた者が一人。
先遣で荷物を確認した、カルルだった。彼は状況が把握できる場所で、敵の親玉を逃がさぬよう狙撃しようとしていたのだ。
リューグもルイスもギーンも、コロスもエルシードもカロも、美幸も『全員』飛び出している。しかしそれより先に飛び出したのは、冒険者たちでは無かった。
それは、傭兵風の武装した者たちだった。人数はこちらと同じ10名ほど。作戦もおおむね同じらしく、ボロをまとって待ち伏せという状況だった。
そして彼らの目的も、荷駄隊のようだった。ただカルルたちが企図していたのと大きく違ったのは、無辜の難民たちを巻き添えにして仕事をこなそうとしていたことだった。バラックのような家屋を破壊され、魔法の炎に灼かれ、立ちふさがれば斬られ、そしてその場は一瞬で阿鼻叫喚のちまたと化した。
そこに、リューグやコロスといった騎馬が突入したのである。さらに混乱は増し、しかしこちらは一瞬の出遅れで人垣に阻まれ、思うように侵攻出来ない状況となった。かろうじてコロスの戦馬は突入できたが、リューグの若い馬では戦場に突入できなかった。
◆◆◆
「誰だ貴様ら!」
マグナの問いに、その剣士は剣で応じた。邪念のある剣ではない、正当な剣術を学んだ太刀筋だった。
ただ、力量はマグナほどではない。マグナのカウンター2発で沈められ、深手を負った剣士は逃走した。
追おうとしたマグナに、魔法の炎が容赦なく降り注いだ。周囲の誰かを狙ったのかもしれないが、マグナは傷を負い人波に巻き込まれ動けなくなった。今目の前に居るのは難民である。
ルイスは敵のリーダーらしき人物への接近を試みた。しかし魔法の炎に巻き込まれ、深手を負った。まさに不意打ちである。そしてこの襲撃を企図したのが、自分たち以外の『誰か』であることを察知した。
――目的は何ですか!!
人波をかき分けながら、ルイスは思考を巡らせていた。
混乱の中では、体格が不利に働くことがある。
ギーンは今、まさにそれを体験していた。ドワーフは肉の総量はあっても身長が無い。つまりこのような濁流のような人の流れには、押しつぶされることがある。
結果的に、彼は全ての行動を踏み倒されないように踏ん張ることしか出来なかった。
――何が起こっているんじゃ!?
それに応える者はいない。
コロスは、馬上から存分にその戦斧を振るった。
「邪魔‥‥なりっ!!」
一般人を踏みつぶし、脳漿を飛び散らせながら進むコロスに、ひるんだ難民たちが道を開けた。しかし馬車には、すでに敵首領の姿は無い。
どっかーん!!
コロスを中心に、《ファイヤーボム》が炸裂した。それはマグナが巻き込まれたものだったのだが、魔法に弱いコロスは深手を負った。
が、もっと深手を負ったのは、その周囲に居た難民たちだろう。
エルシードとカロ、そして美幸は、状況の推移を見ていた。
一度突貫したが人波に阻まれ、そして魔法の登場で状況を把握したのだ。
つまり、この襲撃は『裏ギルド』のものである、と。
ならば、目的は何か? 自分たちの収入源をわざわざ襲撃する必要など無い。ならば、襲撃の目的は『荷物以外』である。
――つまり人――今回の首領が狙い!!
そう結論づけるまで、そう時間はかからなかった。ただ足りなかったのは、人波を貫通する突進力である。コロスのように馬を使っていればあるいは――とも思ったが、無いものをねだってもしょうがない。せめてチャリオットかグライダーがあればとも思ったが、目立つリスクを排除するために使用しなかった。
失策とは言わない。ただ、敵に対する読みが甘かっただけだ。
その、敵の『本当の目的』を、後に彼らは知ることになる。
●作戦結果
状況が終了したとき、スラムは火事と殺戮によって散々たる結果となっていた。3台中2台の荷駄は破壊され、1台も略奪を受けている。
ただ麻薬の押収には成功し、正味50キログラム近くのアヘン類を押収した。
だが例の商人風の男は、死体で見つかった。背中から刀剣類で切られ、とどめに一刺しくれて絶命させられていた。
つまり、確実に殺すことを意図した殺し方だった。
そして、『敵の意図』が明らかになったのは、その数日後である。
『冒険者が任務遂行のために、スラムの住人を多数殺した』
KBCやら王宮やらから『正しい情報』を流したにもかかわらず、冒険者ギルドには悪評の槍が刺さってきていた。つまり麻薬押収とそのルートの破壊のために働いたことではなく、目的のために多数のスラム住民を殺し家屋を破壊したことが喧伝されはじめたのである。しかも、謎の傭兵集団の犯行も冒険者たちの仕業にされていた。
「やられたわ」
烏丸京子が言った。
「『相手の目的』はまだよくわかっていないけど、多分内紛ね。裏ギルドの邪魔者を、誰かがうまく排除した。そんなところじゃないかと思うわ。でなきゃ、末端価格でン万ゴールドもの麻薬を遺棄してまで、こんなことをする必要は無いもの。秘密結社『黒の手紙』の件もそうだけど、考え方が根本的に何か違うわね。つまり『天界人』。それも裏ギルドの実力者、というところまでは確定ね」
秘密結社『黒の手紙』は、バの国の諜報組織が裏で関わっていると言われている結社である。そして裏ギルドは、スラム街で活動している。
つまりメイディアの中にも外にも、バの国の跳梁が見られるということだ。
「任務は果たしたし状況も分かってきたけど、敵は相当な難物ね。それもかなり頭の切れる、蛇のように性格の悪い難物だわ」
京子が言う。彼女を以てそう言わしめるのだから、相当なものだろう。
「とにかく、隙を作らないで。相手が何を考えているか分からないから、何を仕掛けてくるかも分からないわ。この『戦争』ちょっと大変になるわよ」
京子の言葉に、何か暗雲のようなものが混じっていた。
【おわり】