鍛冶師の本分 1040年2月7日
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月12日〜02月19日
リプレイ公開日:2007年02月20日
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●オープニング
●みんな忘れているかもしれないが
ガンゴントウス・エメルセン工房管理官。
みんな忘れているかもしれないが、彼は練達の鍛冶師である。
すっかり工房の管理のために鉄から離れていたが、今回彼は息抜きのために一つの武器を仕上げることにした。
「ギガントアックスを作るぞ!(ぶちん!)」
今何か切れた音が聞こえたような気がするが、気にしてはいけない。そもそも職人のドワーフに管理職をやらせて、ストレスが溜まらないはずが無いのだ。筆者だってゲーム以外では、エロエロでウハウハなライトノベ(ブツっ‥‥ツーツーツーツー)
えー。
ともあれガンゴントウス工房管理官は(ぶち切れて)、本業である鍛冶職にしばらく戻ることにした。
そこで、趣味と実益を兼ねて作ることにしたのが、ゴーレム用戦斧『ギガントアックス』である。
ただし一から作るには、ちょっと手間がかかりすぎる。
そこでアイテム合成のレシピに倣い、一手間省くことにした。つまり既存の武器を改造してそれに仕立てるという手である。
ガンゴントウスも練達の鍛冶師である。多少どころかかなりの心得がある。
一番手間の省ける『ギガントアックス』の製作方法は、『エグゼキューショナーズ+鉄鉱石』である。エグゼキューショナーズというのは天界の処刑鎌で、かなりのサイズのものだ。それに精製した鉄を加えて再構築すると、作ることが出来る。
ただ、エグゼキューショナーズは天界のイギリスの物品である。アトランティスで求めるのは大変だ。
そこで。
ガンゴントウス工房管理官の精神の安定と心の平穏のために、工房がエグゼキューショナーズの探索を企画した(だって工房を管理してくれないんだもん)。
エグゼキューショナーズの在処が分かっているのは、セルナー領海岸にある某古城である(報告書『翼竜は謳う』参照)。回収出来なかった武器の中に、あったらしい。何せかなりの重さだ。運ぶのが大変だったため、残されたのだ。
さて、いっちょ頑張ってみよう。
●リプレイ本文
鍛冶師の本分 1040年2月7日
●目的のためには手段も選ぼう
ガンゴントウス・エメルセン。
メイの国ゴーレム工房管理官。つまるところ中間管理職である。
元々腕の立つ鍛冶師であり、年齢相応以上の技術と知識と経験があってメイの王垢望傑曚気譴拭0柄阿論省・離螢競拯里罵段蔀・良雋錣鮑遒辰討い拭」
魔法の武具こそめったに手がけたことは無いが、並大抵の物はほとんど制作した経験がある。彼を以てしても作ることができないのは、ずばり『見たことのない物』だ。
が、彼は本来農具などの地味な鍛冶職を好み、平穏と酒を愛する割と小市民である。
それに元々凝り性な部分があり、やはり何でも『自分の手で』作らなければ気が済まない一面も持っていた。
今までは、それでもなんとか済んでいた。実際の話、彼が居たお陰でメイの国のゴーレム事情のうち、魔法に関係のない部分――つまりゴーレムの装具類について、ガンゴントウスの挙げた功績は大きい。
が、人間成果を挙げて偉くなるほど、仕事がおもしろくなくなってくる場合もある。ガンゴントウスにとっては、鉄から離れるのがまさにそうだった。
「ま、気持ちはわからんではない」
同じドワーフのギーン・コーイン(ea3443)が、酒場の卓で呟いた。彼も職人であり、気持ちはよくわかる。
「じゃが、今回の『古城』は駄目かな」
石を削りながら、ギーンが言った。
「戦力が足りん」
ジャイアントの御多々良岩鉄斎(eb4598)が、唸るように言った。
「挑戦してみたいのは山々だが、やむを得んであろう」
岩鉄斎が言う。
本来の依頼は、ある古城に向かい未回収の武具の中から『エクスキュージョナーズ』を一振り探しだし、回収することである。その古城は翼竜の謳う古城で知られ、近隣の村人からも愛されていた。
その古城には、過去の大戦で使用された武具が数多く眠っている。翼竜はそれを守っていると言われており、実際回収に行った冒険者たちはかなり大変な思いをした。
が、ゴーレムを装備した1戦隊を以てしても、全ての回収が叶わなかったものが、たった4人でどうにかなるものでもない。これは根性論とかそういうのを置いておいて、客観的な事実である。
結果、白金銀(eb8388)が偶然所有していたエクスキュージョナーズを供与し、ガンゴントウスにはそれを使用して思う存分制作活動をしてもらうことになった。
一人ため息をついたのは、メイ人のツヴァイ・イクス(eb7879)である。彼女は死んでしまった友人のために、その遺品に近い物をその古城に奉納したいと思っていた。やはりカオスとの戦いで命を落とした『勇者』のために。
大輪のかんざしを見やりながら、ツヴァイは何かを思っていた。
●そんなわけで
「ガンゴントウスさん、これがエグゼキュージョナーズです」
布で包んだ長大な大鎌を出して、銀は言った。場所は新ゴーレム工房である。
「ずいぶん早かったな。こんなに簡単に入手できるとは思わなかった」
心底感嘆したように、ガンゴントウスは言った。あまりに感動されたので、むしろ本当のことが言いにくいぐらいである。
エグゼキュージョナーズは、つまるところ処刑鎌である。あまり縁起のよいものではないが、武具としては威力がある。
ただし、扱える腕力は相当必要だ。人間を処刑するために、一撃で首を断ち切る威力を確保しなければならないのである。それも日本の『技術を磨いた処刑人』とは違い、西欧の処刑人は有り余る腕力で断ち切るのだ。
ゆえに、元々人間が使うには無理があるような構造をしていた。まあ西欧の処刑人というと、黒い目出し帽をかぶった筋肉ダルマみたいな人物を想像する人が多いのではないかと思うが、それは結構ステロで真実に近い。
ま、そんなうんちくはさておいて、ガンゴントウスの巧みの技を見せてもらうとしよう。
◆◆◆
「まあ、結局は一端バラすわけだがな」
と、釘止めなどを外しながら、ガンゴントウスは、初めて見るエグゼキュージョナーズを手際よく解体していった。
炉は、古い工房のものを使う。元は、モナルコスの剣を打ってた炉である。今の工房は、こういう『趣味』をやるには、規模が大きすぎて向かない。
まず鉄鉱石を用意して、鉄を作る。やり方を簡単に言うと、鉄の混じった石を全部溶かして、比重の関係から数層になった溶鉱の『鉄の部分だけ』を炉から抜くのである。
炉は陶器で出来ていて、その周囲にはびっしりと木炭が燃えている。そしてそこに、ふいごで空気を徹底的に送り込むのだ。
炉には高さを変えて、数カ所に栓がしてある。つまり正しい高さの栓を抜き、そこから目的の鉱物を抜き出す。これの見極めは、かなりの経験を積まなければ出来ない。
冒険者たちは、ふいごを代わる代わる担当させられた。かなりの重労働だが、今回のメンツでめげる者はいなかった。
さらに別の炉では、エグゼキュージョナーズの打ち直しが行われた。鎌を斧に変えるのだから、当然いったん溶かすなりなんなりして整形しなくてはならない。
「ほかに、どんなものが作れるんですか?」
銀が、玉の汗をかいているガンゴントウスに向かって問うた。
「まあ、基本は鉄鉱石からかな。鉄鉱石を合わせてまず鉄のインゴット(ここでは鉄の棒)を作る。それから始めるのがいいんじゃないか。それと、『武器+鉄鉱石』はだいたい相性がいい。たいていは一ランク上の武器になる。あとは初級編に、銀装備に挑戦するのがいいんじゃないかと思うな。例えばナイフと銀塊を合わせれば、シルバーナイフになる。似たような作り方のは、結構あるな」
まあ、ごく初級の物品製作レシピである。この辺は割と知られているところだろう。
作業が『打ち』入ると、岩鉄斎が手伝いに入った。彼も本業は鍛冶屋である。西洋武器の打ちの経験は無いが、西洋の鉄加工技術は玉がねを扱うジャパンに比べて(あくまで比較的に、だが)簡単だ。
日本刀などは、玉がねを畳んで折って叩いて圧延するが、西洋武具はもっと原始的である。型枠に鉄を流して形を作り、エッジを立てるだけ。修理も楽だ。欠けた部分は、叩いて延ばして補う。
この辺の文化の違いは、土壌によるものだろう。大陸は鉄文化の発展が早く、鉄の精錬が『技術』になる前に広く普及した。結果農耕などで鉄器が使われるのも早く、『道具としての鉄』が定着した――のではないか、と、記録者は考える。現に中東では、一部で有名なダマスカスブレードといった、日本刀にきわめて近い製法の武具が作られており、鉄に対する認識の温度差が、アジア大陸内でもかなり違うのだ。
それはさておき、ガンゴントウスの作業は続く。実は彼、三日間、食はともかくほとんど眠らずに作業をした。
溶融した鉄を加工できる時間は、火の燃えている間だけである。つまり鉄が溶ける温度まで上昇した炭の温度を、ほとんど下げずに作業するのだ。
本来なら交代なりなんなりして行うところだが、作業をするのが一人なら、一人で何でもしなければならない。結果、ギーンはほとんどふいご番だったし、銀は炭を継ぎ足す係。岩鉄斎は相打ちを手伝わされ、ツヴァイに至っては料理を作らされた。
そして出来上がったのは、なかなかの逸品に見えるゴーレム用アックスであった。
「最後に、握りに皮を巻いて仕上げだ」
三日間寝てないとは思えない快活さで、ガンゴントウスが言った。冒険者の方は、半分ぐらいへばっている。この辺は元来の体力や徹夜慣れとかではなく、モチベーションの問題だろう。誰でも『自分の仕事』は楽しいものだ。
最後に炉の底を抜いて、溶解した鉱物を取り除き作業は終了である。ここでガンゴントウスは、おもしろいものを見せてくれた。
溶解した残りカスは、ほとんど珪素である。まあつまり、簡単に言うとガラスやその親戚だ。
それを、樽に入った水の中に、熔けたまま一気に入れる。ものすごい蒸気を発しながら固まったモノは、何か紐状のカリカチュアになった。
「見てろよ?」
その端っこの、尖った先端を、ガンゴントウスは軽くハンマーで叩いた。
バッシャーン!!
騒音が響いた。ほんの数センチの部分を軽く折っただけなのに、その物体全部が粉々に砕けたのだ。
「これは‥‥一昔前の車のガラスみたいだ」
現代人の、銀が言う。そう、ちょっと前の自動車のガラスは、安全のために衝撃を与えると粉々に砕けるようになっている。大きな破片が、搭乗者を切り裂かないようにするためだ。
実は、当時の安全ガラスもこうやって作るのである。
「なんとも不思議なものじゃ」
ギーンが、砕けた破片をしげしげと見ながら言う。ツヴァイも手にとって、ためすすがめつしていた。
「鍛冶は奥が深いからな。まだまだ俺の知らない、おもしろいことがいっぱいあるはずだ。今回は楽しかったぞ。また是非つきあってくれ」
ガンゴントウスが、かんらかんらと笑う。
どうやら、鬱憤は晴れたようである。が、きっとまた近々、暴れたくなるに違いあるまい。
ま、苦労しているのだから、許してやろうではないか。
【おわり】