●リプレイ本文
セントバレンタイン限定義理チョコ獲得合戦
●聖馬連隊隊歌『ああメイ国馬連隊』
・1番
緑の草の 平原に
我らが征(ゆ)くは 馬連隊
万丈の道 尽きるとも
拓く大地に 馬は行く
ああ馬連隊 馬連隊
メイ国補給 馬連隊
・2番
万剣の立つ 山岳に
我らが征くは 馬連隊
万丈の山 そびえても
拓く峠に 馬は行く
ああ馬連隊 馬連隊
メイ国補給 馬連隊
・3番
蒼き波頭の 海原に
我らが征くは 馬連隊
万丈の河 果てなくも
拓く水辺に 馬は行く
ああ馬連隊 馬連隊
メイ国補給 馬連隊
●おまえらいい加減にしる!
「本当に集まるとは思っていなかったわ‥‥」
こう、自分のやったことなのに結構茫然自失としているのは、依頼人(というか企画者)の烏丸京子(からすま・きょうこ)メイ国冒険者ギルドスタッフである。
さもありなん、『絶対に普通は集まらない条件』で依頼を頒布したのだ。京子がたちの悪い冗談好きと言っても、それはわりと『常識の範囲内の話』で、本当に依頼が成立するとは彼女も思っていなかったのだ。
この辺りの認識は、彼女も甘かったと見える。
「まあいいわ」
と、京子は集まった冒険者15名を前に、ごそごそと懐を探った。そしてマヨネーズのチューブみたいな物体を出す(京子の生体温付き)。中身は褐色で、ゲル状の物体のようである。
「これが『ちょこれいとしろっぷ』っていう、天界のお菓子の原料よ。これをカオスの地の手前まで行ってかき氷にかけて食べれば依頼完了。馬連隊は‥‥まあ説明したとおりの人員と装備になっているわ。リザベまではゴーレムシップで行って、そこからはこの地図を元にリザベ領を回ってもらうわよ」
と言って、地図を出した。
【リザベ領略図】
〃〃〃〃▲∴∴▲▲▲▲▲▲▲〃〃〃〃〃〃
〃Å〃〃▲∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲〃〃〃〃〃
〃〃〃▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲〃〃〃
▲〃〃▲∴∴∴サミアド砂漠∴∴∴▲▲▲〃
〃▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲
〃▲〃〃∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲
〃▲〃〃〃〃〃∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴〃▲〃
〃▲〃〃〃〃〃〃〃〃〃∴∴∴∴∴∴〃〃〃
〃▲〃〃〃〃〃〃〃〃〃∴∴∴∴〃〃〃〃〃
▲ダイラテル◎リザベ〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
▲〃〃凹〃〃…〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
▲〃〃〃〃〃…〃〃…〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
▲コングルスト‥‥…〃〃…〃〃〃〃〃〃〃
▲〃凹〃〃〃‥‥…〃〃〃〃‥‥‥‥〃〃〃
▲〃〃〃〃‥‥‥‥〃〃○ティトル‥‥〃〃
〃▲〃〃〃‥‥‥‥〃〃〃‥‥‥‥‥‥〃〃
〃▲〃〃‥‥‥‥…〃‥‥‥‥‥‥〃〃〃〃
〃〃▲〃‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥〃〃〃〃
…〃▲凹ラケダイモン‥‥‥‥‥‥‥‥〃〃
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
1マス=50キロメートルぐらい
「ルートは、リザベから北上してサミアド砂漠まで到達。その後西回りに南下してダイラテル、コングルスト、ラケダイモンまで行き、そこからまた北上してダイラテルから西進。山脈を登坂して任務を達成することになるわ。前にも言ったけど、装備消耗品類はこっち持ち。無事に帰って、あたしに愛の告白をしてちょうだいな」
京子が言う。ここまでしてくれる男、あるいは漢(おとこ)となるとかなりの『タマ』である。京子とて女。その辺り『ぐっ』ときてもいいところだが、集まっているメンバーに女性が混じっていたりシフールがいたりと、どう見ても『物見遊山』な人物が多いのだ。
まあこれはこれで、『世界一過酷な物見遊山』ではあろうが。
つか、こんな過酷な依頼、成立させないでください。マジで。(記録者談)
●さて馬連隊諸君
さて、今回の馬連隊に参加表明した(奇特な)冒険者諸賢に事前インタビューしてみよう。
・お名前は?
「レフェツィア・セヴェナ(ea0356)だよ。よろしくね!」
ちょっとかわいい、エルフクレリックである。わりと筆者好みだ。
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「チョコレートシロップのかき氷が楽しみで。この前チョコレート作ったのもあって、気になるんだよね」
なかなかに女の子らしい‥‥ちょっとマテ、この依頼の本質を理解していないような‥‥。
・何か一言どうぞ
「目的地まで、みんなでがんばろー!!」
いや、あの、この依頼ってバレンタインの‥‥。
次いこか。
・お名前は?
「俺は、風烈(ea1587)だ」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「愚かというなら愚かと笑え。だがお前にはわかるまい、夢を忘れたジ・アース(地球)人よ。別の依頼を受けようと思っていたのに、気付いたら帳簿に名前を書き込んだ後だったという熱き迸りを。誰にも言わせない、俺達のやったことが若さ故の過ちなどと、たとえ世界を敵にまわそうが、言わせるものか!」
いや、あの、そこで殺気を振りまかないで欲しいんですが‥‥。
・何か一言どうぞ
「最後の時になるかもしれない、言いたいことがあるんだ、聞いてはくれないか。俺は英雄でも勇者でも何でもないんだ。依頼に予約しなくても、どうせすぐに埋まらないだろうとひよった愚か者なんだ。俺にここにいる資格なんてないんだ(以下省略)」
いや、そのー。何かこう、取り憑かれているように見えるのは気のせいでしょうか。
では、次の方。
・お名前は?
「僕はトリア・サテッレウス(ea1716)。吟遊詩人です」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「僕は騎士であります。カオスの侵攻に苦しむ僻地への援助物資、これを守るのは士分の務め。そして僕は、吟遊詩人でもあります。すなわち、この世界の万物を歌い語るのがお仕事。此度の一行、素晴らしい吟遊の題材となり得るでしょう!」
あー。
突っ込んでもいいんでしょうか‥‥。
・何か一言どうぞ
「連なる馬連隊! 守りしは歴戦のツワモノども! 見送り祈る麗しの君! そしてそれらを泣きながら書き記す記録係殿! 百聞は一見に如かず、千聞とてまた然り。この勇者たちを歌い継ぐには、実際に同行するしかない! そしてそれが出来るのは、ウィルじゃあイチバンだった僕しか居ない! 一介の吟遊詩人として、かほどに滾る事は無い。見た物聞いた物、全て記憶しておきましょう!!」
‥‥‥‥。
泣きながらは余計だチクショウめ(泣)。
・お名前は?
「愛の伝道師、正しきラヴの使徒、ルイス・マリスカル(ea3063)です」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「誰かが言ってた、ラヴはためらわないことだって。たとえ敵が氷だろうが砂漠の砂だろうが。ラヴ試練の路、征くが漢のド根性、だからです」
うーむ、筋金入りですなぁ。
・何か一言どうぞ
「『その行軍は苛烈を極めた。この冒険こそ、後に伝わる『血の馬連隊事件』である』とならないように、がんばります」
ネタ満載ですなぁ‥‥。まあ、いいんですが。
では、次の方。
・お名前は?
「私はファル・ディア(ea7935)。ノルマン王国のクレリックです」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「‥‥『ちょこれいとしろっぷ』かけのかき氷はさておいて、兵站任務は重要な仕事です。補給がままならない雪山なら尚の事。これはセーラ神のお導きでしょう」
・何か一言どうぞ
「母なるセーラは全てを御覧になっています。さあ、あなたも祈りましょう! きっと神はあなたを天国へと導いてくださるでしょう!!」
すいません、私が死ぬのは決定事項ですか?
では次。
・お名前は?
「ノルマン騎士、アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)である」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「拙者、実は甘い物に目がござらん。天界の未知の菓子、実に興味深い」
・何か一言どうぞ
「セント馬連隊デー‥‥是非ともその『ちょこれいとしろっぷ』かき氷を食すべく試練を乗り越えるといたそう!」
目的のはっきりした人ですねー‥‥って、あの、月を見上げてどうなさい‥‥うわ、ちょっと、何ハラキリしようとしているんですか!? だ、誰か止めてください!!
つ、次いきましょう。
・お名前は?
「俺はイギリス騎士の、シャー・クレー(eb2638)じゃん」
えー。
なぜか裸でポージングしているのは、ツッコミ待ちでしょうか。
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「チョコシロップカキ氷を食べることじゃん。天界の料理が食べられるならラッキーじゃん。とりあえず頑張ってみるんだぜ」
・何か一言どうぞ
「一人でも食べられれば俺達の勝利‥‥なら、皆で協力しあいながら進むのが筋だぜ。わんふぉーおーる、おーるふぉーわんの精神じゃん」
山下先生が、涙を流して喜びそうなコメントです。
外見がどう見ても伴っていませんが‥‥。
では、次の方。
・お名前は?
「地球人の物輪試(eb4163)だ」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「皆さんと共に馬連隊の使命を果たし、現地でチョコシロップかき氷を食べるためだ。ゴーレム依頼が開発依頼でなかった事を受けての参加だ」
‥‥怨念のようなものを感じるのは気のせい‥‥きっと気のせい‥‥。
・何か一言どうぞ
「皆さん(記録係の方も含めて)、一緒にシアワセになろうよ‥‥(薄笑)」
あ、悪霊退散! 悪鬼退散! 陰陽師、矢部○麻呂さん助けてー!!
次ー。
・お名前は?
「カーッカッカッカ、俺は王風門(eb5247)! 華仙教大国のファイターだ!!」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「何故か? ソコに山があるからだ! 何故か? そこに試練があるからだ!! 何故か? そこへ敵が邪魔するからだだだだ!!!」
うーん、まともなんだかキレキレなんだか分からない人だなー。
・何か一言どうぞ
「オレはいくぜ。おれはいくぜ! 俺も行くぜ!! うーん犬みたいだなオレ」
えーと、すいません、こっちを見て話をしてほしいんですが‥‥キレキレの人でしたか‥‥。
次々。
・お名前は?
「流離いの用心棒、アッシュ・ロシュタイン(eb5690)推参。よろしく」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「おもしろそうだから参加した。それと、ちょこれーとは食べたことが無いので食べてみたいかな」
そんな軽いノリで半月を費やすのですか‥‥あなたたちは(恨目)。
・何か一言どうぞ
「烏丸女史には個人的に思いを寄せてたりはしないので、告白は考え物だな。まあ告白したい奴は告白すれば良いんじゃないか?」
いや、あの、依頼の主旨を根底から否定されても困るんですが‥‥。
では、次の方。
・お名前は?
「シフールのクレリック、トシナミ・ヨル(eb6729)じゃ」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「今回は、勇者の皆様方の付き添いとして参加じゃ」
・何か一言どうぞ
「馬連隊心得の條
我が荷物、我がものと思わず
冒険者の義、あくまで陰にて
己の器量伏し
荷物、如何にても運ぶべし
尚、死して屍ひろう者あり
死して屍ひろう者あり 」
‥‥こんなところで『大江戸○査網』ネタが見られるとは思いませんでした。
では次。
・お名前は?
「メイの鎧騎士、エリオス・クレイド(eb7875)だ」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「先日受けた依頼で押し付けられた大量のチョコレートの処理と、それに関する気のもやもやをはらすためだ」
えーと、またこれはえらい個人的な理由ですねぇ‥‥。
・何か一言どうぞ
「チョコレートは腐るほど所持しているから、食料の心配は無い。しかし正直、もう見たくもないな。まあ、烏丸の姉さんに告白する仲間は、生暖かく見守るとするよ」
あー。
つまり在庫処分ですね? まあ、それもまたよしですが。
さてお次は‥‥。
・お名前は?
「私はジャスティン・ディアブローニ(eb8297)。メイの国の鎧騎士だ」
‥‥‥‥。
あのー、親戚にマイケル・ジ○クソンさんいらっしゃいます?
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「馬連隊‥‥前線の兵を支える補給と美しき恋人達の愛を合わせるとは‥‥。素晴しい! やはり天界人の発想たるや、メイの一歩いや万歩は先んじているといって過言では無いな。今回は私も馬連隊に参加し、身をもって学んだ事をメイの民に知らしめなければならないだろう。ああ、そして何れはメイも天界のような国に‥‥」
えーと、なんかドリーム入っているようなのですが、その辺は突っ込まないでおきましょう。
・何か一言どうぞ
「嗚呼、この名誉ある馬連隊に連なる御者と人足達が輝かしく見えるのは、私の目の錯覚ではあるまい。この馬連隊の進路を阻む者は、例えシルバーゴーレムですら灰燼と帰す運命にあるのだ! 万骨粉砕、大人しく大地の肥やしとなるがいい!!」
‥‥やっぱり、ドリーム入っているなぁ‥‥。
次は‥‥。
・お名前は?
「がーははははははははは!! ドワーフ鎧騎士!! ズドゲラデイン・ドデゲスデン(eb8300)じゃ!!」
また大味な人が来ましたねぇ‥‥。
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「がーははははははははは!! 馬連隊を率いて敵中突破! しかるのちに雪中行軍!! 天界の風習は実に剛毅! わしらメイ国人もうかうかしておれんからじゃ!!」
うーむ、何か根本的なところで間違っているような‥‥。
・何か一言どうぞ
「がーは(略)!! 気つけには酒類も効くのぢゃ。こんなこともあろうかとワインを買いだめしておいたのぢゃ。さあ、これをぐびぐびやりながらいくのぢゃ!!」
定番と言えば定番ですが‥‥その前に装備重量を確認してくださいね。
そして、最後の方。
・お名前は?
「天界人、悠木忍(ec1282)よ!」
・なぜ馬連隊に志願しましたか?
「おかしいわよこのイベント! バレンタインは製菓会社の陰謀であって、断じて命を賭けるようなモノでは無いわよ! ちょっと聞いてる皆ー!? いや出るけど。出るけど!」
えーと、ちょっと落ち着いてください。ほら、深呼吸、深呼吸。
・何か一言どうぞ
「いきなりファンタジーなトコに飛ばされてきたと思ったら、バレンタインが馬連隊! 正気かー!?」
いやぁー、考えたら負けですよ、こういのは。
私はもうあきらめました。
●いざ行かん馬連隊
さて。
馬連隊の行軍は遅々としたものである。まあ、歩くような速度で行くしかない。隊がでかいのもあるし荷物も重い。
そして何より、いざというときのために馬の体力を残しておかなければならないのだ。
隊の護衛は、15人のローテーションである。周囲を8人の冒険者が守り、それを馬に乗れる冒険者や前衛職が交代で行う。
道路は石畳で舗装されているが、それもリザベまで。各村落へは平原を行かねばならない。
ちなみに兵站や補給物資というと食料と燃料が主になりがちだが、馬社会であるこの世界ではもちろん馬草も重要な補給物資になる。これは通常、城塞などの拠点まで点々と集積所があり、それをトコロテンのように次の補給基地まで押し出すように輸送するのが普通だ。
ゆえに今回の馬連隊の補給物資は、それ以外の物品になる。主なところでは鉄や銅といった生活金属や、武器防具、来年の収穫のための種子類や、これが一番喜ばれるのだが『手紙』など。つまり厳密には『兵站』ではなく、『補給』や『補充』に属する物品類だ。
道中は、かなり危険なものになる。人間だけが襲撃者とは限らないこの世界では、モンスターも十分以上な脅威だ。
最初にその遭遇によって威名を挙げたのは、
烈と風門の華仙教大国コンビである。
「襲撃だー! ゴブリンの大群だー!!」
先頭の御者の声に反応した二人は、互いにうなずきあうと疾風のごとく走り始めた。
「なるほど、『大群』だ」
烈がうなる。乾いた雪原を埋め尽くすゴブリンの群れ。構成はゴブリンとホブゴブリンというところだろう。
そして、数が多すぎて雪原の白が見えない。
「黒が七分に、白が三分というところか」
風門が指をバキバキと鳴らしながら言った。
「おまえたちは行け、ここは俺たちが食い止める! 馬連隊万歳!!」
「おお、馬連隊万歳! カーっカカカカカ!!」
二人は吶喊していった。
二人の戦いは、熾烈を極めた。たとえば烈の戦いぶりを某作家のように文字にすると、こうなる。
殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。さらに殴った。
そして風門はこうだ。
斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。さらに斬った。(もう二度とやらない)
ゴブリンをほぼ殲滅し、二人は無事に帰ってきた。
「すご‥‥」
「確かに‥‥」
地球人の忍と試が、感心したことは言うまでもない。
その後も、適性集団の襲撃は細かく発生した。しかし練達の冒険者たちはそのことごとくを打ち破り、各村落や城塞、補給所などを訪れては、多数の感謝の言葉や贈り物をもらった。
ちなみにエリオスが所持していた大量のチョコレートだが、道中の村落で子供たちに配ったところ大変好評で、馬連隊行軍の半ばで消費しつくしてしまった。砂糖は結構貴重で、甘味料にはなかなか子供もありつけないのである。
シャーもなかなかに目立つ顔をしているので、人々の印象には残ったようだ。中原西方で『アゴのおじさん』というと彼のことを指すのだろう。
馬連隊は無事超最前線であるラケダイモンまで到達し、その荷物を全て吐き出した。
いよいよ、かき氷である。
●カオスの地へ続く山
峻険――その山々は、まさに難所の連続であった。烏丸女史が、馬連隊のついでに山登りを添付した理由を、冒険者たちは身体で実感した。
「正直、どうやってカオスニアンたちはこの山を恐獣コミで越えているんだろうね」
愛馬のユニコーンにまたがりながら、まるで毛玉のように着ぶくれしたレフェツィアが言った。登坂はユニコーン任せなので楽だが、身体を動かしてないと寒い。
「どこ、かに、抜け、道、でも、ある、んじゃ、ない、で、しょう、か――!?」
トリアが、足を滑らせた。それをルイスががっちりとつかんで留める。
「油断大敵ですよ」
キラキラキラ‥‥。何かが光っている。彼の歯かとも思ったが、実はダイヤモンドダストである。
「ルイスさん、手を出してください」
ファルが言う。ルイスのもう一方の手は、トリアを支えたときに岩をつかんで手袋ごとずたずたになっていた。傾(かぶ)くのもいいが、無理は禁物である。ファルはその手を、《リカバー》で治療する。
アルフォンスは体力と技能に物を言わせ、ぐいぐい進んでいた。
――かき氷、かき氷。
彼の脳内の80パーセントは、今お菓子のことでいっぱいである。アッシュがその様子を、生暖かくみている。
ここまでの記録を読んで読者諸賢は気づいたかもしれないが、カオスニアンはこの山を大型恐獣を伴って超えているのである。カオスニアン自体は確かに強靱でずば抜けた身体能力を持っているかもしれないが、恐獣はしょせんトカゲの延長の生物である。彼らを使役する手段をカオスニアンが持っているとしても、限界はあるはずだ。
そして練達の冒険者でも、シェルパのサポートなしでは、この登坂を完遂できないのも事実。ならば、カオスニアンには何か特別な手段があるのであろう。
「前方、異常なしじゃ」
トシナミが、偵察から帰ってきた。シフールの彼だけは、不整地もなんのそのである。ただし突風がたまに来るので、それには注意しなければならない。
――恐らくこの辺りから、体力的に困難な者が出てくるはずだ。メイの騎士の末席として、倒れ行く仲間を見捨てる事など出来ない。誰一人欠ける事なく、頂点まで辿りつかねば! さぁ、私の手を取れ!‥‥重っ!(手をパッ) 許せ、私の命は私だけの物ではないのだ‥‥。ああ、これが夢にまで見たちょこれいと‥‥そう、今こそ彼女へ愛の言葉を‥‥グフッ!(吐血) こ、ここまでか‥‥。
「ジャスティン、何をぶつぶつ言っておるのだ」
ズドゲラデインが、何かうつろな目をしてつぶやいているジャスティンに向かって言った。ジャスティンはどうも、変な世界に行っているみたいである。
実に数日かけて、冒険者たちは登坂に成功した。眼下には『カオスの地』と呼ばれる領域が広がっている。それなりに広大で、一見普通の土地に見えた。『カオスの地』などと言うから、真っ黒な大地を想像していたのだ。
が、違う場所もある。はるか霞の彼方に見える黒い染み。
「あれが、『カオスの穴』か?」
誰かが言った。そう、遙か彼方でぼやけているが、確かに大地にインクをこぼしたような、黒い染みがあるのだ。『カオスの穴』がどれほどの大きさかは分からないが、少なくとも浸食された周囲の空間は、そこが『別世界』であることを主張していた。
「恐い‥‥」
レフェツィアが言う。他の者も、何か見てはいけないものを見たような気分になっていた。
闇は、そこにわだかまっている。
●かき氷
「さて、目的を果たそう」
アルフォンスが、現実に意識を引き戻した。そう、チョコレートシロップかき氷。彼らはそれを食べにきたのだ。
その辺の雪を砕き、シャーベット状になるまでシャクシャクとナイフでかき混ぜる。そしてそこに、湯煎で適度に暖め溶かしたチョコシロップをかけた。
「「「「「「いっただっきま〜〜す!!」」」」」
ぱく。
き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
全員が、こめかみを押さえていた。そりゃあ、この厳寒の地でかき氷である。言葉が出なくなるような頭痛に襲撃されてもしょうがないだろう。
まあ、全員完食したけど!!
ともあれ目的を達し、一同は脱落者も出さずに帰投した。
その後、どうやらアルフォンスが京子に告たらしい。
「烏丸殿、次には『ほわいとでー』なるイベントを企画していただきたい。何やらまたしても菓子が絡む風習らしいゆえ」
「「「「「「おおおおおおおいっ!!!」」」」」」
全員から総突っ込みが入ったことは言うまでもない。
【おわり】