ガチンコ! 茶鬼退治!――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月15日〜07月23日

リプレイ公開日:2004年07月26日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

「東国のとある村が、茶鬼に占拠されたわ」
 艶やかしい黒髪の、冒険者ギルドの女番頭が、キセルをくゆらせながら言った。
「江戸から東に三日ほどの場所。川沿いにあるきこりの村なんだけどね。そこが茶鬼の集団に襲われたらしいの」
 茶鬼とは洋名ホブゴブリンという、人間サイズのオークである。頭は悪いが膂力が強く、素人ではまず太刀打ちできない。
「逃げてきた村人の話によると、茶鬼の数は20あまり。束ねているのは、ふた周りも大きな茶鬼の戦士らしいわ」
 女番頭が言う。
「すでに現地では、相当な被害が出ているそうよ。貴方たちの任務は、この茶鬼の一団の殲滅。血の代償を支払わせることよ。恐怖を刻み込ませてちょうだい」
 タン。
 そしていつものように、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がった。
「頼んだわよ」

【村の地理】
 村は東西に街道、南北に川が流れていて、4つの区画に分かれています。
A:北西:住居:ホブゴブリンが占拠しているのはここ。
B:南西:畑:ホブゴブリンに荒らされているらしい。
C:北東:山:きこりが篭ってホブゴブリンに抵抗している。
D:南東:荒地:未耕作の平地。何も無いので見晴らしは良い。

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea0901 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1050 岩倉 実篤(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3535 由加 紀(33歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4068 常 緑樹(31歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●強敵、ホブゴブリン
 東洋で茶鬼と言えば、西洋ではホブゴブリンと呼ばれるゴブリンの上位種である。ゴブリンの集団が居れば必ず2、3匹は紛れ込んでいる力の強いゴブリンで、ゴブリンにとっては有能な用心棒、ホブゴブリンにとっては餌を手に入れてくる使いっ走りとして、奇妙な共生関係を築いている。
 ホブゴブリンは、冒険初心者にはやや荷が勝ちすぎる相手と言える。頭脳は猿並みだが膂力は強く、その棍棒の一撃は侮れない。真っ向から戦ったら、新米冒険者では遅れをとる事もあるだろう。
 そんなホブゴブリンの中にも、さらに上位種と呼ばれる種類がいる。ジャパンでは『茶鬼戦士』と呼ばれるホブゴブリンで、体格は通常のホブゴブリンよりもそれほど変わらないが、戦闘能力が高い。新米とは言えない冒険者でも真っ向から戦うのは大変リスキーで、できれば罠などにかけて戦闘を回避したい相手だ。
 茶鬼戦士はそうそういるわけではなく、数十匹に一匹というような割合でしか存在しない。それが幸いと言えば幸いだが、そいつに直面する事は災厄以外の何者でもない。
 そして今回襲われた村は、まさしく災厄に見舞われたのと同じ状態であった。

 今回、この茶鬼戦士の率いる一団の殲滅に乗り出した冒険者は、次の10名。

 華仙教大国出身。ジャイアントの武道家、風月皇鬼(ea0023)。
 ジャパン出身。人間の忍者、大宗院透(ea0050)。
 ジャパン出身。人間の志士、藤原雷太(ea0366)。
 ジャパン出身。人間の浪人、壬生天矢(ea0841)。
 ジャパン出身。人間の志士、御蔵忠司(ea0901)。
 ジャパン出身。人間の浪人、岩倉実篤(ea1050)。
 ジャパン出身。人間のくノ一、美芳野ひなた(ea1856)。
 ジャパン出身。パラのくノ一、由加紀(ea3535)。
 ジャパン出身。人間の浪人、白銀剣次郎(ea3667)。
 華仙教大国出身。エルフの武道家、常緑樹(ea4068)。

 以上である。
 一個の戦闘集団として見た場合、通常ならば十分な戦闘力を持っていると言えるが、相手の数は倍。そして攻め手はこちらがわであることを考えると、状況はあまり良くは無い。こういう場合は奇襲奇策で状況を有利にひっくり返すしかないが、戦況を判断すべき情報も少ない。
 そこで、忍者の出番である。大宗院透、美芳野ひなた、由加紀の3人は、村の家屋のある区画、つまり茶鬼が支配している区画に忍び込んだ。生存者の有無と状況の偵察、情報収集に破壊工作。忍者のできること、すべきことはたくさんある。
「忍者は3人じゃ‥‥」
 女装した透が、何か物憂げに言う。しかしひなたと紀は、その駄洒落に気づいてくれなかったようだ。
「ひなた、そこ、あぶない」
「きゃ!」
 どんがらがっしゃん。
 紀が言った。一見何も無さそうだが、そこでひなたがコケたのだ。
「ゴフ?」
 ホブゴブリンが、その気配に気づいた。気配というより物理的騒音だが。
「散‥‥」
 透の声に、3人がそれぞれ身をひるがえす。それぞれ得物を取り、物陰に身を潜ませた。透は<土遁の術>の使用も考えたが、ここは踏みならされた固い地面である。ちょっと無理があった。ひなたは両手で口を押さえ、紀はいつでもガマを呼び出せる体勢を整えている。
「ゴブゴブゴブ〜!」
 別のホブゴブリンの声がする。どうやら、こちらに向かってきたホブゴブリンを呼んでいるようだ。
 ホブゴブリンはその声に呼ばれて、去っていった。人間の歩哨ならば、懲罰ものである。
『ごめん〜!!』
 ひなたが、申し訳なさそうな顔で両手を合わせる。彼女は方向音痴で、なおかつ何も無い所でよく転ぶ。忍者とは思えない。
 がんばり屋ではあるが。
「偵察、済ます、みな、安心」
 てにをはを抜いた独特の物言いで、紀が言う。
 一行はそのまま物陰を渡り歩き、ホブゴブリンに占拠された村の偵察を行った。

●作戦会議in山の中
「あのねあのね〜茶鬼さんは村長さんの家を根城にしててね〜、見張りは――」
 ひなたが、身振り手振りつきで、冒険者仲間と猟師、きこりたちに、ホブゴブリンの状況を説明する。
 ここは村の北東、村人が立てこもっている山の中である。冒険者一行はホブゴブリンのいる場所を迂回し、まずは村人の安全を確保する行動に出た。
 村人は山深く分け入り、洞窟を住処にしていた。どうやら、戦の時の避難所として用意されている場所らしい。食料も水もそこそこ備蓄があり、当面の安全もなんとか請け負えるような状態だ。
 ただ、村人たちだけではにっちもさっちも行かないのは変わらないわけで、冒険者による根本的な事件の解決無しでは、状況は動かない。
「村人は全員避難できたのか?」
 風月皇鬼が、村長に問う。
「全員というわけにはいきませんでしたが、生きている者は全員だと思います」
 茶鬼に占拠された村の村長は、憔悴しきった態で皇鬼に答えた。聞けば、村長の奥さんも行方不明なのだそうである。他にも、鬱々とした表情の村人がいる。数字での被害はたいしたものではないが、精神的なダメージをそんなもので計ることはできない。
 ばしん! と、皇鬼がこぶしを鳴らした。いささか、腹に据えかねているようである。
「偵察が終わったのなら、さっそく行くでござる。もしかしたら、生存者がいるかもしれんでござろう?」
 藤原雷太が言った。腹に据えかねているのは、彼も同じようだった。
「三下がいい気になりやがって‥‥覚悟しやがれ」
 壬生天矢が意気をあげた。一見クールに見える彼は、その実かなりの熱血漢である。
「とりあえず、敵と生存者の探索は任せて下さい。俺には神皇家から下賜された精霊魔法<ブレスセンサー>があります」
 御蔵忠司が言う。彼の忠誠心は神皇家に向いており、侍や浪人とは折が悪いが、それとこの任務は別物だ。許せないものは許せない。ごく単純な話である。
「数が多いのが難点だが‥‥奇襲を行えばなんとかなるだろう。幸い敵は油断しており、配置もばらばらだ。ただ奪うだけ、食らうだけ。獣以下だな、連中は」
 岩倉実篤が、あごに手をやりながら言う。
「きこりと猟師のみんなは、我々の指示に従って村人を守ってくれ。なに、任せておけ。村はきっちり取り返してやるからな」
 白銀剣次郎が、村人に確約した。力づけるのが目的だったが、思いのほか効果的だったようだ。剣次郎たちを拝むものまでいる。
「行こう。これから山を降りると、戦闘は夕方になる。時間が経てば経つほど、こっちが不利になるよ」
 常緑樹が言った。冒険者一行が、立ち上がった。

●茶鬼退治
 冒険者が村の外縁に着いたのは、夕暮れより少し早い時間だった。狩人の一人が道案内をかって出て、普段人の通らない獣道を案内してくれたのである。
 道は険しかったが、大幅に時間を節約できた。それだけ敵に発見される恐れも減り、奇襲の価値も上がる。村人は事件の早期解決を欲しており、事態は実に深刻の一語につきた。
 ひなたや透、紀が先行し、村へと侵入する。できるだけ素早く、できるだけすみやかに、敵を各個撃破しなければならない。敵は冒険者よりも、数が多いのだ。数で圧されると、状況はかなり厄介なことになる。
 ――こっちです。
 無言のまま、ひなたの手合図で冒険者たちが進む。その手が、急に制止の合図になった。辻の向こうから、茶鬼の声が聞こえてくる。
 押すか? 引くか?
「やろう」
 剣次郎が言う。どうせ敵は殲滅するつもりなのである。事ここに至っては、もはや選択の余地など無い。
「じゃあ、先手は僕からいくね」
 緑樹が言う。そして呼吸を整え、気を張った。オーラ魔法<オーラパワー>である。ホブゴブリンは、何も気づく様子も無く、近づいてくる。
 一同は、いっせいに路地に飛び出した。そこには5匹のホブゴブリンが居た。酒を飲んでいるらしく、したたかに酩酊しているようである。
「破!」
 緑樹の拳が撃ち放たれた。
 戦闘開始だった。

●茶鬼戦士
 茶鬼戦士は、状況の変化に追いつけずにいた。
 ――どうやら、部下が何者かに襲われているらしい。
 肌で感じる雰囲気が、そう告げている。
 しかし具体的な対策は立てられずにいる。力は強くとも、脳みそは蟻の触覚の先っちょほどしか無いのがホブゴブリンだ。自分を愚かだと感じる感性すら無いので、単純に力に物を言わせることしか出来ない。
 だから彼が出した結論は、至極単純だった。
 ――侵入者を、ぶっ殺す。
 茶鬼戦士は愛用のごつい棍棒を持つと、そばで寝ていた茶鬼をたたき起こし、侵入者の始末に乗り出そうとした。
「助けてくれぇ〜!(オーガ語)」
 そこに、血だらけのホブゴブリンが駆け込んできた。
 ずぞん!
「ぎゃあっ!!」
 何も無いのに、そのホブゴブリンの足が切れる。ホブゴブリンはもんどりうって倒れこみ、さらに巨大なヒキガエルがそれを潰した。忠司の精霊魔法<ウインドスラッシュ>と紀の忍法<大ガマの術>である。そして剣戟の音を響かせながら、3匹のホブゴブリンと冒険者一行が、その場になだれ込んで来た。
「茶鬼の親分‥‥」
 透が言う。
「よぉし! 今ぶん殴ってやるから覚悟しやがれ!」
 天矢が戦列から、前に飛び出した。そして起き抜けのホブゴブリンとホブゴブリン戦士に向かって剣を振る。
 ごっ。
 剣圧が開放され、一気に爆発する。<ソードボンバー>である。
「ホブゴブー!!」
 起き抜けのホブゴブリンが吹っ飛ばされる。しかし。
 ぶん!
「うわっと!」
 茶鬼戦士はこゆるぎ程度しかしていなかった。そして反撃に転じたのである。振り回しの大きな攻撃が、天矢を狙った。
 ガキン!
 それを天矢は、刀で受ける。手ごたえは重く鋭く、自分と同じぐらいかそれ以上の技量を感じさせた。伊達に茶鬼のボスをやっているわけではないようだ。
「いい加減に死ね!」
 <ストライクEX>の拳撃で茶鬼を葬り、剣次郎が茶鬼戦士へと肉薄する。右手の金属拳がうなりを上げて、茶鬼戦士に叩き込まれる。
 がすっ。
 茶鬼戦士が、それを武器で受けた。殴った感触は、固く重い。
「油断する‥‥死ぬ‥‥」
 紀が言い、大ガマを茶鬼戦士と二人の間に割り込ませた。
 茶鬼戦士は、ガマをぶん殴った。ガマの胴が、風船のようにはじける。すごい威力だ。人間の頭など、一気に吹っ飛んでしまうだろう。
 ガマを倒され、紀が泣きそうな顔になった。紀はガマが大好きなのだ。
「がんばれー、おにいちゃんたちー!」
 ひなたが向こうで応援している。
 チン。
 実篤の<ブラインドアタック>が、茶鬼の一匹を始末した。不可避の攻撃を腹に受け、茶鬼は内臓をぶちまけた。
「今行く!」
 実篤が叫ぶ。しかしその進路を、他の茶鬼が邪魔をする。
「せやっ!」
「ギャン!」
 飛び出した勢いのまま、実篤が<スタンアタック>を放った。首筋を打たれ、茶鬼が昏倒する。
 皇鬼と緑樹の武道家コンビは、他のホブゴブリンと戦っていた。殲滅のつもりで、<ストライク>を連発する。内臓に深い傷を負い、ホブゴブリンたちが次々と倒れてゆく。
 残るはいよいよ、茶鬼戦士のみとなった。茶鬼戦士は<スマッシュ>を仕掛けてくる。当たりは悪いが一撃はでかい。防戦を考えずひたすら攻撃を加える。
 だが、力尽きたのは当然茶鬼戦士であった。正味7人からの集中攻撃を受けて、無事でいられるはずが無いのだ。
 チン。
 最後を飾ったのは、実篤の<ブラインドアタック>であった。茶鬼戦士はゆっくりと、倒れていった。

●さらば冒険者たち
 村は取り返された。茶鬼たちによってあらされてはいたが、再建は可能であろう。
 村長は冒険者たちに厚く例を言い、残されたものでささやかなねぎらいの宴の席を設けると、村の再建に向かって行動を始めた。
 冒険者ができることはした。後は彼らしだいである。
 冒険者たちは礼金を受け取り、そして江戸へと戻っていった。

【おわり】