ゴーレム強奪
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月01日〜04月06日
リプレイ公開日:2007年04月10日
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●オープニング
●東方ゴーレム事情
東方世界のゴーレム事情は、かなり複雑な様相を呈している。
メイの国はたった一人の天才、カルロ・プレビシオンによってゴーレム開発の指揮が執られ、足りない分の頭脳は冒険者や天界人で補っている。
同盟国ジェトの国は恐獣兵団が充実しているため、ゴーレム開発にはあまり力を入れていない。現在はウィルの国からバガン級ストーンゴーレムやグラシュテ級アイアンゴーレムを購入して装備しているらしく、それに見合ったフロートシップも輸入しているようだ。ただ恐獣兵団には有効な航空兵力である『プテラノドン強襲隊』などがあり、ゴーレムグライダーやフロートチャリオットについてはあまり拡充の意思は無いようである。
むしろ最近は、『個人用装備の新機軸ゴーレム兵器』というものの導入を検討しているらしく、その開発国であるヒの国との国交が頻繁なようだ。
そして、かなり不透明なのがバの国である。すでに実用レベルのシルバーゴーレムを開発し、さらに天界の技術であるテルミット自焼装置まで組み込んであった。もっともこれは試作品の機密保持のために使われたものらしく、つまりまだ量産にまでは至っていないようである。
しかし、それは『量産されていない』というだけで、かなり完成に近い状態にあると言える。
メイの国の諜報機関が、無能なわけではない。ただこの手の暗闘については、相手のほうが上手だということだ。
●試作カッパーゴーレム《サイサリス》強奪!!
警鐘が鳴り響いたのは、某日未明である。ゴーレム工房特秘試作室――通称『工房長の趣味の部屋』から破砕音が響き、そこから異形のゴーレムが姿を表したのだ。
形状は、重カッパーゴーレム《オルトロス》に似ている。特徴的なのは背面部に装備された翼状器物で、ゴーレムの動きに合わせて稼働しバランスを取っているようだった。そのためか、重量級ゴーレムとは思えないほど機敏な動きをしている。移動力が無いのは仕方がないが、定置回避能力――つまりかわし身については、《オルトロス》より上のように見えた。
そして驚くべき事に、そのゴーレムにはアトランティスに絶対に無いものが装備されていた。
右肩に、巨大な大砲のようなものが付いていたのである。
◆◆◆
「報告せよ!」
メイディアの王宮で、夜着姿のステライド王は家臣に向かって叫んでいた。
「ジ・オンです! バの国の鎧騎士団、ジ・オンが襲撃してきました!」
騎士の一人が、駆け込んできて報告した。
「何っ! ジ・オンの侵入を許したのか! 警備隊は何をしていた!」
「報告します!」
別の騎士が、続報を持ってきた。
「敵は《精霊殻》装備の、カッパーゴーレム2号騎を強奪! 現在西方に向けて逃走中です!」
「欺瞞情報だ! ゴーレムで陸路を逃げ切ることは出来ん! 直ちに調査隊を編成しろ! しかし‥‥《精霊殻》装備の2号騎を奪取するとは‥‥どこから情報が漏れたのだ‥‥」
●緊急依頼
「一度しか言わないから確実に聞いてちょうだい」
寝間着姿の烏丸京子が、とりあえず集まっただけの冒険者に向かって言った。
「敵はバの国の鎧騎士団《ジ・オン》。バの言葉で『ジオ・ ガルの栄光』っていう意味みたい。強奪されたのは、工房が極秘に開発していたカッパーゴーレム《サイサリス》。花の名前ね。このゴーレムはある特種な目的のために製作されたゴーレムで、単機能で量産の予定も無いわ。ただし、その『単機能』っていうのが問題なのよね」
京子が言う。
「マジックアイテムには、時々キ印なものがあるのはみんな知っているわよね? ジ・アースにも、国一つをえぐって消滅させて、湖にしちゃった『メギドの火』っていう超兵器があったわ。そして、アトランティスにも『そういうの』がいくつかあるのよ。そのうちの一つが、《精霊殻》と呼ばれる魔導体。大きさはシフールぐらいの大きさの球状で、精霊力を凝縮して作られたものらしいわ。本当は高度な精霊魔法や魔法装置の制御に使用するものらしいんだけど、それを破壊すると凝縮された精霊力が解放されて、大爆発を起こすらしいの。まあ、軽く町一つぐらいは無くなるみたいね」
天界人の中からは、「核弾頭じゃねーか!!」と声があがった。
「まあ、その『カクヘイキ』ってヤツと道義と考えていいわ。問題は、それを射出する射出装置と、それを使用できるゴーレムが奪取されたこと。メイディアにそれが向けられたら、被害がどれぐらい出るか想像もつかないわ。あたしたちの任務は、奪取された《精霊殻》とカッパーゴーレム2号騎を無傷で取り返すこと。ただし、それが出来ない場合は破壊もやむなしだそうよ。とにかく急いで隊を編成し、追跡を開始してちょうだい! これが《サイサリス》の外見図面よ」
その図を見た者の中から、数名が飲み物を吹いた。
額のVアンテナにデュアルカメラ(のようなもの)。フリッツヘルメットをかぶったようなその顔は、チキュウのジャパニメーションデは極めて有名な顔立ちで、そして全身の配色は派手なトリコロールだったのである。
誰もが思った。
――誰かが、携帯電話かなにかの動画機能で、カルロ工房長に『アレ』を見せたな?
その姿は、まがう事なきガ○ダムだったのである。
●リプレイ本文
ゴーレム強奪
●《サイサリス》強奪
技術者が、少なからず『マッドエンジニア』っぽい部分を持っているのは、読者諸賢ならば想像に難くないであろう。
それに『オタク』が加わったとき、恐ろしい物が生まれることがある。今回強奪された《サイサリス》がまさにそれだ。
《精霊殻》というアーティファクトは、天界にもアトランティスにもそうそうあるものではない。ただそれを使用した器物や魔法装置の類がもたらした『効果の跡』というのは各所に残っていて、天界には国が丸ごと一個消滅し湖になっているという場所もある。
暴走の末にもたらした被害がそれならば、ただ破壊し凝集された力を解放するだけでもかなりの威力となるだろう。この辺は効率的に使用される核弾頭と、ただ核反応を起こしただけの核物質の違いだ。臨界まで達した精霊殻が激発した場合、周囲200キロメートルは消滅すると考えていい。これはサミアド砂漠全周に匹敵する破壊力である。
今回の場合は、そういうわけではない。せいぜい20キロメートルも吹っ飛べばいいほうだろう。そういう意味では、まだ『未完成』の状態で強奪されたのは幸いと言える。
「未完成なの?」
と、冷静にそこにツッコミを入れたのは、エルシード・カペアドール(eb4395)である。今回、試作1号騎《ゼフィランサス》の搭乗を許可された鎧騎士だ。
「本来《精霊殻》は、強力な魔法の発動体として機能する器物です。単純に破壊しても強烈な破壊力を発揮しますが、その本当の目的はゴーレムに搭載してゴーレムおよび精霊砲の制御・動力源とすることにあります」
ゴーレムが周囲の精霊力を吸収して稼働するのは、周知の事実である。無論近くにゴーレム器機がある場合精霊力の奪い合いになり、十全な稼働状況で居られる場合は少ない。
しかし、精霊殻のようなエネルギー源があれば話は変わってくる。人間が制御できるかどうかは別にして、ゴーレムの性能を飛躍的に向上させるはずだ。
もっとも、その力を取り出し制御する技術は、さすがのカルロにもまだ無い。ゆえにとりあえず銀玉鉄砲と同じ発射システムを搭載し、とりあえず形にしただけという代物である。
「未完成で幸いだわ‥‥」
殺陣静(eb4434)が、冷たく言う。これだからマッドエンジニアは、というような口ぶりだ。
ただ、カルロの考えは分からなくもない。カルロはサミアド砂漠や、なんとなればカオスの穴の物理的消滅の方法を模索していたわけだ。アトランティス人たちにとってはこの世界を左右する命題であり、そして可能なら『なんとかしたいこと』である。
カッ!!
そのとき、前方から稲妻が立ち昇った。仲間の合図だった。
「総員搭乗!」
エルシードが言い、自分もゼフィランサスに乗り込む。
朝靄の中、追跡戦が始まった。
●『鮫の牙』海岸
ひゅごう!
強烈な風切り音が、アリオス・エルスリード(ea0439)の真横を通り過ぎていった。
――今のはやばかった!
搭乗しているグリフォンがいななきをあげるが、それを抑え込んでダイブさせる。視界に映るのは、クロスボウを装備したバグナ級ゴーレムが3騎!!
「何の準備もしていないとは思わなかったが、これで分かった。敵は『本気』だ」
ペガサスに乗ったランディ・マクファーレン(ea1702)が、アリオスに言う。彼らは待ちかまえていたバグナに強襲され、足止めを食っていたのだった。
敵が『本気』だというのは、その布陣である。サイサリスは戦闘能力を持つが、元より奪取が目的ならば、まともに戦闘にくわわれないかもしれない。ならば足止め部隊が展開されていると思われたが、その通りだったからだ。
つまり、彼らの目的は2号騎の確保。そのための死兵が彼らバグナ部隊である。
鮫の牙のように石柱が屹立したこの海岸は、地上探索の効率は悪い。ゆえに空からの探索を試みた彼らであったが、飛び道具持ちのバグナに進行を阻害されているのだ。
――あとは、フラガのグライダーが間に合えば‥‥。
ランディが思う。
その頃、フラガ・ラック(eb4532)は単機、2号騎の追跡を行っていた。
●俺を踏み台にした!!
メイの国のゴーレム部隊は、二手に分かれた。稲妻のあった方向に、ゼフィランサスのエルシードと弓を装備した《カークラン》のジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)、《オルトロス》のフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)の3騎。そして《モナルコス》に乗ったエリオス・クレイド(eb7875)とシャノン・マルパス(eb8162)、そして《バガン》に乗った白金銀(eb8388)である。
前者の部隊の任務は、もちろんサイサリスの確保。後者の部隊の任務は、敵回収部隊の撃破であった。
――運動性は2割増し、反応速度は〇・五秒ほど速くなったかな。
エルシードが、ゼフィランサスを評価する。カッパーゴーレムとしては良くできている。
『先行するわ。後詰めをよろしく』
拡声器でそう言って、ゼフィランサスが跳躍した。背面のゴーレム機関(なぜかセ○サターンによく似ていた)を稼働させ、自重を軽減させてジャンプする。跳躍のたびにごっそり精神力が削られてゆくが、気にしている場合ではない。
びゅん!!
風切り音を感じて、エルシードは跳躍をやめた。そして石柱に身を隠し、背面に装備されている長剣を抜く。
ガツ! ガツ!
石柱に、矢弾の当たる音がする。どうやら相手は、こちらの動きを把握しているらしい。
どひゅん!
その横を、別の風切り音が突き抜けていった。ジャクリーンのカークランが放った矢である。狙いは逸れたが、隙は出来た。
「や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
さらに、フィオレンティナがオルトロスの重装甲の物を言わせて突っ込む。矢弾が数発当たったが、それでガタがくるほどオルトロスはやわではない。
同時に、エルシードが跳躍した。ゴーレムは、上下からの攻撃をあまり想定していない。またフィオレンティナの吶喊に気を取られて、バグナ級はゼフィランサスの挙動に対応が遅れた。
がっ!
バグナの頭を踏んで、ゼフィランサスが跳躍した。一瞬アリオスやランディと高さが並び、そして戦線を突破する。
急ぐのには、理由があった。相手の行動は、明らかに時間稼ぎだったからだ。
◆◆◆
――こんな深くまで敵の侵入を許すとは!
フラガは、バリスタなどの矢を回避しながら、敵母艦らしきフロートシップの周囲を旋回していた。
敵はこの『鮫の牙』の地形をかなり把握しているようで、小型のフロートシップがギリギリ着底できる場所をしっかり確保していた。
敵のバグナ級は、おそらくこの船から出たものだろう。ならば、ここに2号騎も来るはずである。
――ズン、ズン。
重い足音が響いてきた。足音の重さから、かなりの大型ゴーレムと推察できる。
――間に合わなかったか!!
敵の作戦は周到で、即席部隊である自分たちに分があるとは思っていなかった。しかし、モノがものだけに、敵の脱出を見過ごすわけにはいかない。
フラガが特攻を決意したその瞬間、ガキン! という刃音がして、霧の中に火花が散った。
エリオスらのストーンゴーレム部隊が、間に合ったのである。
●サイサリスの脅威
――恨むぜカルロ工房長、こいつは出来が『良すぎる』。
不意打ちの一撃をあっさり防がれ、エリオスは歯噛みした。
素で3枚のシールドを持つサイサリスの防御力は、文字通り鉄壁であった。精霊殻の暴発に耐えようというものである。それぐらいの防御力は、当然と言える。
『メイの国の鎧騎士か』
風信器から、男の声が入った。
「メイの国の鎧騎士、エリオス・クレイドだ」
『ふん、不意打ちがメイの国の流儀か? 天界の文化にかぶれおって。騎士として恥を知れ!』
サイサリスが、足を踏み込んだ。しかし、それはフェイントだった。受けに回ったエリオスの防備の隙を縫って、サイサリスの剣がモナルコスの膝を切断した。
がっしゃーん!
モナルコスが転倒する。
「くそっ!」
擱坐したモナルコスの中で、エリオスがうめいた。
『私を相手にするには、貴様はまだ、未熟!!』
『ならば私が相手だ、《ジ・オン》の亡霊』
シャノンのモナルコスが、サイサリスと敵フロートシップとの間に割って入った。さらに向こうには、銀のバガンがフロートシップに攻撃を仕掛けている。
『ほう、多少は礼儀を知る者が居たか』
サイサリスの鎧騎士が言う。
『しかし――女ではな!』
2号騎の左肩のシールドソードと、右手の剣が同時に繰り出されてきた。シャノンはかわしきれず、モナルコスは痛打を被った。しかし果敢に2合打ち合い、そしてたった2合でやはり戦闘不能にされた。
――強すぎる!
シャノンが思う。相手の性能もそうだが、地力が違いすぎる。ストーンゴーレムで、なんとかなる相手ではなかった。銀のバガンも1行足らずで撃砕され、2号騎奪取は成ったかに見えた。
が。
浮上した敵のフロートシップに、ゼフィランサスが取り付いた。その優れた跳躍力を、最大限に活かしたのだ。
――動力器さえ潰せば!
消耗し、もうろうとしかけた意識で、エルシードはゼフィランサスに剣を振るわせた。それは船の動力器を直撃し、船は転覆するように『鮫の牙』に突き刺さった。
『ぬぅっ! 2度ならず3度まで!!』
風信器から、男の声が入る。サイサリスは、バラバラになる船体から飛び出していた。
『忘れるな! 我ら《ジ・オン》の中興を阻む者は、必ずこの私に打倒されるのだということを!』
サイサリスが、逃亡する。
ゼフィランサスの中で、エルシードは気を失っていた。
●サイサリス逃亡
試作ゴーレム2号騎奪還はならなかった。
しかし、国外への脱出は阻止した。結果的に巨大な爆弾を抱え込むことになったが、最悪の結果は避けられたのである。
試作ゴーレム1号騎については、ランドセルの使用による精霊力の過剰消費が課題となって残された。
「現在、敵の行方を全力で捜索しています」
カルロが、皆に言った。
「発見次第、また依頼を頒布することになるでしょう。1号騎は、それまでに出来るだけの改良をしておきます。とにかく、皆さんは休養してください」
どうやら、物語はまだまだ続きそうである。
【おわり】