メイの国ブレイク工業
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月08日〜04月13日
リプレイ公開日:2007年04月13日
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●オープニング
●発足! 『メイの国ブレイク工業』!!
地球の天界人がもたらしたものは、知識や技術だけではない。その中には様々な『文化』も含まれ、芸術や生活にわりと多大な影響を与えていた。
特にアトランティス人の目――ではなく耳を惹いたのは、『音楽』である。80’sテクノミュージックやユーロビートなどを始めとする『人工音源』を用いた音楽は、「Noisy!(うるさい!」と言われる一方で奇抜な音響とリズムに魅了される人も存在し、そしてある楽曲が一つの『成果』――と言っていいのか分からないが、動きをもたらした。
その曲の名は、『日本ブレイク工業社歌――ユーロビートバージョン』である(はい、もうオチは読めましたね?)。
その音楽に、いたく感動し影響されたバカ――もとい、ジャイアントが一人。
「これぞ我が使命! 我が宿命!」
仮面魔術師、ゼット(偽名)である。
彼は『カンパニー』の概念を天界人から聞き入れ、破壊活動専門の『会社(多分メイの国初)』を立ち上げた。
その名は、『メイの国ブレイク工業』――。
いや、世間一般で言う『破壊活動』が、普通は秘匿事項なんだけど、『そういうこと』に気づかないのは彼の人徳であろう。
まあ、早晩潰れるだろうと思われたこの『メイの国ブレイク工業』なのだが、意外なことに繁盛していた。腐ってもなんとやら。こと『広域破壊活動』において、ゼット氏ほどの適任者は、まずもって他に居ないからだ。
なら、仕事の内容はどうなのか?
メイの国には、巨大なビルも鉄骨の橋も無い。そもそも『解体業者』が必要なコンストラクチャーなど存在しない。石造りの建築物は、大事に使えば4〜5000年は持つのである(マジ)。
では、何を『ブレイク』しているのだろうか?
「まあ、いつかはこんなことになるとは思っていたんだけど」
と、烏丸京子女史は言う。
「メイディア北方、セルナー領の某山地には、ドワーフの穴居民族がいるのよね。で、今回ゼットさんはそこを『ブレイク』しに行っているのよ」
死――――――――――――――――――――――――――――――――――――ん。
そのとき、冒険者ギルドに集まった冒険者たちは、ほぼ同じ光景を幻視していた。暴れるゼット。逃げまどうドワーフ。崩れる洞窟、崩落する断崖。
そして、最後には山ごと粉砕されるドワーフの山(仮称)。
まさに死屍累々。阿鼻叫喚のちまたである。民族単位の殺戮を可能にする手段が、『あの』ゼット氏にはある。
――なんでそんなことに?
冒険者の一人が、京子に問うた。
「うーん、実はゼットさん、春になって出てくる大型鳥獣被害を未然に防ぐ仕事をしていたのよね」
春になると、地下に眠っていた生物や『なんかいろいろ』が出てくる。今回の『本当の依頼』は、ジャイアントアントの巣を丸ごと粉砕するという大味な仕事だったのだが、依頼書を確認した事務員(実は居た)が確認したところ、ゼットは『依頼人である穴居人の住居の地図を持って出ていった』ことが判明したのである。
これが天界で相手がゴ○ゴ13ならば、依頼ルートを通じて『オーダーストップ』をかければ止まってくれるが、『そんなことに期待した者は一人もいない』。
少なくとも、春先になってからの依頼完遂率は140パーセント。余分な40パーセントは、巻き添えになって地図から消滅した森林や山などである。
「カテゴリがモンスター退治だから、ゼットさんは『それなりの』行動を取っていると思うわ。つまり、敵に回ったらやっかいなあの『人間核弾頭』を、広大な北方平原で捕捉し、制止しなきゃならないのよ。万が一不意を打たれたら、そこでジ・エンド。民族が一つ無くなるわね」
荒唐無稽なことが、事実として迫ってくる感触を冒険者は感じていた。つまり、過去の諸々の作戦で隠密行動からの破壊活動をことごとく完遂してきた『あの』ゼットを、敵性対象として阻止しなければならないのである。まだしも、ナイフ1本でシルバーゴーレムに立ち向かったほうが勝算がありそうな気がする。
もっとも、『そういうことが出来ること』を彼に『教育』したのは冒険者である。まあ、責任を取って死んできてもらいたい。
●リプレイ本文
メイの国ブレイク工業
●世の中想定外ってあるよね
『メイの国ブレイク工業』が発足し早数日。奇妙な状況というか、冗談のような展開が冒険者たちを待っていた。
『巨大生物災害』マスクド・ゼットマンによる『事故』の発生。
いや、まだ実害は無いから、事故にはなっていないとは思う。思うがしかし、城塞を2行でつぶせる人物を『災害』と言わずして、なんと言おうか?
魔法使いが本気を出せば、『災害のひとつや二つ』というのは、本当である。今居る冒険者にだって、似たような事が可能な者は居るのだ。森を焼き払い山を消滅させ、天候を操り雷を放つ。ゴーレムだって強力な魔法器物だが、それは『数多くの鎧騎士に使用可能な力』であって、汎用性はともかく災害を引き起こすレベルではない。
が、ゼットは違う。彼が本気になれば、山一つぐらい文字通り消し飛ぶ。
それを阻止するために冒険者の集団が組閣されたのは、文字通り『必然』であろう。なぜならば、冒険者に対抗できるのは冒険者だけだからである。
「でも、これって『怪獣退治』だよね」
と、天界人の龍堂光太(eb4257)が言ったとか言わないとか。地球人的な思考である。
●世の中想定外ってあるよね 2
さて、ゼットの捜索も大事だが、予想される被害を最少にするための行動を、冒険者たちは怠らなかった。
つまり、例の『ドワーフ山(仮称)』へ行き住民に避難をしてもらうのである。
フロートシップ《テーン》が本作戦に投入されたのは、ヤーン級高速艦の速度を買われてだ。他の船では、出遅れる可能性がある。
が、冒険者たちは予想外のものを見ることになった。件のドワーフ山の方向から黒煙が上がっていたのだ。
「どういうことだろう‥‥間に合わなかったのかな?」
くりくりまなこをぱちくりさせながら、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)が言った。
「いえ、『あの人』が行動を起こしていたら、あの程度の火災とか、そういうものでは済まないと思います」
クウェル・グッドウェザー(ea0447)が、的確な評価を行う。
「もしかして私たち、何か忘れているか見落としていませんか?」
ルイス・マリスカル(ea3063)が、他の者を見回して言った。
「今回の依頼内容は、ジャイアントアントの巣を潰しに行ったゼットさんを止める‥‥こ‥‥と‥‥」
そこまでつぶやいたイェーガー・ラタイン(ea6382)の顔から、血の気が引いた。
「艦長! 最大戦速! 進路そのまま、高度20まで下げ!」
オルステッド・ブライオン(ea2449)が、いきなり艦に指示を出し始めた。
「いったいどうしたんです?」
ファング・ダイモス(ea7482)が、頓狂な顔をしている。
「アリです」
ルメリア・アドミナル(ea8594)が、言った。ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が、ゴーレム発進口に駆けだしていた。
「ジャイアントアントに、ドワーフ山が襲撃されているんです」
ルメリアが、これ以上無いぐらい深刻な顔で言った。
●春の大襲撃・自然編
生物が春になったら、まずすることは何であろうか?
答えは、『食事』である。
冬眠していた熊を例に挙げると早いかもしれないが、熊は冬眠前と冬眠後では体重が30パーセントも違う。500キログラムもある熊が、300キログラム台まで減量してしまうのだ。
当然お腹はぺこぺこ。雑食だからまだマシと言えばマシだが、つまり体重を元に戻すため1日に40キログラムの食物を食うらしい。
それが、大所帯かつ大型のジャイアントアントならばどうなるか?
近くにその巣が出来たドワーフたちにとっては、まさに死活問題。早々に『なんとか』しなければならなかったのである。
ゼットが、地図を間違えるほど急いでいたのもむべなるかな。つまり、『こういう事態』を予想していたのだ、多分。
「総員戦闘配置! ゴーレムグライダーは適時出撃! 出立可能な冒険者も出てくれ!」
可能な限りの武装をしていた《テーン》は、まさに即応可能な臨戦態勢を敷いていた。それがこの場合、『ものすごく』幸いに稼働したのである。
「モナルコスとチャリオットを降ろす! 《テーン》はその後、上空から援護射撃! ドワーフには当てるなよ!」
クウェルとルイスが、フライングブルームで船から飛び出した。続けてベアトリーセがグライダーで出撃する。さらに《テーン》が着床したところで、愛馬にまたがったファングと、光太のモナルコスが出撃した。
大型恐獣を含むカオスニアンの、一個群ぐらい蹴散らせる戦力である。
が、相手も並大抵の『数』ではない。元々アリは数万体の群れを作るから、個々の戦力が小さくても数で圧倒されるのだ。
また、その攻略方法も凄惨である。彼らに感情は無いので、ドワーフの身体を複数のアリが引き裂き、バラバラになった『部品』を巣に運び込んでいるのである。
その光景を見たレフェツィアは、貧血で一瞬倒れそうになった。
ともかく『なんとか』しなければならない。
ベアトリーセはグライダーでドワーフ山に到着すると、剣を抜いてドワーフの避難を促し始めた。
「皆さん! 持てるだけの荷物を持って避難してください!」
その声は天佑と聞こえたか、孤軍奮闘していたドワーフたちが家族を守りながら脱出を始める。
ルイスとクウェルは、フライングブルームの小ささを利用して穴居の奥まで侵入した。アリの襲撃はかなり内部まで進んでいて、すでに収拾が付けられる状態ではない。
「誰か案内をお願いします!」
剣を振るいながら、クウェルはドワーフたちに要請を出した。応じた3人のドワーフが、手に得物を持ってクウェルに付き従う。
ルイスはまた別方向で、ドワーフの家族たちを守るために、特選隊を急遽組閣していた。
彼らの頭には、『人間災害』ゼットの来襲があった。今来られたら、まさしく『全滅』である。
◆◆◆
「戦場が混乱していて、精霊砲が撃てない! バリスタ射撃開始! 各個にアリを撃て!」
オルステッドの指示で、バリスタが射撃を始める。同時にイェーガーも弓を撃つ――が、なにぶん数が多い。
――これは、100や200じゃ済まないぞ。
眼下の光景を見ながら、オルステッドは状況の不利さを認識していた。
「ルメリア! 平地の生存者を凍らせてくれ! 精霊砲でなぎ払う!」
「了解したわ!」
ルメリアが呪文を唱えると、平地で奮戦していたドワーフが次々と凍らされてゆく。《アイスコフィン》である。生半可な攻撃で壊れないのは、実証済みだ。
その地上では、ファングと光太がタッグを組んで戦っていた――のだが、光太はすでに悲鳴をあげそうになっていた。アリにたかられるガダルカナルの日本兵――というか、そんな感じでゴーレムにアリがたかっていたからである。すでに鎧の地銀が見える場所は、極めて少ない。
――ひいいいいいいいいいいい。
中から響く悲鳴は、光太のものだろう、多分。いや、気持ちは分からないではない。
「こりゃやべぇ」
ファングが一生懸命アリを引きはがそうとするが、ややもすると自分がアリにたかられそうで油断できない。
がしぃっ!
そのとき、モナルコスが凍り付いた。《アイスコフィン》で封じられたのだ。
『ファング! 精霊砲を撃つ! 山へ待避しろ!』
拡声器で、《テーン》からオルステッドの声が来た。光太のモナルコスが事実上戦闘不能になっていたので、この判断は正しい。
ファングは、馬でドワーフ山へと駆けた。その間何匹アリを倒したか分からない。
ずど――――――――――ん!!
その後方から、炸裂音が響いてくる。《テーン》の精霊砲である。多分数十匹単位でアリを焼いているはずだ。
が――。
「弾が足りない!!」
オルステッドが、歯噛みする。多分200匹ぐらいのアリを焼いたと思うが、数が減ったようには感じない。むしろ、数は増えているような気配さえある。
――このままでは、全滅だ!
オルステッドが真剣に《テーン》の山への吶喊を検討しはじめた時、レフェツィアが地上にあるものを発見した。
――でんどんでんどんでんどんでんどんちゃーちゃーちゃちゃーちゃちゃちゃちゃちゃー♪(バ○ターマシンのテーマ(『トoプをねらえ!』より))
本当にBGMを背負いながら、地面から大型の人型生物がせり出してきた。腕を組み、音源の携帯電話を持って、『いかにも』な感じである。
「が――――――――――――――――――――――――――――――――――――っはっはっはっはっはっはっ! 『メイの国ブレイク工業』! 参上である!!」
ゼットが、名乗りを挙げる。
わらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわら。
それに、アリが集った。
「ええい、邪魔じゃ!!」
それを、強引にふりほどく。その手には、赤い槍があった。
そのとき、オルステッドの脳裏に妙案がひらめいた。
「レフェツィア! あのおっさんに槍を使ってこの辺のアリを倒すよう言ってくれ!」
「え? うん――聞いてくれるかな?」
レフェツィアが、拡声器につながる伝声管に口を寄せる。
『ゼットさーん、このアリを、その槍で退治してくださーい!』
◆◆◆
『ゼットさーん、このアリを、その槍で退治してくださーい!』
《テーン》からその声が聞こえたとき、クウェルは反射的に叫んでいた。
「中へ避難してください!!」
直後。
どしゃ――――――――――っ!!
矢弾の雨が、洞窟の周囲を覆い尽くした。ドワーフ山の周辺に居たアリは、それでほとんど壊滅した。
「気をつけろバカヤロウ!」
からくも範囲から逃れたファングが、悪態をつく。もっとも聞こえていないらしく、その攻撃はさらに数度続いた。
約一分。
平地や山肌には、1000近いアリの死体がぐずぐずのぐだぐだになって残っていた。
うーむ、筆者が見ても凶悪な組み合わせである。
その直後、超越《クエイク》で山を撃砕しようとしたゼットが、魔力切れで魔法を行使できなかったことは言うまでもない。オルステッドはその瞬間にゼットを確保し、ルメリアとレフェツィアが説得した。
大惨事は、避けられたのである。
●後始末
その数分後、『本物の地図』を入手したゼットは、自前の魔力回復アイテムを使用し、アリ塚を粉砕した。ドワーフ山をちょっと削ったのはご愛敬。
結果的に依頼は八方丸く収まり、『どうにか成った』。ドワーフの被害は最少で済み、冒険者にも被害は出なかった。
もっとも、課題は残っている。
『メイの国ブレイク工業』は、今日も健在である。
【おわり】