【月道】ゴーレム輸入
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月15日〜04月20日
リプレイ公開日:2007年04月28日
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●オープニング
●富のもたらすもの
アトランティスで『天界』と呼ばれる現代世界には、かつて『三角貿易』と呼ばれる貿易方法があった。
別に現在も無いわけではない。つまり二国間で貿易のバランスがあわないときに、もう一国を加えその三国間で貿易収支を均衡させる方式である。現在は交通や輸送手段が遙かに進み、三国にとどまらない『多角貿易』という方式になっている。
歴史上、有名なのは18世紀にみられたイギリスの綿織物、西インド諸島の原綿、西アフリカの奴隷を取り引きした三角貿易である。この結果イギリスは莫大な富を手にし、産業革命による『世界の工場』への素地をつくった。
では、アトランティスではどのような状況になっているのか?
ウィルの国は多数の月道で多くの国とつながる、貿易立国である。月道貿易はすでに三国どころか多角貿易の域に達しており、それがウィルの地勢価値を高め、国力の高さを維持する原動力になっているのだ。
もちろんゴーレム発祥の地、ジーザム ・トルクの運営する領もその恩恵に預かっている。国が豊かならその分国領主が豊かなのも当然だ。
そのトルク領にゴーレムニスト、オーブル ・プロフィットが来落したのは、果たして偶然であろうか? 結果的には、前王の善政と地勢により富の集中するウィルの国の領土であるがゆえに、ゴーレム兵器なる金食い虫が完成するに至ったとも言える。これが他の国なら、そもそも予算がつかずにゴーレム兵器そのものが発生しなかったであろう。あるいは、その完成と進化はもっと遅かったに違いない。
ウィルの国は、その月道貿易によって非常に潤沢な財務状況にある。トルク領において、近年次々と開発され実用化される新型ゴーレム兵器の様相を見ても、その実情がかいま見える。
ゆえに、月道貿易関連には非常に多くの『余録』がつく。政務に関する外交大使のようなVIPの移動から、技術や文化の流入に至るまで様々だ。
当然、冒険者ギルドにも声がかかる。仕事は、結構いろいろあるのだ。
●ゴーレム機器の輸入
定例の、月道関連依頼の頒布時期が来た。
毎月この辺の時期になると、月道関連の依頼がちらほらと見えてくる。重要な任務であることが多いが、月道が月に一度しか開かない都合上、正規の兵士や騎士を送ると一ヶ月国を留守にされてしまう。ゆえに多数の正規兵が月道関連にかり出されることは少なく、その多くは冒険者におはちが回ってくるのが現状だ。
今回の依頼は、ゴーレム器機輸送の任務である。それも、かなり重要な部類に入る。
メイの国では、ここ最近ゴーレムグライダーやフロートチャリオットの需要が多くなってきている。それは戦術思想の進化によって、ウィルで見られる航空戦術などが発達し、運用できるようになってきたためだ。逆を言うなら『ただの殴り合い』では勝てなくなってきているわけだが、その状況を憂いてもどうしようもない。
今回輸送されるのは、フロートチャリオットとゴーレムグライダーである。その中には特秘の新機種もあるらしいが、今は公開されていない。
任務としては簡単だが、重要ではある。各自、しっかり努めてもらいたい。
●リプレイ本文
【月道】ゴーレム輸入
●外交上の都合により
「今回の月道輸送は、非公然で行う」
メイの国に帰参する騎士が、冒険者たちに開口一番で言った台詞はそれだった。
非公開と非公然は、似ていて微妙に違う。詳細は辞書あたりでしらべてもらうとして、今回の物品の輸送そのものが『無いこと』にされるのだ。
理由は、とりあえず『外交上の都合』としか表示されていない。ただウィルの国の都合ではなく、メイの国の都合であることは想像に難くない。
なぜなら、ウィルの国は今回の『荷物』を隠す必要が無いからだ。
今回の荷物は、ウィルの国で製作された新型フロートチャリオットと、ゴーレムグライダーである。特に隠す必要などあるのか? と問われれば、疑問に思う部分も無いわけではない。どのみち月道の通過は公式記録に残り、品物の目録も記録として残る。
ただ、目に触れなければ、その機能を把握できない場合もある。今回の『モノ』がまさにそれだった。
厳重に梱包されたフロートチャリオットは、2種類。
1種類は装甲を施した重装甲チャリオットで、今は分解しているが、青銅製の衝角(ラム)と鋳造した青銅の装甲を装備している。もう1種類は、小型の精霊砲を装備したものだ。地球的には自走砲としての運用が可能であり、戦車思想の兵器と言える。
ただ、フロートチャリオットはすでに二線級の技術であり、秘匿するようなものではない。本来ならば。
が、取り扱いについて微妙なポジションに居るため、『配慮して秘匿された』のである。
理由は、ポジティブなものとネガティブなものが両方ある。ネガティブなものから言うなら、メイの国でフロートチャリオットは主力たり得る戦場が少なく、これを製産する生産力や資財、人員があるなら、モナルコスや上級のゴーレムを製作したほうが良いと考える者が多いからだ。
ポジティブなほうは、その搭載兵装ではなく『搭載力』にある。新型フロートチャリオットの搭載力はほぼモナルコス1騎分に相当し、鈍重と言う弱点を持ったモナルコスを素早く戦場に展開できる『運用の可能性』がある。つまり二次戦中のドイツ機甲師団のような、『電撃戦』が可能になるのだ。
もっとも、こちらはまだ改良の必要がある。精霊力の奪い合いのため、稼働中のゴーレムを搭載したままチャリオットを運用することが出来ないのである。これは精霊砲でも同じだ。射撃した瞬間、チャリオットは止まる。
地球人は『戦術は機動力にある』と考えがちだが、それを実現するには、まだパズルのピースが足りないのである。
無論、未稼働のゴーレムを最前面に搬送し、そこで起動させるのはバクチである。もし起動に失敗したら、バリスタでもカタパルトでもなんでもいい。つまり、いい的だ。チャリオットごと粉砕されるだろう。
そのあたりを、天界人である浦幸作(eb8285)はこだわりすぎていた。確かに自分が製作に携わったゴーレム器機に愛着以上の価値を見いだすのは人情だが、地球人の思考はジ・アース人にもアトランティス人にも理解されにくい。ましてや当人の提唱する運用方法で致命的な欠陥を持つ兵器を渡されても、それを使用しようという指揮官はまず居ないだろう。
つまり、『必要に迫られなければ使用しない兵器』なのである。源義経が一ノ谷の陣まで、鵯越の逆落としを仕掛けるレベルの『状況』が無ければ、評価されない兵器なのだ。
それはある意味、『存在しない』のと同義の状況である。
その現実を幸作が知るのは、後にステライド王に謁見賜り、ウィルの国のゴーレム開発などについての報告をした後になる。情報をもたらしたことは大変評価されたが、ゴーレム器機の生産は見送られたのだ。
友人のシュタール・アイゼナッハ(ea9387)の慰めを受け、彼が立ち直るにはしばし時間を必要とした。
その差配に、不満の声をあげた者がいる。鎧騎士のグレナム・ファルゲン(eb4322)である。彼はフロートチャリオットの操縦をかなり極めており、その実戦運用のために渡来したと言ってもいい。
が、彼はメイの国の実情を聞いて納得せざるを得なかった。敵の主力である恐獣に速度で勝るフロートチャリオットだが、それ以外の優勢戦闘能力を持っていなかったのである。
彼は木石ではないし、戦術に暗いわけでもない。少なくともチャリオットレース優勝2回の実績があり、それは評価されてしかるべきだ。
が、ゆえに分かることもある。今回搬送したチャリオットは両方とも積載量ギリギリまでの搭載力を使用しきっており、仮に敵兵のカチ込みや恐獣に踏まれるなどの過重がかかった場合、即座に過重によって行動不能になるのだ。特に高さで勝る恐獣には踏まれる可能性はかなりあり、実のところグレナムにもその辺の想像がついた。
一番現実的な使用法は、装備を取り外しての今までに倍する兵員の高速輸送にあるだろう、と、グレナムは推論した。が、それは彼の望むところではない。あくまで彼は、『チャリオットでの戦闘』にこだわったのである。
結果として、彼は現有戦力としてのチャリオットの使用に甘んじる、現状に身を置くことになる。しかし何事も蓄積なので、彼の望むチャリオットの登場もあり得ない話ではない。
カテローゼ・グリュンヒル(eb4404)は、新型グライダーに随伴する形で来メイした。
新型グライダーは、外見上今までとそんなに差異があるわけではない。元々手作りなので多少の差異は当たり前で、高度な工作技術に裏打ちされた『製品』という物ではないからだ。
新型グライダーの『能力』は、稼働させて初めて分かる能力である。それは、『静寂性』であった。
従来のゴーレムグライダーが100〜200デシベル級の轟音を発していたのに対し、新型グライダーの稼働音は80デシベル以下。つまり人間の大声を下回るほどの静寂化に成功したのである。
過日、アプト大陸中原の『名無しの砦』攻略戦で、動力を切っての無音飛行攻撃を行った例があったが、そのときは再起動に失敗し墜落したものが1騎、そしてその『音』で捕捉され広範囲攻撃で撃墜されたグライダーが4騎あった。この新型グライダーならば、そのリスクを最小限に出来たはずである。
もっともカテローゼに言わせると、「必要な技能が高すぎて実用的ではない器機」ということであり、今後はどうやらデータ収集とその改良に努めるらしい。
なお、上記内容はすべて意訳である。本人の話し方が、非常にかったるいからだ。
ティラ・アスヴォルト(eb4561)は、ゴーレムでの実戦を目的に来メイした。シンプルに『武者修行』のために来たのである。
状況の違いはあれどメイも優秀な鎧騎士を欲しており、彼女の来メイは歓迎された。もっとも「温泉が無い!」とご不満の様子であったが。どうやらメイのローマ式公衆浴場は、お気に召さなかったようである。
ともあれ、サンプル品としてのゴーレム器機は無事に工房へ搬入された。どれも日の目を見るにはもう一皮むけなければならないようなものばかりだが、ゴーレム後進国であるメイにとってはどれも貴重なサンプルである。実戦運用出来る者にとっては、それ以上の価値があるだろう。
そしてそれらの能力が発揮されるのは、まさに実戦の中である。
【おわり】