新天地《オルボート》を征く
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 96 C
参加人数:11人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月19日〜05月04日
リプレイ公開日:2007年04月30日
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●オープニング
●新天地《オルボート》
精霊歴1040年4月現在、メイの国に『ベノン子爵領』は存在しない。
かつての『エイジス砦』での敗戦以降、旧ベノン領は3ヶ月以上にわたり、領主不在という状況が続いた。息女ディアネーが捕縛され、厚く遇したいという心理とは別に、実務的な――具体的には金の問題が出てきたのである。
禄をはむ者として、徴税や納税はつつがなく行わなければならない。また戦争被災者に対する施しや保護、犠牲者への慰労金などの配分など、貴族は実に『金がかかる』。
それが、ベノン子爵領では完全に停止していた。即物的な問題のため単純な解決法しか無く、息女ディアネーの帰還の見通しが立たない以上は子爵領を廃領し、新領主の選定を行わなければならない。
民意はこの場合、考慮されない。むしろ軍や貴族の士気のため、王もこの選択は避けたかった。
しかし、例外が許されないのが政治である。状況は違うが、貴族が出奔(日本で言えば脱藩と言うと分かりやすいだろうか)した場合と『客観的には』状況は同じであり、酌量の余地を残すのは国体に関わる。
ステライド王もやや困っていたのだが、ある冒険者の奏上を容れてその解決を図った。
「ディアネー・ベノンが救出されたら、廃領ではなく『領地替え』を行っていただきたい」
国のために戦い、金によって国から棄てられるようなことがあれば、貴族たちの戦意を大きく削ぐ。しかしディアネー嬢の復帰はしばらくかかると思われるため、領地替えを行いその移行期間を治療に充てるというのである。
その冒険者にどのような成算ががあったか分からないが、ともあれ奏上通りディアネー・ベノンは救出された。しかもカオスニアンのメイの国大侵攻という意図を挫き、砦一つを消滅させて帰還したのである。
またさらに、『鮮血の虎』ガス・クドの威名を落とし、大いにメイの国に貢献した。民衆にとって『ベノンの聖女』の名は確たるものになり、人々はその帰還を熱狂的に迎え入れたのだ。
ここまでくると、ベノン領を廃領するのは国益を大きく損なう。民にとって英雄は必要であり、そしてかけがえのないものだ。しかしディアネー嬢の復帰は難航しそうなため、ステライド王は奏上されたベノン家復興プランに乗るしか無かった。
ただ、ステライド王が渋々そのプランに乗ったというわけではない。
その冒険者が残した書簡を読んだステライド王は、膝を叩いて笑ったそうである。
かくて。
ベノン領再興のために、冒険者ギルドに依頼が頒布されることになった。
●名無しの地改め、《オルボート》
かつて『名無しの砦』と呼ばれていた場所は、現在メイの国が切り取った形になっている。
この地を押さえるのは戦略上の妙手で、カオスニアンにとってはエイジス砦の戦略的価値を下落させ、また砂漠のカオスニアンへの補給線に掣肘を与える効果がある。
奏上した人物がここを拠点とすべきと考えたのも、むべなるかな。ディアネー嬢にとっては試練の地となるだろうが、『民から見たディアネー嬢』は、危地に自ら飛び込むまさに『聖女』と映るだろう。
その地には、彼女の祖父の名である《オルボート》の名が付けられた。
ディアネー・ベノンには正式に子爵位が与えられ、破格の取り計らいでモナルコス級ゴーレム3騎とウルリス級フロートシップ2番艦《メリリス》、そして新造フロートシップであるペガサス級4番艦《トロイホース》と新式シルバーゴーレムが配領されることになった。
ただし、麾下の騎士については空欄である。ベノン家の騎士たちがほぼ壊滅してしまったため、父や伴侶を失った『養うべき家族』ばかりの領地替えとなったためである。
ただし、これには抜け道があった。
冒険者は、メイの国で騎士相当の権限が与えられている。封建契約を結び封建領主となる『不自由な騎士』とは違い、冒険者ギルドには数多くの『自由騎士』が存在するのだ。
その者たちと一時的な封建契約(つまり報酬の支払い契約)を結び、騎士の職務を代行させる。王が冒険者を騎士階級に封じたので、文句の言える者は誰も居ない。つまり期限付きで騎士の特権を与え、責務も負ってもらうという、かつて無い『騎士制度』が誕生したのだ。
王に奏上した人物は、最後まで準備を万端整えていたらしい。
新しい土地のため、状況は『開拓』から始まる。領民は、城壁外でスラムを構築している約2000名の避難民を、丸ごと抱え込むという。
作物はこの春から畑を開墾し、山の雪が溶けカオスニアンの跳梁が始まる前に城塞都市を建て、防御城塞を構築するのが当面の作業である。秀吉の『墨俣一夜城』なみのウルトラCを行わなければならないが、元より『やるしか無い』。
兵員は、リザベ領から100名の兵士が供与される。また築城には600人の職工と人足が貸与される。工事には、2000人の領民からも労働力を募れば良いだろう。
冒険者の任務は、築城と警備の指揮である。その他、考えられる任務は全て『仕事』と考えたほうが良いだろう。
ベノンの聖女を迎えるに足る城塞都市を建設できるかは、君たちしだいである。
●リプレイ本文
新天地《オルボート》を征く
●例外の領地替え
領地替えというものは通常、『よんどころない理由により領地の運営が不可能になった場合』に行われる。それは兵役や納税が出来ないとか、そういう『貴族の責務』を担えなくなった場合に多く、また信賞必罰により『功ある者により良い領地を与える』という場合も含まれる。
では、ベノン家についてはどうか?
故オルボート・ベノン子爵は貴族の責務を果たし落命。ディアネー・ベノンに至っては、敵の捕虜になりながらカオスニアンの企みをメイの国に伝え、そして生き残って帰還した。彼女のもたらしたものは多く、そして十二分以上の勲功を挙げたと言える。
が、そのために与えられた領地は、メイの国の西方である最前線、カオスの地とメイの国を隔てる、まさに激戦の予想される土地だった。
ステライド王は、ベノン家を疎んじているのか?
答えはNOである。王宮のベノン家に対する評価は高く、ステライド王直々に新造フロートシップ《トロイホース》と新式シルバーゴーレムの配領を受けたぐらいだ。
ならば、何故このような僻地に一から領土を構築しろというご下命が発せられたのか?
市民は知らない。しかし、関わった冒険者たちは知っている。『それしか選択肢が無かった』からだ。
ディアネー・ベノンの健康状態はかなり悪く、すぐに公務に就ける状態ではない。また旧ベノン領の領民はともかく、配下の騎士をことごとく失い、事実上『貴族の責務』を履行することが不可能な状況だった。
「ゆえに、『臨時雇いの騎士』か、王様も粋なことをしてくれる」
この数ヶ月ですっかり面差しの変わったパトリアンナ・ケイジ(ea0353)が、新領地となる場所を見下ろして言った。自責の念が彼女を変えたのか、今の彼女は粗野な風采を改め揃いの黒装束に身を包んでいる。馬子にも衣装とまでは言わないが、ずいぶんとイメージチェンジをしたものだ。
理由は、ある。彼女にとっておそらく生涯初めてで、一生の不覚である『妥協』を行い、ディアネー・ベノンをガス・クドに差し出したことを悔いているのだ。
悔悟の念を抱けば、風貌に変わりも出よう。気づけば、彼女は別名である『投げレンジャー』といった二つ名を払拭するような身なりになっていた。
面差しが変わったのは、彼女だけではない。例えば『鷹の眼』フィーノ・ホークアイ(ec1370)がそうであろう。
彼女は、物事を真剣に生きる主義である。が、今までのそれがまだ上げ底で、自分の中に『本気の本気』が眠っていた事を最近自覚した。『思慕』と呼ぶには年齢が離れているし、『母性』と呼ぶには彼女は中途半端に年齢が近い。『友愛』と呼ぶには、彼女の感じているものは激しすぎた。
つまり彼女は、説明の付けられない正体不明の感情に突き動かされているのである。一人の少年を看取った日から。
それはある意味、呪いめいている。
それほど混乱を極めた『もの』に囚われて、健常でいられるはずがない。彼女の本依頼への取り組みは真剣そのもので、今まで多少なりとも存在した『妥協』が無かった。余裕と言い換えてもいい。
今の彼女はカオスニアンに対し1ミリも譲るつもりはなく、それが破滅的な結果につながろうとも下がりはしないだろう。それほど、彼女は殺気立っていた。
とにかくリザベへの難民輸送、そしてオルボートへの『領民』輸送は、つつがなく行われた。そして警備兵や職工、資材などが運び込まれ、巨大な難民キャンプが構築された。
ここからが、勝負の15日間になる。
●ゼット、役に立つ
「信じられん‥‥」
ローラン・グリム(ea0602)が、現実を直視できていないような口調で言った。
究極バカ魔導師として誉れ高い(?)ゼットことマスクド・ゼットマン(偽名)が、『役に立った』のである。
オルボートに来て最初にしなければならないことは、『水の確保』であった。人間に限らず、大抵の生物は水が無ければ生きてゆけない。
それを、ゼットは10分で確保したのである。
「確かに、見事な『井戸』だ」
マグナ・アドミラル(ea4868)も、感心したように言う。
普通井戸掘りというのは、大変な知識と経験と労力を伴う。水が出るかどうかは掘ってみなければ分からないし、水のある場所まで掘り進めるのも大変だ。
が、ゼットは《アースダイブ》で地面に潜ると、次に浮かび上がってきた時には水脈の位置を完全に把握していた。そして《ウォールホール》で穴を掘り、あっという間に井戸を完成させたのである。
無論、《ウォールホール》は時間が来れば閉じる。しかしこの魔法は、異物を噛みこむとそれを避けて復元する特性があり、戦闘で使用するなら相手を壁などに封じ込める能力があった。
ゼットはそれを逆手に取り、掘った穴の周囲に井戸のように石を組んで、囲んでしまったのである。収縮力で石組みはがっちり組み合わさり、強固になる。圧縮過重を受けたアーチ構造を想像してもらえるといいだろう。
「む? 役に立ったのがいかんのか?」
普段のバカっぷりに『絶対何か事件を起こすだろう(予想回答率200パーセント)』と思っていた冒険者達は、あっけにとられた。ゼットに築城協力を要請したローランが一番驚いていた。
「い、いや、この調子でたのむます」
普段『だ、である』調で話すローランが、完全に浮き足立っていた。声も若干裏返っている。
その日、ゼットは合計10あまりの井戸を製作し、作業を終了した。
不気味なぐらい順調だった。
●上下水道を作る
ギヨーム・カペー(ea9974)が担当したのは、領地の上下水道である。上水道の元になる井戸はゼットが確保してくれたので、後は配管であった。
メイの国は、石で出来た四角い水道管を使用している。ただ今回は急ぎの築城なので、素材は木になっていた。工期も経費も縮小できるからだ。
さて、細々とした配管は人手を使った工事を行うとして、主配管についてまたもやゼットが登場した。都市計画書にあるメインの配管図にそって、次々と《ウォールホール》で地面に穴を開けて行く。そこに木管を配置し、埋まるのを待つ。それだけで、だいたいの配管が完了してしまったのである。
ちなみに、排水先は地下の洞窟である。これもゼットが《バイブレーションセンサー》と《アースダイブ》で発見したものだ。水脈が流れ出している場所で、衛生的にもほぼ十全である。
――槍でも降らなきゃいいが‥‥。
ギヨームが思うのもむべなるか。領民達から募った労働者を監督しながら、工事の順調さに不安を隠せなかった。
まあゼットが関わっている場合、自爆装置の存在ぐらいは想定したほうがいいのも確かである。
●外壁工事
5日目。
この頃になると、築城のイニシアチブはゼットが握るようになっていた。と言っても、『予定通りゼットの魔法に頼る』という工程に来ただけの話で、ゼットが指揮を執っているわけではない。
とりあえずこの5日間、他の者が何もしていなかったわけではない。マグナが指揮を執り、旧『名無しの砦』から石材を運び込んできて、外壁の基礎を作っていた。その労働力には、ゴーレムが充てられた。
「まったく、こんなヨゴレはアタシの趣味じゃないわ」
スレイ・ジェイド(eb4489)が、オネェ言葉で言う。口調と男性にいたずらするのが好きな奇癖のため誤解を受けやすいが、嗜好はノーマルらしい。彼はモナルコスで城壁の基礎を掘り、そこに石材を流し込んで突き固めていた。
アルファ・ベーテフィル(eb7851)も同様の作業をしている。何をおいても、外壁無しでは、城塞の防御など不可能である。それ以前に、『城塞』ですらない。
が、城壁の素材となる『水』が潤沢に無ければ、城塞そのものが作れない。ゆえに、最初の井戸掘りは、実に深刻な課題だった。
エリスティア・マウセン(eb9277)やモネタ・メイデュー(ec1231)のほうは、基礎が出来た部分から『型枠』の組み立てに入っていた。
当初モネタは、城壁の高さは5メートル、幅は3メートルもあれば、と見積もっていた。しかしスニア・ロランド(ea5929)やパトリアンナらの『経験ある者の助言』から、対大型恐獣を想定するならその3倍は必要であると見積もられた。5メートル程度では、跳躍なり乗り越えるなりして侵入してくる可能性が高いためである。また3メートル幅というのは『ストーンゴーレムなら城壁の上を行くのに十分』というサイズで、今後ゴーレムの大型化を考えるならその幅でも足りないであろうと予想された。
が、さすがにそこまでの規模の壁材になる量の水は、物理的に汲み上げられない。
そこで、嵩を増すために城壁となる型枠の中に土嚢を大量に放り込み、その上で水を流し込んでゼットの超越《ストーン》で凝固させた。後半は型枠を作る時間をゼットの超越《ストーンウォール》で短縮し、総延長4キロメートルに及ぶ城壁を8日間で造り上げたのである。足りない魔力は、アイテム類で『なんとか』したらしい。
ちなみに、この時点では入り口も出口も無く、補給品の搬入搬出や、工事人員・機材の出入りはゼットの《ウォールホール》で行われていた。それも日々改善され、井戸と同じ要領で石組みの門が作られ、不要な魔力消費が抑えられるようになった。
そして特記すべきことは、この門の石を一個抜いて崩壊させることによって、入り口が自動的に閉まる『超籠城戦仕様』の砦になったことである。
こうなるともう、恐いのはゼット級の魔導師かゴーレムぐらいしかない。
ここに至って、やっと何名かの冒険者が思い出した。過日、エイジス砦での威力偵察において、ゼットが《ストーンウォール》で『一人用城塞』を作っていたことを。
地系の魔術師は、実はトコトン『こういうこと』に向いているのである。
最終的に2週間足らずで、『都市機能を持った城塞』のほうは完成し、防備と生活基盤だけはほぼ十全になった。
カオスニアンが部隊を編成し、攻撃してくる間も無かった。
●冒険者達の活動
築城の間、冒険者諸賢はただぼーっとしていたわけではない。彼らには、彼らのやるべき事があった。
パトリアンナとギヨームは、都市計画について議論をしあった。パトリアンナは動線を主軸に置いた『能動的機能』もった都市計画を提唱し、ギヨームは現在のリザベやメイディアのような『城塞都市』としての機能を重視した都市計画を立案していた。
共に理があり、有利不利がある。簡単に言うならパトリアンナは『攻』、ギヨームは『防』を重視したのだ。
その取りなしに入ったのは、意外なことにマグナであった。戦士である彼に建築に関する知識は無いが、彼にはお手本があったのだ。過日、日之本一之助をメイに招聘するために行ったときに作られていた、タム村の砦である。
タム村の砦は攻防を主眼に置いた物ではなく、存在するだけで敵を自滅させる能力を持っていた。『在る』というだけでバタバタと敵が死んでくれるのだから、ある意味一種の『武器』である。
「つまり、ごく単純な仕掛けでいいんだ。敵の兵力をあえて集中させて、そこを一方的に攻撃できる場所を作ればいい。『その場所』は冒険者や訓練された騎士が担当し、モネタ殿が選別するオルボート領兵士は、その援護を行う。元々兵力に不足のあるわしらだが、これなら練度の低い兵士だけでも維持できる。日之本どのは、正直わしの半分も剣の腕は無かった。だが守るだけならそれで十分だし、攻勢に出るときはわしらも招聘されるだろう。つまりわしらが到着するまで保ってくれる仕掛けを作ればいいだけで、10年戦える城塞を作る必要は無いんだ」
パトリアンナとギヨームは、その言葉を聞いて早速都市計画の練り直しに入った。故人というわけではないが、去った人物が残したものは意外と多く、そしてその人物はただ1度勝利するために『負けない戦』を維持し続けたのである。
つまり、『最後に勝てばいい』。途中の判定でいくら負けてもいいから、最後に相手をノックアウトして立っていれば、それは勝利なのである。
◆◆◆
「どうじゃ、たいしたもんじゃろう」
「まったく、本当にたいした物だ」
完成した防城楼を見て、フィーノは本当に感心したように言った。
防城楼というのは、外壁に張り出した三角形ないし四角形の突起部である。西洋城塞建築に見られる様式で、突起部から城壁をはい上がる敵兵などを攻撃することによって十字砲火を浴びせる効果がある。これは外壁と同じ工法で、スレイとアルファ、エリスティア、モネタら、ゴーレムを使用できる者たちが半日で造り上げたものだ。
今はたった一つだが、今後増やしてゆけば防御力はどんどん増してゆく。そして彼らには圧倒的な労働力となるゴーレムと、ゼットがいた。
フィーノは遠物見のための楼閣が欲しかっただけなのだが、早晩『それ以上のもの』ができあがりそうだった。とにかく『場所』が出来たので、彼女は敵の動きを察知するための監視任務についた。領民から猟師などの目の良い者を選び、訓練する。敵は航空兵力を持っているので、監視は厳に行わなければならない。
「‥‥あ奴の血が染み込んだ場所なのだ。譲ってはやらぬ。決してな」
決意をみなぎらせながら、フィーノはあえてその名前を口にしなかった。
◆◆◆
「それは無理ですよ」
モネタの提唱した『4城塞連結プラン』とも言える壮大な計画を、エリスティアは苦笑と共にやんわりと否定した。
「しかし、自分が聞いたところによると、天界には『バンリノチョウジョウ』というものがあるそうではないですか」
モネタは、エリスティアに食い下がった。
「それは、確かに私の世界にはありますけど、きっとメイの国には無理です」
エリスティアが言う。今回他に万里の長城を知る天界人がいないためモネタは彼女に聞くしか無いのだが、エリスティアも苦笑で返すしかない。
万里の長城は、膨大な資材と人員、そして長い年月をかけて建設されたものである。そして資材も人材も有限であり、何より人口が桁一つ二つ違うメイの国では、その労働力を確保するだけでも無理を通り越して無茶な話だった。
そしてモネタが求めていたのは、総延長400キロメートルを越える長城の建設と運河の掘削である。ちなみに『その先』もあるのだが割愛する。
『魔法のように』作ることは不可能ではないだろうが、それは不可能ではないだけで現実的ではない。防備を固めるのは一時だけで、いつかは攻勢に転じなければならないのだ。そしてそれだけの人員と予算があれば、軍備を十二分に拡充できる。モネタの案が『不可能ではないが現実的ではない』と言われるのもやむなしであろう。
ま、もうちょっと考えるべし。
◆◆◆
さて、ここまでまったく名前の出なかった者が居る。イレイズ・アーレイノース(ea5934)である。
彼は主に、スニアと組んで内務整理を行っていた。もっと簡単に言おう。闇ギルド対策である。
領民は避難民ばかりで、寄せ集めのごった煮状態。魔女の鍋をかき混ぜるようなもので、もちろんその中に悪の芽も内包していた。
規律を重んじるイレイズとしては、看過できるものではない。ゆえに軍務に関してはイレイズが、民事に関してはスニアが規律規範を作り組閣・運営形態を構築した。騎士階級なので、この場合は裁判官も兼ねる。
イレイズの担当区分に関しては、特に何も起こらなかった。現状では。
まあ、あくまで現状であることを心に置いたほうがいいだろう。まだこの領地には領主もおらず、その兵力の主力も存在しない。軍施設などに対してテロを仕掛けるならそれが稼働するときであろうから、築城に対しての妨害が無かった以上、それを越えた行為は敵の動きがあったときに起こるはずである。
スニアのほうは、隣組のようなコミュニティの組織を行った。約200人の単位にコミュニティを分け、その中で町内会のような運営を行い自浄能力を持たせようとしたのである。
残念ながらこの手の組織は即効性のある効能を保つわけではないので、運営がうまく行くかどうかは、今後も見続けなければならないだろう。ただ、闇ギルドはこれらの件に関してメイディアに在った時からの蓄積があるので、先手を取られているのは間違いない。闇ギルドがメイディアの陥落にこだわらなかったら、先に腐敗するのはこのオルボートなのである。
●城塞都市オルボート、稼働
築城計画の最終日になって、ついにカオスニアンの跳梁が見られるようになった。といっても、すでに防備はほぼ整っており、攻める能力が無いだけという状態である。
敵の兵力は、ごく少数だった。50名も居ない。大型恐獣も無く、明らかに偵察であった。
「手の内を見せる必要はない。放っておこう」
マグナがそう言うと、冒険者達は監視のみにとどめ敵の出方を待った。最終的にプテラノドンが1匹上空を通過しようとしてフィーノの《ヘブンリィライトニング》で撃墜されたが、それ以上の行動は無かった。
冒険者は初期の目的である防御施設の建設を完遂し、その多くの建設工事などの責務を職工たちに譲ったのである。家を一軒一軒建てたりするのは、彼らの仕事ではない。
遅い雪融けは、周囲の耕作地を開放してくれる。これからは農学などを専攻した者の活躍の機会が増えるだろう。
開拓は、始まったばかりである。
【つづく】
【城塞都市オルボート、精霊歴1040年5月現在】
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[1マス=約50メートル]
※周囲の太枠は、木で作った囲い。軍施設予定地は整地済み。
※今回作られたのは市域の防御壁。