新式ゴーレム開発計画2nd III
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月18日〜05月25日
リプレイ公開日:2007年05月20日
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●オープニング
●ハラスメント・タクティクス
大仰な章題だが、モナルコス級ストーンゴーレムの開発以来、メイは伝統的に『戦技の劣る鎧騎士でも使用できるゴーレム』を基軸に開発を続けてきた。これはメイの騎士や鎧騎士が、全体的に攻撃に長けているという特徴から来るもので、防御を他の手段で補う必要があったためである。
この思想はオルトロス級カッパーゴーレムまでは受け継がれたが、シルバーゴーレムは真実達人と呼べる戦技を持つ騎士が使うようにバランス型で製作された。それは搭乗者未定のまま西域のオルボート城塞へと配領され、現地配備となった。
だがすでに、バの国ではかなりの完成度のシルバーゴーレムが実験戦闘を行えるレベルで運用されており、予想では先行量産をとっくに終えて、実戦量産型シルバーゴーレムの製産に着手しているであろう状況が考えられる。ストーンゴーレム以来開発で遅れを取っている現状は変わらず、戦力の差はあまり縮まってはいない。
メイの国は、技術で劣っているわけではない。カルロ・プレビシオンゴーレム工房長の天才的な腕前に依存している部分はあるが、ゴーレムシップで制海権を取っている現状を考えるに、単に人型ゴーレムの開発と相性が悪いだけだ。もっと砕けた言い方をするなら、制海権を獲得しているゴーレムシップの維持に割かれる物資・資金・人材が多くて、戦力の安定供給路線を外れることがしにくいのである。
ある意味じり貧な考え方だが、現実問題として制海権を譲るようなことがあれば、バの国はジェトの国へちょっかいを出すかもしれないし、そのための戦費は現在の制海権維持の費用を軽くに上回る。大戦略レベルで、バの国は『嫌がらせ(ハラスメント)』レベルのちょっかいだけで、メイの国に国力と戦力をため込ませない状況を作っているのである。
「今期は、その悪循環を、どうにか断ち切る方策を考えたいと思います」
カルロが言った。
「シルバーゴーレムの開発が成ったことによって、おそらく戦術レベルとしてのゴーレム兵器は一つの階梯に来たと思います。つまり、一騎で戦局を変える決戦兵器としての最低条件を満たしたと思って良いでしょう」
搭乗者の能力にもよるが、ヴァルキュリア級シルバーゴーレムは、カオスニアンの最強恐獣であるティラノサウルスに互する戦闘能力を得た。つまりヴァルキュリア級の量産が成れば、カオスニアンが数で対抗してこない限り正面戦闘で負けることはまずない。そしてティラノサウルスはそれほど数多く存在するわけではなく、補充もそれほど容易ではない。
つまり、いつかは勝てる状況になったのである。もちろん、戦術レベルで『作戦負け』することはあるだろうが、メイの国は資金的にはかなり潤沢である。現代のアメリカのような物量戦を仕掛ければ、カオスの穴を陥落させることも不可能ではないだろう。
もっとも、それには鎧騎士もゴーレムニストも圧倒的に足りない。この辺りは時間をかけて解決しなければならないが、少なくとも手段が確保できたことは重要だ。
カルロが言葉を続けた。
「現在メイの国では、強襲揚陸艦を始めとするフロートシップ戦力の拡充を行っています。しかしこれらには搭載機能以上の能力はなく、ゴーレム兵器としては別カテゴリのものとして考えられてきました。しかし、そこに新たな光を当てることも不可能ではないと考えます。その基本理論は、ステライド王が装甲チャリオットで示した『兵員輸送チャリオット』の考え方です。装甲を戦車の攻撃能力に使用するのではなく、兵員の安全な輸送に使用するという考え方の『更新』です。この思考的革新は、人型ゴーレムにも当てはめられるでしょう」
カルロはそこで、言葉を切った。
「未解決の技術的問題は多数あります。しかし可能性の模索に限界はありません。射撃型アイアンゴーレムの件もあります。つまり1+1を3にも4にもする方法を考え、それを実用レベルまで持って行くのです。さらなる高性能ゴーレムに興味が無いわけではありませんが、回り道も時に近道になります。今は余力を作るために、長期スパンで効果的なことを考えましょう」
●リプレイ本文
新式ゴーレム開発計画2nd III
●新キャラ誕生
「カルロ〜ん!」
いきなり『誰?』という呼び名でカルロ・プレビシオンゴーレム工房長を呼んだのは、カテローゼ・グリュンヒル(eb4404)である。
つーか、誰だカルロんって。
「どうしました? そんな大荷物持って」
まあ、そこはカルロも規格外の人物。さりげなくスルーしたのだが、その後がいただけなかった。
「試作したグライダー用の装備アタッチメントを見せに来たんです〜〜〜〜〜?」
そのとき、工房内の目撃者は口をそろえて言っていた。「彼女の足下には何も無かった」と。
何も無いところですっころんだカテローゼは、芸術的な円弧軌道を描いてその『アタッチメント』なる物体をカルロの脳天にたたきつけた。
――ひええええええええっ!!
この悲鳴は、工房内の工員たちのものである。というか、それほど殺人的な勢いで『それ』がカルロ工房長のどたまに激突したのだ。多分、間違わなくても死ぬレベルである。
「きゃあああああっ! カルロん、ごめんなさい!」
「はっはっはっは、大丈夫ですよお嬢さん。カルロんは不死身です。では」
『これ、体質ですか?』みたいな派手な鼻血を噴きながら、カルロは笑ってそれを許した。
1秒、2秒、3秒。
ぱた。
そして、そのままの姿勢で、倒れた。
倒れても、さわやかな笑みは崩さなかったという。
ここに、新キャラ『カルロん』は完成した。
●ゴーレム開発計画、アナザー・ワン
今回のゴーレム開発計画は、ある意味希望者にフリーハンドを与えた形になっている。
先の『工房長撲殺未遂事件』は極端な例だが、それでも提案者たちからはアイデアが百出した。もっとも自分の欲望を満たすために邁進した者も居たが、瓢箪から駒という例もある。
例えばオリバー・マクラーン(ea0130)は、戦略的見地からのゴーレム兵器の増産プランを立てた。彼の基本プランは射撃支援型ゴーレムを増産し、援護の層を厚くするというものであったが、鎧騎士からは結構不評だった。
理由は簡単である。後方に居ては戦功を挙げられないからだ。
総合的に見てオリバーの提案は順当である。ただ希少な鎧騎士を後方に配置するということは、前衛戦力の軽薄化を生むことになる。また感情論も伴うので、いろいろとよろしくない。
様々な場所で情報を集め総合戦略を練ったが、机上の空論で終わることもある。オリバーは今回、それを経験したにすぎない。
――今度は騎士の自分を想定して考えてみよう。
オリバーとしては、基準点が見つかったので次の課題となるだろう。
ギヨーム・カペー(ea9974)の提案は『工作艦』、それもフロートシップの補修が出来るような工作艦の提案である。
「前線での運用を考えるに、ゴーレムの修理及び整備には相当な需要があると思われる。現在100メートル級の戦闘艦が建造できるのならば、がらんどうの100メートル級フロートシップも作れるだろう。それに資材及び工具設備一式を積み込み、『移動工房』として機能させるのだ」
工作艦の概念は、少し前から開発計画にも挙がっていた。ギヨームはそれに具体性を持たせた形になる。
「検討すべきですね。少し計画を練ってみましょう」
デロベ級戦闘艦は、予定では4隻建造させるはずだが、もしかしたらその一つないし二つが工作艦に仕様変更されるかもしれない。今後の状況を見るべきである。
天ヶ崎希望(eb4243)は、念願である『魔法を放つゴーレム』の実験にかかれるためほくほく顔であった。
今回実験に使うのは、バガン級ストーンゴーレム。制御胞をオープンし、起動状態で『制御胞の中から』魔法を使用したのである。
結果、前回とは違い魔法が発動した。つまり精霊力吸収装置になっているゴーレムの内部には、精霊力が満ちていることが証明されたのである。
この結果は、希望にとっては望ましいものだったらしい。
希望はすぐに、カルロに『実験用複座型シルバーゴーレムの建造』を申請したが、「いや、シルバーは無理です」と断わられたことだけは付記しておく。ひとまずストーンゴーレムで試作を行って欲しいということであった。
制御系の搭載方法については、課題を残したままである。
グレナム・ファルゲン(eb4322)は、自分の欲望に従ったクチだ。もっともそれが悪徳というわけではない。
彼は以前にも書いたが、チャリオットレース優勝経験者である。メイの国では、チャリオット運用の第1人者に位置する知識と経験を持っていると言ってもいい。
ただメイの国とウィルの国との事情が違うため、チャリオットは脚光を浴びることが少なかっただけだ。しかしメイの国でもチャリオットを自在に操り勲功を挙げた者はおり、決して日陰者ではないのである。
彼の提案の中ですぐに容れられたのは、兵員輸送用のチャリオットであった。搭載力のある装甲チャリオットの装甲を外し、積載部を拡充して10人の兵員を輸送できるようにしたものである。
彼の要望ではゴーレムグライダーも搭載したかったらしいが、そこまではちょっと無理だった。しかしウィルの国から輸入した新型の動力器物を搭載したフロートチャリオットは搭載運用試験ではそこそこの性能を見せ、チャリオット運用に光を当てた形にはなった。
問題は、数である。
「却下です」
と、にべもなく行殺を食らったのはフラガ・ラック(eb4532)である。彼はゴーレム強奪事件で見られた副椀付きゴーレムの性能に瞠目し、それを生産ラインにのせて欲しいと要望したのだ。
『副腕には、本来人間にはない器官を操ることによる操作の困難が伴いますが、それは両手利きの応用で多少の軽減が可能かと思われます。さらに、副腕は盾による防御に特化し、副腕の動きを数パターンの防御行動に限定することにより、操縦者への負担を大きく軽減可能ではないでしょうか。副腕の存在はゴーレム戦技の幅を大きく広げます。ゆえに今後量産される金属ゴーレムの一部を、副腕装備型のバリエーションとして生産することを強く希望します。このタイプはある意味専用ゴーレムに近いものがありますが、このタイプであれば、私以外にも搭乗を希望するものは多いでしょう』
と、熱っぽく語った彼であったが、カルロ曰く『特種すぎて量産に向かないし、また『搭乗者を選ぶ騎体』ならば、それは攻撃に特化したものであるべき』と言われたのである。
カルロに『個人専用騎』を造る気が無いわけではない。フラガが勲功と戦技を示し、それ相応の騎体を要望すれば話しが通った可能性もある。
いや、むしろカルロはその辺りに積極的だ。なぜならシルバーゴーレムの標準騎が完成して、今初めて『彼の望むゴーレム』を造れる状況が出てきたのである。つまり、今メイに必要な一つの要素――『英雄』を生み出す機会が来たのだ。
ゴーレムによって英雄が生まれる。それはカルロにとって望むところである。なぜなら確実に、時代はゴーレムに移行しているからだ。
ただ、フラガの要望は2点間違っていた。まず特種なゴーレムを『量産』主体で考えていたこと。そして『防御型』であったこと。
守備力に遜色の無いモナルコスやオルトロスに、さらに守備力を重ねるのはある意味無駄である。また攻めない戦士の中に英雄は生まれにくい。
プロパガンダまで考えれば、高価なゴーレムは最大限活用されるべきである。その名声までも考えて。
『負けないゴーレム』を要望していたフラガは、鎧騎士が『英雄予備軍』であることを諭され、思わず恥じ入ってしまった。まあ、やむを得まい。
浦幸作(eb8285)はグレナムの新型フロートチャリオットの製作を手伝う傍ら、ゴーレムシップの新提案として『強襲揚陸艦』の提示を行った。
最初は在来のゴーレムシップを改造し、舳先にハッチを設けて浅瀬に乗り上げる方法を考えたが、どうしても喫水線の問題が解決できずしばらくこの話は頓挫していた。
結局のところ専用の船を設計し新造する必要があるという結論に行き着き、この話は保留・先送りになった。なぜならバの国を攻めるのはカオスニアンの問題が解決してからでなくては不可能であり、もしそのような事態になった場合、兵力を西にカオス勢力、南にバの国に向ける2面作戦が必要となる。
こうなると、状況は末期的である。敗北は必至で、メイの国は間違いなく終わる。
幸作は先走りと思いこみが激しいので、もう少し状況判断と現状把握が必要であろう。
嵯峨野空(ec1152)は、メイの国最強の敵と対峙することになった。『国土の大きさ』である。
メイの国は大国である。そしてその領土の海岸線は、楕円を描いて、北から南西にまでぐるりと広がっている。北方の守りは薄めだが、先年のバの秘密基地建設事件もあり、警戒地域は広がるばかりであった。
その打開策に提案されたのが、哨戒・索敵用グライダー母艦、つまり『航空母艦』である。
グライダーによる偵察を行い、効率的に広範囲を索敵する。索敵後敵を発見した場合は、風信器で連絡。艦船を派遣する。
弱点は、多数のグライダー乗りを確保しなければならないことである。これは『方法論』として、極少数の鎧騎士で広範囲をカバーする方法を検討する必要があるだろう。
そしてもう一つの提案であるが、『精霊砲搭載小型高速艇』である。これはわりとすんなり容れられた。
ゴーレム器物の精霊力の奪い合い現象は、おおむね3〜5メートルの範囲で発生している。より大型・強力なゴーレム器機だとさらに拡大しているようだが、彼女の提案した船――つまり現代風に言うなら『砲艦』に相当するものの場合は、船本体が全長10メートルもあれば実現できそうだった。
ただし航続能力などは乗員数への依存度が高くなるため、通常のゴーレムシップより極端に落ちる。速度を得るために、いろいろなものを犠牲にした形になる。
しかし、グライダーより現実的な案が出た形になった。つまり『哨戒艇』という考え方である。
この場合母艦を用意し、小型ゴーレムシップを四方にはなって調査する。疲労の大きいグライダーより損耗率が低く、そして航続距離も長く取れる。何より『停止して休憩も出来る』というのが大きい。
砲艦にグライダーを搭載するなど双方の併用も考えられるが、砲艦のほうは新造しなければならない。ゆえにこれから、のものになる。だが、有望な新提案かもしれない。
●まとめ
使える案はすぐに検討に回され、使えないと思われる案も検証はされている。次回では実際に試作、運用にまで言及するものもあるだろう。
どうやらこのフリートライアル。意外な成果を挙げそうである。
【おわり】