●リプレイ本文
山鬼の青はげ――ジャパン・江戸
●抜け駆け
秋山主水(ea1598)は、他の仲間から抜け駆けし、件の村への道を急いでいた。
件の村――山鬼の『青はげ』の出現した村である。江戸から東に、徒(かち)で3日。馬なら2日。
そして、馬を乗り潰すつもりならば1日。
主水は、持ち馬を合わせて2騎の馬を駆っていた。一匹は、仲間から無断で拝借したものである。馬の疲労度を考慮し、2騎を交互に乗る。主水の計算では、乗り潰すことなく1日で、問題の村に到着できるはずであった――乗馬に、主水が熟達していれば。
主水は武士のたしなみとして、確かに乗馬の経験はある。しかし『経験がある』程度で、この過酷な強行軍に耐えられる乗馬法や乗りこなしを出来るはずも無い。主水の計算は大幅に狂い、馬も乗り手もバテまくって、結局村に到着したのは2日目の昼だった。
今回、この『青はげ』退治に参戦したのは、以下の10名。
フランク王国出身。人間のファイター、アルファルド・ルージュルペ(ea0959)。
ジャパン出身。人間の侍、秋山主水。
ジャパン出身。人間の浪人、三宝重桐伏(ea1891)。
ジャパン出身。人間の浪人、夜神十夜(ea2160)。
ノルマン王国出身。人間の女騎士、リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
ジャパン出身。人間の侍、鷲尾天斗(ea2445)。
ジャパン出身。人間の志士、秋月雨雀(ea2517)。
エジプト出身。人間の女戦士、レオーネ・アズリアエル(ea3741)。
ジャパン出身。人間の女浪人、音羽でり子(ea3914)。
イギリス王国出身。人間の女レンジャー、ジーン・グラウシス(ea4268)。
以上である。馬を無断拝借されたのは、リーゼ・ヴォルケイトスだ。
「冗談じゃない! サムライは盗みをするのか!!」
と、リーゼはかなり憤慨していた。しかし、起きてしまった事はどうにもならない。リーゼは仕方なく、馬の後ろが空いている者に同乗を頼み、隊に続いた。
隊列は、音羽でり子が手綱を握るアルファルド・ルージュルペ組。夜神十夜が手綱を握るレオーネ・アズリアエル組。秋月雨雀が手綱を握るジーン・グラウシス組。鷲尾天斗とリーゼ組。しんがりを単騎の三宝重桐伏。以上が冒険者全員の陣容である。
村が見えたとき、村ではすでに、防衛陣地作りが始まっていた。主水の手はずによるものである。
「貴様、いったいどういうつもりだ!!」
リーゼが、開口一番主水に詰め寄った。馬は騎士にとって、戦友にも等しい。
「万一の場合を想定してのことだ。馬を無断で借りたことは謝る。だが見よ、防衛準備はお主らの予定より半日早く進んでおる。これなら鬼達の不意の襲撃にも、ある程度頼れるであろう」
主水が言う。結果は確かに出した。しかし、冒険者の要とも言える、チームワークはガタガタだ。機能しないパーティーなど、各個撃破されて殲滅されるのがオチである。結果的に主水も、疲労のため一両日は戦力足りえはしないだろう。それは、パーティーそのものの崩壊にもつながる。
果たして、主水の行いは、それだけの価値があったのだろうか?
結局険悪な雰囲気のまま、その日は要害の設置に忙殺された。一同は旅の疲れもあって、泥のように眠った。明日からは、疲れた身を起こし不寝番に立たねばならない。
●小鬼発見
要害構築がほぼ済んだころ。具体的には4日目の夕刻。
「猟師のカキチが、小鬼を見つけたそうです」
村長が言う。
実は先刻、村に急報が届けられた。猟師の一人が小鬼の群れを発見し、村に知らせを持ってきたのである。
「『青はげ』は?」
アルファルドが、村長に向かって問う。
「見つかっていません。今山狩りをする村の者を募ろうとしていたのですが‥‥」
「それはまずい」
復調した、主水が言う。
「村人たちが小鬼に襲われたら、意味が無い。かがり火を焚き、待ち受けるのが良かろう」
「まあ、おっさんにしちゃあ、マシな意見じゃねーの」
桐伏が、酒盃を傾けながらチャチャを入れる。ぴりりと、空気が逆立つ気配がする。
抜け駆けの一件で、主水の信用というか、大事なものがごっそり欠け落ちた感じだ。この悪い空気は村人にも伝播し、漠然とした不安感を抱かせている。これは、言葉では解決しない。
「まあ、そう殺気立つな。気を張るのは日が沈んでからでもいいだろう。問題は――『青はげ』だな」
真面目な表情で、二世を誓ったでり子といちゃつきながら、十夜が言う。具体的に何をしているかは、スイマセン書けません(泣)。
「私は歩哨に立ちます」
リーゼが、堅い表情のまま言う。どうも馬の一件で、武士に対する偏見が出ているようだ。
「こりゃ、バラバラだな。まあ、なんとかなるとは思うけど」
天斗が笑って言って、席を立った。打ち合わせは、とっくに済んでいる。天斗の役割は、高台で鬼の襲撃を見張ることだ。
「私も配置に付きます」
雨雀が言って、席を立つ。レオーネも無言で、それに倣った。
「罠を点検してくる。誰かついてきてくれないか?」
ジーンの言葉に、桐伏が名乗りを上げた。ここで主水と辛気臭い村長相手に飲んでいても、あまり面白いものではない。
一抹の不安を残しながら、冒険者たちはそれぞれの役割を果たすため、村の各所に散っていった。
●夜半の襲撃
「来たぜ。小鬼だ。数は確かに10匹ほど」
斜面を滑り降りながら、天斗が言う。
日はとうに没し、村はかがり火が焚かれて明るい。
そこに、小鬼たちはやってきた。
――ギャン!!
「やった!」
ジーンが喜声をあげた。罠にゴブリンが引っかかったのである。
ゴブリンが罠を引き当てる音は次々と続き、その先鋒と先行していたレオーネが接触するころには、その数は半分に減っていた。
「やっ!」
レオーネがダガーを突き出す。それはゴブリンに手傷を負わせる。
「食らえ!」
アルファルドの<シュライク><ダブルアタック>が一閃する。それはゴブリンの胸にバッテン傷を作って、ゴブリンに重傷を負わせた。
「ぅぉおらあ! くたばりやがれぇ!!」
桐伏が切り込む。<スマッシュ>が一閃し、ゴブリンの一匹を叩き伏せた。
「<オーラエリベイション>!」
オーラ魔法を発動させて士気を上げ、リーゼが小鬼たちに吶喊する。<ポイントアタック>で首と足を狙い、敵を行動不能にしてゆく。
「我、外道の力を以って外道を狩る猛禽『鷲』の字(あざな)を持つもの! 鷲尾天斗だ、覚えとけ!!」
天斗が叫びながら吶喊した。が――。
「おろ?」
ゴブリンは逃げ出した。散り散り、てんでバラバラに。
「『青はげ』は――!」
っぐわっしゃーん!!
「きゃあああああああああああああっ!!」
「ひええええええええええっ!」
村の中から、悲鳴が上がった。村の反対側に土煙。そして――。
――グアアアアアアアアアアッ!!!
鬼の声。
「くっ、こちらは陽動か!」
リーゼが馬首をめぐらす。鬼にも、多少は知恵のあるやつがいるらしい。まあ、これだけこれみよがしに防備を固めていれば、経験のある鬼ならば多少は知恵を使うだろう。
鬼の浅知恵ながら、今回はそれがよく効いていた。理由は、冒険者側のチームワークが成っておらず、個別に各個撃破という行動になったからである。主水が入れた亀裂は、大きく深い。
それでも、『青はげ』を相手に決めていた面々は、最少の時間で村の反対側にたどりついていた。人的損害も、とりあえず無い。『青はげ』が足に怪我を負っており、あまり移動速度が速くなかったからである。理由は、ジーンの張った罠を踏み抜いたせいだ。
問題は、『青はげ』の強さだった。
ずがん!
「がふっ!」
「とーや!!」
<スマッシュ>らしい一撃を受けて、十夜の身体が吹っ飛ぶ。まずい、あばらを何本かまとめて持って行かれた。
「こいつ‥‥強い!」
主水が言う。主水は過去に同じような山鬼とパーティーを組んで戦い勝利しているが、この山鬼はその時の鬼よりも各段に強かった。これは想定外である。
パン!
振りかぶった鬼の手が、爆ぜたように見えた。雨雀の精霊魔法<バキュームフィールド>によって、毛細血管が破裂したのだ。
だが山鬼はそれにかまわず、棍棒を振り下ろす。
「これでも食らいやがれ! 外道が!」
ドカッ!!
――グォウ!!
天斗の<ダブルアタック><カウンターアタック>が炸裂した。天斗が右の鎖骨を折られながらも、強力な一撃を決める。
「十夜! 今だ!」
天斗が言った。
ザシュッ!!
――!
声は無かった。
十夜の<ポイントアタックEX>が、『青はげ』の首を刎ね飛ばした。
●冒険者は去る
『青はげ』は斃れた。首を刎ねられて生きていたら、本物の化け物だろう。
小鬼も1匹を残して殲滅したので、今後の心配も無さそうだ。
十夜がでり子に、口では言えないことをしている。それに雨雀が、「そういう事は家でやれっての!」と足で突っ込みを入れていた。当然、骨を折っている十夜は悶絶した。でり子が突っ込む間も無かった。まあ、突っ込んだら十夜は死んでいたかもしれないが。
村には、とりあえず平和が戻った。冒険者たちは礼金を受け取り、帰路についた。
「痛いっ! 痛いっ!」
十夜の死にそうなうめき声が、すがすがしい空に響き渡った。
【おわり】